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突如、町の上空に恐ろしく巨大な素足が現れた。 その大きさ、実に10万倍。全長24km幅9kmというとんでもない大きさだ。 ひとつの町の面積以上の広さがあるかもしれない。 未だ空中にあるそれだが、その下は足のあまりの巨大さに光を遮られ夜のように暗くなっていた。 町の一部分が夜になっていた。たった一つの足の陰になってだ。 100mの建築物ですらその足の大きさを基本とすれば1mmの大きさにしかならない。 町のどこを見渡しても、あの足の指の太さにすら匹敵する建物は無い。 とてつもない大きさだった。 やがてそんな巨大な足がゆっくりと降下を開始した。 それだけで足下の大気は圧縮されゴゴゴゴと鳴動する。隕石が落下する直前のように、周囲の雲が吹き飛ばされた。それだけの大気を押しのけながらこの足は降りてくるのだ。 夜のように暗かった足の下の町が更に暗くなった。 足の下からは、最早その足の裏しか見えなかった。あの青い空は真っ暗な肌色の空に変わっていた。 そうこうしている内に足は町の上に降り立った。 瞬間、町は吹き飛んでしまった。恐ろしく圧縮された空気があらゆる建築物を吹き飛ばしてしまったのだ。 足の持ち主から見れば砂粒ほどの大きさのビルがまさに砂粒のように吹っ飛んでゆく。 足が町の上に鎮座する。廃墟と化したビル群の向こうに、山脈のように並ぶ巨大な足の指々が見えた。 たった一度、足が下ろされただけでひとつの町が壊滅してしまった。 やがて足はゆっくりと持ち上がった。 超広大な足の裏から踏み潰した町の残骸がパラパラと降り注ぐ。 やがて足が移動し、影から開放された町の上には、町の総面積よりも遥かに大きな足跡が指の形までくっきりと残されていた。 * 「す、すごい…」 モニターの向こうのその光景を見た少女は息を呑んだ。 まさに隕石の落下したような大破壊。ぐしゃぐしゃに壊れ倒壊したビル群。吹き飛んだ森や湖。崩れ去った山。 そしてそれらの中央にある、下敷きになったものを全く痕跡を残すことなく圧縮しつくした恐ろしく巨大な足跡。 かかと、土踏まず、拇指球、そして足の指の形にキレイな流線型がくっきりと描かれている。 これが自分の片足の残した破壊後で、これが自分の足跡であると思うと少女の胸はドキドキした。 つま先からかかとの方を見ると足の形のキレイな起伏のある荒野が広がっていて、かかとの辺りは霞んでいて良く見えない。 遠すぎる、巨大すぎるのだ。自分の足跡が、つま先からかかとまでの距離が遠すぎて視界が霞むほど大きいとは。 少女は、その恐ろしい大破壊の跡と、それを引き起こした自分の足の圧倒的な破壊力に興奮していた。 もちろん、これは本物の町ではない。 簡単な装置によって作られた立体映像だ。 少女はその立体映像で作ったミニチュアの町に足を踏み入れ、それをその町のサイズ視点のカメラで撮影しモニターで見ていたのだ。 実際の少女は自分の部屋でベッドに腰掛け、足元にあるミニチュアの町を見下ろしていた。 目の前には電子的に投影した半透明のウィンドウが浮いている。 そこに、あの町の映像が映し出されていた。 「はぁ…」 興奮冷め止まぬ少女は、そのたまりにたまった興奮をため息という形で吐き出した。 「すごい…病みつきになっちゃう…」 友達に教えてもらった、立体映像とミニチュア視点のカメラを使った遊び。 確かにこれは楽しい。自分がちょっと足を下ろしただけで破壊されつくす町。そっと下ろしたつもりなのに、町は丸ごと消し飛んでしまった。あまりに弱すぎる町とあまりに強すぎる自分。そのあまりに大きすぎるギャップに少女は胸が高鳴るのを抑えられなかった。 モニターには壊滅した町並みが映し出されている。しかしそこから視線を外し自分の足元に目を向けてみれば、そこにあるミニチュアの都市に自分の足跡がひとつくっきりと残っているだけである。 凄まじいまでの破壊のギャップがあった。 少女はもう一度足をミニチュアに踏み入れてみた。 今度は足全部は下ろさず、つま先だけ、ほんのちょっとだけ下ろしてみた。 しかしそれだけでも、モニターの向こうでは恐ろしい光景が広がっていた。 空の彼方から飛来した巨大な足のそのつま先が、直下にあった町の一部を一瞬で押しつぶしたのだ。 全長4km太さ1kmにもなる足の指が五つも連なって空から雲を突き破りながら突き進んできたかと思うと、そこにあったビル群にズシンとのしかかった。 触れているのは足の指の、指先だけだ。 しかしその丸っこい肉球の下には数十ものビルが下敷きになり押しつぶされた。 少女から見ればどんなに高くても5mmに満たない建物たちである。足の指先に感じるその感触も、砂浜に足を下ろしたときのようなサラサラとした砂の感触しか無い。 が、実際にこのミニチュアの都市では、その五指の腹の下では無数のビルが一瞬で押しつぶされ粉砕されていた。設定では強力な耐震性能を持ったコンクリート製のビルもあるらしい。しかし、どんな頑強な建築物も、少女にとってはその他多数のビルと変わらず砂粒を踏んだ程度の感触しか得られなかった。 少女は足の指を町の上にちょんと乗せただけだ。しかしそのせいで町のビル群は丸ごと下敷きにされ押し潰されてしまっていた。 「これが私の足の指…。あの建物たちだってとても大きいはずなのに、みんな崩れちゃってる…」 自分はちょっと足指を着けているだけの感覚でも、モニターの向こうでは廃墟と化したビル群の上に、落下してきた隕石のような巨大すぎる足の指たちが居並んでいた。 巨大すぎる私の足の指とその周辺で瓦礫になっている超高層ビルたち。 あまりの破壊力と終末のようなその光景。それを引き起こしたのが自分の足の指であると思うとなんだがむず痒くもあり、無意識に足の指をもじもじと動かしたが、するとモニターの向こうにはあの超巨大な足の指たちが突然暴れだし、壊滅していた町を更に滅茶苦茶に破壊し尽くす様が映し出された。 ほんのちょっと足の指を動かしただけで、町には更なる大災害が引き起こされる。 その事実に、少女は快楽にすら近い感情を覚えた。 次に少女は、そうやってつま先をミニチュアに押し付けたまま手前に向かって引っ張った。 ミニチュアの都市の上には、足の指の数だけ線が引かれた。それだけだ。 町である白っぽい色合いに茶色い線が引かれたのだ。 モニターには、五つの超巨大な足の指が、大地をその上にある町や山や森ごとゴリゴリと音を立てながら凄まじい速度でかかとの方面に向かって削り取りながら移動する様が映っていた。 その足幅9kmの範囲が、移動する足指によって呑み込まれてゆくのだ。 地面を引っかきながら移動するその足指によって土砂が津波のように盛り上げられ新たな町や山を呑み込んでゆく。足指に触れた山やビルなどは一瞬で粉々になり土砂の一部となった。 指が通過した跡は幅9kmに渡って地面が抉り取られ、5つの溝から成る凄まじく巨大な線が引かれていた。 深さは1kmを超える。少女がちょっと地面を引っかいただけで、町が丸ごと入ってしまうような凄まじい範囲が削り取られたのだ。 少女としては町を削り取ったなどという実感は無い。柔らかい地面を、ちょっと引っかいたようなものだ。 しかし実際にそれによって引き起こされたのはこれまでで最大の大災害だった。 町は瓦礫すら残らぬほどに削り取られすり潰され、あとには大穴が残ったのみだ。 少女の気まぐれで、巨大隕石衝突相当の大災害がもたらされた。 少女が地面を引っかくのをやめると、足指によってかき集められた土砂が土石流のように崩れ落ちた。 すでにそれらの土砂は標高3000m近いものになっていたのだ。山が出来上がっていた。天地創造である。 またこの時、少女の足の指の間には地面を引っかく過程で巻き込まれた町の残骸がこびり付いていた。一部のビルなどは半分ほど原型を保ったまま少女の足の指のシワの間に挟まりこんでいた。建築物が指にくっついているというのに、少女はその存在に気づいてもいなかった。 次はもう片方の足もミニチュアに踏み入れていた。 二つの足で、足元のミニチュアの都市を弄んでいた。 計10本の超巨大な足たちが、その足と比較してあまりにも卑小な町に襲い掛かる。 ゴリゴリと削り取られる。かかとを押し付けられる。つま先をぐりぐりとねじ込まれる。 ぐわっと開いたあと、ぎゅっと閉じられたつま先で握り潰される。もじもじと動く足の指に巻き込まれすり潰される。 ただ単純に、力強く踏みつけられ、あまりにもはっきりとした足跡に変えられることもあった。 それらひとつひとつの行為に、確実に一つ以上の町が巻き込まれていた。巨大な足の一回の遊びには最低ひとつの町が必要なのだ。そうでもなければこの足は満足させられなかった。 少女は夢中になっていた。両足を使って、足元のミニチュアをいじめ抜いていた。両足をせわしなく動かし、ミニチュアの中にある町を次々と消していった。 モニターの中には、正にこの世の終わりと呼べる光景が広がっていた。 すべての都市が滅茶苦茶に破壊しつくされ、大地は亀裂が走り、世界には轟々と煙が立ち上っていた。 しかしなお、それらを引き起こした二つの巨大な足はおさまる気配を見せない。 次々と都市を踏み潰してゆく。町も、山も、森も何もかも、このミニチュアの中にあるものすべてを踏み潰してゆく。 ベッドに座ったまま、ミニチュアの上で地団駄を踏んでいるようにも見えた。しかしその顔はとても楽しそうで、ある種恍惚としていた。 自分の世界に入ってしまっていた。 自分の、圧倒的な力に酔いしれているのだ。 「あっ」 ハッと少女が我に返ったときには、ミニチュアには都市も山も森も、何も残ってはいなかった。 すべてが完全に踏みつくされ、モニターの向こうには、ただ足跡だけがいくつも残った何も無い荒野だけが映し出されていた。 「う…、つい夢中になっちゃった…」 少女は顔を赤らめた。まさしく、自分に酔うといった状態だった。 自分の圧倒的な力を実感できるのが楽しくて、次第に町を踏むことが楽しくなっていた。 ミニチュアは完全に踏みつくされていた。最早最初の航空写真のような面影はどこにもない。 そう、ミニチュアの上には航空写真に見るような極小の町並みが広がっていた。それが全く見られない。全部、自分が踏み潰してしまったのだ。 あの範囲を、いくつもの町を、すべて自分が踏みつけたのだ。 そう思い、考え、咀嚼すると、また快感が押し寄せてくる。 まだ余韻が残っている。 体がゾクリと震えるような快感が体を走った。 「これはすごいこと教えてもらっちゃったかも…。今夜またやってみよう」 言うと少女はリモコンを操作し、ミニチュアの都市を消した。 少女の操作に応じて、ミニチュアは初めから存在しなかったかのようにあっさりと消え去った。 少女の足の裏についていた町の残骸たちもだ。 もとのキレイな足裏に戻っていた。 これからは夜が楽しみだった。 それになんだか、ちょっと体がうずく。 興奮してて、知らないうちに汗をかいていたようだ。ちょっとシャワーを浴びてこよう。 そう思い立った少女は立ち上がるとタオルと着替えを持って部屋を出て行った。 |