『 100倍差 』 100倍JKは下校途中に近道である小人の町を通過することがある。道の彼方から巨大なJKたちが近づいてくるのをズシンズシンという地響きに感じられた。 「あー今日も暑かったー。靴ん中蒸れむれ~」 「脱いじゃおっか」 言いながらJKたちはローファーと靴下を脱いで素足になり、そのまま小人の町の中へと入ってきた。 JKの足は小人からすれば全長24m幅9mもの大きさだ。乗用車4~5台分の長さがあり、3車線分くらいの幅がある。 JKたちも馴れたもので自分たちの足の下ろせる道路をよく知っている。 足はそれなりに幅のある大通りを狙って下ろされた。JKたちがやってきたのを察して停車した車たちの間に巨大な足は踏み下ろされる。 とは言え大通りばかりでも無いのでそう言った大きな道の無い住宅地などはつま先だけを道路におろして家々を跨ぎながら超えていく。 地面にみっしりと敷き詰められた家々を縫うように走る細い道。塀に挟まれたその道に巨大なつま先でつま先立ちしてバランスを取りながらよろよろ進んでいく様は幼子の遊びの様でもあった。 大通りも常にJKたちの足が下ろせるほどの隙間が空いているわけではない。 ある程度まばらだがそれでも隙間が無いときは、いっそ車を踏みつけてしまうのだ。 小人たちの車はJKの土踏まずの中にすっぽりと納まる大きさである。上から踏みつけても車のサスペンションがぎゅううと押し込まれる程度で、潰れることは無いのだ。 この町の小人たちは、自分の乗る車がJKの足の下敷きになり、上からズンと踏みつけられても馴れたものである。 ただ、ときおり土踏まずでルーフを押さえつけられていた車が、足が持ち上がった時に足裏に吸い付いて一緒に持ち上げられてしまうこともあった。 そういう時はJKの巨大な手によって足裏からはがされ道路に戻されるのだった。 そうやってJKたちは小人の町を通過して去っていった。 そして、おそらくは暑かったために足に汗を掻いていたのだろう。 JKが通過した道路の路面は、足形にしっとりと濡れていた。まるでその部分だけ雨が降ったように。 車が駐車しているときに雨が降ると、車のあった部分だけ濡れていないことはある。その逆で、足が下ろされたところだけ濡れているのだ。 道路上の至る所がJKの足形に濡れていたのだ。 それにも馴れている小人たちはそんな足跡たちのことなどさも気にもせず、無数の足跡のある道路上の走行を再開した。 子どもたちは、地面に残った巨大な足跡と自分の足の大きさを比べて遊んでいる。 * 『 100倍差2 』 小人の町にやってきたJKたち。 すでに靴も靴下も脱いで素足になっている。 「あっつ~」 あまりにも突然の来訪に住民の対応も間に合わない。 まだ車が動いている大通りにJKの巨大な足が踏み下ろされる。 車たちは突然道路を遮った巨大な足に次々と衝突して前部が潰れたり横転したりしてしまっている。 しかし、JKたちはお構いなしだ。 中にはフロント部分やトランク部分を巨大な指やかかとで踏み潰されてしまった車もいた。ほんの一瞬タイミングがずれれば、この巨大な足の下に車まるごと踏み潰されてしまったことだろう。 JKたちはそのまま街の中に侵入していく。 車たちが慌てて横に避けたり停車している中を平然と歩いていく。わいわいとおしゃべりしながらで足元に特別注意を払っているようには見えない。 「あーもう汗でベトベト~」 言いながらJKのひとりが踏みしめた足をグリグリと動かして足裏を道路にこすりつけた。 足を動かした時に周囲の車が蹴とばされて地面の上を飛ぶように滑っていった。 「ホント。もうこすりつけちゃえ」 別のJKは近くにあった民家の屋根に足を乗せると足のつま先をこすりつけて汗を落とそうとしている。 また別のJKは信号機や電柱を足の指の間に挟んで指の股の汗を擦り落としていた。 高層ビルの屋上に手を置いて体を支え、そのビルの壁面に足の裏を押し当てこすっているJKもいた。 そうやって町の至る所に足をこすりつけて臭いを落としながらJKは町を通過し去っていった。 JKが通った道路にはJKの足の汗が染み込んだ足跡などがいくつも残っていたが、それらの足跡からは強烈な足臭がもんもんと湧き出ていた。 足の裏をこすりつけられた民家の屋根もそう、ビルの壁面などからも臭いが吹き出ている。 JKの足が触れたところはもれなく強烈な足臭の源泉となっていた。 町中の地面や建物の壁面などからJKの足臭があふれ出ている。 しばし、町ではガスマスクの着用が余儀なくされ、それら臭いの源泉である足跡などの浄化に尽力せねばならなくなったのである。 * * * 『 1000倍差 』 帰宅したJKが1000分の1サイズの小人たちに足裏登りをさせて遊んでいた時の話。 今しがた靴下を脱いだばかりのJKの全長240m幅90mの足の裏には百人ほどの小人がへばりついていた。 足の裏は全体的にしっとりと濡れていて訓練されている小人たちでも手足を滑らせてしまいそうだ。 「ホラホラ頑張って~。1位になった子にはこのマンションをあげちゃうよー」 とJKは手に持った超高層マンションを小人たちの頭上でちらつかせた。 小人たちはJKの巨大で熱くて滑りやすい足裏を必死に登っていく。あんなデカいマンションをもらえれば生活は安泰だ。何としても勝利したい欲があった。 はてさてそうやってJKの足裏を登っていく小人たちだが、今日は暑かったせいで随分と蒸されたのであろう、つま先付近までやってくると強烈な足臭が周囲を包み始めた。 巨大なJKの強烈な足臭は目鼻に刺激となり行動を妨害する。折角頂上のつま先付近まで上ったのに、足臭で鈍った手足をすべらせ落下してしまう小人が続出した。 まるで殺虫剤を吹きかけられた虫みたいにぽろぽろと零れ落ちていく小人たち。足裏に残っている小人たちはもう1/3以下になっていた。 「あら~。シャワー浴びてからにすればよかったかなー」 などとJKが苦笑している間に、新たに5人の小人が落下した。 必死になって足裏を登る小人たち。数は少なくなったが、裏を返せば自分にめぐってくるチャンスが大きくなったという事。 ここにこうして生き残っているだけでトップになれる可能性が高くなる。小人たちはニヤリと笑った。 直後、小人たちの一部が気づく。 自分たちの上っているほぼ垂直、丸く湾曲したこの絶壁の前方、自分たちの頭上から、何かが高速で迫ってきたことに。 それはすさまじい速度でやってきて、一部の小人たちを巻き込み、そのまま超高速で落下していった。 あまりにも一瞬だった。 自分たちのとなりにいた小人たちが、次の瞬間にはいなくなっていたのだ。 いったい何が起きたのか。 それは再び同じものが落ちてきたときに判明した。 前方、頭上に見える超巨大な足指。 その足指の間から斜面である足の裏にそって流れ、そして高速で滑り落ちてくる。 それは汗である。 足の指の間にたまった玉のような汗が足の裏の表面を流れ落ちてきているのである。 汗の玉は直径5mmほど。小人にとっては5m。5mもの水の塊が斜面をスポーツカーのような速さで落下してくるのだ。 すべりやすい斜面で身動きの取れない小人たちは避けるということができない。そもそもこんなにも速くては気づいて行動することもできない。 次々と流れ落ちてくる汗。 汗が一筋流れるたびに足裏を登る小人の数が減る。 避ける事ができない以上自分のところに落ちてこないことを祈るしかない。 しかも汗は斜面を流れ落ちてくる過程で右に左に流れを変えるので進路を予測することもできなかった。 バシャアアアアアアン! バシャアアアアアアン! 汗が流れ落ちてくるたびにその汗と一緒に小人が流れ落ちていく。 落ちる小人の悲鳴が、一瞬で遠くに行ってしまう。 とうとう小人は最後の一人になっていた。 汗の流れて来る可能性の低い母指球の上を登っていた小人だ。 この場所は勾配がキツく表面も硬いので登るには適さないのだが、平たい部分は汗が流れやすいのでこの場所を選ばざるを得なかったのだ。 ここを登り切ればゴール下も同然。自分が最後の一人なのだから登り切る=優勝だ。 小人はニヤリとほくそ笑み、遂に母指球を登り切り、ゴールである指の股を目指してラストスパートをかけた。 かけようとした。 小人は見た。 指の股までの途中の皮膚から、汗がジワジワと染み出てきているのを。 小人は焦った。ようやくここまで来たのに、ここで汗に流されてしまってはまさしくすべて水の泡だ。 小人は最後の力を振り絞って登る速度を速めたが、ここまで来ると足の臭いは最強になっている。嫌でも体の動きが鈍る。 そうやって小人が上っている間にも汗はどんどん湧いてきて、だんだんと表面が張力で盛り上がっていく。 あれが玉のようになり、流れ落ちてくるのも時間の問題だ。急がなければならない。 だがそうやって焦ったのがいけなかった。手元にあった小さな汗だまりで手を滑らせてしまった。 あわゆく落ちてしまいそうなところをなんとか片手だけで壁面を掴み持ちこたえる。 すぐに体勢を立て直して…と前方を見上げたところで小人の手は止まった。 前方にあった汗は、もう巨大な水滴へと変貌していた。小人サイズの家ほどの大きさもあった。 どうやら小人が手を滑らせているその間に、周囲の汗の流れを吸収して一気に巨大化したらしい。 この進路からアレを避けるのは不可能だ。そして、どんなに手足を強張らせてもあの汗の突進を耐えられるはずもない。 小人は、諦めて手足の力を抜いた。 直後、あの巨大な汗の水滴が流れ落ち始め、手足を離したことですでにゆっくりと落下を開始していた小人に追いつき、その小人を内に取り込んだままおよそ200mもの距離を垂直落下していった。 結局のところ、JKの足裏を登っていた小人たちは一人も足裏を登り切ることができなかったのだ。 「あははは…、今度からちゃんとシャワー浴びてからしよ」 自分の足裏の足元に落下して気絶している小人たちを見下ろしてJKはポリポリと頬を掻いた。 * * * 『 1000万倍差 』 「ほらほら~踏みつけちゃうぞ~」 国の上空にとてつもなく巨大な足裏がかざされる。 全長2400km幅900kmの国家レベルサイズだ。 シャーレの中にある1000万分の1サイズの国にとっては、まさしく国よりも大きな足だ。 さて、そんな巨大な足が国の上空にかざされても国民は誰一人騒がず平和なままである。 というのもこれはこの国の神であり同時に所有者であるJKの日常茶飯事のイタズラだからだ。 いつも学校から帰宅してはこうやって国の入ったシャーレを床に置きベッドに腰掛けて国の上空で足をぶらつかせて遊ぶのだ。 ただ今日のところはちょっとばかり事情が違った。 今日は暑かった。汗っかきなJKは足の指の間に汗を掻いていた。 その汗は足がブラブラ振られることでだんだんと指先にたまっていき、やがて先端から水滴となって直下のシャーレの中に1滴落下したのだ。 ドパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!! シャーレの中の国民にとっては直径50kmくらいになる超巨大な水滴が、国の首都がある大陸の中央に落下した。 城壁に囲われた円形の首都は直径5kmほど。首都の10倍近い大きさの水滴が真上から落下してきたのだ。 首都は一瞬で壊滅。首都周辺の町々も同様だ。あまりにも巨大な汗の一滴は国の中枢を破壊して余りある大きさだった。 落下した汗は弾けそのまま周囲に拡散した。大陸全土に向かって、雲さえも呑み込む大津波となって広がっていった。 これにはさすがの国民も大慌てだった。大津波となって迫ってくる汗を見上げ悲鳴を上げた。 しかし、山向こうにさえ見ることの出来るほどの巨大な津波を前に、どう逃げればいいというのか。 国の中央。大陸の数分の1の面積がJKの一滴の汗の水量に呑まれ水没した。いくつの町と村がその中に沈んでしまったか見当もつかない。 かつて湖の無かった大陸に、一瞬で国最大の湖が生まれてしまったのだ。 「はわわわわ! どうしよう!」 国民の混乱と悲鳴はJKにも聞こえた。 自分の足から滴った汗粒が小人の国に大変な損害を与えてしまったのだ。 慌てて国の上空から足を退けるJKだが、その急な動きのせいでまた別の汗の一滴がシャーレの中に落下してしまった。 ドパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!! 次の一滴は海に落ちた。 海水を雲の何倍もの高さの水しぶきにまで跳ね除けた汗は大津波を巻き起こし大陸全土の湾岸沿いの町を呑み込んだ。 だけでなく、途方も無く膨大な量の汗はたった一滴落下しただけで海面を数mも上昇させたようだ。 結果、奇跡的に津波の届かなかった内陸の方にまで海水が到達することになってしまう。 シャーレの中の大陸は、JKが汗を数滴たらしただけで本来の3分の1近くにまで面積が減ってしまった。 「ど、どうしよう…」 床に置いた自分の両足の間にある小さなシャーレの中の国の有様を見下ろして少女は唸る。 * 結局のところ、けが人は出なかった。 JKが救助に尽力したことで大陸の全住民が救出され、今では新しいシャーレの中の大陸に移住している。 元のシャーレの大陸は海面上昇によって陸地が減少し全住民を住まわせるには手狭になってしまったのだ。 加えて、海に汗が落ちたせいで水質が変わり魚が取れなくなってしまったり、大気中に汗の濃密な酸味が漂うようになってしまったりもしていた。 新しい大陸は以前よりも面積が広く、国土に余裕ができて国民からの評価も上々で、丁度よい引っ越しだったと満足の声も聞けてJKはほっと安堵した。 今でも国民たちはその新しい大陸でのびのびと暮らしている。 なお、以後JKは国の上で足をぶらつかせる遊びをしなくなったという。