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タイルの輝く風呂場。そこにうつ伏せに寝転がる妹。
「あはは。お兄ちゃん、まだ右足も終わんないの?」
妹の嘲笑が硬い壁に反響して風呂場全体に響き渡る。
その風呂場に、一見すれば兄の姿は無い。
だが兄は今も必死になって妹の足を洗っていた。
良く見れば、妹の伸ばされた脚の右足の裏に、黒い点が動いているのが見えた。デッキブラシを手に汗を流しながら妹の足を洗う兄だ。
身長1mm強とゴマ粒サイズの大きさの小人である。
兄は今、自身の1000倍も巨大な妹の体を洗わせられていた。
「早く終わらせないとお兄ちゃん風邪引いちゃうよ。くくく、あたしは大丈夫だけど」
不敵な笑みを浮かべる妹は床に寝転がりリラックスしていた。
暖かい風呂場で全裸で寝転がろうとも風邪を引くことは無い。
兄は巨大な妹の右足の裏を洗わせられていた。
たかが足の裏と言っても兄にとって妹の足は街のひと区画を踏み潰せるほど巨大な存在だ。
足の長さは220mにもなる。幅も80mはあろう。
長さ220mとは東京ドームの直径約244mに匹敵し、つまり兄から見る妹の足は東京ドームを縦にほぼ寸断してしまえる長さなのである。
ちなみに選手たちがプレーするグラウンドの広さは1万3000㎡で、これは妹の足の裏の面積を単純に計算した面積1万7600㎡よりも狭いのだ。
つまり妹の足の裏は野球選手たちが何十人とプレーすることができる広さがあるということである。
そしてそんな広大な面積を、兄は一人で洗っているのである。
広大さだけではない。伸ばされた脚の先の足の裏は踵を山頂につま先に向かって傾斜になっており、平地を行くのとは比べ物にならないほど疲弊し神経を使う。
まるで山の斜面のような広大な足の裏はところどころが緩やかな流線型を描いて隆起していて本物の山の様だ。
土踏まずの作る緩く広大なくぼみとその麓の拇指球の作り出す大きな丸み。土踏まずからかかとに上る勾配の急な隆起。
何より妹のキメ細かい肌が、足を伸ばすことで足の裏の皮膚が皺になり、それが兄にとっては高さ数mの起伏の波となって立ちふさがる。
更に肌は水に濡れ、石鹸を使ったブラシからは大量の泡が立ち足元を滑りやすくする。
兄はもう何度と転んだからわからない。下は柔らかい皮膚なので転んでも怪我をすることは無いが、一度滑り出すとこの足の裏のゲレンデは止まるところが無いのだ。
頂上付近まで近づいても、転ぶとあっという間につま先の方まで戻されてしまうのである。
その速度もキメ細かい肌に石鹸というコンボのおかげで凄まじいものになり、何度やっても慣れることの無いその速度に兄は幾度も悲鳴を上げる。
そして最大の難関はその山自身である妹が足の裏の上をちょこちょこ歩き回る兄をくすぐったく感じ、足をもぞもぞ動かす事である。
妹がちょっと足を動かすだけでも兄にとっては大地が動く天変地異のようなものであり簡単に足を取られ振り出しに戻されてしまうのだ。
が、もともと妹が兄を弄ぶため自分から足を動かすので、それらはすべて些事に過ぎなかった。
結局兄は、ただでさえ広大な妹の足の裏をそれら妨害のせいでほとんど洗えていないのだ。
「あーあ、妹の足の裏も洗えないなんて使えないお兄ちゃんだな。わかってるの? まだ左足も残ってるんだよ?」
妹の言うとおりこの広大にして巨大な足の裏は右足の分であり同じ大きさのものがもう一つあるのだ。
それだけではない。この右足の裏はまだ始めの部分であり巨大な妹の体全体から見ればほんの一部分にすぎないのである。
兄がデッキブラシでこする足の裏が巨大すぎて、兄からは妹の体を望むことはできない。
妹の声は壁に反響してあらゆるところから聞こえてくる。
今、兄にとっての妹はこの巨大な足の裏の斜面がすべてであり、それ以外は視界に収めることすらできなかった。
兄から見る妹の身長は1500mを超え、その巨体で横たわる様は最早山脈と呼べるレベルだ。
若い少女の肉による瑞々しい肢体の山である。
妹の体を洗うということは、山脈一つを掃除するに等しい苦行なのだ。
兄は息を切らしながら足の裏を洗っているが、それでもまだ足の裏全体の5分の1も終わっていない。
たった一人の妹の体を洗う。それは終わりの無い作業だった。
不意に周囲が暗くなり兄が上を見上げ確認すると上空から巨大な左足が迫ってきていた。
左足は指を立てたまま兄のいる右足の足の裏に迫るとその直径20mを遙かに超える巨大な親指を足の裏に突き立てた。
ズドン! という凄まじい衝撃が親指が足の裏に衝突し食い込んだ時に発生し、その際の大揺れで兄は右足の足の裏を転がり落ちて行った。
その兄に追い打ちをかけるように、足の裏に食い込んだ親指はそのまま前後にゴリゴリと反復し始めた。
「もう、いつまでたってもお兄ちゃんがうろうろしてるから足の裏がくすぐったくてしょうがないよ」
妹の声が轟く。
つまりは左足を使って右足の裏をポリポリと掻いているのだ。
が、妹にとってはそれだけでも兄にとっては山の斜面に隕石でも振ってきたような衝撃と本物の山ならたちまち削られてしまうような凄まじく巨大な指の反復運動である。
妹の足の指はそれぞれ最低でも直径12mはあり長さも40m近く、一本一本がビルのようなものだ。
そんなものを5本とつけた巨大な足が上空から高速で落下してきた際の衝撃は、小さな兄をその足の裏の斜面から放り出すのには十分すぎたのだ。
結果、妹の足の裏を100m近くも転がり落ちた兄は、巨大な指が足の裏を掻く凄まじい揺れと轟音に揺さぶられながら右足の中指の関節の裏にまで吹っ飛ばされて来ていた。
長さ40m近く、幅12mもの巨大な足の指の裏側は、転がり落ちた兄がそこに体を落ち着かせるのに十分なスペースを持っていた。
今もなお足の指が足の裏をゴリゴリと掻いているが、その衝撃もこの足の指の裏に伏せしがみ付いていれば振り落とされることは無い。
指の付け根の関節を第一として、兄はその第一関節と第二関節の間に落ちていた。
他所より僅かに低くなるそこからは、背後には巨大な中指の腹が丸く見え、前方には指の付け根の肉球が丘のように構えている。
兄はそんな中指の関節の間に身を潜め、妹が足の裏を掻くのを止めるのをただじっと待っていた。
しかし直後、その兄のいる中指が、妹の右足の指全体がゴゴゴゴと動き始めた。
つま先方面に足を、踵方面に顔を向け伏せていた兄は、自分の体が前のめりになってゆくのを感じていた。
兄が伏せていた中指が前に向かって起き上がろうとしている。つまりは妹が足の指を握ろうとしているのだ。
「そんなところにいたらくすぐったいでしょ。早くどかないと握り潰すよ?」
指の角度はどんどんきつくなり巨大な指が付け根の方に向かって握りこまれてくる。
指の裏側の兄を握り潰すほど握りこむことは出来ないが、それでもそこにいる兄には、自分の地面でもある巨大な指のその指先が、背後からぬっと現れて自分に迫ってくるのは恐怖でしかなかった。
慌てて跳ね起きた兄は指の付け根の方へと走り出し、巨大な肉球の丘を越え、あの巨大な足の裏の斜面を登り始めた。
するとその兄の背後に、あの左足の親指がズンと突き立てられた。
「ほらほら、さっさと登らないとあたしの親指に磨り潰されちゃうぞー」
親指がその巨大な爪を足の裏に食い込ませたまま兄のいる方に斜面を登ってくる。兄は急ぎ斜面を登り始めた。
巨大な足の指との登山レースだ。もしも追いつかれればあの足の裏にめり込みながら昇ってくる足の指のその巨大な爪によって一瞬で磨り潰されてしまうだろう。
たったひとりの兄が、たった一人の妹のその足の親指の爪を彩る赤いインクに変えられてしまうのだ。
もっとも、こんな小さな兄では妹の親指の爪を塗るには量が足りない。精々爪の一部を赤く染める程度にしかならない。
良くて足の小指の爪一枚を塗るのが精いっぱいであろう。兄のすべての血肉は、妹の爪一枚を彩る程度の存在でしかないのだ。
背後から迫る妹の足の指に追われ兄は呼吸もままならぬほど必死に足の裏の斜面を登っていた。
勾配はキツく、すでに脚だけではなく腕も使って四足獣のような格好をしていた。
人間としての誇りなど感じられないほど無様な姿だった。
誇りなどでは、妹の足の指から逃げることなどできないからだ。
そうやって必死に上る妹の足の裏は突き立てられた左足の親指が動く振動によって大きく揺れ動いていた。
山全体が大地震に見舞われているようなものだ。
そんな斜面を兄は上っているのだ。
この若々しく滑りやすい肌の上を何度も転びながら、それでも転がり落ちることだけを避けながら必死に上り続けていた。
しかし迫る足の指は何度も転がる兄とは違い微塵も速度を緩める事無く前を行く兄に徐々に追いつき始めていた。
兄の背後はもう妹の左足のつま先によって埋め尽くされていた。
そして、そうやって足の裏に押し付けられた足の指が近くまで迫ると、その指が足の裏に食い込んでいる分だけ足の裏の傾斜が厳しくなり、遂に兄は、その傾斜が60度を超えたあたりで足を滑らせ、足の裏の斜面を転落し始めてしまった。
背後には足の指が迫っていた。距離にしたら20mもなかった。
兄はその前面がキラキラと煌めく手入れをされた巨大なスクリーンのような爪に向かってゴロゴロと転がっていった。
小さな兄など、あの巨大で力強い妹の足の指に触れた瞬間に挽肉にされてしまうだろう。
だが兄には転落を止めることは出来なかった。
兄はそのまま巨大な爪に向かって転がっていった。
ドン!
体が硬いものにぶつかる傷みが全身を襲った。
直後、その痛みも感じられなくなるのだろうと思っていたが、痛みはそのままジンジンと体中に滲み続けた。
周囲はまだゴリゴリと揺れ動いている。
傷みを堪え、兄が目を開けてみると兄は妹の足の爪を背もたれにして、足の裏の斜面を登っていたのだ。
尻の下を足の裏の肌が滑るように背後に流れてゆく。
指は兄の体を指先と足の裏の間に巻き込むのではなく、その爪を使って、兄の体を押し上げていたのだった。
そしてその爪に押し上げられるままに兄は妹の足の裏の斜面を登り終え、遂に妹の足の踵と言う頂上に到達した。
兄の体が踵の上に乗ると、兄を押し上げてきた巨大な左足は彼方へと飛んで行った。
直後、妹の巨大な声が轟く。
「まったく、手伝ってあげないと妹の足の裏も登れないなんて。くくく、おチビなお兄ちゃんを持つと苦労するわ」
嘲りを含んだ笑い声がこの風呂場と言う広大な世界に響き渡った。
兄はと言えばそんな嘲りなどよりも、壮絶な登山を終えての疲労に息を切らせることの方が重要だった。
100m以上もの距離の斜面を極度の緊張状態の中 全力疾走で登ったのだ。もともと疲弊したこともあわせて心身ともにこの上ない極限状態である。
だがそんな兄に休む暇など与えず、妹の巨大な声が兄の体を震わせた。
「ほーら、突っ立ってないで。次は左足よ」
大気が妹の声によってゴゴゴゴと重々しく鳴動する。
兄は息を切らしながら顔を上げゆっくりと左の方を見た。
この湯気が霞となる風呂場という世界で遥か彼方にうっすらと見える巨大な存在。それが妹の左足だ。
妹はその脚だけでも十分に巨大だった。脚だけでも山脈と呼べる大きさだ。
湯気と言う靄がかかって大自然のような威圧感を放っている。
そしてその左足と同じ巨大さの右脚の上に、兄は立っているのだ。
視線を前に向ければ、この踵の山頂からは妹の長く巨大な脚を彼方彼方に見る事が出来た。
踵からはその景色を僅かに見下ろせるので妹の脚の流線型の美しい脚線美を良く見下ろせた。
肉の山脈がそこにあった。
前方に広がる長く巨大な妹の右脚の山脈。湯気に霞むその光景は桃源郷の一端を垣間見たような感覚だった。
これまでよりもずっと広範囲を見渡せ、兄にとって巨大な妹をこれまでで一番広く見る事が出来たが、それでもまだ全体像を拝むことは出来ない。
兄の前方に広がるのは霞に沈む巨大な脚と、その向こうにうっすらと見える巨大な双子山だけだ。
あれはお尻だろう。
だが兄がそれを尻だと認識できたのはそこにそれがあることを知っているからであって、もし何も知らないままそれを見たらそれが尻とは気が付かなかっただろう。
妹の尻は遠すぎて、そして巨大すぎて尻とは認識できない存在だった。
霞の向こうに山の影が見える程度の存在だ。
完全に、ただの山だった。
兄は妹の踵から降り始めた。
踵の丸みのある頂上からソロソロと慎重に下りてゆく。この先には足首が待っている。
足首の腱の部分を通過するのだがここは他所より僅かに細く、また関節ということもあって皺も多い。
足を取られて転落しようものなら数十mもの距離を落下して床に激突する事となる。
二十数階建てのビルの屋上から転落するようなものだ。妹の足首は、それだけの高さがあった。
足首を越えると道の幅も広くなる。転落の危険は少なくなるが、それでもここが緩やかな丸みを帯びた地面の上である事に変わりは無い。
ふくらはぎを目指し軽い傾斜を上ってゆく。足の裏に比べればなだらかでそれでいて広く安定した坂だ。
だが決して楽なわけではない。
ここまで妹の足を足首から膝手前までの距離を歩いてきたわけでがそれだけでも300m近い距離を歩いていた。
ただの地面なら長いわけではないこの距離も、風呂場の温かい気温、体に感じる湿度、緩やかでも長い流線型の上り坂、滑りやすい地面、足の裏に感じる妹の体温、疲労困憊した心身と様々な要素が合わさって果てしない道のりだった。まるで無限とも思えるこの変わり映えの無い肌色の大地の世界も右脚全体で見ればまだ半分にも届いておらず、そしてこれが左脚の分も残されているとくれば気力も余計に消費されてしまう。
修験者のように、兄はひたすらに妹のふくらはぎの上を歩いていった。
ようやくそのふくらはぎも終わりを迎え始める。
上り坂が下り坂に変わり始めたのだ。ふくらはぎを終え、ひざ裏への坂を下ってゆく。
しかし兄に達成感など無い。残された距離はもとより、ふくらはぎの山頂から見えた景色が、これまで通過してきた道のりよりも遙かに長く険しいものだったからだ。
妹の太もも。巨大で、そして凄まじい重量感を以て前方に鎮座する大地。これからあの巨大な太ももの上の長い長い道を行かねばならないかと思うと気が滅入る。
そうやって先の道のりの険しさに心を重くする兄がようやくふくらはぎの山を越え膝の裏に降り立った直後、そのこれまで通過してきた妹の脚の膝から先の部分がぐわっと持ち上がり、その揺れで兄は膝の裏に転がり倒れこんだ。
「あー、やーっと通り過ぎたのね。くすぐったいの我慢してじっと動かさないようにしてるの大変なんだからね」
言いながら妹は両脚の膝から先をパタパタと動かした。
これは兄に凄まじい恐怖を与えた。
膝を曲げるということは膝の裏の上にいる兄にこれまで通過してきた巨大なふくらはぎが折りたたまれて迫ってくるということだ。
あのとてつもない質量の肉の塊が湯気を吹き飛ばしながら超高速で迫ってくるのだ。その迫力は自分に向かって隕石が迫ってくるに等しい。
加えてここは妹の膝の裏で、逃げ場などどこにもない。妹が足を動かすたびに、そんな巨大な足が何度も迫っては遠のき迫っては遠のきを繰り返し兄の心はとことんまで打ちのめされた。妹が足を動かすのをやめても、腰が抜けその場から動けなかった。疲労もあるだろう。体が言う事を聞かなかった。
すると再びまるで地鳴りのように重々しく轟く声が響き渡った。
「なにそんなところで休んでるの。潰されたいの?」
言うと妹は足を折りたたみ、今しがた兄の心を打ちのめしたばかりの巨大なふくらはぎを近づけていった。
折りたためる角度に限界はあるが、それでも、たった今歩いてきた数百mもの道のりであった巨大な足が、今度は津波のように上空から覆いかぶさってくる様は、兄に本当に潰されるのではないかと言う恐怖を与えた。
恐怖は力となる。疲労困憊だったはずの兄は慌てて飛び起き太ももに向かって走り出した。
「くくくく…それでいいのよ、かわいいお兄ちゃん。次休んだりしたら本当に潰すからね」
必死に走る兄の背景で、妹の笑い声が大気を震わせた。
太ももの大地距離数百mの間は、これまでに比べれば楽な道程だった。
これまで通過してきた足首やふくらはぎの部分よりもずっと太い太ももは丸みも緩く足を滑らせても落下の危険が少ないのだ。
大きな玖服も無く、ほぼ平坦に近い上り坂が延々と続く。
逆にその何も無いことが心身を疲労させた兄には辛いものではあったが。
妹の太腿の大地は緩やかな丸みがあると言えど幅は100mを超える広大なものだ。
右を見ても左を見ても肌色の大地が延々と続きやがて地平線となる。
背後にはこれまで踏破してきた脚の半分の景色が。前方にはこれから向かう肌色の山々がうっすらと見える。
どこを見ても肌色だ。どこまでも続く肌色の大地に、ひとりぼっちであることを実感させられる。まるで砂漠に一人取り残されたような孤独感が兄を襲っていた。
蒸し暑い砂漠だ。
水は大量にあるがこの湿度ではそれに手を着けようとは思えなかった。
遙か遙か上空からはライトという太陽がこの砂漠全体をじりじりと照りつけている。
湯気に霞む大地は先が見えずそれがより精神を痛めつけるのだ。
延々と終わりの無い妹の脚の上を、永遠に歩き続けているような錯覚に陥っていた。
が、それもとうとう終わりを告げる。
前方の視界の湯気に暗い影が迫ってきたのだ。
妹の尻だ。
すでに太腿の付け根の辺りにまで到達していたのだ。
ここから見る妹の尻はまさに山だ。
湯気に霞んで影になっているが、視界全体を埋め尽くし、上を遙かに見上げる存在なのだから。
尻の山の麓まで来ていた。
ここまで来ると湯気による霞は無くなり、山が肌色に見えてくる。
同時に、視界全体を完全に肌色に埋め尽くされた。
上にも左右にも妹の尻が広がっている。
その尻の勾配はこれまで踏破してきた大地と比べると非常に急だったが、先に進むためにはこの山を越えなければならず、兄は両手両足を使い、慎重にその斜面を登り始めた。
斜面はこれまでの大地同様滑りやすく、体を斜面に張り付かせ接地面積を増やし這いずるようにして進まねばならない。
これは妹の尻に大の字に張り付くことを意味するが、そんなこと今はどうでもよかった。足を滑らせれば、それは山から落ちるということなのだから。
兄はソロソロと妹の尻を上っていった。
斜面はやがてなだらかになり立って歩けるような角度になった。
山の頂上が近づいてきたということだ。
そしてすぐにその頂点は見えてきた。
山の頂上に立つと周囲の景色が一望できた。
が、それは兄の心に何の感慨ももたらさなかった。
背後にはこれまで歩いてきた妹の巨大な脚が、前方にはまだ見ぬ大地、これまで踏破してきた大地よりも遙かに広大な妹の背中が広がっていた。
恐ろしい広さだ。
もし兄が小さいのではなく妹が巨大であったのなら、この背中は東京ドーム何個分の広さになるのだろうか。
だがその背中も湯気によって段々ぼやけ、その更に先を望むことは出来なかった。
ここに来てまだ、妹の頭を見る事が出来ないでいた。
最早妹はただの大地だった。
全容を拝む事などできない巨大で偉大な存在だった。
これまで歩いてきた道のりは全て妹の体の上だ。
山も谷も、そしてまだ見ぬ大地も全て妹の体の上だった。
兄にとっての妹は自分のいる世界そのものだ。
その妹がちょっと足を動かしたりするだけで兄にとっては天変地異のような凄まじい変化が訪れる。妹が片足を持ち上げれば、それは大地の一部が空高く飛び上がってゆくようなものだった。
妹のちょっとした仕草が兄の命運を簡単に左右する。
まさに女神の様だ。
兄はその尻の山の頂上から下り始めた。
というのも、兄の旅はこれで終わりではないからだ。
まだ、ここまで乗り越えてきた厳しい道筋は目的地までの半分でしかないのだ。
右の尻の山を下り、左の山の尻を越えて左脚に向かわなければならない。
ここまでの厳しい道のりと、まったく同じ道のりを再び繰り返さねばならないことに兄の心は消沈する。
少しでも短い距離を進みたく思っていた。
結果、妹がちょっとお尻を動かしたとき、その大地震に地面から投げ出された兄は、近づきすぎていた大渓谷に落ちてしまった。
妹の尻の谷間である。
深く暗い尻の谷間にゴロゴロと転がり落ちて行った。
だが中頃にて、妹の尻の肉は双方がみっちりと押し付け合い、兄はその肉の間に挟まり止まった。
谷間の底にまで落ちることは無かったのだ。
しかしそれでも渓谷は深く、また非常に狭い。
転がり落ちた兄はそのまま肉の間に挟まるような形でハマってしまい、脱出できなくなった。
するとこの薄暗い谷間の底に降り注ぐ光と共に、妹の巨大な声がこの谷間に飛び込んできた。
「あれ? …あはっ! やぁだ~! お兄ちゃん、あたしのお尻の間に落ちちゃったの?」
小馬鹿にしたような笑い声が大気と大地を震わせた。
その凄まじい振動はこの尻の谷間に落ち込んだ兄の体をもビリビリと揺るがす。
とにかくと、ここにいてはいつまでも妹にいじられてしまう。
兄は必死に谷間から這い上がろうとしたが、それ以前に倒れた体を起き上がらせることも出来ないでいた。寝転がる恰好で谷間にハマってしまったので身動きが取れなかったのだ。
左右を巨大な尻の肉にピッタリと挟まれてしまった。
苦しいわけではないが、この体勢が悪い。
動けないのだ。
加えて妹の肌は滑り手掛かりとなるものが無い。例え体勢を整えられたとしてもこの深い渓谷から脱出するのは不可能だった。
しかし兄はとりあえず体勢だけでもなんとかしようと手を壁面に延ばしていたのだが、やはり手は滑るばかりだ。
そうしていると世界がグラグラと揺れ始めた。
「あん。あんまり動かないでよ。くすぐったいわ」
妹が尻の谷間に落ちた小さな兄の動きをくすぐったがったのだ。
尻を僅かに左右に振っていた。
だがその僅かも、兄にとっては幅数十m、百数十mもの距離の反復運動であり、右に左に大きく揺さぶられた。
しかもそれほどの距離をコンマ数秒で移動するのだから体にかかる負担は半端なものではない。
妹の尻の間にハマった兄の体は妹が尻を左右に振るとミチミチと音を立てた。肉が、皮膚が体にかかる力に耐え切れないのだ。
更に揺り動かされたことでもともと脱出の不可能だった尻の谷間のより深みに落ち込み、その不可能は絶対のものとなる。
ただハマっていただけの妹の尻の肉が、段々と兄の体をぎゅうぎゅう挟み込むものに変わってきた。
これ以上の深み、つまり妹の尻の肉がより押し合う場所にまで落ち込めば、小さな兄の体はその肉の間で潰されてしまうだろう。
落ち込まなくても、今、妹がちょっと尻をキュッと締めればそれだけで兄は妹の尻の割れ目の内側でぷちゅりとはじけてしまう。
「ほーら、早く出てきてよ」
そう言って妹が尻を振るがそれはますます逆効果だ。
まるでロケットの様な凄まじい推進力で体へかかるGは凄まじいものである。
それが妹が尻をふりふりと振るたびに右に左にと急反転しながら何度も繰り返す。
尻の肉圧が無くても、そのGだけで兄は潰れてしまいそうだった。
「それともまさかあたしのお尻が洗いたかったのかな? さすがにお尻は自分で洗うよ。ちゃんとキレイにしてるもん。……くくくく、まぁお兄ちゃんがどーしても洗いたいっていうなら洗わせてあげてもいいけど」
言うと妹は自分の尻に両手を伸ばし、さきほど兄が恐れおののいたその双子山をがしっと掴むと、ぐいと左右に開いた。
その瞬間、兄がはまっていた左右の尻の肉はパッと消え、兄は尻の谷間の底まで数十mの距離を落下し地面に叩きつけられた。妹の尻の割れ目の底である。
「ほら、キレイでしょ? でも存分に洗っていいんだよ、お兄ちゃん」
妹の重々しい笑い声がこの尻の山の谷間に響く。
まさに谷間だ。尻の山の間の渓谷の様なものだ。左右には巨大な肌色の山が聳え立っている。
体を打ち付けていた兄は動く事が出来なかった。
谷間の底に倒れこみうずくまっていた。
もともと困憊していたところにこのダメージである。動けそうになかった。意識が朦朧としていた。
妹の尻からその谷間に落ちて転落死など笑い話にもならない。
だが兄にとって妹は最早地形にも匹敵する巨大さゆえ、笑い話になるか同課など関係なく、これが現実だった。
妹の尻の割れ目の底で息も絶え絶えになって這いつくばる。それが兄だった。
今も空には妹の押し殺したような笑い声が轟いている。
尻の谷間にうずくまる兄の小さな感触を感じて楽しんでいるのだろう。
その兄は、今にもこと切れてしまいそうだった。
ふと兄は、その途切れかけていた意識の端に動くものを感じ僅かにもちかえした。
自分の倒れているところが、わずかに動いているのだ。
これまでも妹の体の上で、動くところは多々あったが、ここの動きはそれらとは異質のものだった。
目に力を込めれば焦点が合ってくる。
ここは他所とは僅かに肌の色が違うようだ。
直径は20~30mほどのクレーターのように窪んだ大地。
他とは違い小刻みな運動を繰り返している。
すぐに答えに思い当たった。
ここは妹の肛門の上だ。
谷間から落ちたとき、そのまま肛門の端に落下してしまったらしい。
直径30m。これが肛門として大きいのか小さいのかはわからないが、それでも兄にとってそれは大型バス2台分くらいの直径なのだ。
下手すればコンビニの建物が建てられるくらいの広さがあるのではないか。
それが、妹の肛門なのだ。
グワッ!
突如兄が俯せ倒れている地面が動き、兄はクレーターの中心に向かって僅かに転がった。
直後、動いた地面は元の形に戻った。
恐らく妹が、肛門に兄の存在を感じくすぐったさに肛門を締めたのだろう。
それが、この直径30mにもなる大きなクレーターの収縮につながるのだ。
肛門の上に転がる兄の存在を感じているのだ。
ギュッ!
再び肛門が収縮し地面を転がされた兄はクレーターの中心に近づく。
それにつれ勾配もきつくなり、中央に向かって穴が深く細くなってゆく。
これが非常にまずい事態である事に気が付いた兄だが、すでに体は疲労によって動けなくなっていた。
周辺は深いシワが刻まれているが、それらに兄の体が挟まって転落を防止するということはなかった。
次の収縮で、より中心に近づいて転がった。
尻の谷間と違い脱出は可能だ。だが体が動かない。
寝転がり俯せるその体勢から見える景色すべてが妹の肛門に埋め尽くされていた。
目の前にはシワの中心点、肛門の中心が見えた。
なんとか…なんとかここから逃げなくては。
兄が死力を振り絞り、すでにガラクタのように使い物にならなくなってしまった体を奮い立たせようとしたとき、兄を乗せた肛門がキュッと収縮し兄は地面から跳ね飛ばされ、そして肛門の中心点に落下した。
ここは他所より狭く細い穴だ。
跳ね飛ばされたことで更にダメージを受けた兄はまるでピンボールの玉ようにコロコロと妹の肛門の中心のくぼみに落ちて行った。
最早何をする事も出来なかった。
兄は息を切らし、途切れ途切れになる意思で、霞む視界の向こうに広がる、肛門の底から見上げる尻の山の谷間を見上げていた。
次の収縮が来たらどうなるのだろうか。
このまま肛門で捻り潰されてしまうのだろうか。
妹の肛門にへばりつく汚れになってしまうのだろうか。
だが兄にはどうすることもできなかった。
最早この薄暗い世界からは出ることができないのだから。
変かが訪れた。
だがそれは肛門の収縮ではなかった。
突如、その肛門が僅かに開いたのだ。
結果、その中心点にいた兄は開いた穴から肛門の中に落ちて行ってしまった。
薄暗い世界が、完全な暗黒に変わっていった。
僅かに光の覗く肛門の穴が、段々と上に遠のいて行ったような気がした。
小さな兄は、妹の肛門の中に消えて行った。
直後、落下していた先から凄まじい衝撃を受け兄は一瞬で意識を失った。
肛門の上に兄が落ちたのを感じ、肛門を締めたり緩めたりして肛門の上で兄を転がして遊んでいた妹だが、その小さな兄の感触がむず痒くて、ついおならをしてしまった。
ブゥッ!
「あっ! やだっ!」
気が付いたときにはもう遅い。
おならを止めることは出来なかった。
「も~、お兄ちゃんに聞かれちゃったじゃない。大丈夫かな?」
もう肛門に兄の存在を感じなかった。
妹はゆっくりと体を起こすと兄を潰さぬよう慎重に自分の下半身を見た。
すると投げ出した両脚の間だった床に小さな点が落ちているのが見えた。
兄だった。
「あはっ! もしかしてあたしのおならで吹っ飛んじゃったの?」
妹はこらえきれずに噴き出した。
兄にとって妹のおならはジェット噴射の様な凄まじい威力だった。
肛門からそれが噴き出す様はまさに火山が噴火したようなものだっただろう。
おならが出る直前に開いた肛門に落ちて行った兄を、肛門の外に押し出し、そのまま兄の感覚で300m近くも吹っ飛ばした威力なのだ。
真上から吹き付ければ家さえも家さえも軽く押し潰してしまえるような凄まじいガスの噴射の直撃を受けて、よくバラバラにならなかったものである。
妹はそんな点の様な大きさの兄を摘まみ上げ、楽な姿勢に座り直すと、兄を人差し指の爪の上に乗せて目の前に持ってきた。
「おなら吹き付けられたくらいで気絶しちゃうなんてほんとよわっちいんだから。結局体だって全然洗えてないし。あーあ、もっと遊びたかったなー」
爪の上に寝転がる兄は本当に小さかった。
妹の爪の上には兄の住める家を建てられるだろう。
「まいっか。また明日洗わせよーっと」
言うと妹は兄を風呂場の外の脱衣所に置いてある自分のぱんつの中に仕舞い込むと風呂場に戻って自分の体を洗い始めた。
兄が洗った範囲を、妹は数秒で洗い終えていた。
体を洗いながら妹はうずうずしていた。
もし兄がこのまま眠ってしまったら今日はそのままぱんつを穿こう。
兄は目が覚めたとき、そこが妹のパンツの中だったらいったいどんな反応をするのだろうか。
それを考えると楽しくて仕方がない。
兄が目を覚ます前に、速やかに体を洗ってパンツを穿いてしまおう。
キュ
妹はシャワーを止め、脱衣所に向かった。