「箱庭」から出て、玄関に続く階段を上がる。 その時、真美は司の部屋に荷物を置いてあることに気がついた。 「荷物を取りに行かなきゃ」と考えながら歩いてると、やってきた奈央と正面衝突した。 と言っても、真美と奈央の身長差は20cmほどもあり、奈央の胸に真美が顔を埋めた格好だ。 「真美さん、前をよく見て歩いてくださいよ…危ないじゃないですか」 ぶつかってきた真美の様子がいつもと違うことに奈央は気がついた。 「あれ?真美さん、なんで泣いてるんですか?『箱庭』の中でお兄ちゃんに、なんか変なことされたんですか!?」 「そんなに大したことないから、大丈夫。気にしないで」 「大丈夫じゃないですよ。真美さん、お兄ちゃんに泣かされたじゃないですか」 「司の部屋に、荷物取りに行かなきゃ…」 「真美さん、私の部屋に来て下さい。荷物は私が取ってきます。 箱庭の中で、何があったか話して下さい。いいですね。 でないと、もう『箱庭』に入れて貰えなくなるかもしれないですよ」 奈央は、力強く言って自分の部屋に真美を招きよせた。 「適当に座って下さい。荷物取ってきてから、なにか飲み物を持ってきますから」 奈央が持ってきた麦茶を飲み、心を落ち着かせる。 「じゃ、何があったか話して下さい」 真美は、奈央に促されて事の顛末を語った。 「なるほど。そういうことだったんですか。まず真美さん。 いくらお兄ちゃんにムカついたからと言って、 『巨人』の状態で『箱庭』の街を踏み潰してやるなんて言ったら、 お兄ちゃんは本気で怒っちゃいます。 そういうことを言ったら、ダメだって言わなかった私達も悪いと言えば悪いですけど。 でも、『箱庭』に慣れていない時に、『巨人』の状態で居たら街を踏み潰したくなる気持ちはよく分かります。 小さなビルや電車を見てると、心の底にある破壊衝動が刺激されるからだと思います。 実は、真美さんと同じように、昔、お兄ちゃんも、お父さんに怒られたことがあるんです。 で、かく言う私も、お父さんに怒られたことがあります。 二人とも、怒られた理由は同じでした。 小さな『箱庭』の世界に慣れていないと、どうしても破壊衝動が沸き起こってきます。 模型の電車や建物は壊れやすいから、大切に、丁寧に扱わないとダメなんです。 『箱庭』は『箱庭』で一つの世界なんだから、『箱庭』には守らなければならないルールがある。 こういうことをお父さんに教えてもらいました」 「『箱庭』におけるルール?」 「そうですね、どういうのが『箱庭のルール』と言うと、 例えば、『巨人』が歩いていい場所は、しっかりと決められています。 でもそのかわり、歩いていい部分はお兄ちゃんが、しっかりと補強してくれました。 私の『巨人』になりたいっていうワガママのために、お兄ちゃんが補強してくれたんです。 だから、今では私が『巨人』として『箱庭』を散歩しているだけなら、お兄ちゃんは、何も文句は言いません。 それに、今まで、お兄ちゃんも私もクラスメートを『箱庭』に招待したことなんて 全然なくて、真美さんが初めての人なんです。 真美さんなら『箱庭』に招待しても、問題ないと判断したからこそ、お兄ちゃんは招待したと思います。 その真美さんが、あんなことを言っちゃったからお兄ちゃんは、普段以上に怒った。 でも、『箱庭』に二度と入るなとまでは言わなかった。 つまり、お兄ちゃんは、真美さんが『箱庭のルール』を知り、理解した上で、 改めて『箱庭』に遊びに来て欲しいと思ってるはずです。 でも、やっぱりここはお兄ちゃんが先に謝るべきだと思います。 ですから、私が仲介役を引き受けて、謝罪の場を設けますので、明日にでも仲直りしてください。 今日一日は、お兄ちゃんも真美さんも頭を冷やした方がいいと思います。 でも、出来るだけ早く仲直りした方がいいので明日にします。いいですか?」 「うん、いいよ。ギクシャクした状態が長くなるのは、私だって嫌だよ」 「今日、お兄ちゃんに怒られたことは、一種の通過儀礼だと考えてるといいかもしれません。 でも、真美さん。自分だけが悪いなんて思わないで下さいね。 お兄ちゃんも、昔、怒られたことを思い出したはずですから」 「そういえば、私と司はよくささいなことで喧嘩してたけどすぐに仲直りしてた。 今日の所は、頭を冷やして反省しまーす」 「しっかり冷やしてください。お兄ちゃんもだけどね」 真美の顔に笑顔が戻っていた。 真美は、ふとあることを奈央に聞かなければならなかったことを思い出した。 「ねぇ、奈央ちゃん。前から聞きたかったんだけど、奈央ちゃんはなんでそんなに『巨人』になりたがってるの?」 「そうですね、自分でもなんで『巨人』になりたいのかは、ハッキリとしたことは分からないです。 何か目的があって『巨人』になりたい訳ではないし、 ただ『箱庭』の中で『巨人』の状態でいると、下腹部のあたりがキュンとして、気持ちよくなることが多いです」 「ふむふむ。何歳頃から、そういう風に思ってるの?」 「物心付いた時からだと思います。 幼い頃から、『不思議の国のアリス』のアリスや『ガリバー』になりたいとか言ってたみたいですし。 アリスは女の子だけど、ガリバーは男じゃないかとかよく言われました」 「結構、根が深いね 」 「で、小学校に入ってすぐの頃に、『新急グローバルペンタゴン』に連れて行ってもらったんです。 もちろん、私が行きたい行きたいって駄々をこねてですけど」 「そこって、世界五大陸の名所や大都市が25分の1スケールのミニチュアになって展示されてるテーマパークだっけ?」 「そうです。大都市を再現したミニチュアセットの中に入ることが出来て、 誰でもガリバーになれるっていうのが売りのあのテーマパークです。 まぁ、そういうテーマパークなんで私は、行く前から喜びまくって、 着いたら着いたではしゃぎまわって、帰る頃にはクタクタになってて、帰りの車の中でずっと寝っぱなしだったらしいです。 で、お父さんがここのミニチュアに物凄く感動しちゃって、 我が家にも似たようなものを造ってやるって意気込んで、実際に出来たのがあの『箱庭』なんです。 『箱庭』が、完成した時にお父さんが 『奈央のために造ってあげたんだよ。これで、いつでも好きな時に、ガリバーになれるぞ』って言って、 私が『パパ、大好き』って言っあげたら、すごく喜んでました。親バカというかなんというか。 実際は、お父さんの趣味の鉄道模型を走らせる広い場所が、欲しかったっていうのが本来の『箱庭』の作製目的だったと思いますよ」 「愛娘のためにそこまでするとは、すごいお父さんね」 「完成した当初は、小さな環状線と申し訳程度のビルや家があっただけなんですけど どんどん『箱庭』が拡大していって、知っての通り今じゃ、あんなにも大きなものになってます。 『箱庭』はもはや一つの世界を構成してる、そんな感じですね」 「しかも私が『箱庭』の中で『巨人』になってる姿を、写真やビデオで撮ってって頼むと撮ってくれたりして。 今では、お兄ちゃんが代わりに撮ってくれますけど」 「奈央ちゃん、そのビデオか写真見てみたいんだけどいい?」 「いいですけど…あんまり期待しないでくださいよ」 奈央が、押し入れの中から、大量のアルバムを引っ張りだしてきた。 「えっと、緑の方が普通のアルバムで、ピンクのアルバムが『箱庭』用のアルバムです」 早速、真美はピンクのアルバムを手に取った。 「おぉ~、奈央ちゃんおっきい~」 真美が選んだアルバムの写真に写ってるブレザーの制服姿の奈央は、スカートの裾がビルの屋上にかかってるぐらいの大きさだった。 「ところで、この写真はいつ頃撮ったの?奈央ちゃん、今とは違う制服着てるし…」 「あーこれは、小学校六年生の時の写真だと思います。小学校卒業記念の写真です。 ちなみに、小学校は私立で制服がかわいいからって理由だけで、入学させられました」 そういうだけあって、奈央が通ってた制服は、真美が見てもかわいらしいものだった。 小学生の制服と言うより、どっかの女子高校の制服と言ったほうがあっているデザインだった。 その後も、なにかにつけて撮影された巨大奈央の写真を眺めていく。 それぞれの写真ごとに、奈央の大きさが違うのが印象的だった。 2Mぐらいからいつもの250M程度まで、多様な大きさの奈央の写真があった。 しかも、『巨人』であることを強調するような構図が多かった。 例えば奈央が模型の電車を摘みあげてたりする写真、大型トレーラーより大きな奈央の黒い革靴だけを撮影した写真、 ビル街の中で奈央が仁王立ちしてる写真がそうである。 写真の中の奈央は、どれもとびっきりの笑顔で写っていた。 奈央が言ってた『箱庭』の中で巨人でいるだけで楽しいって言うのは、本当の事のようだ。 「このアルバムだと、奈央ちゃんはいろんな大きさになってるわけだけど、 私が直接見たことあるのは255Mの時だけなんだけど、理由あるの?」 「単に、一番大きいサイズだと歩く距離が短くて済むからなんですけどね。 真美さんと会ったときは、お兄ちゃんを呼びに来るためだったので、 一番大きなサイズが便利だったわけです。 一人で『箱庭』に散歩しに来た時は、日によって大きさを変えてます。 大きさが変わるだけでも、『箱庭』の風景が新鮮に感じることがよくありますし」 「なるほど、大きさを変えるだけでも楽しめそうね」 次に、真美は緑のアルバムを開いた。こっちは、奈央の遠足や運動会の写真が、メインで中身は普通のアルバムだ。 真美が、ページをめくっていくうちに、一枚の写真を見つけた。 それは、よくある家族写真のようだが、その写真にどこか違和感を感じた。 「奈央ちゃん、なんかこの写真に、違和感を感じるだけど気のせい?」 「これですか?」 真美から写真を見せられる奈央。 「真美さんが感じる違和感が分かりました。 でも、答えを言ってしまうとつまらないので、がんばって違和感の正体を当ててください」 自分で違和感の正体を、見破るしかないようだ。 じっと、写真とにらめっこする、真美。 しばらくして「わかった~♪どういうわけか、司の身長が奈央ちゃんよりひく~い」と真美が叫ぶ。 「正解です」 「なんでこうなってるの?」 「口で説明するのは難しいんですけど...」 12才  13才  14才 15才  16才  17才 司145cm 150cm 154cm 162cm 168cm 173cm 奈央143cm 151cm 157cm 165cm 169cm 170cm 9才 10才  11才 12才 13才 14才 「これが、私とお兄ちゃんの身長の変化を表した図です。 だから、この写真は3年位前の家族写真です」 「あー、なるほどね。司が、中学生の頃は奈央ちゃんに身長で負けてたんだ~♪」 「三歳下の妹に身長で負けるなんて、兄として屈辱的ですよね。 その頃、私は『箱庭』の外でも、お兄ちゃんのことを『チビ兄ちゃん』って呼んでいたんです。 当時は、からかって呼んでましたけど、今じゃ、悪いことしたかなって思ったりします。 で、一昨年ぐらいになってようやくお兄ちゃんの身長が、私の身長に追い付いて、そしてすぐに、追い抜かれました。 でも、やっぱりお兄ちゃんの方が身長が高い、今の方がいいです。 兄より妹の方が身長が高いなんて世間体がよくないですし、それにお兄ちゃんのコンプレックスになったりするといけないし。 今は、『箱庭』の中ではチビ兄ちゃんって、呼んでもいいことになってます」 「それにしても、奈央ちゃんは小学校卒業時点で165cmもあったんだ? 12才の時の司と比較すると20cmも違う~」 「もし、私とお兄ちゃんが双子だったりしたらもっとすごい身長格差があったことになります。 兄は、クラスで一番チビ、妹は、クラスで一番デカイ。まるで漫画みたいな話ですね」 「もしかしたら大きくなりたいってずっと思ってたからここまで身長が伸びたのかも」「いいなー、大きくなりたいって思ってただけでそんなに背が高くなるなんて」 「背が高いといってもいい点、悪い点がありますし。高身長気分を味わいたいなら、120分の1位に縮小して『箱庭』に入ってみると面白いですよ。真美さんの身長なら、180cmぐらいになると思いますから」 「180cmの私か...司を見下ろせるかな?」 「見下ろせないなら見下ろせる身長に調整すればいいだけです。 でも、真美さんがそんなことをしたら、お兄ちゃん拗ねると思います」 「そうね、妹から『チビ』って呼ばれてたら、トラウマになっているよね」 二人は司の過去の身長をネタにして笑っていた。 この場に司本人が、居たら激怒しそうだ。 真美は、司の過去のコンプレックスが分かって何気にうれしくなった。 「ねぇ、奈央ちゃん。司の様子を見て来てくれないかな? 私と喧嘩別れして、自分の部屋に『箱庭』から直接帰ったから、そろそろ戻ってると思うんだけど…」 大喧嘩したとは言え、司のことが気が掛かりだった真美。 「わかりました。お兄ちゃんの部屋に行って様子を見てきます。 今日みたいに感情的になった時は、多分、ふて寝していると思いますけど…」 奈央は、司の部屋にそーっと入ってみた。 予想通り、部屋の電気は点いていなかった。司が寝ていると思われるベッドに目をやる。 だが、そこには司の姿はなかった。 「あれ?お兄ちゃん、いないのかな?」 だが、ベッドの横の「司専用駅」には、列車が停車していた。 と、言うことは司はこの部屋の中にいるはずだ。 ベッドに近づいて、よーく見てみると、1cmぐらいの「小人」が寝ていた。 司は、元の大きさに戻らずに寝ていたのだ。 「やっぱり、お兄ちゃん寝てたんだ。 真美さんと大喧嘩しちゃって、心理的に疲れたもんね。 明日には、真美さんとお兄ちゃんを仲直りさせてあげるからね」 と、小さな声で小さな兄にささやいて、奈央は司の部屋を出た。 「司は、どんな様子だった?」 部屋に戻ってきた奈央に、真美が恐る恐る尋ねる。 「お兄ちゃんは、やっぱり寝てました」 「そう。ありがとう。これからどうしようかな。時間もあることだし」 「そうだ、真美さん、ビデオの方も見ますか? もちろん、私が『箱庭』の中で、『巨人』になってるビデオとかですけど」 「見たい、見たい」と、やたらとはしゃぐ真美。 「分かりました。ただビデオテープは、お父さんの部屋にあって、 しかも、一人じゃ取れない場所に保管されてるので、一緒に来てもらえますか?」 「うん、いいよ」という訳で、二人は、奈央達の父親の部屋に向かった。 二人はドアを開け、部屋の中に入る。 「私も入って問題ない?」 「大丈夫ですよ、特に高価な物や貴重な物はないですし。 勝手に、部屋に入ったぐらいでは怒らないですよ、お父さんは」 部屋は、書斎も兼ねているのか、大量の書物が至る所に、並べられていた。 どこか渋みのあるこの部屋は、いかにも一家の大黒柱の部屋と言った感じだ。 「えーっと、これを一緒に動かしてもらえますか?」 奈央は、本棚の前に置いてある10個ほどの段ボールを指差していた。 「おっけー、これをどかせばいいんだね」 二人は、それぞれ段ボールの両端を持って動かす。 段ボールは、二人で動かすには、それほどの重さではなかったが、女の子が一人で運ぶには危ない。 真美は、ふと段ボールにマジックで書かれた単語を見た。恐らく、中身のことだろう。 「ニュー琴似ヒルズ」「パークサイド黒崎」「ラファーレ新越谷」「マリンビュー高石」etc… 「ところで奈央ちゃん、この段ボールに入ってるのって…」恐る恐る真美が尋ねる。 「日本全国各地のマンション…の模型です」 「なんでそんなものが、ここにいっぱいあるの?」 「もちろん、『箱庭』に設置するためですよ♪」 「奈央ちゃんのお父さんって、何の仕事してるの?」 「住宅販売の会社です。で、この模型は完成して、不要になったマンションの模型なんです。 それをお父さんが、会社から譲ってもらって送ってくるんです。 これも『箱庭』をよりリアルにするためだって、お父さんがやり始めたんですけど…」 「奈央ちゃんのお父さんっていろいろ…そのすごいね」 「ちなみに、『箱庭』の中にある建物の模型は、 鉄道模型用の物やコレみたいに建築模型を転用したりしている物があります。 これは、多分お兄ちゃんが今、改造中の区画に置こうと思ってる模型だと思いますよ。 それは、さておき。真美さん、どのビデオが見たいですか? どれも、中身の大差はありませんが...」 並べられているビデオテープのタイトルを眺める。 えーっと、「巨大小学生、奈央出現!!」に「不思議の箱庭の奈央」... とまぁ、やけに凝ったタイトルが並んでる 「タイトルだけ凝っていて、中身は巨大な私を撮影したただのホームビデオです。 お父さんがどうも勝手に付けたみたいで」 「じゃあ~ね、『巨大小学生、奈央出現!!』を見てみたいんだけどいい?なんか特撮か怪獣映画っぽいし、面白そう♪」 「ちょっと恥ずかしい気もしますけど、久しぶりに私も一緒に見てみます」 すぐさま、テープをビデオデッキに挿入して再生ボタンを押す。 画面に映りだしたのは、『箱庭』の街並みだった。 もちろん『箱庭』なので、動く人や車の姿はそこにはない。 ただその代わりなのか、道路には一見しただけで模型とわかる車が「置かれて」いた。 これらの車は、模型なので動くことはない。 「もうすぐ、『巨人』の私が画面に現れると思います」 奈央の説明通りに、画面の中で、地響きと大きな音がし始めた。 現れたのは、小学校の制服を着た奈央だった。 「これは、小学校3.4年の時の私だと思います」と奈央が説明を加える。 カメラは、巨大な奈央を見上げた。奈央の身長は、横にあった13階建てのビルよりも大きかった。 「うわー、ビルや車がこんなにもちっちゃいなんて、私、ガリバーみたいな女の子になっちゃった」 道路を悠然と歩く、怪獣みたいに大きな女の子。 何かを見つけたようにして、奈央は立ち止まった。 「小人さん、道路に違法駐車をしたらダメですよ~。 ちっちゃな車が、道にいっぱいあって歩きにくいです。 この道に違法駐車してある車を、私が片付けてあげるね」 こう言って、奈央は路上に置いてあった車を、片手で掴み上げた。 片手に一台ずつ、車を持った奈央は「車をどこかに、置かなきゃ」と言って歩いていった。 また、すぐに奈央は戻ってきて、車を掴み上げ、またどこかに持っていく。 それが、数回繰り返された。路上に、あった車は全て無くなっていた。 その後も、巨大な奈央は『箱庭』の中で模型の電車を線路から丁寧に掴みあげて電車と戯れたり、 ビルと背比べ(もちろん奈央の勝ち)などをして思う存分遊び(暴れ)回っていた。 いくらかわいらしい女の子とは言え、その子の身長が50mもあれば、怪獣と同じような存在になるだろう。 ビデオを一通り見た後で「とってもかわいらしい怪獣さんだったね」と真美が感想を述べた。 「怪獣だなんて、真美さんひどいです。巨大怪獣と『巨人』の女の子は、私の中では全然違うものなんです」 珍しく子供っぽく怒り出す奈央。 「ごめんごめん。訂正するわ。とってもかわいらしい『巨人』の女の子だったね」 「わかってもらえて嬉しいです」にっこりと笑う奈央。 「あっ、そろそろお兄ちゃんが起きてくる頃かと思うので、真美さんは家に帰った方がいいです。 こんな時に、真美さんとお兄ちゃんが鉢合わせしたら大変だし」 「そうだね。私は、家に帰るね。今日は、あんなことになっちゃってゴメンね。 明日、司には直接会ってちゃんと謝罪するから」 「はい、お兄ちゃんにもそう伝えておきます」 「今日は、いろいろ教えてくれてありがとう。じゃあね、奈央ちゃん」 真美は、家に帰っていった。 「さてと、今度はお兄ちゃんの世話をしないとね...」 ~数時間前~ 帰りの列車の中で、司は真美との大喧嘩の事を振り返っていた。 「ちゃんと、俺が伝えたかった事は、真美に伝わったのだろうかと。『巨人』は『箱庭』の中で、圧倒的に強い力を持つ存在だから、その力を制限するために『箱庭のルール』がある」ということを、司は伝えたかった。 司のせいではあるが、真美は暴走しかけてた。 それでも、すぐに真美の暴走は止まったくれた。 実際に、建物を踏み潰す前に止まってくれたからよかった。 自分がしようとしてたことの恐ろしさに、自分で気がついたからだろう。 「真美が、自分でそのことに気がついたなら、『アレ』を許してやってもいい頃だろう。 その方が、真美にとっても、奈央にとっても、俺にとっても、そして『箱庭』にとってもいいからな」 司が乗っている列車は、司の部屋まで続く長い長い上り坂を登っていった。 「お兄ちゃん、起きてよ。お兄ちゃん」奈央の大きな声が、聞こえてきた。 奈央は、司を起こしに来たのだろう。 「箱庭」で真美と大喧嘩して、来た道を戻ってきて、部屋に着いてすぐに、ふて寝してたからな。 目を開くと、巨大な奈央の顔が真上にあった。 司は、自分がまだ「小人」だったことに気付き、元の大きさに戻る。 「ん、なんだ、晩飯の時間か?」 「晩ご飯より大事な話なの!お兄ちゃん真美さんと、大喧嘩したんだって!?」 「あぁ、まぁな」 「真美さん、泣いてたんだよ。女の子を泣かすなんて、お兄ちゃんサイテーって、言いたいところだったんだけど… まぁ、一概にそうも言えない事情があったんだね」 「ってことは奈央は、真美から話を聞いたのか?」 「うん。真美さんから、お兄ちゃんとの大喧嘩の話を聞いて、それから『箱庭のルール』を真美さんに教えておいたよ」 「そうか、サンキュー。相変わらず、手回しが早いな。で、真美はもう帰ったんだな?」 「うん、明日またうちに来るって」 「帰る時、真美はまだ怒ってたか?」 「ううん、『箱庭のルール』について教えるたら、お兄ちゃんが激怒したけとも、納得してくれた」 「ただ、今日のことは俺が先に謝った方がいいな」 「たとえ大喧嘩しても、お互い『絶対許さない。顔も見たくない』なんて言わないあたり、お兄ちゃん達は仲がいいね~(ニヤニヤ)」 「なんだか含みのある言い方だな」 「別に~」相変わらず奈央はニヤニヤしていた。 奈央の「ニヤニヤ」が気になる司。 「そのニヤニヤした表情、気になるからやめれ」 「は~い。それじゃ私は、自分の部屋に戻るね」 真美との関係も、明日謝罪すれば元通りになりそうで、司は一安心した。