「というわけでクロは苗木クンでした」 無慈悲な判決がモノクマの楽しげな声で告げられる。 その瞬間殺された桑田君以外のみんなが様々な表情をボクに見せつける。 殺された?いや、桑田君を殺したのは自分じゃないか。 そう、桑田君に襲われそうになっていた舞園さんを偶然見かけてしまったボクは彼女を守るため、彼を殺してしまった。 とっさの行動だったのでそれを隠し切ることなど出来ず、学級裁判に掛けられたボクはこうしてあっさりとクロになってしまったのだった。 言い訳はできない。ただ、それでも納得はいかなかった。 「た、確かに殺してしまったのはボクだけど…だからってあの時あのまま何もしなかったら舞園さんは殺されていたんだ。だからボクは仕方なく…!」 「うぷぷ…そう、だからキミは見殺しにすべきだったんだよ、舞園さやかを。そうすればキミはクロにならずにすんだ」 「そ、そんなこと出来るわけ…!」 「それにねぇ、その時点で舞園さやかが死ぬって決まってたわけじゃないんだよ?それをキミが早とちりして桑田怜恩を殺してしまった」 「早とちり?!違う!あんな状況だったら誰だって…」 「シャラーップ!問答無用!見苦しい、見苦しいよ、苗木クン。理由はどうあれキミが殺したのは事実なんだよ」 ビシッと丸っこい手の人差し指をこちらに向けそう言い放つモノクマ。 そこでボクの反論は途切れ、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ち、頭が真っ白になる。 「では、クロの最後の足掻きが終わったところでお待ちかねのお楽しみ、おしおきタイムといきますか」 おしおき…モノクマの言ったその言葉が真っ白になっていたボクをじわじわと黒く侵食していく。 一体何をされるのだろうか。 ただ分かっているのはどんな過程を経るにしてもボクは死ぬということだ。 不安、恐怖、絶望、絶望、絶望、絶望… 「うわああああッッ!!」 耐え切れずそれを吐き出すようにボクは叫んだ。 「うぷ…いいね、いいよ、苗木クン。その絶望の鮮度が落ちないうちにさっそく…」 モノクマは手にしたガベルを勢いよく振り下ろしスイッチを押した。 するとどこからともなくウネウネと蛇のように自在に動くアームがガシッとしっかりボクの体を捕らえ、抵抗することもできずボクは暗い闇へと引きずり込まれてしまった。 「気がつきましたか?」 この声は…セレスさん? やけに響くその声でボクは意識を取り戻す。 「セレスさん…?」 身体を起こし周囲を見渡す。異様に広い空間。 目の前に光沢のある赤いオブジェのようなものが二つ並んでいる。しかしセレスさんは見当たらない。 「フフ…どこを見てるのですか?わたくしでしたらちゃんと目の前にいますわよ。上を向いてご覧なさい」 セレスさんの声がまた響いてくる。 その声に従いボクは視線を上へと移していく。 「なっ、セレスさん、なんでそんなに大きく?!」 上からは並みの高層ビルより大きなセレスさんがこちらを見下ろしていた。 大きすぎて気がつかなかったけど、目の前のそれは彼女の履くパンプスだったのか。 「苗木君、これから私が貴方にオシオキをしますわ」 しゃがみ込みボクを捕まえようとこちらに手を伸ばしてくる。 為すすべもなく捕まりセレスさんの顔の前へと連れて行かれる。 手のひらの上のボクを彼女はジッと興味深そうにその紅い瞳で見つめている。 「私だって本当はこんな事をしたくありませんわ。 ですが、オシオキを執行しなければ私がモノクマにオシオキされてしまうので…」 「そんな…一体ボクに何をする気なんだ…?」 「フフ、それは…ウッ!」 ゲフゥゥゥ… 不意にセレスさんの口からゲップが漏れる。 意識を失いそうになる位の凄まじい悪臭。 ボクは反射的に口元を両手で塞ぐ。 「すごい匂いでしょう?なにせあの下品で臭い餃子をお腹いっぱい食べた後ですから」 餃子?なるほど。確かに言われてみればそんな臭いかも知れない。 まだ臭いが漂っている。 「…話が途中でしたね。苗木君をどうするのかという話でしたが…こうするのですわ」 セレスさんの口が大きく開かれる。 喉の奥までがよく見えるほどに。 その開かれた口がこちらへと近づいてくる。 まさかと思ったがそのまさかだった。 手のひらの上、逃げ場のないボクを バクリ… ヌルヌルとしている。 赤黒いドームに虫歯一つないそれが規則的に並んでいる。 奥の方から上がってくる強烈な臭気。 しかしあまり観察している時間は与えられなかった。 凄まじい力がボクの体を奥の方へと運ぼうとする。 抵抗する事は出来ない。 大量の唾液とともにあの奥の方へと落ちていく。 食道の壁にぶつかりながら落ちていきまた広い空間に出る。 グチャッ… ドロドロとしたものがクッションになりボクの体を受け止める。 なんとか起き上がり辺りを見回す。 空間内をさっき嗅いだあの臭いをさらに濃縮したものが充満している。 本当に気絶しそうなほど臭い。 活発に蠢く壁、そこから大量の液体が染み出している。そして足元を埋め尽くしているボクを受け止めたドロドロ。状況を理解して改めて恐怖感が襲ってくる。 臭いの発生源。 セレスさんの消化活動で溶け始めている餃子。 胃壁から今も吹き出し続ける強力な胃酸。 ボクもこの餃子みたいに跡形もなく消化されてしまうのだろうか? そんな事を考えていると足に痛みが走る。 自分の足を見てみるとすでに皮膚が溶け始めている。 嘘だろ? そしてグラリと足元が大きく揺れ、胃酸の混ざった餃子のドロドロが降りかかってくる。 完全にドロドロに埋もれてしまった。 パニックになり脱出しようともがくも土砂のようなそれが重たくのしかかり身動きすら取れない。 全身に焼けるような痛みが走る。 彼女の胃袋は一杯に満たされた餃子を消化しようと活発に動いている。 苦痛からひたすら叫び声を上げる事しか出来ない。 その叫び声もセレスさんには届いてすらいないのだろう。 次第に感覚がなくなっていく。 そしてボクの意識も完全に消化されてしまった。