sizefetish-jp2cn-translated-text / 2 Done /[ICECAT] 箱庭シリーズ 1 [that123] JP.txt
AkiraChisaka's picture
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黒川真美は、学校の帰りに、クラスメートで、同じ写真部に所属する中条司の自宅に招待された。
司が言うには、見せたいものがあるらしい。
中条家の玄関の入ってすぐの横のところに、この家の地下室へと続く階段があった。
どうやら、この地下室は土足のまま入っていくことが可能なようだ。
司に案内されて階段を下りてゆき、中条家の地下にある部屋に入っていった。
*
司が部屋の入り口近くにある明かりのスイッチを,
付けると真っ暗闇だった部屋の中の様子が次第に見えてきた。
意外なことに,そこは普通の地下室と言うよりも,
小さなホールぐらいの広さはありそうな空間が一本の柱もなく,そこにはあった。
今まで,司はこの空間の事をただ単に「地下室」としか言っていなかったので,
今日初めてこの場所に入った真美はここがこんなにも広い場所とは思っていなかった。
だが,真美がさらに驚いたのは,緑に覆われた山々,青く美しい海原,川に架かる二本の鉄橋,
高層ビルが林立する都会,一戸建て住宅やマンションが立ち並ぶ住宅街…といった
光景がこの広大な地下空間いっぱいに広がっていたことだ。
ただし、それら全ての建築物や構造物は、精巧にできた150分の1スケールのミニチュアだった。
この地下空間には、中条家自慢の鉄道模型のジオラマの世界が広がっていたのだ。
「どう?驚いた?」と司が真美に尋ねると
「う、うん。すごい」としか、目の前に広がっていた光景に圧倒されていた真美は答えられなかった。
「このジオラマに感動してもらえて,制作者としてうれしいよ」と司は照れながら言った。
「これ、全部司が作ったの?」
「まぁ親父が九割で、俺は一割ぐらいかな」とバツが悪そうな司。
「やっぱり、手先が不器用な司が全部作れるわけないよねー」
「なんだよその言い方は~」
厳しいところを真美に的確に指摘されて不満げな司。
「でも、このジオラマの出来は本当にすごいね。私、結構、感動しちゃった」
「そこまで感動してくれるのはありがたいんだけど、これで終わりだと思ったら大間違いだ」
と司が言った。
「えっ?何?まだ何かあるの?」
「説明は後だ。俺の腕にしっかり掴んでおけよ」
真っ白だった視界が元通りになってきて,真美はようやく周囲の変化に気付き始めた。
周りには数人の人影があり、さっきまでいた場所とは明らかに違う。
しかも、その人々は立ったまま全く身動きをしていない。
真美が、彼らに近づいてみるとどうやら本物の人間ではなくよく出来たマネキンのようだ。
周囲の突然の変化に戸惑っている真美に、どこからともなく司が現れ、
「こっちの方に飛んできてたんだな」と、声を掛けた。
「ちょっと、司。一体、私に何の術をかけたの?それに、ここはどこなの?
マネキンばっかいっぱいあって、なんか気味が悪~い」と少し怒り気味の口調で、司に突っ掛かる。
「ここがどこか知りたい?ここは中央だけど」と司。
「まぁ、もっと分かりやすく言うと、あのジオラマの世界の中にある駅だ。
要するに、オレが、オレ自身とオマエを小さくして、ジオラマの世界に入り込んだってことだ」
とさらに続けて司は言った。
「私を小さくしてって、まさか、もう元の大きさには戻れないっていうようなことは、
ないでしょうね。…まさか、ね」と不安がる真美。
すると司は伏せ目がちに
「ごめん。実は、そのまさかなんだ。戻るために必要な道具を置き忘れたみた」
と最後まで司が言い終わる前に、彼は背中に跳び蹴りを食らっていた。
真美の跳び蹴りを食らった司は、背中の痛みに耐えながら
「さ、さっき言ったことはいわゆる一つのジョークって奴だ。
元の大きさに戻るための機械はちゃんと持ってきてるから、心配すんな…」と言って、
そのまま、彼は床ににバタリと倒れてしまった。
数分後、司の背中の痛みが和らいできたところで、彼は起き上がり、
近くのベンチに座っていた真美が、彼のほうに寄ってきた。
「ごめん、背中痛かった?」
「あぁ、かなり。 まぁ元はと言えば俺が騙したのが悪かったし、お互い様だ」と司は言った。
「そう、もう大丈夫そうね。じゃ、そろそろ詳しく説明してもらおうかな。
わざわざ私を小さくしてまで、この箱庭の世界を案内したかったんでしょ?」
「一気に話すと長くなるけどいいな?」
「うん」
真美が相槌を打った後、司が説明を始めた。
「元々、鉄道模型愛好者は模型の列車を運転したり、
模型に超小型カメラを取り付けてジオラマの風景を低い視点から眺めたり、
あるいは、ジオラマの世界を創ること自体に喜びを感じる人々が居たんだ。
でも、どうせなら自分の手で列車を運転してみたり、自分の目でジオラマの世界の風景を見たり、
自分の足で自分が創った街を歩いてみたくなったり。
そんな願いを叶えるために開発されたのが、今、俺が手に持っているこの機械なんだ。
この機械さえあれば、ジオラマの世界の標準の大きさになって、さっき言ったようなことが、
簡単にできるようになったわけだ。それが、俺達がちょうど産まれた頃の話」
「へぇ~、じゃそれなら、あそこに停まってる模型の電車とかを、司は実際に運転できるわけなんだ」
「まぁ、そういうこと。これから俺が運転する電車に、真美を乗せてこの世界を少し案内してやるよ。
ちなみに、俺が運転する列車に、家族以外の人間を乗せるのは初めてだ」
「初めてとか言われると、なんかうれしいな」
「そう言ってくれると、こっちとしても、乗せる甲斐があるってもんだ。
じゃ、俺について来てくれ」
二人は、模型の列車が停車しているプラットフォームに歩いていった。
プラットフォームに停車中の車両は、やはり元々普通の模型の車両なので、
外見は本物の車両と比較しても遜色はないものの、内側はいかにも模型といった安っぽい感じだった。
だが、先頭車両だけは他の車両とは、まるで違っていた。
まず、運転席の設備は見る限りは、本物の運転席のものと変わりはなく、
さらに運転席の後方部分には、前方の景色を見るためのちゃんとした座席が設けられていた。
司が言うには、「最近の鉄道模型の車両の中でも、先頭車両だけは内側の設備も本物に近づけて、製作されている」とのこと。
運転席横の扉を開いて、二人は車両に乗り込んだ。
ちなみに、両端の車両の乗務員用の扉以外の扉は開くことのないハリボテである。
司が運転席に座って、準備が出来た。
「じゃ出発するよ」と声をかけた。
「うん。なんか少しドキドキしてきちゃった。いつもと同じように、電車に乗ってるだけなのに」
「ふ~ん、それって俺が運転するせいか?」
「べ、別にそういうわけじゃ…」そんな真美の反応に、司はニヤニヤしつつ
「出発進行!」と言って、列車を加速させていった。
*
動き出した列車は、構内のポイントをいくつか渡り、複線の本線へと進入していった。
次第に、線路は高架になり、特有の走行音をたてていた。
そして、列車はある高架駅のホームに、静かに滑り込んで停車した。
「目的地に到着っと。真美はこの「箱庭」に入るのは今日が、
初めてだし時間もあんまりないみたいだしな。
ここは、この箱庭で、最初に案内すべき場所じゃないんだけど、お楽しみはまた今度って言うことで」
「っていうことは、また司がここに連れてきてくれるんだね」
二人は列車から、ホームに降りた。ホームに掲げられている駅名表には「新都中央」と書かれていた。
「ここは、「新都中央」っていう駅で、市の中心部に一番近いっていうのが設定。
いかにも架空の地名っぽいだろ」とこの駅の設定を、司は言った。
「さてと、じゃ改札の外に出て、箱庭の都会を案内してやるよ。
まぁ、はっきり言ってあまり面白いものでもないけどな」
ホームから階段を降りて、駅の改札口を通って、二人は外に出た。
これから、模型の高層ビルが立ち並ぶ街中でも、真美に見せてやるかと、
司が考えていると、彼は大事なことを忘れているのに気付き、彼の中でイヤな考えが広がった。
「そういや、大体いつもこのくらいの時間にアイツはやってくるよな。
今日、初めて箱庭に来た真美が、何も知らずに、もしもアイツの姿を見てしまったら…」
司の不安が募る間に、真美は一人で駅の側を通る道路に出ていた。
「おーい、ちょっと戻ってきてくれ。言い忘れてたことがあるんだ」と大声で、司は呼びかけた。
「なーに?」
「今日は、火曜日で妹が帰ってくる時間がもうすぐなんだ」
「妹さんが、帰ってきてくるのが何か都合が悪いの?」
「単に、帰ってくるだけなら何にも問題はないんだけど、
地下室から明かりが漏れてると、部屋に荷物を置いてすぐに、ここにやってくるんだ」
「それが、そんなにも都合が悪いの?」
「妹は、そのままの大きさでここにやってくるから問題なんだよ」
「そのままの大きさ?」真美は、どうやら自分が縮小していることを忘れているようだ。
「忘れたのかー。俺たちは今、小さくなってここにいるんだから...」
*
ついに、司が恐れていた事態になってきた。
ミシッと何かが軋む巨大な音が、二人の耳に届き、
続いてドスーンドスーンと周期的な音が、耳に届いた。
「ねぇ、この音は何?」
真美は大きな声で司に聞いた。
こうでもしないと、声が司に届かないと思ったからだ。
「この音は、妹が歩いてくる音だ」
司が、叫び返す。
「でも、それだけならなんでこんなに大きい音がするの?」
真美は、まだ分かってない。
そして、高層ビルの間から、セーラー服を着た巨大な少女の姿が見え始めた。
立ち並ぶビルは、巨人の履く白のニーソックスと同じぐらいの高さしかない。
逆に言えば、それだけこの少女が巨大であることを示していた。
巨大な少女は、街の大通りである片側三車線の道路を窮屈そうに歩き
大通りと高架鉄道が立体交差している場所で動きを止めた。
巨大な少女は、両足の間に高架の線路を軽く挟み、
下を線路と平行して走る幅の広い道路を、巨大な黒いローファーを履いた足で塞いでいた。
この巨大な少女こそが、司の妹の奈央である。
奈央の実際の身長と体重は170?の60?で、14才、それも女の子としてはかなりの長身だ。
しかも股下は80?あり、なおかつ大人っぽい顔立ちのため、とても14才には見えない。
その容姿を活かして学校では、演劇部に所属している。
実際に、モデル事務所から声を掛けられたことも数回ある。
そんな奈央が、一たび、小さくならず、実際の体の大きさのまま「箱庭」の街並みに、足を踏み入れるとどうだろうか。
150分の1に全てが縮小化されたこの「箱庭」での奈央は、
身長255M、股下120M、体重20万トンの巨大少女となる。
今の奈央がまさにそうだ。
30mを優に越える大きさの巨大な黒のローファーを履いた奈央は、
地面に落ちている何かを探すようにして首を曲げて、視線を地面に向けた。
すると、奈央の両足の間にある駅の中から蟻のように小さな人間が出てきた。
「おい、奈央。何しにここに来た?」
「いつものように、小人の街を散歩しに来ただけだよ」
「ったく。今日は、ここを俺のダチに案内してるから、奈央みたいな巨大女がいたら、ダチが怖がるだろ?
だから、今日のところは、帰ってくれ」
すると、駅の中からもう一人、小さな人間が出て来た。真美だ。
「はじめまして。黒川真美です。中条君とは、クラスでも部活でも一緒なんで仲良くさせてもらってます。
それにしても、奈央ちゃんおっきいね」
と真美は、巨大な奈央に臆することなく自己紹介をした。
「奈央もちゃんと挨拶しろ。別に巨人のままでいいから」と司が言った。
すると、奈央が意外な行動に出た。
どういうわけか奈央の体が次第に、小さくなっていき、ついには、二人と同じ大きさになった。
「はじめまして、中条奈央です。いつもウチのチビ兄がお世話になってます」と挨拶を返した。
「こら、こんな時まで、チビ兄って言うな」
「だって、ついさっきまでチビだったもん」
「今は違うだろ?」
因みに、司の元の身長は173?で何とか兄としての面目を保ってる。
「まぁまぁ、仲良く仲良く。ねっ?」と真美が仲裁に入る。
司と奈央は、二人とも同じように口を尖らせて怒っていた。
仕草が、そっくりなのも兄妹だからだろう。
「いっけな~い」と真美が突然、大声で叫んだ。
「どうした?」
「今日、塾があるから、六時までに、家に帰らないといけないんだけど...」
司が、時計を見る。時刻は、五時半を過ぎていた。
今から、急いでも間に合いそうにもない。
「はぁ~、遅刻確定か~。そんなに大事な授業じゃないんだけど...」
真美は、溜め息を吐く。
「あのぅ、黒川さん。ちょっと、いいですか?」
「ん、何かな。奈央ちゃん」
「お兄ちゃんには、聞かれたくない相談があるので、ちょっとこっちに来てくれませんか?」
奈央と真美の二人は、司から離れて相談し始めた。
二人の会話が気になる、司。
時折、「私もなっていいの?」とか「そんなことして大丈夫?」とか
「でも、それなら間に合いそう」とか言う真美の声だけが聞こえてきた。
自分ではどうしようもないので、駅の中をぶらぶら歩きまわる司。
数分経って、司は元の場所に戻った。異変に気付いたのはその時だ。
先ほどまでそこにいた二人の姿が見えない。周囲を見渡しても、二人とも見つからない。
イヤな予感がしたので空を見上げる。
空は、二人の巨人の笑顔で覆われていた。
「チビ兄、私達は先に歩いて帰ってるからね。ちなみに、模型の電動車は預かったよ」
と、奈央は手に持ってる電車を見せた。
これも、自分が電車を軽々と持ち運べるくらい巨大だと見せつけるためだろうか。
それとも、兄に対するただの嫌がらせか。
「だから、チビ兄も歩いて帰ってきてね」
と奈央が言って、
「私も巨大化すれば間に合うって奈央ちゃんが思いついてくれたの。
こうするしかないみたいだし、足元には気をつけて歩くから」と真美が言った。
「じゃあね」と言い残して、「巨人」の二人は巨大な地響きを立てて去っていった。
駅に、ただ一人取り残された、「小人」の司。
真美と奈央が歩く距離の150倍も歩かねばならないかと思うと、気が重くなる司であった。