司と真美の大喧嘩の翌日、真美は司に直接謝罪するために司の家にやってきた。 予め連絡しておいたためか、奈央が玄関前で待っていて、出迎えてくれた。 玄関に入って、真美が司のことを聞こうとした瞬間、 「真美さん、ごめんなさい」と奈央の声がして、真美は普段の10分の1のサイズの『小人』にされてしまった。 そして「理由は後で、話しますから少しの間我慢してて下さい」と言われ、 真美は体を奈央の巨大な手で掴まれ、奈央の服のポケットに顔だけ出した状態で入れられてしまった。 奈央のポケットから下の床を眺める。 まるで、ビルから下の景色を眺めてるようだった。 奈央は、二階にに繋がる階段を登っていき、廊下を真っ直ぐ進んで司の部屋に入った。 部屋に入り、机の上に奈央の右手を置いて、真美と同じサイズになって待っていた司を乗せる。 「お兄ちゃん、真美さんを連れてきたよ」と、司に声を掛ける。 今、奈央の右手に司、左手に真美が乗せられている。 二人が、顔を合わせるのは、大喧嘩して以来だ。 その間、二人はメールも電話も一切していない。 というよりか、奈央に止められていた。 手のひらに乗せられたまま、気恥ずかしいのか視線を互いに背ける二人。 「じゃ、お兄ちゃんから謝ってね」 奈央は、空中で右手と左手をくっつけて、和解の場を作り上げた。 奈央に、促されておずおずと真美の方に、歩み寄る司。 すぅーっと、深呼吸をして「昨日の事は、俺が悪かった。傷つけるようなことを言ってごめん。 でも、奈央によると、俺が伝えたかったことは、理解してくれたみたいだな。 また、よかったら『箱庭』に遊びに来てくれ。三人で、まだまだしたいこともあるしな」 「次は、真美さんの番だよ」 今度は、奈央に促されて真美が前に出てきた。 「家族みんなが、大事にしてきたこの『箱庭』に対する気持ちを踏み躙るようなことを言ってごめんなさい。 奈央ちゃんから、『箱庭』に関する話を聞いてたら、自分がしようとしてたことの愚かさに気付いたの。 だから、よかったらもう一度、私を『箱庭』に招待してください」 「お兄ちゃんと真美さん、仲直りできたみたいね。はい、二人とも握手握手」 奈央の手のひらの上で、握手する司と真美。昨日、大喧嘩した仲とは思えない。 流石は、クラスメートから「夫婦」だなんて茶化される二人だ。 「なんか奈央ちゃんに主導権握られてるね、私達」 「なんだか知らないけど、奈央の手のひらでおどらされてるみたいだな」 あながち司の言葉は、間違っていない。 「ピーンポーンパーンポーン、真美さんにお知らせしまーす。 あのね、お兄ちゃんが、なんかね真美さんにプレゼントがあるって言ってたから、詳しいことはお兄ちゃんから聞いてね」 突然の司からのプレゼントが、何の事だか分からず困惑する真美。 「コホン。えー、この『箱庭』に、真美がもっと愛着を持ってもってほしいということで、 『箱庭』の一角に真美が好きなようにレイアウトできる区画を作って置いたんだ。 つまり、『箱庭』の中に真美が支配…じゃなくて、管理できる街を作ったやったからな。喜べー」 やたらと、上からモノを言うような口調で、司が言った。 「ほんとっ?司、ありがとう!『箱庭』に私の街が作れるなんてうれしいな」大喜びの真美。 「さらに、これから真美が『箱庭』に出入りする機会が増えると思うから、 『貸出し』と言う形で、真美専用の車両を一両、プレゼントすることにしたんだ」 「でも私、いくら模型の電車とは言え、運転なんて出来ないよ?」 「真美は、普通にケータイ操作できるだろ?それと同じぐらい簡単だから、心配しなくても大丈夫。 実際の電車と違って、あくまで模型の電車だから、運転するのに煩雑な手順はないんだ。 すぐに、運転できるようになるさ。奈央だって、ほとんど運転しないけど、できるにはできるし」 「後、模型の電車の置き場所とか手入れの問題はどうなるの?」 「一両だけだから、ポケットに入るサイズだから置き場所には困らないと思う。 一両だけっていうのは、決して俺がケチだからではなく、こういったことを考えた上での話だからな。 で、手入れはたまに俺に預けてくれたらいいよ」 「そこまで、考えてくれているのね。ありがと♪」 「じゃ、これから真美専用車両を選びに『箱庭』の車両基地まで行くけど、奈央はどうするんだ? いつものように『巨人』で来るのか?それとも、ここから俺達と一緒に『小人』になって列車に乗っていくか?」 「私、少しやらなきゃいけないことがあるから一時間ぐらいしたら、『箱庭』の車両基地に行くことにする。 お兄ちゃんたちは、そこにいるんだね?」 「あぁその予定だ。あと、奈央は車両を入れるケースを忘れずに持ってきてくれ。一つでいいからな」 「うん、お兄ちゃん、わかった。一つでいいんだね」 司と真美は、奈央の右手で「司専用駅」 まで運んでもらった。 奈央は、二人を運び終えるとどこかに行ってしまった。 「奈央には、俺達二人とも感謝しないとダメだな」 「うん、奈央ちゃんは私達のためにいろいろとしてくれるよね。ほんといい娘だね」 二人は、それぞれ奈央に感謝していた。気が付くと真美は、周囲の景色に奇妙な感覚を覚えていた。 二人とも小さくなっていたはずなのに、駅に停車している模型の列車はそれよりもまだ小さかったのだ。 「俺達は、10分の1にしか縮小していないから、『箱庭』的視点から見ると俺達は15倍サイズの『巨人』なんだよ。 『箱庭』の世界は150分の1の大きさで構成されているからな」司が、事情を説明する。 「そういえばそうだったね。っていうことは今、私達は『巨人』であり『小人』でもあるんだね。おもしろーい♪」 「そういう感覚を持ち始めてくると『箱庭』は、より一層おもしろい空間になってくるんだ」 「んじゃ、早く『箱庭』に行こうよ。私の電車早く選びたいし~」真美は、本当に嬉しそうだ。 「えっと、これから『箱庭』に向かうわけだけど、今日は特に後ろに連結している貨車が必要というわけではないから、 機関車と切り離す作業をするからな。少し待っててくれ」と言って、司が切り離し作業に取り掛かる。 機関車と貨車を繋ぐ連結機を外して、機関車を力を込めて押す。 機関車がゆっくりと動き出したところで、司が押すのを止めた。当然ながら、機関車はすぐに止まる。 「よし、準備完了っと。真美、出発するから機関車に乗っておけよ」 司と真美は、『箱庭』サイズにさらに縮小してから、機関車に乗り込み「司専用駅」を後にした。 司の部屋と「箱庭」とを直接結ぶこの路線。真美は「司線」と勝手に呼んでいる。 長い長いトンネルと下り急勾配が続いていく。目的地の車両基地までは、割と時間が掛かる。 この時間を利用して、司は真美に列車の操作方法を教えていた。 「大体、こんなもんで一通りの操作は出来る。難しいことはないだろ?」 「う~ん、操作手順は理解できたけど、実際に操作してないから何とも言えないよ」 「だろうな。この下り坂が終わったら、真美も実際に運転してみるといい。『習うより、慣れろ』って言うからな」 しばらく経って、長く続いた急勾配が終わり、列車は平坦な土地を走っていた。 司は、ブレーキを掛けて列車を停止させ、運転席から離れる。 「さっき教えたとおりに、列車を動かしてみてくれ。」 「なんか私、緊張してきちゃった。当たり前だけど、電車を自分で運転するなんて初めてだし…」 「大丈夫、大丈夫。時間通りに走らせる必要もないし、 踏み切りでの人や車の無理な横断もないから、よそ見してても運転できるよ。 ただ困ったことに、たまに『巨人』の少女がやってきて、力づくで列車を止める悪戯をすることがあるんだ。 だから、運転する際には『スピードの出し過ぎ』と『巨人』にだけ注意してればいいよ」と冗談交じりに話した。 司の言葉に安心したのか、真美の緊張はほぐれたようだ。 「出発進行!」と司の真似をして、真美は機関車を加速させていった。 そして、徐々に機関車は加速していった。ある程度、スピードが出てきたところで、 「速度が60キロになったら、加速をやめて惰性運転に入る。 多少速度が落ちてきたなら、また少しだけ加速させて速度を60キロに保つ。いいか?」と司がアドバイスする。 真美の方も、司の教えを忠実に守り、丁寧な運転をする。 真美が運転する単行機関車は、「箱庭」の中を颯爽と駆け抜けていった。 二人の乗った機関車が車両基地に到着し、司と真美が降りる。 基地には、新幹線からすでに廃車となった旧型車両、さらには全国各地の私鉄の車両まで多種多様な車両が数多く停車していた。 このような光景は現実では有り得なく、模型ならではの光景と言えよう。 ただし、真美にこの光景の貴重さが分かるかどうかは怪しい。 一般人からしてみれば、こんなのはただ沢山の車両が並んでいるに過ぎないからだ。 「こんなに大きな『箱庭』を作っちゃう親子だから、これくらいの数の模型を持ってて当然よね」 「一応言っとくが、ここにあるのは3分の1ぐらいしかないぞ。残りは、俺や親父の部屋に保管してある」 「そんなにあるんだ...はは...」 真美は中条親子を少し見くびっていたことを後悔した。 「さてと、真美用の車両を選ぶんだけど...」 「出来ればかわいらしい車両がいいんだけど...」 「んなもん、ないない。鉄道の車両ってのは大体が『いかつい』か『かっこいい』であって 『かわいい』車両なんて全然ないの」 「ちぇ、つまんないのー」 「文句は言わない。文句言うんだったらこの話は無し」 「むぅ~、しょうがないわね~。そういうあたり鉄道模型って、やっぱ男の世界だよね~」 しばらくの間、真美は司を連れ回して、車両基地をあっち行きこっち行きしてようやく、真美専用車両が決まった。 近年、JR西○本の地方電化線区用に投入されている車両だ。 最終的には「うん、これがいい」と、真美も納得しての選択だった。 ただその納得した理由は「コレ、新しそうな電車だし」というの理由だった。真美らしいといえば真美らしいが… 「さて、決まったのはいいけど、奈央が来ない分には持ち帰ることができないな… 今、車両の車両の間にいる訳だから、不用意に巨大化するわけにはいかないし…」 「それなら奈央ちゃんが、来るのを待つしかないね」 待つこと数分。奈央がいつものように、地響きと轟音を立ててやって来た。 奈央の手には模型収納ケースが握られている。 奈央が下を見回して、車両の間にいた司と真美を見つけて 「お兄ちゃん、どれをケースに入れたらいいの?」と奈央が質問する。 司は真美が選んだ車両を指し示して、奈央に伝える。 奈央は、その場でゆっくりとしゃがみ込み、こっちに腕を伸ばして車両を掴む。 司達からすれば、十数トンはあろうかと言う車両を奈央は軽々と指先で持ち上げ、持ってきていたケースに丁寧に仕舞い込む。 女の子が、鉄道模型を手に取りケースに仕舞い込む。 たったそれだけの行為なのに、『小人』の視点から眺めるととてつもない迫力がある。 今は巨大な奈央に慣れたとはいえ、やはり恐怖を感じる。 ケースに入れ終わった奈央が、縮小化して司達の元に歩いてきた。 「はい、コレ」と真美は、奈央から模型が入ったケースを渡される。 「ありがとう、奈央ちゃん」と真美が礼を言う。 「これが、私専用の車両ね~♪」真美は、手渡されたケースに入った模型を眺める なんだかんだ文句を言っても上機嫌な様子だ。 「これで一つ目の目的が終わったことだし、次の目的地に行くとしよう」 「次の目的地って、司が私にくれるっていう場所?」 「オレからすれば『占領地』って名付けたいところなんだけど...」 「司が土地の一部をくれるっていったじゃないの? 私が悪者みたいな言い方をするのは何でかな?つ・か・さ!」 「昨日、この『箱庭』に、やけに怒った『巨大女』が出現して、 『箱庭』なんか踏み潰して壊してやるって騒ぎ出したから、 慌てた『箱庭』政府首脳陣は『巨大女』の怒りを鎮めるために、領土の一部を差し出しことを決めたらしい」 「つ~か~さ~。アンタって奴は人を怒らせるのが大の得意みたいね」 「なんで真美が怒ってるんだ?俺は『巨大女』の話をしてるだけで、何も真美の話をしてるわけじゃな…グホッ」 真美が、司の腹に冷静に一発蹴りを入れた。 真美は小柄で力もそんなに強いわけではないが、この一撃は辛い。 「『巨大女』さんの怒りを、私が代弁しておいてあげたわ。彼女なら、司を踏み潰してたかもね♪」 「じょ、冗談はさておき、どうやってそこまで行く?『海水浴』をした海岸の先の場所なんだけど… ここからまた電車を使っていくか…あるいは…」 不意に司の言葉が詰まる。 「あるいは?」 「や、やっぱ、時間は掛かるけど電車にしようぜ。そ、そうだな、電車の方がいいに決まってる」 司は何かを隠すように慌ててしゃべる。 そこに遮るようにして、奈央が会話に加わってきた。 「真美さん、こういう時は巨大化すればいいんですよ。 さっきの暴言の罰として、お兄ちゃんをポケットに入れて、道案内させるのがいいと思いま~す♪」 「あっ、こら。奈央、余計なことを言うな」 動揺する司を尻目に「奈央ちゃん、ナイスアイデア♪」真美の瞳が妖しく光った。 「別に文句はないよね、司?」 こうなったら、真美の言うことに従うほかない。 なんだかんだで結局、司はさっきの罰として真美の服の胸ポケットに入れられることになった。 もはや抵抗する気力さえ起こらない。 「はいはい、わかったわかった」 「暴言のお詫びにはこれくらいしてもらわないとね~」 益々、上機嫌になる真美。 さっきまで「巨大女」≠真美だったんじゃないかと、司が言いたくなったが止めた。 言ったら言ったで、またややこしいことになるはずだ。 司一人で真美と奈央の連合軍に、口喧嘩で勝てるはずがない。 「真美と奈央が姉妹のように仲良くなるのはいいんだけど、こういう風に共同戦線を張られると困るんだよな。 しかも、最近は奈央だけじゃなく真美まで『巨人』になりたがるようになるし。はぁぁ~」というのが司の正直な感想だった。 ため息をつく司の横で、女子二人はきゃっきゃっとじゃれあっていた。 その後三人は、車両と車両に挟まれた狭い空間から抜け出した。 さっきの打ち合わせの通りに真美と奈央が150倍サイズに巨大化する。 ちなみに奈央は『箱庭』にもう用事がないと言うことで、家に帰るらしい。 というわけで、例の『占領地』には司と真美だけが向かうことになった。 『巨人』の真美が司の方に手を差し出して、手に乗せる。 「やっぱりちっちゃい司はかわいいね~」 司を軽く突っ突きながら真美が言った。 10代の男子に向かって「かわいい」はやめて欲しいが、今の自分の大きさを考えると仕方ない。 次第に真美の手が持ち上がっていき、そして、胸ポケットに入るように促された。 入ってみると、丁度首から上の部分だけがポケットの外に出た。 ポケットの縁をしっかりと持って、外の景色を見てみる。 高さ150メートル以上の場所から今度は下を眺めてみる。 高層ビルの展望台から見下ろすような光景が広がっていた。 近くにある建物と比べて、はるかに大きな真美の足。 足の幅だけで何メートルあるのだろうか... こんなにも真美は巨大だ。 普段なら頭一個分は司のほうが大きいというのに... しかし、後ろの「壁」が気になる。とにかく気になる。 随分ぽわぽわしてやわらかい「壁」である。 このぽわぽわの「壁」が真美のおっぱいだと意識すると 司の「息子」がむくむく「巨大化」してきた。 「真美って結構胸があるんだな...知らなかった」 10代の健全な男子としてはごく当然の反応ではあるが、 真美に知られると生命の危機だ。 司は、少しばかり胸ポケットに入れられてよかったと思った。 そういえば胸ポケットに入れられているほどに小さい今の自分は、真美からするとなんなんだろうか… 『ちっちゃい司』『小人』『ペット』『小動物』『虫けら』『ゴミ』… だんだん考えてると悲観的な答えばかり浮かんできた。 本当のところどう思われているのだろう。司は、答を得るべく思い切って聞いてみた。 「なぁ、真美。今の俺のことを、どういう風に思っているんだ?」 幸か不幸か、真美には「今の」という部分が聞き取れなかった。 そのため、司のことが好きか嫌いかを聞かれたのだと勘違いしたのだ。 「べ、別に嫌いじゃないよ。でも…その…何て言うか…。 って、こういうのって男の司が先に言うもんじゃないの?」 「ん、なんか勘違いしてないか?オレが聞きたいのは、『小人』の状態のオレを真美がどういう風に思っているかなんだけど...」 司が鈍感だったおかげで真美の勘違いは帳消しになった。 「あぁ、なんだぁそういう意味か~。 『小人』の司ね...いつもとは違ってちっちゃくてかわいいなって思う以外には特に思うことはないよ」 「俺のことを、『ペット』とか『虫けら』とか『ゴミ』とかだと思ってないんだよな?」 「失礼ね~、いくら司が小さくても『虫けら』とか『ゴミ』なんて思うわけないじゃない。 でも、『ペット』として飼ってみるのはありかもね♪」 「真美は俺をペットとして飼う気があるのかよ…」 意外なことに、どうやら司は真美の発言に怯えてるようだ。 「冗談だよ、冗談」こうでも言っておかないと司がかわいそうだった。 司をペットとして飼うかどうかの議論はさておき、司の話だと前に「海水浴」をした海岸の先に 真美に与えられた土地があるそうなので、真美はとりあえず例の海岸まで行くことにした。 「箱庭」の中を「巨人」の真美が歩いていると、膝と同じくらいの高さのビルがひしめき合う一角にたどり着いた。 このあたりは真美が初めて「箱庭」にやってきた時に司に案内されたところだろう。 「あの時は、わりと高いビルだと思っていたのに、それに街全体が今はこんなに小さいなんて… まぁ、それだけ私がおっきいんだけどね」 そこからさらに、真美はずっと線路沿いに「巨人用歩道」を歩き、 中条家専用海水浴場を囲む山を跨ぎ越えた先にまでやってきた。 ここで、胸ポケットにいた司がひょっこりと出てきた。 「よいっしょっと。今、真美の足元にあるこの一角が『箱庭』の真美の領土だ。 多少ぐらいは、領土が枠からはみだしてもいい。 模型の線路も建物もある程度数があるから、好きなように街造りをすれば『箱庭』にもっと愛着が持てると思う」 司が指差した「箱庭」の一角は、一辺4メートルの正方形状の土地で、ロープで囲まれていた。 今は、土地の中央部を二本の線路と『巨人』用歩道が貫いてるだけで、後は何もない更地だった。 「ねぇ司、私の土地ってこれだけなの?」 「これだけってな、今、真美が『巨人』だから狭く見えるだけで、『小人』サイズで考えると、一辺600メートルの土地なんだけどな。 『海水浴』をした海岸と見比べてみろよ、こっちの方がかなり広いぞ」 司にこう言われて、真美は少し離れた場所に位置する海岸まで歩いていき、自分の領土と見比べた。 司が言う通り、真美の領土の方が明らかに広かった。 「ごめんごめん、4メートル四方だなんて聞くと、狭く感じるけど実際のところは、600メートル四方だもんね。司に感謝、感謝♪」 「分かればよろしい。ところで真美は、ここをどんな風な街にしたいかを考えたのか?」 「うーん、まだだよ。すぐに自分の街造りのプランなんか思いつかないし…」 「そのうち、やりたいことが沢山溢れてきて悩みだすことになるはずだから、プランが今はなくても焦ることはないよ。 俺が、旅行から帰ってくる一週間後にプランが聞けたら嬉しいな」 「旅行って、月曜から行くって言ってたやつ?」 「あぁ、月曜から金曜まで青春18キップをフル活用して、日本全国を電車で一人旅をしてくるよ」 「お土産よろしくね~」 「へいへい、わかったよ。ただ、行く先は気分次第だからリクエストは受け付けない。で、これからどうするんだ?」 「う~んじゃ、今日はこのへんで帰るね。早く帰って街作りのプランを考えてみたいし」 早くもやる気を見せる真美。 「おう、わかった。ここからの帰り道はわかってるな?いろいろ踏み潰さないように注意して歩け…」 「うん、大丈夫大丈夫。間違って踏み潰しちゃうことなんて絶ぇっ対にないから」 ここまで自信を持って答えられると、逆に恐ろしい。 事実、彼女が「巨人」用歩道さえ歩いてくれれば、何の問題もないことわけだからここは真美を信じるしかなさそうだ。 「そうそう、俺がいない間は奈央に声掛けてくれたら、『箱庭』に入っていいからな」 「それはどうもありがと♪じゃぁ~ね」 真美は手を振り、地響きを立てて帰っていった。 やっぱり「箱庭」の中では、普通サイズの人間、いわゆる「巨人」は異質な存在だ。 司の持論は、「『箱庭』は小さくなってこそ、楽しめる空間だ」という理論だ。 ちなみに、司の周囲には「巨人の方がいいの!」と異論を唱えそうな人物が約二名。 その辺りは価値観の違いということで… 「さ~て、これから旅行の準備をしないとな」 体を伸ばす仕草をして、司も自分の部屋に戻っていった。 こうして奈央の思惑通りに司と真美の親密度がより高まった。 「雨降って、地固まる」とはよく言ったもんだ。