俺はクラスメイトに呼び出されて体育館倉庫の裏にいる。 一体何の用だろうか? そう考えているとツインテールを揺らしながらクラスメイトの女子高生が俺に駆け寄ってきた。 その女子高生は元気よく、明るい笑顔でクッキーを俺に差し出した。 「おまたせ! 家庭科の授業でクッキーを作ったの! あなたに食べて欲しくて……。はい、あーん!」 俺は返事をする間もなく、そのクッキーをほおばった。 程よい甘さでとても美味しい。 だが、突然めまいが起こり、目の前が真っ暗になった。 「アハハハハ! 気がついたかしら?」 俺は意識を取り戻したようだ。 目の前には大型バスと同じくらいの黒い物体。 見上げると2つの肌色の塔が見えた。 「やったぁ! 成功したわ!」 上空からさっきの女子生徒の声が雷のように轟いた。 俺は思わず尻餅を付き、口をぽかんと開けたまま上空を見上げた。 「アハハハハ! あなたの今の身長は2cmってところかしら? この黒いのは私のローファー。これは私の脚。美しいでしょ?」 なんと大型バスのような大きな黒い物体は女子生徒のローファーだったのだ。 そして目の前の2つの塔は紺ソックスをまとった脚。 となるとさらに上にあるのはスカート。 そのスカートの中にある白い布は…… 俺は鼓動が高まり、鼻に手を当てると血がついた。 「やだぁ~。私のパンツを覗いているんでしょ! いやらしい顔をして……。そんなおちびちゃんにはこうしてあげる!」 巨大なローファーの靴底が上空に浮いたかと思うと俺に近づいてくる。 俺は動きたくても体がガタガタ震え、動くことができなかった。 「ぎゃあぁぁぁぁぁ……」 ドシィィィン!!! 巨大なローファーが地面に落下すると、砂ぼこりが舞い上がり、俺も吹き飛ばされた。 「うふふ。いきなり踏み潰さないわよ? でも逃げないと踏み潰されちゃうからね!」 俺は生まれて17年間、こんな会話をしたことがない。 俺はクラスメイトに踏み殺されるのか? キョロキョロ周りを見渡すと俺と同じくらいの大きさの黒い生き物がピクピクと動いていた。 アリ? でもアリの体は潰れていて死にかけていた。 「あぁそのアリ? さっき私が踏み潰した」 すると、女子生徒は死にかけたアリをローファーでぐりぐりと踏みにじった。 そのアリは見事に地面にめり込んでおり、体がバラバラとなってしまった。 俺はその惨めなアリの姿を見て思わず絶叫した。 「アハハハ! 次はお前の番だわ! このアリンコのように潰して靴底にこびりつかせてやるわ!」 女子生徒は高々とローファーを振り上げ、俺の真上にセットした。 今度は殺される! 俺は恐怖で体を震わせながらもそのローファーから離れようと走り出した。 「先輩? 何をやっているんですか?」 どうやら女子生徒の後ろからもう一人の女子高生がやってきた。 体育着にブルマ姿でショートカットの女子生徒だ。 しかも外にいるのに靴など履いておらず。素足だ。 「先輩。こんなところで一人で遊んでいないで部活の準備をしてください!」 「え? あぁ、そうね。今すぐ行くからね」 後輩の女子生徒は不思議そうな顔をして体育館倉庫から離れていった。 「しまった。あいつがいない!」 女子生徒は足元を見渡した。 「やっばい! 3分たつと元の大きさに戻るのよね! 早く踏み潰さないとマズイわ!」 俺は砂漠のような広い校庭をひたすら走り、女子生徒から遠ざかることに成功した。 無我夢中で走ると朝礼台が目に入った。 とりあえず朝礼台の下で身を隠そうと考えた。 しかし、突然地響きが起こり、徐々に大きくなる。 「はぁ? なんでこんなところに虫がいるのよ! いまからあたしたちが部活をするのよ!」 俺は見上げるとさっきの後輩の女子生徒だ。 仁王立ちの姿で俺を見下ろしているが、虫? 俺は虫じゃない! 俺は精一杯手を振って存在をアピールした。 しかし、巨大な素足が俺に踏み降ろされる。 女子生徒の素足には砂やホコリがたくさんこびりついていており、ところどころ黒ずんでいた。 「虫なんて潰れちまえ!」 ドシィィィィン!!! 後輩の女子生徒は勢いよく素足を地面に踏み降ろした。 地面にくっきりと足跡が残っていた。 「ちょこまかと! このぉ! このぉ!」 後輩の女子生徒はひたすら俺に向けて素足を踏み降ろす。 その度に地面が激しく揺れるが、俺はひたすら朝礼台を目指した。 すると、俺の体が小さくなってから3分はたったのだろうか。 体が急に熱くなり、淡い光を帯びた。 体に異変が……。 もしかして俺は元の大きさに戻るのか? 期待に胸を膨らませていたが、俺は思わず転んでしまった。 「この虫、蛍みたいに光っているわ! マジでキモイ!」 俺は見上げるとそこには黒ずんだ巨大な素足が一面を覆い尽くした。 足指が大きく開いているのが見えたが、あっという間に目の前が真っ暗になった。 ドシィィィィン!!! ぐちゅ…… 「はぁはぁ……。やっと虫を踏み潰した。でも、あたしの足裏が汚くてどれがさっきの虫の死骸か分からないわ」 後輩の女子生徒は素足を地面にこすりつけた。 先程まで動いていた生物の死骸は後輩の女子生徒の素足にこびりついていたのだが、砂とホコリと区別はできなかった。 そしてそのまま水道で素足をきれいに洗い流した。 「もとの大きさに戻る前に後輩が踏み潰したのね。ま、いっか。あいつも後輩の素足に踏み潰されて喜んでいるんでしょうし」 こうして何事もなかったように校庭では元気よく部活動が行われたのであった。