sizefetish-jp2cn-translated-text / 2 Done /[ICECAT] 箱庭シリーズ 2 [that123] JP.txt
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七月の夏休みのある日、この日に司と真美は海水浴を計画していた。
その日の天気は晴れだったものの、台風の影響で波が高くて
今日の海水浴は非常に危険だと朝の天気予報で報じていた。
司が真美に今日の海水浴は中止にしようと電話で伝えようとした時、奈央が話しかけてきた。
「お兄ちゃん、せっかく、海水浴の予定組んでいたんだから、
「ウチ」の海水浴場に行けばいいんじゃないの?相手は真美さんでしょ?
前にこの家に来たことがあるし、別に問題はないと思うよ」
「なるへそ、それはナイスアイデア。あそこにでも充分に海水浴気分が味わえるしな。
悪いけど、『海』の用意をしておいてくれるか?俺は、真美に電話をしなくちゃいけないし」
「うん、わかった。でも今日は学校に行く用事があるから、先に制服に着替えてから準備するね」
と素直に返事をして、奈央は歩いていった。
普段の奈央は、大人しくて、女の子らしいのになぜか、「箱庭」の中では、まるで性格が違ってくる。
兄としては悩ましい問題だ。
司は、携帯電話をポケットから取り出して、真美に海水浴に行く用意をして、
中条家に来るように伝えた。
しばらくして、海水浴の用意を持った真美が、中条家にやってきた。
この家に来るのは二回目だ。電話で司に言われた通りに、玄関の横の階段から地下に降りる。
地下室の入り口で、司は待っていた。
「海が荒れてて、行けなくなったのは残念だね。楽しみしてたけど」
「でも、そのかわりに我が家のプライベートビーチでのんびり泳げるから、いいんじゃない?」
真美は、司の言う中条家のプライベートビーチが何なのかは、当然のごとく分かってる。
でも、野暮なことを言ったら、司の好意を台無しにしてしまう。
だから、真美は何も知らないふりをして、「箱庭」に入って、海水浴を楽しめばいいと考えていた。
「じゃ、いくよ」と司の声がして、前回と同じように、視界が真っ白になった。
わざわざ、小さくならずに、模型の上を歩いていって、
そこで小さくなればいいじゃない、と思うかもしれない。
けど、それじゃ雰囲気が出ないと思う真美であった。
だから、わざわざ小さくなって駅から、司の運転する列車に乗るのだ。
電車は、住宅街を抜け、郊外の小さな駅を過ぎ、トンネルを抜けていった。
車窓には、とてもジオラマには見えないくらいのすばらしい風景が広がっていた。
15分ほどで、列車は目的地の海岸最寄りの駅に着いた。
この海岸は、周囲を高さ100m程の三日月状の山並みに囲まれた場所に位置し。
山と山に挟まれた形の駅がある以外には海しかないような場所だ。
しかも、この海岸を知る人は、ほとんどいない(そりゃそうだ)。
まさに、絶好の海水浴スポットと言えよう(By司)。
海水浴場最寄りの駅に着いた二人は、すぐさま駅のホームから間近の砂浜へ歩いていった。
砂浜に着いて、早速海へと駆け出していった真美は、ある異変に気付いた。
目の前に広がるのは、広大な大海原(のつもり)なハズなのに、なのに。
そこには、なぜか全く海水はなく、ただ乾燥した砂地があるのみだ。
その光景を見て、真美は
「ちょっと、海で泳ぐのを、せっかく楽しみにしてたのに、海水が全くないってのは、どういうことなのか説明してくれる?」と司に食ってかかっていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。予定通りなら、俺達が電車に乗ってる間に、とっくに済んでるはず…
なんだ…けど。やっぱ、あいつに頼んだのが間違いだったな」
「あいつってアンタの妹の奈央ちゃん?」
「しかいないだろ?」と司。
その時遠くの方から、何やらドスーンドスーンと周期的に地響きの音が周囲に響き始めた。
だんだん、その音の周期が狭まるとともに、二人が立っている地面が揺れ始めた。
「こ、これって奈央ちゃんが、ち、近付いてくると、時の音?」
真美は、奈央と初めて顔を合わせた時にも、この恐怖を経験してはいるが、
今回を入れてもまだ二回しか、経験していない。
真美みたいに、まだほとんど慣れていないと、この音と震動にはかなり恐怖を感じるだろう。
司だって、これにはあまりいい思いはしない。
「念のために、砂浜から離れて、駅のホームに避難しよう」と司は、真美に声を掛けて避難した。
音と振動が、一段と大きくなったところで、ようやく「元凶」がその姿を現した。
ストレートの黒髪のロングヘア、赤いスカーフのセーラー服に、紺色のプリーツスカート、
白のニーソックスに黒のローファーを履いた「元凶」-司の妹の奈央-は、
海岸の三方を取り囲む山を、なんと一跨ぎで越えて現れた。
そして、巨大な黒のローファーを履いた右足を二本の線路を塞ぐ形で置き、
これまた巨大な黒のローファーを履いた左足を、少し離れた砂浜に置いて、
二人の真上で仁王立ちしたままの姿勢で、動きを止めた。
さらに、奈央は両手で、何かの液体が満タンに入った巨大なペットボトルを抱えていた。
「ねぇ、チビ兄ちゃん。このペットボトルの水、そこに流し込んでいいんだよね?」
中学生の女の子らしいかわいい声ではあるが、
その巨体ゆえの、ものすごい音量で、奈央は司に尋ねた。
逆に、「小人」の兄は、精一杯、声を張り上げて「巨人」の妹に聞こえるように
「あぁ、そこら辺にドバーッと流し込んでくれ」と言った。
「あと、しっかりと忘れずに、巨大な私の姿を撮っておいてね」「へいへい」
司の返事が耳に届いたのかは分からないが、奈央は、
ペットボトルの蓋を開けて、右腕を前に伸ばして、すぐさま容器を真っ逆さまに下に向けた。
奈央からすれば、単に2リットルの水がドバドバと、ペットボトルの口から吐き出されたに過ぎない。
だが、「小人」の司達二人からすれば、この光景はどのようなものだっただろうか。
先程、姿を現したセーラー服姿の巨大女は、
15階建てのビルと同じくらいの大きさの巨大なペットボトルの蓋を開け、
片腕だけで膨大な量の液体で満載の容器をいとも簡単に支え、
腕を前にまっすぐ伸ばした後に、すぐさま巨大な容器を真っ逆さまにした。
瞬く間に、高度200m以上の位置から、675万リットルもの液体が、地面に降り注いだ。
地表に降り注いだ液体の一部は、二人の「小人」がいた駅のホームの間近まで迫った。
海岸一帯を襲った洪水は、すぐに治まり、そして「海」を創った。
奈央が「海」を創っている間、司は約束通りカメラを巨大な妹の方に向けていた。
一方、真美は眼前で繰り広げられる光景に、ただ只、驚くばかりであった。
「チビ兄ちゃん、これでいいの?」
「サンキュー。こっちも約束通り、お前の写真も撮っておいたからな」
「じゃ私は、これから学校行くね。あと、そこの小さなカップルのお二人さん。海水浴を楽しんでね」
と言葉を残して、「巨人」の奈央はやってきた時と同様に、山を一跨ぎして去っていった。
普段は、無表情であることの多い奈央だが、さっきは上機嫌に見えたのは気のせいだろうか。
海岸に残った「小人」の二人は少しばかり溜め息をついた。
「やっぱり奈央ちゃんはおっきいね。
私からすれば、普段でも奈央ちゃんは、170?あるからおっきな女の子なんだけど、
ここに来て、奈央ちゃん見ると踏み潰されそうなくらいおっきいし」
「別に、真美も小さくならずにここに入って来たら俺からすれば、奈央と同じ巨大女だ」
「じゃぁこんど、また奈央ちゃんに協力してもらって、司が小さくなってるときに、
私も巨大女になって、司の前に出て来てあげるよ」
「や・め・ろ。これ以上、巨大女が増えると、俺がノイローゼになりそうだからマジでやめてくれ」
「そこまで見たくないなら…」
「なら?」
「逆に、絶対に見せつけてやる♪」司の溜め息が、一層深くなった。
「それはさておき、とりあえず海に入ろうぜ。じゃなきゃ、ここに来た意味がない」
「それもそうね」こうして二人は、海へと駆け出していった。
真美は、バシャバシャと音を立てて、海の中に入っていった。
「あれ?この水しょっ~ぱい。この水って海水なの?てっきりただの水と思ってたけど」
「一応、海水浴に行くってことだったから、奈央に海水と同じ塩水を作ってもらったんだ」
「模型と同じく本物志向を追及するんだね~。
普通の水じゃなくて、塩水だと海に来たって感じがするし。
そこまで、考えてくれてるなんて司君は、えらいえらい」
「なんかムカッとくる褒め方だな」
「褒めてあげたんだから、文句は言わないの
そういえば、さ。さっき奈央ちゃんが海を創ってるとき、司はなんで写真撮ってたの?
というか、奈央ちゃんが、わざわざ頼んでた気もするけど…」
「あれはな、奈央の趣味なんだ」
「趣味?」真美は、怪訝そうな表情を浮かべる。
「真美が初めて奈央にあった時や、さっきみたいに、
箱庭に奈央が、そのままの大きさで入ってきたら、小さくなってる俺達からすれば、
奈央は巨人に見えるだろ?奈央自身は、単に「巨人」って言われるより、
なぜか「巨大女」とか「巨大妹」とかって言われる方が好きみたいなんだけど…
で、箱庭の街を巨大女として歩くのも好きみたいなんだけど、
奈央がもっと好きなのが、小人視点から巨大な自分の姿を、
俺にカメラやビデオで撮ってもらうことらしい。
撮った写真やビデオは全部、奈央に渡してるから、あんまり見たことないけど」
「へぇ~、そういうのが好きって、奈央ちゃんかなり変わってるね~」
「実際、かなりどころではないと思う。何が原因でこんな趣味を、持つようになったんだろうか…」
「でも、わかる気もする。私も前回帰る時に「巨大化」したじゃない?
その時、模型の街の中で自分が巨人になったような気がして、なんだか気持ちよかった。
そうでなくても、例えば、東京タワーみたいな高い建物から下を見下ろすと
歩く人間が蟻に見えたり、走る車はミニカーに見えたり。
自分が、街を見下ろす巨人になったような錯覚に陥るのはよくあることだと思うよ。
でも、奈央ちゃんは単に模型の小さな町並みを見下ろすことよりも
どっちかっていうと、模型の小さな町並みを見下ろしている巨大な自分の姿を、小人目線で見てみたいから
司に、ビデオとか写真を撮ってって頼んでるんじゃいないかな?
実際に、奈央ちゃんに聞いてみればはっきりするんじゃない?」
「それは、わかってるんだけど...実の妹に、そういうことは聞きにくくね?」
「なら、私が聞いてあげよっか?
司じゃなくて、私になら、奈央ちゃんは素直に話してくれるかも知れないから...」
「よしっ。じゃ、この件は真美に任した。うまく、奈央から聞き出してくれ」
「そのかわり、こんど、ここに「巨人」で入ってもいいかな?」
「それって、真美が「巨人」になりたいっていう理由があって、言ってるんじゃないよな?」
「そんなわけ…あるかも♪」
「『あるかも♪』って、なんじゃそりゃ。まぁ、俺が言い出したことだし、その条件は飲んでやる。
でも、そんなに巨大になりたきゃ、ゴジラにでもキングギドラにでも勝手になりやがれ」
「随分、ひどい言い方ね。女の子を怪獣と一緒にしないでくれるかな?」
「ゴジラよりはるかにでっかい生き物は、女でも十分、巨大怪獣と同じようなもんだよ」
互いに、笑い合う司と真美。夏の厳しい日差し…ではなくて部屋の明かりの光が二人に降り注ぐ。
二人は、奈央が創った海に戻っていき、それからしばらくの間、それぞれ海水浴を楽しんでいた。
が、そんな中、彼らを空腹が襲った。
腹がぐぅぐぅと音を立てて空腹を訴えていた。
現在、時刻は13時過ぎ。腹も減るはずである。
だが、昼食を取るにも、ここは実際の海水浴場ではなく、
ジオラマの中の中条家専用海水浴場なので「海の家」なんかがあるはずもない。
海から上がった二人は、昼食をどうするか相談した。
「初めから、なんか食い物持ってくればよかったな。
ここにいても仕方ないし、とりあえず家に戻ろう。
一応、今日は、母さんが家にいるはずだし、
いなけりゃ冷蔵庫には冷凍食品が入ってたはずだから、なんとか昼飯にはありつけると思う」
「そうだね」と真美も同意した。一旦、司の自宅に帰るべく二人は、駅に向かった。
駅に到着し、電車に乗り込む。運転席に座り、電車を動かそうとする司。
だが、どうしたことか。電車が動かない。
「あれっ?動かないぞ」「故障でもしたの?」
「どうも、走行用の電気が線路に流れていないみたいなんだ。
ちなみに、模型の列車は、線路を流れる電気でみんな動いているんだ。
だから、実際の鉄道と違って、ここには架線がないんだ」
「へぇ~、勉強になったわ…じゃなくて、電気が流れてないってことは、この電車、動かないの?」
「あぁ。だから、家に帰るには線路上一時間程歩かなきゃいけない…」
「ところで、あの元の大きさに戻れる機械はどうしたの?あれがあれば、私が巨人になって…」
「悪ぃ。どうも入り口に置き忘れたみたいだ」
「死ね。百回死んで百回生き返って私に謝罪と賠償を(ry」
「はいはい。カクニンシナカッタボクガワルカッタデス。スミマセンデシタ~」と司が、全く誠意のない謝罪をした。
と、その時、毎度お馴染みのあのドスーンドスーンという音がし始め、地響きがし始めた。
「これって誰かが『巨人』の状態で近づいてるってことだよね?なら助けてもらえる?というか、私達ラッキー?」
「あぁラッキーだな。まったく図ったかのようなタイミングだぜ。いや図られたのかも?
でも、誰の地響きだろ?父さんは展開的にアリエナイ。つか、今札幌に単身赴任だし。
母さんか?それとも、奈央がちょっかいを出しに来たのか?そのどっちかだな」
地響きの中、司は真美に告げた。
司と真美がいる、三方を山に囲まれたこの駅からでは、近づいてくる「巨人」の姿は見えない。
奈央か、それとも司の母親か。
果たして、どちらが「巨人」となってこっちに近づいているのだろうか…
動かない電車の中に避難して、「巨人」の襲来を待つ司と真美。
二人を襲う揺れと音が次第に大きくなる。異変に気付いたのは、真美だ。
「ねぇ、足音の感じが朝、奈央ちゃんが来た時と違うような気がするの」
「言われてみれば、確かにそうかも。なら、近づいてるのは母さんか」
「違うの。そうじゃなくて…」真美が言いかけたその時。
「司。お昼ご飯持ってきたわ。砂浜に足を置くから、砂浜から離れて待ってなさい」と、
奈央とは違う大人の女性の声が、上空から聞こえてきた。
「どうやら母さんが、昼飯を持ってきたみたいだ」 二人は、電車からホームに降りて待った。
司の母親-和美-の上半身が山の向こう側にあった。
和美は、両手でお昼ご飯が載せられた巨大なお盆を持っていた。
そして、奈央が朝、ここにやってきた時と同じように山を一跨ぎで越えて来た。
このあたりは母娘で似ているのかもしれない。
そして、和美は「奈央も足元に気をつけて」と言い、山の向こうに側にいる奈央に注意を促した。
奈央も、両手に巨大なお盆を持って山を一跨ぎしてやってきた。
そう、真美が感じていた「異変」は、二人が「巨人」でやってきたため
揺れと音が前の二回より大幅に大きかったことだったのだ。
小さな砂浜に、四本の巨大な柱が突如として出現したかのような壮大な光景が、司達の眼には、映っていた。
「まず、小さくなる前にこれを置かないと」と和美は、お盆に載せてあった、
「海の家」と書かれた看板がついた小さな家のようなものを手に取り、砂浜に置いた。
どうやら和美は、食事をするための「海の家」の模型を持ってきたようだ。
気がつくと、和美と奈央は、司達と同じ大きさになっていた。
「あなたたち、お腹が空いてるでしょ。こっちにいらっしゃい」と砂浜の方に手招きをした。
タイミング良く司と真美のお腹がぐぅぅと鳴った。
「海の家」は、入り口付近に四人掛けのテーブルと椅子があり
奥のほうには、畳敷きの小部屋があり、昼寝が出来そうなスペースだ。
席について、司と真美は昼食のカレーを食べ始め、奈央は暇そうな顔をして、欠伸をしている。
そんな3人を和美はニコニコしながら眺めていた。
「そういや電車を動かすための電気止めたの母さんだろ?」
「すれ違いになったら困るから、電気を止めといたのよ。
帰るときには、ちゃんと元に戻しておくわよ」
「こっちは、帰れないかもしれないとヒヤヒヤしたんだからさ」
「そうそう、あなたが、噂の真美ちゃんね。司からいろいろ聞いてるわ。
こんなところでよければ、またいつでも遊びにいらっしゃい」
「はい、ありがとうございます」
余程、空腹だったのか司のカレーはみるみるうちになくなっていった。
そして、カレーを先に、食べ終わった司はさっさと海に戻っていった。
「わざわざ家族専用ビーチに呼んでもらったりしてすみません」
真美が改めてお礼を言う。
「そんなに気を使わなくてもいいのよ。ここは、狭い海水浴場だけど楽しんでいってね」
「はい。それじゃ、本当の海水浴場に行けなかった分目一杯楽しんできます。
あと、カレーごちそうさまでした」
「どう致しまして」
真美も、司に続いて海に戻っていった。
「さてと。そろそろ、私は家の方に戻るけど、奈央はどうするの?」
「私も戻る」
「せっかく海に来たのだから、二人と一緒に海で遊んできたら?」
「でもお兄ちゃんと真美さんデート中みたいだし…邪魔しちゃ悪いよ」
奈央は二人に配慮しようとして、こういったのだが、
「奈央ちゃんも一緒に遊ぼうよ」と真美が奈央を誘ってきた。
「別に、デートで来たわけじゃなさそうね。
それなら、奈央も心おきなく参加できるじゃない。午後は海で遊びなさい」
「はーい」少し不満気に返事をする奈央。
「でも、水着は持ってきてないから、着替えに一旦家に、戻らなきゃ」という訳で、
和美と奈央は「巨人」になって、帰っていった。
和美は帰り際に、奈央が着替えてから、ここにまた戻ってくることを二人に告げた。
ここは、中条家の長女、奈央の自室。
鏡の前で落ち込む奈央の姿が、そこにはあった。
奈央が落ち込んでる原因は水着だ。
奈央が学校の授業以外で、プールや海にはここ数年行ったことがなかった。
そしてこの数年の間に、彼女の体は大きく成長していて、かつて着ていた水着は小さくなっていた。
そのため、彼女が着られる水着が一着もなかったのである。
いや、実のところ一着だけ、今の奈央が着られる水着があった。
だが、それは学校指定の所謂「スクール水着」だったのだ。
学校行事でもないのに、スクール水着を着て、海に行くのは気が引ける。
でも、スクール水着が嫌だからという理由で、海に行かないのは母親が許しそうもなかった。
それに、海とは言え、場所は中条家専用海水浴場であり、
奈央のスクール水着姿を見るのは兄である司とその友人の真美しかいない。
仕方なく割り切って奈央は、スクール水着に着替えた。
奈央の部屋がある2階から1階に降り、玄関すぐ横の階段から地下室に降りる。
そして奈央は、地下室のドアを開け、「箱庭」に足を踏み入れた。
この街に再び現れた巨大少女は、こんどはなぜかスクール水着を着用していた。
この水着の胸元に張られた白い布地の上には、でかでかと「2-A 中条」と書かれていた。
胸元の部分に掲載するスポンサー広告を募集したら、多額の広告料が稼げそうである。
幾度となくこの「箱庭」に「巨人」として、足を踏み入れてる奈央であったが、
流石にスクール水着姿で足を踏み入れたことは、なかった。
いつも制服や私服を着ている時とは、なんだか一味違う感触がする。
ふと「巨大スク水少女現る!!」といった言葉とスク水を着た巨大な自分の姿が目に浮かぶ。
「案外おもしろいかも」心なしか、奈央は気分がよくなった。
「でも、今、チビ兄は、海にいるわけだから『都心のビル街にそびえ立つ巨大スク水少女』
っていう感じの写真は、こんど撮ってもらうしかなさそう」少ししょんぼり。
田園地帯を、考えながら歩いているうちに、奈央は本来のルートを外れたところを歩いていた。
「巨人」が歩くべき道は、片側三車線以上の道路と、ちゃんと決められている。
「巨人」の重量で「箱庭」が傷まないようにするためだ。
もっとも、「巨人」の少女一人ぐらいの重さではほとんど傷みはしないが。
司達のいる海岸に行くための道は、鉄道とほとんど並行して走っている。
奈央は、あわてて元の道に戻った。
「箱庭」の入り口から、目的地の海岸まで、「小人」からすれば距離にしておよそ15?。電車で行くなら15分。
しかし「巨人」からすれば、距離はたったの100M。しかも歩いても、2分。
やっぱり「大きいことは、いいこと」なのだ。うん。
何十年か前のCMのフレーズを引用して奈央は自分でそう結論付けた。
そこから一分歩いて、海岸を取り囲む山を、前の二回と同じ様に、軽く一跨ぎで越える。
奈央が、海岸に到着し、足元の砂浜を見ると、こちらに向かって真美が、手を振っていた。
奈央が、司達と同じ大きさになると、奈央の方に司が寄ってきた。
「おいおい、学校指定の水着しか、着れる奴はなかったのか?」
「うるさいな~。海とか来るの久しぶりで、昔着てた水着が全部小さくなってたの~」
「奈央はデカ女だからな。いろんなものが、すぐに小さくなる」
「妹に向かってそんなこというチビ兄は、真美さんに踏み潰されちゃえばいいのに」
「こら。同じサイズの時には、チビ兄と言うな。
俺が、真美に踏み潰されたら、お前の写真を撮ってやる人間がいなくなるぞ?いいのか?」
「あっ」奈央は、墓穴を掘ったことに気付く。
「ところで奈央ちゃん、勝手に私が司を踏み潰すことになってるのはどういうことかな?」
「あっ」奈央は再び自分のミスに気付いた。
「こいつは、どっか抜けてるとかがあるんだよな~」
「でも、そこがかわいいところじゃない」
奈央は、兄とその友人に好き放題に言われて赤面した。
「ごめん。ごめん。奈央ちゃん、そんなに怒らないで」
ぷぅ~とふくれている奈央を見て、すぐに、真美がフォローを入れる。
「そうだ、奈央。ここにわざわざ来て貰ったところで悪いんだけど、頼みごとがある」
「何?別に、あんまり泳ぐ気はないからいいけど」
「もう一回、『巨人』になってくれないか?ただし、今度は俺達から見て10倍サイズの『巨人』にだ」
「なんでそんな中途半端な大きさになる必要があるの?」
「ここは白い砂浜。砂浜と巨人...何かを思い出さないか?」
「もしかして...ガリバー?」
「そう。『ガリバー旅行記』の冒頭を再現してみるんだよ。もちろんガリバー役は奈央、お前だ」
「別にいいけど、私をガリバーに仕立て上げて何するの?」
「何って、こともないんだが...まぁ、真美がどんな感じか試してみたいって言っててな」
「本来なら、ガリバーは男だから、司が適役なんだけど…男の『巨人』はなんだかつまらないし、
もしも『ガリバー』が、かわいい女の子だったら、どんな感じなのかなって思って…ダメかな?奈央ちゃん?」
「真美さんに関しては、特に問題はないけど…お兄ちゃんも参加するの?」
「そのつもりだが、何か不満があるのか?」
「お兄ちゃん、もし調子乗って、私の体に悪戯でもしたら、摘んで海に投げとばすからね」
「分かってるって。そんなに、俺がかわいい妹の大事な体に、悪戯をするような悪い兄に見えるか?見えないだろ」
「一応、警告しといたの。完璧に信用できるわけじゃないし」
「さて、ということで俺達はあっちの方に行って、待ってるから。
準備が整ったら、右手を挙げて合図してくれ」
司達の話にうまく乗せられ、奈央は『ガリバー』役をさせられることになった。
「『ガリバー』役って言っても、実際、ただ砂浜に寝てるだけで、いいみたいだし」
こう思いつつ、奈央は言われた通り、今の10倍サイズに巨大化になり、仰向けの状態で砂浜に、その巨体を横たえた。
奈央が手を挙げたのを確認し、彼女の方へと砂浜を歩いていく、司と真美。
横たわっている奈央の側までやって来て、奈央に聞こえるよう、わざとらしく司は言った。
「うわっ、こんなところで巨人が寝ているぞ」続けて
「巨人って、初めて見たけどこんなにも、おっきいんだ」と真美が、司と同じように言った。
「よし、巨人が眠っている間に、体に登ってみよう」
「うん。そうしよう」
なんだか小学校の学芸会みたいな会話が続く。
司と真美は、「巨人」の手から、体に登り始め、続いて腕を登る。
「巨人」の腕は、白くきめ細やかな肌で覆われていて、しかも歩くたびに、ぷにぷにとした感触が伝わってくる。
腕の上を歩かれて、くすぐったいのか、「巨人」が笑いを抑えているのがわかる。
「小人」の二人は、「巨人」の胴体にまで、達していた。
「小さくなって、人の体に登るような話が、よく漫画とかであるけど…」
「なるほど、こういうことだったのか」小人の二人は、勝手に納得しあっていた。
二人がいる所から見て、「巨人」の頭とは、反対の方に、小さな「山」があった。山の方に近付く司。
「ちょっと司。やめてあげた方がいいよ。奈央ちゃんのおっぱいに登るのは。」
「いいって、いいって。気にすんな」
真美は司を制止しようとするも、無駄であった。
「おおっ、こんなとこに山があるぞ」と言いつつ、真美の忠告も聞かずに、登っていく。
ぷにぷに。この「山」は、腕よりさらに、ぷにぷにしているようだ。
「山」の頂に達したところで、司は巨人の逆鱗に触れたことに気がついた。
「なーに、勝手に妹の胸で、登山を楽しんでいるのかな?お兄ちゃん」
奈央はわざとらしく、司のことを「チビ兄」ではなく、「お兄ちゃん」と呼ぶ。
彼女が、怒っているのは明らかだ。
「あははは、バレたか」
「アレだけ警告したのに...このスケベバカチビ兄め。
さっき言った通りに、海に投げ飛ばすから。悪く思わないでね」
そう言うと、奈央は腕を伸ばし、胸の上にいた司を、指先で軽く摘みあげて海に向かってポイッ。
司は、奈央が手首を返しただけで、飛んでいった。
数秒後、ドボンと水音がしてから、白い水柱が沖の方に立った。
「あはは、奈央ちゃん、結構キツいことするんだね」真美が苦笑する。
「あれは、自業自得です。それに、お兄ちゃんは泳ぎが得意ですし、ためらうことはないです。
あと、真美さんは女の子ですし、私の胸をぷにぷにしても構いませんよ」
「じゃ、お言葉に甘えて。ぷにぷに、ぷにぷに」
真美は、しばらくの間、奈央の胸で遊んでいた。
「真美さん、そろそろ元の大きさに戻りたいので、降りてもらえますか?」
「あっ、ごめんね」
真美は、差し出された奈央の大きな手のひらに、乗せられ砂浜に降ろされた。
海の方で、バシャバシャと音がした。
司が、沖から泳いで戻ってきたようだ。
「はぁはぁ。死ぬかと思った」
司は、泳ぎ着かれたのであろうかぜぇぜぇと息を切らしていた。
「あれは、司が百パーセント悪い」真美がバッサリ切り捨てる。
「妹の胸を触るなんて、お兄ちゃんサイテー。どういう神経してるんだかわけわかんな~い」
さらに奈央が、追い撃ちをかけた。
「奈央、俺が悪かった。頼む。許してくれ」司は、本気で謝っていた。
「奈央ちゃん、どうするの?許してあげる?」
「じゃ、私に向かって『どうか奈央様、こんなに罪深い僕をお許し下さい』って、言えたら、今回の事は、水に流してあげる」
「うわっ、きっつ~い。兄としてのプライドを打ち砕くようなこと言わせるのね」思わず、真美が声をあげた。
「わかった。それを言ったら、なかったことにしてくれるんだな?」
「うん。でも、お兄ちゃんと私の立場の違いをはっきりさせるために…」
突然、奈央の体が大きくなりはじめ、本来の大きさに戻った。
「この状態で、さっきの台詞を言って、謝罪してもらうからね」
そして「小人」の兄は、屈辱に耐えながら『どうか奈央様、こんなに罪深い僕をお許し下さい』と言って、
150倍の大きさの「巨人」の妹に、許しを請い願った。
その光景には、二人の立場の違いががはっきりと表れていた。
奈央は、「お兄ちゃん、よく言えました。じゃあ、今回は許してあげる♪」と言った。
その顔には、満面の笑みが溢れていた。