#1 ミニチュアを体感する 僕の名前は伊藤大祐、19歳の予備校生だ。 インターネットで見つけたこのミニチュアの街を購入した。 しかし、この街は値段も高価なもので、半年ほどアルバイトをしてようやく購入することができた。 宅配便で届いた街は、電子レンジほどの大きさの箱に梱包されていた。 包装を取り、改めて街を眺めてみると、かなり精巧な出来になっていた。 住宅街やビル、公園など街の一区画が実に見事に再現されており、驚きを隠せなかった。 早速、この街を起動させるためにユーザー登録を行った。 腕時計の形状をしたユーザーベルトとやらを腕に巻き、指紋や瞳の登録など、結構本格的な登録だった。 登録が終わり、街の起動ボタンを押すと、程なくして小さい人間が無数に表れ、街の中を動き始めた。 大祐「そういえば、ミニチュアの中に入れると書いてたけど・・・?」 精巧なミニチュアの出来に感心しつつも、説明書に目を移す。 そして、先ほどのユーザーベルトを操作すると、瞬間的に意識が遠のく。 (あぁ・・・、体の力が抜ける・・・) 次に気づくと、僕は自分の部屋の床に倒れていた。 そこには、ミニチュアの街はない。 大祐「??? これはどういうことだ?」 僕は、自分の部屋を出ると、居間には姉がいた。 姉の名は伊藤彩香、20歳の大学生で、いわゆる普通の女の子といったところか。 大祐「姉貴・・・? さっき、何か変わったことでもあったかな?」 彩香「へ・・・? 何言ってるのよ。何も変わったことはないわ。」 狐につままれた感触で外に出てみる。 特に変化のない日常がそこにはあった。 しかし、僕が上空を仰ぎ見た瞬間、信じがたい光景がそこにはあった。 空がないのだ。 あるのは、茶色い平面がはるか上にぼんやりと見えるだけ。 このとき、僕はようやっと確信をした。 この街は実在する街をそのままミニチュアとして縮小したにすぎないのだと。 ズゥン・・・、ズゥン・・・。 ふいに遠方から地響きが聞こえてくる。 大祐「な、なんだ?この地響きは・・・。」 僕は、変化のない日常だからこそ、得体のしれない地響きに恐怖感を抱いた。 大祐「姉貴ー!」 僕はたまらず、家の中に戻り居間にいるはずの姉貴のもとへ向かった。 ズウゥン・・・、ズウゥン・・・。 地響きは先ほどよりも大きくなってきた。 いったい何が起こっているのか、理解ができない。 とにかく今は、ミニチュア内の姉貴を頼りたかった。 しかし、先ほどまで居間にいたはずの姉貴が忽然と姿を消している。 大祐「あ、彩香姉ちゃんー? どこー!?」 ズシィン・・・、ズシィン・・・。 どんどん、地響きは強くなってくる。 彩香「あれ? 大祐、帰ってきてたと思ったけど・・・。」 突如として、彩香の声が外から響く。 僕はもう一度家の外に出た。 大祐「うわああああ!!!!」 僕はその場で腰を抜かしてしまった。 僕の上空をつい先ほどまで居間にいたはずの彩香の顔が占拠していたのだ。 彩香「あれ? 大祐、帰ってきてたと思ったけど・・・。」 そのとき、姉である彩香は、部屋にいるであろう大祐のもとにやってきた。 部屋を見渡す限り、大祐の姿はない。 代わりに部屋の中央には、細かい建物が並んだミニチュアが置いてある。 彩香「ああ、これが大祐の欲しがってたミニチュアね。」 彩香は、まじまじと街を見つめている。 彩香「へえ、よくできてるわね。小人までいるじゃない。」 彩香は、眼前のミニチュアの街にわくわくとした気持ちを抱いていた。 やがて、小さな大祐がミニチュアの中にいるとも思わない彩香は、ミニチュアに自身の華奢な手を伸ばす。 大祐「うわわっ!あ、姉貴ー!」 ミニチュアの大祐は大急ぎで彩香の巨大な手から逃げ出すべく走り出した。 大祐以外のミニチュアの人たちも一斉に走り出す。 そんな悲鳴などお構いなしに巨大な手が迫る。 彩香「もう、逃げないでよー。」 大祐はとにかくがむしゃらに走り続けたが、とうとうミニチュアの街の端っこに到達してしまった。 このとき、大祐は初めて気が付いた。 立ち膝をしている彩香の右足が天高く聳え立ち、左足があぐらをかいたような状態で彩香はミニチュアを見ていたのだ。 要は、大祐は彩香の方向に向かって逃げ出していたのだ。 大祐「姉ちゃんの足かぁ・・・。見に行こうかな・・・?」 しかし、そんな淡い気持ちは彩香の次の行動で雲散霧消する。 あぐらをかいていた彩香の左足は姿勢を変えるべく、上空へと持ち上がる。 彩香の赤々とした足の裏が上空をかすめる。 そして、小さな大祐の目の前に勢いよく振り下ろされる。 ドシーン! 大祐「うわわっ!!」 彩香の素足の着地に大祐は倒れこんでしまった。 やがて、ひとしきり鑑賞を終え、ミニチュアへの興味を失った彩香はそのまま部屋を出て行った。 大祐「はぁ、はぁ、はぁ・・・、お、驚いたぁ・・・。」 いまだに大祐の動悸はおさまらない。 しかし、おかげでミニチュアの街であることは実感することができた。 彩香「あら? どうしたのよ、しゃがみこんで。」 そう言うのは、なんと(ミニチュアの)姉の彩香だった。 大祐「うわわっ!!」 いきなりの登場に僕は再び驚いて、腰を抜かしてしまった。 彩香「何を驚いてるのよ。大声上げたから様子見に来たのよ。」 彩香に何事もないことを告げ、僕は改めて家の外に出た。 そして、ユーザーの意識に呼応して街は形成されること、また、ミニチュアと現実の人物が同じ空間にはいられない。 ということを説明書から確認した。 大祐は深呼吸を終えると、ミニチュアの街をひとしきり散策し、現実世界に戻ったのである。 #2 興奮と恐怖と 現実に戻った大祐は、居間で彩香と2人で夕食を食べた。 彩香「ねえねえ、あのミニチュアってすごいわねぇ。」 大祐「えっ・・・。う、うん、確かにすごいよね。」 彩香「ご飯食べ終わってから、もう一度そのミニチュア見せてよ。」 大祐「ああ、別にいいよ。」 どうやら姉の彩香は、ミニチュアに興味を持ったようだ。 まさか、そのミニチュアの中に縮小した大祐がいたなどと夢にも思っていないであろう。 大祐は複雑な心境でご飯を食べていた。 やがて、彩香は大祐からミニチュアを借りて、自分の部屋へと持ち帰った。 大祐「なるべく早く返してよ?」 彩香「わかってるって~♪」 彩香は、ミニチュアの街を抱きつつ、急ぎ足で部屋に戻った。 部屋に戻った彩香は、ニコニコと微笑みながらミニチュアを設置した。 彩香「え~っと、起動のボタンはこれだったっけ?」 彩香は何個かのボタンを無作為に押した。 すると、ミニチュアは起動をはじめ、再び整然と街並みが完成した。 彩香「うわぁ・・・、何度見ても凄いわ。」 ゆっくりと街全体を見終わった彩香は、徐々に町を破壊したい衝動に駆られ始める。 彩香「このミニチュアって確か何度でも再生するんだよね~。」 彩香は興奮を抑えきれずにミニチュアのビルを指で弾いたところ、ビルはいとも簡単に崩落してしまった。 その頃、大祐はベッド上で揺れる頭を正気に保とうと必死だった。 何故かはわからないが、寝起きのような状態で、大祐の意識はボンヤリとしていたのだ。 しかし、次の瞬間、大祐は現実に戻る。 ドゴォォン!!! 凄まじい轟音が外から響き渡ったのだ。 大祐「な、何だ?」 急いで大祐が部屋の窓を覗くと、夜のはずなのに辺り一面が明るい。 しかも、はるか遠方で巨大な人の指が街のビルを破壊していたのだ。 大祐「ええっ!? どういうことだ?」 大祐は自室を出て、勢いよく彩香の部屋の戸を開く。 案の定、彩香の姿がない。 どういう事情が分からないが、大祐はミニチュアの街に入ったようだ。 とにもかくにも、大祐は着の身着のままで家の外を出た。 外は阿鼻叫喚の様相で、物凄い勢いで人々が逃げ出していた。 大祐「うわっ、どうしよう・・・。」 今後の動向に悩んでいた大祐の周囲が暗闇に覆われる。 なんと、上空を彩香の顔が占拠したのだ。 そして、街中に大轟音が響き渡る。 彩香「ミニチュアの街の皆さん!」 上空の彩香の口が声を発する。 恐ろしいまでの大きな音量に大祐は思わず耳を塞ぐ。 近所の人たちも不安そうに上空を見上げている。 いったい、この巨大な人間は何をしようとしているのか、皆怪訝そうに上を注視している。 彩香「皆さん、私の足の裏を見てね。」 やがて、巨大な彩香の顔は遠のき、変わって巨大な彩香の足の裏が2つも出現した。 大祐は、この状態でも興奮冷めやらぬ状態であったが、彩香が何を考えているかわからず、ただ上空を仰いでいた。 彩香の両方の足の裏は、軽くミニチュアの街の半分を覆い尽くしていた。 大祐も、巨大な素足が作り出す影の中にすっぽりと入っていたのだ。 すっかり油断していた大祐に向かって、彩香は非常な言葉を発する。 彩香「では、これから皆さんを踏み潰します。」 街の住民全員に突然の死刑宣告が上空から浴びせられたのだ。 大祐「はあぁっ!?」 大祐は急いで家の近くに置いてあった自転車に飛び乗り激走した。 大祐「姉貴のやつ、何考えてるんだ!?」 怒りに満ちた大祐の形相も、後方に見られた光景でみるみる青ざめていった。 彩香の足の裏が5階建てのビルのすぐ真上に設置され、いつでも落下できる体勢になっていたのだ。 大祐の前方は、彩香の巨大な足の指が5つもそびえ、地上にその影を暗く落としている。 このままでは、彩香によっていとも簡単に踏み潰されてしまう。 大祐の自転車はさらに加速する。 彩香「それでは、5、4、3・・・」 上空から死のカウントダウンが聞こえてきたものの、何とか、影から抜け出すことができた。 大祐が充分に危険区域から離れたと判断した次の瞬間、 彩香「2、1・・・」 ズドーン!! 猛烈な衝撃が大祐の後方から襲う。 おそるおそる目を開けると、街に大きな素足がめり込んだ状況を目にすることができた。 自転車から降り、その場にへなへなと座り込んでしまった。 あまりにも無力な自分に呆然としたのち、眼前の巨大な素足に徐々に苛立ちが込み上げてきた。 大祐「何するんだよー!!姉貴のばかー!!!」 大祐は、目の前の彩香の足の指を蹴り上げた。 ギロッ! 大祐は、この小さな叫びや行動など彩香に届くはずはないと考えていた。 しかし、大祐が蹴った瞬間、彩香の巨大な瞳はしっかりと小さな大祐を捕縛していた。 彩香「なぁに、こいつ? 私に向かって勇気あるわねぇ・・・。」 次の瞬間、彩香は一気に勢いをつけてその場に立ち上がった。 大祐は言葉を失ってしまった。 高さにして、60~70mはあるだろうか。 巨大な彩香は、腰に手を当て、仁王立ちで小さな大祐を見下ろしている。 今の大祐は、彩香にとってあまりにも無力だ。 やがて、彩香の巨大な素足がゆっくりと持ち上がる。 街の中央部分には彩香の足の形がくっきりとついていた。 しかも、粉々に粉砕された建造物、ベッタリとミンチにされた人間、もう言葉では表現するのも難しい状況だった。 彩香には、この惨劇が見えているのだろうか。 大祐が眼前の光景に息を呑んでいると、突然周囲が暗くなった。 彩香「さよなら、小人さん」 彩香が言い終わると同時に、巨大な素足が小さな大祐めがけて落下してきたのだ。 大祐の7~8倍近くもある巨大な素足は、大祐をプレスしようと猛接近する。 大祐は、全速力で巨大な素足が作る影から逃げ出す。 ズシーン! ガシャーン! 巨大な素足は大祐の自転車もろとも地面に振り下ろされた。 彩香にとって、足もとの自転車などハリガネでできたおもちゃくらいにしか見えていないであろう。 再び、巨大な素足が大祐めがけて持ち上がる。 大祐「う、うわあ!!」 ズシーン! ズシーン! 彩香は、容赦なく眼下の大祐に自身の足を踏み下ろす。 彩香の足のサイズはたかだか24cmしかなく、一般的な女性のサイズでしかない。 しかし、3~4cm程度しかない今の小さな大祐にしてみれば、充分驚異的だ。 ズシイイン!! ひときわ力強く彩香の素足が振り下ろされる。 大祐「うわああ!!」 大祐は、その場に倒れこんでしまった。 彩香「チョロチョロと逃げ回って・・・!」 彩香「今度こそ!」 地面に倒れた大祐めがけて、彩香の巨大な足の裏が迫る。 もう生きた心地がしない大祐は、必死に汗やら涙やらをふいていた。 そのとき、ユーザーベルトが巻かれた腕に気が付いた。 大祐「あっ!! そっか!!」 大祐は意識を取り戻すと、ベッドから起き上がりタオルで汗を拭った。 一歩間違えれば彩香に殺されかねない状況だったことに改めて大祐は身震いしていた。 彩香「あら、どうしてそんなに汗まみれなの?」 大祐「うわあ!!」 彩香「えっ、どうしたのよ?」 大祐「いや、なんでもない・・・」 彩香の突然の来室に、大祐は戸惑いを隠せないでいた。 彩香「しかし、このミニチュアは実に精密に作られてるわ。」 大祐「そうでしょ? すごいよね。」 彩香「ほら、見て。この車。」 そう言うと、彩香は、自身の華奢な親指と人差し指に軽々と摘ままれた黒の乗用車を差し出した。 彩香「運転手もいるの。ここまで再現されてるのね。」 しかし、大祐がよく見てみると、乗用車の中の運転手は、必死に手を組んでいて命乞いをしているようだった。 大祐「姉貴、解放してあげなよ。」 彩香「え、なんで。」 大祐「だって、運転手が可哀想だよ。」 彩香「えー、ミニチュアでしょ、これ?」 次の瞬間、彩香は黒の乗用車を手放した。 これ幸いと、黒の軽乗用車は急発進で逃げようと試みていた。 すると、あろうことか、その黒の軽乗用車の上に彩香は自分の足をかざした。 ズン! そして、充分な質量を有する自分の大きな足を乗っけてしまったのだ。 ミシッ、ミシッ・・・。 彩香が体重をかけているのだろう。 黒の軽乗用車からは不気味な破壊音が聞こえてくる。 彩香「ふう、やっぱり壊れないわね。」 彩香が諦めて自分の足をどかすと、軽乗用車の運転手が猛ダッシュで逃げ出していた。 おそらく、車は諦めて、自分の命を優先したのだろうか。 大祐「姉貴、運転手・・・」 彩香「こいつめ!」 ズシッ!ビチャッ! 力強い一歩と共に、鈍い音が響く。 大祐は思わず興奮してしまった。 彩香の一歩が、いともたやすく運転手を踏み潰したのだ。 彩香「あらあら、大丈夫かしら・・・。」 棒読みにも聞こえる彩香の声に、大祐はドキドキしていた。 そして、彩香が足を上げると、そこにはペチャンコになった小人が佇んでいた。 彩香はそれを無造作につまむと、ゴミ箱に投げ捨てた。 彩香「それにしても、大祐はこんなミニチュア買ってどうする気だったの?」 大祐「ええっ・・・!!」 先ほどの姉の行動に性的興奮を覚えた自分がよもやサイズフェチであることを口にすることなどできず、しどろもどろに返答してしまった。 大祐「あ、うん。ほら・・・、ミニチュアが、好きだしね(?)」 彩香「??? そうだっけ? まあ、いいけどね。」 程なくして、彩香が大祐の部屋を立ち去った。 姉の彩香の凄まじさを体感させられた大祐は、興奮とともに恐怖感を抱き、その日は眠りについた。 #3 策士・彩香の演出 翌朝、大祐は授業を受けるために予備校へと向かった。 姉の彩香は、あのミニチュアが気に入ったようで、もう少し貸してほしいと言ってきた。 再び、殺されかねない状況に至るのはたまらないため、大祐はユーザーベルトを置いた状態で貸すことにした。 彩香「さて、まずは説明書をしっかり読まないと。」 一方、大学の授業が休みになった彩香は、ベッドに横になって分厚い説明書を隅々まで読みあさった。 小一時間は経過しただろうか。 彩香が淹れた紅茶も3分の2はなくなっていた。 彩香「へえ・・・、あいつ、自在にミニチュアに入れるんだぁ・・・。」 大祐以上にミニチュアの操作方法を熟知した彩香は、早くミニチュアの街を操作したい衝動に駆られていた。 彩香「ミニチュアのサイズも変えることができるのね。」 彩香は手慣れた手つきで、早速ミニチュアの街を操作した。 彩香の目の前には、見覚えのある住宅街が出現する。 これは、大祐の意識に基づいて作られた街である。 彩香はさらにミニチュアの街の操作を続ける。 すると、ミニチュアの街はグングン小さくなり、米粒ほどの住宅がびっしりと敷き詰められていた。 彩香「あらぁ~、こんなに小さくなるんだ。」 よく目を凝らして見ると、さらに小さい黒い粒がいろいろな方向に移動している。 彩香「黒いのは、ヒト・・・? いや、車だわ・・・。」 再び、彩香が街を操作すると、今度は、ドールハウスのような大きさの家が彩香の目の前に出現した。 彩香「うわあ、これって私の家じゃない。」 大祐の意識に基づくため、当然基本は大祐も彩香も住んでいる家になる。 改めて、ミニチュアの街の精巧さに彩香は驚いていた。 さらに彩香は操作を続ける。 今度は、大祐の部屋をはじめとする2階の部屋がミニチュアいっぱいに広がる。 しかも、大祐の部屋にある机、ベッド、本棚まどすべてが精密に再現されている。 彩香「ふぅ~ん、なかなかすごいじゃない、この街」 ひとしきり操作を終えた彩香は小さい街並みを眺めながらニヤニヤ笑っていた。 しかし、ここで一つの疑問が彩香に浮かぶ。 彩香「大祐がこのミニチュアを購入したのは何故かしら・・・。」 彩香がふと目を下ろすと、小人たちが一斉に見上げ、何かを言っているようだった。 彩香「あぁ~、巨大な私とかを真下から覗くためだな・・・。」 彩香「よし、サイズフェチの人に少しだけ力を貸してあげようかしら・・・」 そう言うと、彩香は大祐がいるであろう予備校にミニチュアを移動させた。 チャラララ~♪ 大祐の携帯電話から着メロが鳴り響く。 大祐は急いで予備校の教室を出てトイレへと駆け込む。 電話の相手は彩香だ。 大祐「なんだよ・・・、姉貴からか・・・」 と、次の瞬間、大祐の意識が朦朧となる。 (ん?何だ、眩暈か?) そして、そこから大祐の意識は遠のいた。 大祐「ううぅ~ん・・・」 大祐が気が付くと、そこには広大な空間が広がっていた。 足下は、板張りというかフローリングのような床である。 ゆっくりと上体を起こし冷静に考えても、ここがどこかよくわからない。 バターン!! 突然の轟音に思わず大祐はしゃがみこむ。 大祐がゆっくりと音の出た方向を振り向くと、何と巨大な彩香が聳え立っていたのだ。 大祐「え、ええっ?!」 しかも、昨日とは明らかにサイズが異なる。 少なく見積もっても100m近くはあるようだ。 彩香「あれ~? 床に何かいるわね・・・。」 彩香の目は、間違いなく自分をとらえている。 そう確信して、彩香の巨大な素足に目をやると、素足の周辺に自分以外にも小さい人間がいることを確認した。 その小さい人間たちは蜘蛛の子を散らすように、懸命に逃げていた。 大祐「こ、これは、いったい・・・?」 大祐は、ますます自分の置かれている状況が飲み込めない。 ミニチュアの街にしては、家もビルもない。 ましてや、これほど巨大な彩香がいるなど理解にも苦しむ。 状況が飲み込めずに動けなかった大祐に彩香が口を開く。 彩香「もう、またアリが入ってきたのねー。」 そう彩香が言った瞬間、小さい人間たちの上空に彩香の巨大な足がセットされた。 彩香は小さい人間たちに向かって確かに「アリ」と言い放った。 そして、目の前の状況を考えると大祐は少しずつ血の気が引いていった。 大祐「え・・・、まさか・・・。」 大祐がにらんだ通り、彩香はその小さい人間たちに向かって足を振り下ろした。 ドスゥゥン!!! 大祐「うわあああ!!!」 大祐は、一目散に振り返り、巨大な彩香から離れようと試みた。 ドスゥゥン!!! ドスゥゥン!!! ドスゥゥン!!! 次々に爆音が後方から響く。 おそらく間髪入れず彩香が足を振り下ろしているはず。 逃げ出している大祐に向かって、さらなる衝撃が走る。 彩香「あら。1匹逃げ出したわね。ちょっと、待ちなさいよー。」 ズシィィン! 何と、巨大な彩香に気づかれてしまったのだ。 大祐は、脇目も振らずとにかく走り続けた。 彩香「生意気なアリねぇ。ベッタリと踏んづけてやるんだから!」 大祐「えぇえっ!?」 ズシィィン! ズシィィン! 後方から物凄い地響きと衝撃が迫ってくる。 命がけで逃げ続ける大祐は、徐々に逃げる先が狭まっていることに気が付いた。 横方向は巨大な本の山が積まれており、逃げる方向は一方向しかなかった。 ズシィィン! それでも、彩香から逃れるため、懸命に走り続けた。 しかし、とうとう行き止まりになり、周囲を本の山が覆っていた。 思案に暮れる大祐の周囲が暗くなった。 大祐「うわあああ!!」 ズシイイン!! 大祐のサイズにして10倍以上もの大きさを有する巨大な素足が真横に着地したのだ。 彩香「逃がさないわよ!」 このままでは、彩香に踏み潰されてしまう。 大祐は懸命に周囲を見渡した。 そのとき、本と本の隙間を通れることに気が付いた。 大祐は、死に物狂いでその隙間を目指した。 彩香「あっ!待ちなさい!!」 本と本の隙間は白い大きな布状のもので覆われていた。 大祐は身を隠す一心で急いで、その白い布が作り出す空間に身を潜めた。 ズシーン、ズシーン。 巨大な足音が大祐の周囲で響いていた。 大祐は白い布の中で息を殺しながら状況を見守っていた。 彩香「まあ、いいわ。さて、靴下を履こうっと。」 その瞬間、彩香の巨大な手が一気に白い布上のものを掴んだ。 大祐「うわわわっ!!!」 大祐はゴロゴロと転がって、その空間の最下層まで落ちていった。 最下層の部分は、袋状になっておりかなり足の臭いが充満していた。 この白い布上のものが靴下だったとは夢にも思わず、大祐は痛恨の声を上げた。 このまま彩香に靴下を履かれれば、間違いなく大祐は圧死する。 大祐は、無我夢中で靴下を登ろうと試みるが、足場が悪いことも手伝ってなかなか上には進まない。 そうこうしているうちに、上空に巨大な爪先が出現した。 大祐「あ、姉貴・・・。」 大祐は腰を抜かしてしまった。 このままでは、間違いなく彩香に殺される。 そう考えると、必死に上空に向かって叫び続けた。 大祐「あ、彩香姉ちゃんー!!! 待って、助けてー!!」 (そろそろ解放してやるか・・・。) 彩香は、本の山の影に隠してあったミニチュアの街を操作した。 靴下の奥深くまで確認したが、小さな大祐どころかゴミひとつなかった。 彩香は、自分の作戦が成功したことに笑いがこらえきれずにいた。 彩香「ああ、面白かった。あいつ、今頃どうしてるんだろ・・・。」 彩香は、自分の部屋を片付けながら今の出来事を回想していた。 まず、彩香はミニチュアの縮尺を変え、大祐の部屋を設定した。 次に、ユーザーベルトを身に着けていない大祐のため、大祐が今いると思われる場所を座標で入力する。 しかし、ミニチュアに大祐は現れない。 そこで、彩香は大祐に電話を掛ける。 おそらく大祐がいる場所は、予備校のどこかの教室。 電話をかければ、1階にあるであろうトイレへと移動するはず。 電話を掛けながら、再度大祐がいるであろう座標を入力。 すると案の定、大祐はミニチュアに出現した。 小さくなった大祐は意識がない状態のため、そっと手でつかみ上げる。 片手で収まるほどの大祐に、彩香は不敵な笑みをこぼす。 やがて、部屋をセッティングし終わると、ミニチュアの縮尺を変えて大祐をさらに縮める。 この段階で、大祐は彩香の指で摘まめるほどの小ささ約2cm位になっている。 彩香は、その小さい大祐を床に置き、自身は部屋の外へと待機する。 そのとき、あらかじめミニチュアからつかみ出しておいた十数人の小人たちも床の上へと置いておいたのだ。 やがて、小さい大祐が目を覚ます。 彩香は部屋のドアを開け、これ見よがしに力強く床を踏みしめる。 小さい大祐は振り返り、事の一部始終を見て大慌てで彩香から逃げ出す。 さらに恐怖感を植え付けるために彩香は床をドスンドスンと力強く踏みつける。 やがて、計算通り小さい大祐は、朝脱いだ靴下の中へと逃げ込む。 それを見越して、小さい大祐を潰してしまわないように靴下を履くといったところだ。 彩香の計算通りに事が運んだものの、意識を取りもどした大祐は、予備校のトイレの中で必死に考え抜く。 しかし、どう考えても事の顛末がわからない。 ユーザーベルトがない状態で何故に小さくなったのか。 しかも、ミニチュアの街がどこにもなかったことにも理解が回らない。 大祐は、首を傾げながら予備校の教室に戻った。 #4 彩香の誤算 大祐「ただいまぁ~」 予備校から帰ってきた大祐はへとへとになっていた。 先ほど体験した奇妙な出来事が自分の中でも消化できず、妙に頭を悩ましているからだ。 自分の部屋にバッグを置いてから彩香の部屋に向かった。 大祐「姉貴~! ミニチュアの街、返してよ~。」 大祐が彩香の部屋を開けると、ちょうど彩香はベッドに横になって眠っていた。 Tシャツに短パンというラフな姿で眠っている彩香を見て、大祐は少し顔が緩んだ。 少し目線をずらすと、彩香の足が無造作に伸ばされ、足の裏を覗ける格好になっていた。 改めて彩香の足の裏を覗きこむ。 体温が高いのか、足の裏全体が赤みがかって汗ばんでいた。 (さっき、この足の裏に潰されかけたんだよなあ・・・) そんなことを考えているうちに大祐は少し呼吸が早くなった。 そして、横になっている姉貴を尻目に大祐はミニチュアを探し始めた。 大祐「しかし、姉貴はミニチュアをどこに置いたんだろう?」 しばらく探していたとき、再び大祐の意識は遠のいた。 一方、彩香は、大祐が自分の部屋に来ることを予見していた。 大祐が先ほど感じた体験からすれば、自然と事の詳細の確認をしたくなるとふんだのだ。 彩香の予想通り、大祐は部屋を訪れそのまま物色を始めた。 女の子の部屋を勝手に探し回ることに多少の苛立ちを覚えた彩香ではあったが、そのままタイミングを計っていた。 そして、大祐が後ろを向いた時を狙って、素早くベッド下に隠してあったミニチュアを操作したのだ。 彩香「さぁて・・・、今度は・・・。」 しかし、彩香に誤算があった。 なんと、ミニチュアを操作した途端、部屋にいた大祐が意識を失い倒れかかってきたのだ。 彩香「ちょ、大祐! どうしたのよ?」 大祐を抱きかかえながら、彩香はこのとき初めて気が付いた。 彩香「あ、本体は残るのね・・・。精神(?)みたいなものがミニチュアに行くのか・・・。」 ひとまず、彩香は大祐の本体を大祐の部屋のベッドへと移動させた。 続いて、彩香はミニチュアから2cm程度の大祐を取り出し、床に置いた。 彩香「どうしよっかなぁ・・・。」 そのときであった。 ピンポーン 彩香「あらっ、誰かしら。」 来客を告げる呼び鈴が鳴ったものの、ミニチュアの大祐をそのままにするわけにもいかない。 彩香は小さな大祐をひとまずトイレにあるスリッパの中に隠した。 ピンポーン 再び呼び鈴が鳴る。 彩香「はーい。どうぞー。」 典子「ごめんください。」 彩香「あらー、典子ちゃん。いらっしゃい。」 伊藤家を訪問したのは、大祐の幼馴染である柳田典子であった。 大祐の1歳下の18歳で、セミロングヘアーで背が大きく、バスケットボール部に所属している高校3年生だ。 典子「大祐くん、いますか?」 彩香「いや、いないけど・・・、どうしたのかしら?」 典子「宿題を教えてもらう約束なんですよ。おじゃましまーす。」 彩香「ええっ!? ちょ、ちょっと・・・。」 困惑する彩香をよそに典子はそのまま大祐の部屋へと向かった。 このまま行けば、意識を失っている大祐と直面し、大騒ぎになる。 彩香「あ、いや、待って。」 典子「ん、どうしたんですか?」 大祐の部屋の付近まで行った典子は歩みを止める。 彩香「と、とりあえず、リビングで待ってくれる?」 典子「はい、わかりました。」 彩香(やばい! 今のうちに、ミニチュアの電源を落とさなきゃ!) 彩香は、典子をリビングに誘導してから、自室に戻ろうとした。 典子「あ、でも、トイレ借りますね。」 彩香「いぃっ!? ちょっと待って!」 典子は勢いよく、大祐の部屋の隣にあるトイレのドアを開ける。 そして、スリッパを履くため、その大きな26cmもの右の素足を持ち上げた。 大祐「うぅ~ん・・・。」 大祐の記憶はまたも途切れ途切れになっている。 しかも、先程まで彩香の部屋にいたのに、今度は床がやや硬い広めの平面に投げ出されていた。 大祐「こ、これはいったい・・・?」 ズズウゥゥン!! 困惑する大祐の真横で、とてつもない轟音が響く。 慌てて、大祐が音の出た方向を見ると、なんと巨大な素足が自分のいた平面と別の平面を押し潰して鎮座していたのだ。 加えて、その素足からはむわっとした足のにおいが充満していた。 大祐「お、おえぇ~。な、何だ、これは?」 ズザザザッ!! やがて、その巨大な素足は平面を押し潰しながら、真横の空間を占拠した。 しかも、踵部分がはみ出している。 よほど、大きな素足の持ち主なのだろう。 大祐が、その持ち主の顔を見ようと上空を仰いだ。 しかし、時同じくして、大祐目掛けてその大きな素足が大祐を踏み潰さんと猛烈な勢いで落下してきたのだ。 大祐「うわあああ!!」 大祐は大急ぎで素足と逆方向に走り出す。 ズズウゥゥン!! 大祐のすぐ後ろに巨大な爪先が着地する。 彩香の素足と異なり、すらっとした指が5本綺麗に揃っていた。 この素足の持ち主は、人差し指が長く、指だけでも軽々と大祐を飲み込めそうな迫力をもっていた。 しかし、このままでは、この巨大な素足にひねり潰される。 そう思っていた大祐の意識が再び遠のく。 彩香「はぁ、はぁ、はぁ・・・。間に合った・・・。」 間一髪、彩香は自室に戻り、ミニチュアの電源を落とした。 トイレ内の典子からは何も悲鳴は聞こえないところをみれば、大祐は潰されずに済んだのだろう。 そうこうしているうちに典子がトイレから出てきた。 典子「あぁ、すっきりした。あれ、息を切らしてどうしたんですか?」 彩香「な、なんでもない・・・。」 さすがの彩香もこの一件には反省し、ミニチュアを使うときは周囲に誰もいないことを確認してから使おうと固く心に誓った。 そして、事情も全く分からない大祐は、その後目を覚まし、何事もなかったように典子に宿題を教えていた。 ただ、大祐は、終始どこか納得がいかない憮然とした表情で、機嫌はすこぶる悪かったようだ。 #5 九死に一生を得る ミニチュアを購入してから3日目。 大祐は、寝ぼけ眼の状態で予備校に向かった。 ミニチュアの街を購入してから、どうも体調がすぐれない。 ボーっとしている大祐に向かって元気のいい声が浴びせられる。 絵美「おっはよう! っと、どうしたの?」 大祐「あぁ、絵美ちゃん。実はこの頃、よく眠れなくて・・・」 大祐に気軽に話しかけたのは、同じ予備校に通う佐藤絵美、19歳の女の子だ。 大祐と同じクラスで、春から席が前後となり、何かと話すようになった。 絵美「大丈夫? 顔色悪いわよ。」 肩にかかるかくらいの栗色の髪の毛がふわっと舞い、心地よい香りが大祐に届く。 大祐「だいじょぶ、だいじょぶ。今日は金曜日だし、何とか乗り切るさ。」 確かに大祐は寝不足であったものの、絵美との会話で多少なり癒されていた。 予備校の授業が始まる。 大祐は、眠気を抑えつつ懸命に講師の話を聞き、ノートを取っていた。 やがて、大祐の眠気はピークを迎え、大祐は目線を下に落とした。 大祐は、一瞬目が覚めるような思いを感じた。 前に座っている絵美がサンダルを脱ぎ、右足を左足の後方に組み、足の裏が丸見えになっていたのだ。 大祐(おぉ、絵美ちゃんの足の裏なんて初めて見るなあ) 大祐はいつしか絵美の足の裏に見入ってしまっていた。 よく見てみると、絵美の脱がれたサンダルの上に小さいアリが登っているのを確認できた。 大祐(ああ、危ないなあ。絵美ちゃんに潰されるぞ・・・) アリのサイズはだいたい5~6㎜ほどである。 それに対して、絵美の素足は少なく見積もっても23cmはある。 小さいアリからすれば、40倍近くもある巨大な素足が上空でブランブランと揺れているのだ。 この光景だけで、大祐は興奮してしまっていた。 そのとき、携帯のバイブが大祐に振動を与える。 こんないいときに誰からかと携帯を見ると、彩香からであった。 「今日は何時に帰ってくるの?」 特にどうでもいい内容であったため、適当に返事をする。 「今日は5コマ目まであるよ。夕方まではかかる。」 すぐさま、大祐は彩香にメールを返す。 しかし、彩香からメールは返ってこなかった。 やがて、大祐が絵美の足もとに目をやると、絵美の素足はサンダルに収まっていた。 (!? あれっ、アリはどこにいったんだろう?) 大祐が慌てて絵美の足もとを探すと、無事に小さいアリは脱出していたようだ。 ちょうど、絵美の右の素足と左の素足の間のところを懸命に逃げているように見えた。 大祐がほっと胸をなでおろした次の瞬間、絵美は右足を持ち上げ真横に振り下ろした。 まさに一瞬であった。 小さいアリにしてみれば、何があったかわからないまま死を迎えてしまったのだ。 何とも残酷な光景に大祐は思わず息を呑んだ。 彩香「ふ~ん、前の女の子の生足に見入ってるわね。」 そんな光景を彩香はミニチュア越しに見ていた。 今日はたまたま大祐がユーザーベルトを装着したまま、予備校に行っていた。 そして、ミニチュアを操作することで、リアルタイムで大祐の行動を観察していたのだ。 ミニチュアの操作に関しては、大祐以上にマスターしているといえよう。 彩香「何だろう? 前の女の子の足もとをキョロキョロと・・・。挙動不審ね~。」 ここで、彩香は一計をめぐらすと、大祐に電話を掛けた。 前回のことを考えれば、大祐は予備校の1階のトイレに移動するはずである。 彩香「大祐に奉仕してあげるからね・・・。」 彩香は不敵な笑みを浮かべながら、大祐の移動を待った。 大祐「・・・。あれ? また、記憶が曖昧だ・・・。」 大祐が目を覚ますと、またも見慣れない場所にいた。 下は、ベタベタと油っぽいような地面である。 大祐が思い切り地面を叩くと、パリッとひびが入る。 ポテトチップスだ・・・。 大祐は確信して、ひび割れた地面をなめてみる。 確かに塩気のある食べ慣れた味がする。 ズシィン!! ズシィン!! 突如として背後から、地響きが伝わってくる。 大祐がくるりと後ろを振りかえると、なんと一つのビルほどもあろうかというショートケーキが遠方に座していたのだ。 よく見ると、そのショートケーキ近辺に小さい人だかりが見える。 そのショートケーキの近辺にもポテトチップスが数枚落ちており、これまた小さい人たちが乗っかっているようだ。 ズシィィン!! ズシィィン!! 改めて、地響きが近づいてきているのを肌で体感する。 明らかに何者かがこちらに接近しているようだ。 大祐はポテトチップスの陰に隠れながら、こっそりと様子を窺った。 バターン!! はたして、巨大なドアは勢いよく開かれた。 彩香だ。 またも100m以上はあろうかという巨大なサイズでの登場であった。 巨大な彩香の登場と共に大祐はすぐさま地獄に落とされた。 彩香「また、アリが!! もうっ!!」 彩香の巨大な素足が持ち上がったかと思うと、足もとのポテトチップスを小さい人がいたまま粉々に踏み潰してしまったのだ。 バキャッ!ビシッ! そして、巨大な素足は次々に床に振り下ろされた。 ズシイイン!! ドスウウン!! バスウウン!! とうとう、ショートケーキ近辺のポテトチップスは全て破砕されてしまった。 大祐は、恐怖のあまり腰を抜かし、動けなくなってしまった。 ズシイイン! ズシイイン! 巨大な彩香は、ショートケーキを足の間に置くような形で仁王立ちする。 ショートケーキに乗っかっている人たちは懸命にケーキから離れようと走っているのが見える。 彩香「このショートケーキも食べられないわね・・・。」 そういうと、彩香は巨大な素足をショートケーキの上空へと移動させた。 大祐にとって、一つのビルほどはあろうかというケーキを軽々と彩香の素足は覆ってしまう。 しかも、ケーキから逃れようとしている小さい人たちも漏れなく素足の作る影の中に入ってしまっている。 ここにきて、ようやっと大祐は気が付いた。 自分がポテトチップスの上にいることを。 おそらく、姉に気づかれるまもなく、一気に踏みつぶされてしまう。 そう思うと、大祐は急いで逃げ出した。 彩香「えいっ!!」 彩香の掛け声と同時に、ものすごい衝撃が大祐を襲う。 ドゴオオオオン!!! 大祐は、その衝撃で転倒してしまった。 後方を窺い見ると、ショートケーキは彩香の巨大な素足によってメチャメチャに踏みつぶされていた。 そして、大祐めがけてクリームの塊が飛んできたのだ。 大祐「う、うわああ!!」 ベチャッ!! 大祐はものの見事にクリームの中に埋没してしまった。 彩香(いけない、大祐を見失ったわ!!) 一方、上空の彩香は口にこそ出さなかったが、大祐を見失ってしまった。 彩香の進行方向に大祐は逃げていたのだが、いまのショートケーキへの一歩で完全に見えなくなってしまった。 彩香(どうしよう。ミニチュアは、私の前方にあるのよね・・・。) しかし、足もとは飛び散ったクリームだらけ。 下手をすれば、クリームの中にいる大祐を潰しかねない。 (と、とりあえず、ポテトチップスから逃げてたから、その近辺に足を下ろすのは大丈夫よね・・・) 彩香は、先ほどまで大祐がいたポテトチップス目がけて巨大な素足を下ろすことにした。 大祐「ぷはっ!!」 大祐はどうにかこうにかクリームの中を移動して、顔だけ出すことに成功した。 すると、周囲が薄暗くなっていることに気が付いた。 大祐が目だけを上方向にずらすと、なんと巨大な足の裏が上空に存在していた。 大祐「えええっ!?」 彩香は、床下のポテトチップスもろともクリームに埋もれた大祐を踏み潰さんとしていた。 彩香の巨大な爪先が接近しながら下降している。 もはや、一刻の猶予もない。 もう、ポテトチップスのあった場所は、彩香の巨大な足が作り出す影の中にすっぽり覆われてしまっている。 大祐が懸命にクリームから這い出てきたとき、上空の3分の2は彩香の巨大な足の裏に覆われてしまっていた。 彩香の巨大な素足はゆっくりと、それでいて確実に下降をしている。 大祐「あ、彩香姉ちゃあん!!」 大祐の叫びは、彩香の広大で肉厚な足の裏にすべて吸収されてしまう。 着実に彩香の素足は、床に向けて降りてきている。 彩香の巨大な素足は、大祐を覆いつくし、圧死させようと迫ってきている。 普段のか細く柔らかそうな彩香の足の裏はもはや見る影もない。 どす黒く、圧倒的な質量感を放つほど、巨大な存在として大祐の前に立ちはだかっている。 大祐は、もうなす術なく立ち尽くしていた。 姉に虫けらとして殺されてしまう。 自分の命が風前のともしびなのに妙に興奮が冷めやらない。 大祐「あ、ユーザーベルト・・・。」 彩香の足の裏が眼前に迫ってきている中、大祐はユーザーベルトを思い出した。 大祐は、藁にもすがる思いで、今一度ユーザーベルトを操作しまくった。 すると、何故か大祐の意識が再び遠のいた。 パリン! 彩香が床のポテトチップスを踏み潰したと同時にミニチュアの操作盤が点滅し始めた。 彩香「ミニチュアの操作盤が点滅しているわ。どういうこと?」 彩香は足元に細心の注意を払いながら、ミニチュアの様子を窺った。 彩香「あ・・・、大祐が現実世界に戻ったんだ。」 彩香「ということは、私がミニチュアを使ったことバレちゃったかな・・・。」 複雑で苦い顔をしながらも、彩香はフードクラッシュに多少の快感を味わえたことに悦びを感じていた。 #6 理解ある姉が繰り出す大胆さと凄惨さ 大祐「姉貴っ、ミニチュアの説明書を返してよ!」 帰宅早々、大祐は彩香の部屋に行き、こう口を開いた。 間接的に確認を試みようとする大祐を見越して、彩香は悠然と拒否する。 彩香「ああ、ごめん。まだ読んでる最中なのよ。もう少し待って。」 大祐「ミニチュアを購入してから変な体験が続くから確認したいんだけど。」 彩香「へぇ~、どんな体験なの?」 大祐「意識が遠のくというか、夢を見ているというか。」 彩香「断片的に覚えてもないの?」 大祐「ボーッとしてるのに覚えてるわけないじゃん。」 彩香「じゃあ、気のせいよ。」 彩香は、適当に大祐をあしらい、勝ち誇った表情を浮かべた。 (大祐が私に言葉で勝てるわけないじゃん。) すっかり余裕の彩香に大祐はそれすら予想していたかのように笑みを浮かべる。 大祐「あれ?生クリームが飛び散ってるね?」 彩香「へっ・・・!?」 思いがけない大祐の言葉に彩香も驚愕の声を上げる。 その様子を黙って大祐は見ている。 彩香「そうかしら・・・?ケーキなんて飛び散ってるようには見えないけど。」 大祐「いや、だってここに足形がついてるよ。」 彩香「え・・・?」 一瞬、彩香の表情は固まった。 きれいに床を拭き取ったはずが見落としがあったのか。 彩香から少し焦りの色が感じられる。 彩香「しばらく前の汚れじゃないの?あんたの目の錯覚で右足の形に見えるだけよ。」 ゆっくりと聞いていた大祐は、彩香にニヤニヤと笑いかける。 大祐「なるほどね・・・。さすがの姉貴も油断したか。」 彩香「はぁっ?何言ってんのよ。」 大祐「ミニチュアを使って僕にいたずらしたんでしょ?」 彩香「してません。」 と彩香は言ったものの、大祐の圧倒的に余裕な表情に不安を感じていた。 彩香と大祐は次の一手を牽制しあうようにしばらくお互いを見つめあっていた。 先に口を開いたのは大祐だった。 大祐「で、どうして足形が右の足だと思ったのさ?」 彩香「・・・・・・。なんとなくよ・・・。」 大祐「ふぅん、パッと見る限り右足とは分からないのにね。」 彩香は自らの発言に後悔していた。 大祐への後ろめたさからか不用意な発言が多かったのである。 彩香「とにかく、自分の部屋に戻りなさい。」 大祐「踏み潰したのはケーキだったの?」 彩香「えっ? 何を言って・・・」 大祐「だって生クリームとしか言ってないのになんでケーキと知ってるんだろうと思って。」 彩香「たまたまよ。生クリームを使ったものなんて限られるじゃない。」 余裕を見せる大祐に対してだんだん彩香は苛立ちを隠せなくなってきた。 そんな表情の変化を大祐は見逃さない。 しかし、あまり彩香を追い詰めると逆ギレすることも心得ている。 ここが潮時であることを大祐は実感し始めていた。 大祐「あのさあ、僕さー、生クリームやポテトチップスごと踏み潰されかけたんだけど。」 彩香「えっ!? 嘘でしょ?」 大祐「目の前まで姉貴の大きな足の裏が接近して、僕は殺されかけたんだよ。」 彩香「うっ・・・。」 明らかに彩香が動揺している。 彩香の目にうっすらと涙がたまっていた。 大祐「あっ、姉貴・・・。」 と次の瞬間、大祐の意識が遠くなっていく。 (あれ・・・、どうしたんだ・・・。) 大祐「・・・・・・。」 大祐は、自分の部屋のベッドで目を覚ました。 (あれ、何があったんだっけ・・・?) 大祐が思案に暮れていると、天井がないことに気がついた。 大祐はここがミニチュアの街であることを確認しつつ、上空にいるであろう彩香に向かって叫ぶ。 大祐「姉貴!もういいだろ。お互い隠しあいはなしにしよう。」 程なくして、上空に彩香の顔が出現する。 彩香「ごめんなさい・・・」 思いもかけない優しい表情をする彩香に大祐は照れを隠せなかった。 ムギュッ! 寝そべる大祐に向かって彩香の大きな素足が覆いかぶさる。 徐々に彩香の体重が掛けられ、彩香の重さを体感する。 と同時に、彩香の足指の間からモワッとした臭いを感じる。 巨大な彩香を体全体で感じていることに大祐のイチモツは少しずつ固くなっていく。 大祐は彩香の大きな素足をギュッと抱き締めた。 それを知ってか、彩香の爪先は大祐の頭部を少しずつ締め付けていった。 彩香「はぁ・・・、こんな汚いことして平気なの?」 ふいに彩香が口を開く。 彩香にしてみれば、自身の足裏など綺麗なものではないと考えているようだ。 大祐「いや、普段隠されているモノが露になって、しかも自分に襲いかかるだなんてスゴいじゃん。」 彩香「マニアックな奴ね・・・。」 そう言いながらも自身の素足で弟に快楽を与えていることに優越感を感じていた。 ひとしきり彩香の素足との触れ合いを楽しんだ大祐は、彩香に改めてお願いした。 大祐「姉貴・・・。お願いがあるんだけど。」 彩香「なーに? 少しくらいは聞いてあげないとね。」 大祐「姉貴の大きな素足でミニチュアの街をメチャメチャに破壊してほしいんだけど・・・。」 彩香「へっ?別にいいけど、どのくらいのサイズで?」 大祐「100分の1サイズだと、姉貴は160mで、足のサイズが24mだよね。」 彩香「そりゃ、そうだけど・・・。」 大祐「よし! 200分の1サイズで、街の人達と一緒に姉貴の巨大な足から逃げることにしよう!」 彩香「え・・・。だとすれば、あんたのサイズは1cmもないんじゃないの・・・?」 大祐「そうだよ。姉貴の足のサイズは48mにもなるんだよ。」 彩香「バカ!危ないじゃない。もしあんたを踏んづけたら即死よ。」 大祐「へへっ、だってこれがあるから万が一の時は大丈夫さ。」 そう言って、大祐は腕に巻き付けたユーザーベルトを彩香に自慢げに見せた。 彩香「・・・・・・。ほんっっとに、仕様のない弟ねっ。」 大祐「よろしく頼みます、お姉さま!」 大祐は自らのベルトを操作して、まず、ミニチュアのサイズを20分の1にした。 彩香の眼下には、細々とした町並みが映る。 程なくしてミニチュアの中にある自宅を発見した彩香は屋根をベリベリとはぎ取り街中に投げ捨てた。 ガシャーン!! 突如として街中に轟音が響き、大祐の上空が切り開かれた。 大祐「姉貴ー、じゃあ、200分の1にするからね」 彩香「ホントにやるのね?」 大祐「もちろんだよ。」 彩香「じゃあ、私は家から少し離れた市民体育館からスタートして、南小学校の方へ踏み潰していくからね。」 大祐「うん、わかった。じゃあ、、いくよっ!」 大祐は、ユーザーベルトを腕から外し、横のボタンを小刻みに押下した。 それとともに、上空の彩香の顔が上空へと遠ざかりつつ、徐々に大きくなってくる。 やがて、大祐のはるか上空では彩香の巨大な瞳が小さな大祐を見下ろしている情景が映し出された。 今までの大祐のサイズは小さくても2cm程度であったため、以前彩香に危うくミニチュア内で踏み潰されかけたときも何とか逃げ切れていた。 今や彩香のサイズは今までで一番巨大であり、その圧倒的な重量感に大祐は身震いした。 大祐「あ、姉貴ー! どうだい?」 大祐が彩香に対して恐怖を抱いているなど微塵にも感じていない彩香は、小さな大祐の姿を確認するだけでも精一杯であった。 何しろ1cmもない状態であるため、表情を窺い見るのも難しいのだ。 彩香は大祐の問いかけに答えることなく、ミニチュアの全景に目をやった。 しばらくミニチュアを眺めていた彩香は、ついに立ち上がりミニチュアに自身の素足をゆっくりと向けた。 大祐「あれ? 姉貴の顔が見えなくなったぞ?」 心配そうに上空を見上げる大祐のもとが暗くなる。 ズズズウウン! 地面から突き上げる衝撃に大祐は急いで、窓際に駆け寄る。 街中はもうもうと砂埃を巻き上がり、人々の悲鳴や怒号が駆け巡っていた。 肌色の大きな物体は予定通り、市民体育館に君臨しているようだ。 大祐もこうしてはいられないと急いで逃げる準備を始め、100m程離れたところにある南小学校の屋上に駆け上がった。 彩香の巨大な爪先付近には多くの住宅が建ち並んでおり、周囲では蜘蛛の子を散らすように人々が走っていた。 大祐は、その遥か上を仰ぎ見る。 実に300m以上もの大きさの巨大な彩香が立ち尽くしている。 おそらく、彩香は大祐が避難できる時間を稼いでいるのだろう。 巨大な素足を下ろしてから、すぐには行動しなかったのだ。 それから1~2分後、ついに彩香の巨大な素足が行動を始めたのだった。 #7 彩香の圧倒的な力 彩香の爪先はゆっくりと「く」の字に曲がり、すべての足の指の爪が見えるような格好になった。 そして、彩香の巨大な素足は大祐のいる小学校の方向に向かって摺り足で接近を始めたのだ。 バキバキバキッ・・・! 足先で街を破壊しながら悠然と接近してくるその様は一種の怪物のようであった。 ゴゴゴゴゴ・・・。 大祐は、巨大な素足が繰り出す地響きを肌で体感していた。 逃げる人々や住宅を次々に飲み込んで行く巨大な素足。 その歩みを止めることなく猛然と巨大な素足が近付いてくる。 このシチュエーションだけでも大祐は、凄まじい興奮を覚えていた。 大祐「さて、さすがに元に戻らないと・・・。」 大祐のサイズにして50~60m前方にまで巨大な爪先が接近してきたため、大祐は脱出を計ることにした。 しかし、大祐はこのとき激しく後悔した。 なんと大祐の腕にユーザーベルトが巻かれていないのだ。 先程、200分の1のサイズに設定する際、ベルトを外して部屋に置いてきてしまったのだ。 彩香の巨大な素足が間近に迫る中、大祐は腰を抜かしてしまった。 大祐「ヤバい・・・。部屋に置いてきたんだった・・・。」 ゴゴゴゴゴ…。 巨大な爪先は変わらぬスピードで接近してくる。 ここで初めて大祐は自らに死が近付いていることに気がついた。 大祐「あ、姉貴・・・! 待って!! 中止だ!!」 大祐の必死の叫びもサイズが小さすぎて、彩香には届くはずもない。 巨大な爪先は、大祐の20~30m先にまで近付いていた。 大祐「姉ちゃーん! 助けて!!」 グワシャッ、メリメリメリッ、ドゴオオン! 巨大な爪先の破壊は全く止まる気配を見せない。 もはや、一刻の猶予もない。 大祐は、小学校から出て自宅に戻ることにした。 物凄い破壊音をたてながら巨大な爪先が接近する。 大祐「す、すいません!通してくださーい!」 巨大な素足から逃れるため、大勢の人達が走り出している。 その流れに逆らって必死に大祐はミニチュア内の自宅を目指す。 ミニチュア内の自宅は、巨大な爪先の進行コースからは外れている。 何とかそこまでたどり着けばと懸命に人の流れをかいくぐる。 やがて、人の波が途絶えて、大祐は道路の交差点に出ることができた。 大祐「ハァハァハァ・・・。」 ズドドドドオッ・・・。 凄まじい轟音が辺りに響き渡ったため、大祐が頭を上げた瞬間、付近のビルが崩落して中から巨大なヒトの足の指が出現した。 大祐「う、うわあああっ!!」 大祐目がけて崩れたビルのコンクリート片が降り注ぐ。 ドゴーン! スガーン! 大祐「うわあ、助けて!!」 上から降ってくるコンクリート片もさることながら、数m先には巨大な5本の指先まで見える。 このままでは、大祐は眼前の巨大な爪先に磨り潰されてしまう。 大祐は自宅に戻ることを諦めて、再び小学校を目指して走り出す。 懸命に走る大祐に気付いたのか、突然、巨大な爪先の進行が止まった。 大祐「あれ? どうしたんだろう・・・。」 今度は、大祐の右方向一帯が一気に暗くなる。 そこになんと50m程の全長を有する巨大なヒトの素足が出現したのだ。 大祐に構うことなく、悠然とその巨大な素足は地面に着地した。 ズドオオン!! ガラガラガラッ…! ひときわ大きい崩落音が周囲を包み込む。 なんと、先ほどまで屋上で待機していた小学校が巨大な素足の着地の衝撃に耐えられず、崩壊してしまったのだ。 これで、大祐は2つの巨大な素足から逃げ出さねばならなくなった。 しかし、軽いパニックになっている大祐に一筋の光明が差す。 彩香「大祐ー。大丈夫ー?」 はるか上空の彩香から、足元にいるであろう大祐へ呼びかけがあったのだ。 大祐「おぉ、姉貴ー。さすが・・・。」 彩香「このまま街を破壊しても大丈夫なの?」 大祐「ダメダメダメ!! ちょっとだけ待ってくれ!」 彩香「もし、ダメなら私の素足に登ってきてくれる?」 彩香の唐突な提案に、逃げ出していた大祐は再び巨大な爪先を目指すことにした。 しかし、爪先の近辺は、崩れたビルのコンクリート片などで覆われ、すぐには接近できる状態ではなかった。 大祐「うわっ、これじゃ行けないじゃん。仕方ない、もう一つの足を目指そう!」 遠回りではあるが、先程着地した巨大な素足を目指したほうが得策と判断した大祐は全速力で走り出した。 ちょうど、もう一つの巨大な素足は大祐のミニチュア上の自宅近辺にある。 一石二鳥ということもあり、大祐は全速力で走り出した。 彩香「ねえ、大祐、登らなくてもいいの?」 全速力で走る大祐に非情な言葉が投げかけられる。 もうこの時点で、彩香の提案から1~2分ほど経っていたのだ。 大祐「姉貴ー! 待って、待ってくれー!」 彩香「ミニチュアの操作盤に異常はないから、大祐は大丈夫だと思うけど・・・。」 彩香にしてみれば、1~2分は長いかもしれないが、小さな大祐にとってはあっという間の時間なのだ。 大祐「あと、もう少しなんだよ・・・!」 大祐のあと20~30m先にもう一つの巨大な爪先が見えてきた。 彩香「よしっ、安全な位置に避難してるんしょう! じゃあ、いきますか!」 大祐「えっ!? 姉貴!!」 次の瞬間、大祐の前方にあった巨大な素足は一気に上空に持ち上がり、徐々に大祐の上空を侵食し始める。 あと少しのところで到達できた大祐はガックリと肩を落としてしまう。 しかし、そんな愕然としている大祐に容赦なく巨大な素足は迫る。 巨大な素足が作り出す大きな影にすっぽりと大祐は覆われてしまった。 前方に5本の足の指が見えていることから、このままでは確実に彩香に踏み潰されてしまう。 大祐「や、やばい! 姉貴に踏み殺される!!」 ここにきて、大祐は初めて死と直面していることを悟った。 大祐「姉ちゃーん! 助けて!!」 大祐の小さな叫びも巨大で肉厚な足の裏に阻まれ、全く彩香には聞こえていない。 そして、巨大な踵から地面にめり込んでいった。 ズズウウン!! 大祐の周囲は深い闇に覆われ、もはや風前の灯であった。 上空の肌色の平面は猛然と地面に振り下ろされる。 家々が次々に破壊されていく様は、小さくなったからこそ見える圧巻の様相ではあったが、命が奪われるとなれば話は別だ。 大祐は、後悔と恐怖と不安とあらゆる気持ちが交錯していた。 そのとき、ふと見上げると、大祐の自宅も彩香の巨大な足の裏によって破壊される寸前であった。 大祐「あぁ、ユーザーベルトが・・・。」 これで、完全に大祐の生き残りの可能性はゼロになった。 ところが、次の瞬間、大祐は意識が遠のいてしまった。 彩香「・・・・・・! ・・・・・・!」 彩香「大祐、起きてよ!」 大祐が目を覚ますとそこには心配そうに覗きこむ彩香の姿があった。 大祐「あれ・・・? 姉貴、どうして・・・?」 彩香「ごめんなさい・・・。どうやら私たちの家を踏みつぶしたのが悪かったみたい。」 彩香によると、ミニチュアの自宅を踏み壊した瞬間、ミニチュア本体の操作パネルに「エラー」が表示され、大祐も元のサイズに戻ったらしい。 しかも、大祐に巻かれたユーザーベルトもエラーの状態になっていたのだ。 彩香「もう、このミニチュアは使えないみたいなのよね・・・。」 大祐「え、ええーっ!? マジで・・・?」 彩香「ううっ、でも半分あんたのせいなんだからね!」 彩香は、今後ミニチュアを使用できないことに深く落胆し、それぞれの部屋に戻った。 しかし、大祐はユーザーベルトのおかげで九死に一生を得る形になったこともあり、さほど落胆はしなかった。 #8 彩香の残酷な遊び ミニチュアの街に入れなくなって1週間が過ぎた。 残念なことにミニチュアの街は操作パネルによって表示できるのだが、その中には入れない。 今日も大祐はそんなミニチュアの街をぼんやりと眺めていた。 それでも相変わらず、彩香はミニチュアを堪能しているようで、毎日ミニチュアを破壊しているようだった。 そして、今夜も彩香はミニチュアを借りていくとのことだったので、大祐は彩香がどのように破壊しているのかを見せてもらうことにした。 彩香は快く承知し、大祐の目の前でミニチュアを破壊してくれるらしい。 彩香の強靭な素足がどのようにミニチュアの街を崩していくのか、考えただけでも大祐の気持ちは高揚した。 まず、彩香はミニチュアを起動させると、サイズを200分の1サイズにした。 眼下に広がる街並みに彩香はニンマリとする。 こんな破壊癖のある姉貴をもったことは幸運と思うべきなのか、大祐は複雑な思いを巡らせていた。 彩香「はーい、ミニチュアの皆さん、元気にしてましたかー?」 突如、彩香はミニチュアの中心部に向けて声をかけた。 いよいよ彩香と小人の絡みを見ることができる。 大祐は、彩香の足元を食い入るように見つめていた。 ミニチュアのサイズは200分の1サイズなので、ミニチュアの小人からすれば、彩香は320mもの巨人に見えているはずなのだ。 大祐「しかし、よく飽きもしないで破壊するよねー。」 彩香「いいでしょ? どうせ、あんた使わないんだし。」 大祐「まあ、いいんだけどさっ・・・。」 取り留めもない会話で、大祐は心を落ち着かせようとしたが、興奮は収まらない。 そんな大祐を横目に彩香はミニチュアの人たちに向けて言葉を発した。 彩香「皆さん、まずは総合運動公園に5分以内に集合しなさい。」 大祐「えっ、総合運動公園って・・・、結構街のはずれじゃないの?」 彩香「そうだったかしら?」 彩香が運動公園の場所を知らぬはずがないので、相変わらず狡賢な一面があると大祐は感じた。 当然、口に出すと彩香の機嫌を損ねることになるので、大祐は心で思っても口には出さずにいた。 程なく5分が経過すると、彩香はスクッと立ち上がった。 彩香「はーい、時間です。」 その瞬間、彩香はミニチュアの運動公園の入り口を力強く踏みつけた。 ズシイイン!! 入り口付近には多くの人たちがごった返していたが、そんなことに構うことなく彩香は踏みつけていた。 そして、そのまま運動公園以外の場所を次々に踏みつけていった。 ドスウウン!! ズシイイン!! ズドオオン!! あっという間に総合公園付近の土地は更地へと変形してしまっていた。 彩香「はい、では間に合った皆さんとゲームをしたいと思います。」 小人A「何を言っているんだ! できるわけないだろう。」 小人B「こんな巨人と何をするっていうんだ・・・」 彩香の足下でいろいろと小人たちが文句を言っている。 当然、それを彩香は許すわけがないことを大祐だけが知っていた。 彩香「はぁあ? あんたたち、何言ってんの?」 ズシイイン!! 総合運動公園のど真ん中に彩香の巨大な素足が振り下ろされた。 この一撃で、総合運動公園の3分の1ほどの人が踏み潰され、100人程度の人たちが運動公園の中に取り残されていた。 彩香「気を取り直して、さぁ、がんばりましょうね!」 小人たちからは何の声も上がらなくなってしまった。 彩香が振り下ろした部分には巨大な足型が残っていたが、そこに彩香は自分の手を置いた。 彩香「じゃあ、私の手の上に乗ってください。」 運動公園に取り残された小人たちは、彩香の提案に戸惑いを見せ、全く動きが見られなかった。 彩香「早く!」 次の瞬間、彩香はもうひとつのてをギュッと握りしめ、運動公園の外側を叩きつけた。 ズドオオン!! 物凄い衝撃は、運動公園内部にいた人たちを支配するのに十分すぎる説得力があった。 ミニチュアの小人たちは続々と彩香の巨大な手を目指して走っていく。 そして、我先にと彩香の手の上に乗っていく。 彩香「1,2,3,・・・・・・,19,20。あとはいいや。」 そのまま彩香の巨大な手は上昇していった。 他の小人たちは、皆不安そうに巨大な彩香を見上げていた。 彩香「じゃあ、残りの人たちは踏んづけてあげるわ。」 その瞬間、一斉に小人たちが逃げだした。 しかし、そんな小人たちを嘲笑うがごとく、彩香は立ち上がる。 そして、残された小人たちに向かって、再び巨大な素足を振り下ろした。 ズシーン!!ズシーン!!ズシーン!! 彩香の手の上にいた小人たちは、彩香の足元で繰り広げられている惨劇に言葉を失っていた。 程なくして、運動公園も見事なまでに更地となり、後には静寂だけが残っていた。 大祐「いやぁ、残酷だね・・・。で、その小人たち、どうするの?」 大祐は、彩香の先程までの行動に激しく興奮していた。 彩香にばれないように、自身の股間も弄っていた。 彩香「へっ、こうすんのよ。」 彩香は、そのままその小人たちを持って、普段履いている運動靴の中に投げ入れた。 普段から使っていることもあり、黒ずんだ中敷からは異様なにおいが発せられるなど、小人たちにとっては過酷な環境であることが容易に想像できる。 彩香「では、これから脱出ゲームをしまーす。」 小人たちは、唐突に彩香から生き残りをかけたゲームを提案される。 当然のごとく、小人たちは皆困惑した表情を浮かべていた。 彩香「1分以内に脱出できた人には素晴らしいご褒美をあげます。」 彩香「よーい、スタート!!」 彩香の号令の後、靴の中の小人たちはこぞって靴の壁面を登り始めた。 使い古した靴ということもあり、壁面が崩れている箇所に手をかけ登っているようだ。 しばらくすると、1人の小人だけが脱出はできたようだ。 大祐「へぇー、1人脱出できたじゃん。」 彩香「あー、コイツにはご褒美が必要ね。はい、ここまでー。」 彩香の終了の合図とともに、彩香は小人たちの入っている運動靴を持ち上げた。 その瞬間、小人たちの悲鳴と共に、靴の先端付近に小人たちは強制的に移動させられていた。 彩香「残った皆さんは、このまま私が靴を履きますから、私の美しい足を受け止めなさいね。」 大祐「自分で美しいって言うなよ・・・。」 彩香「シーッ! あんたは何も言わないで!」 そして、運動靴に彩香の素足が少しずつ入れられていった。 おそらくは、靴の中はものすごい悲鳴とパニックに陥れられているであろう。 大祐は小人たちの置かれているシチュエーションを考えると、興奮が鳴りやまない。 やがて、彩香は片方の素足を運動靴の中にスッポリと入れてしまった。 これで、脱出した1人の小人を除いて、ミニチュアの小人たちは全滅したことになる。 彩香「さて、脱出できた君にご褒美を上げます。」 脱出できた小人は、若い男性のようだ。 やはり、体力と俊敏さが明暗を分けたのだろう。 彩香「私の爪先で君を挟み込んであげます。私の足のにおいをご褒美として嗅がせてあげるからね。」 そいういうと、彩香は先程の靴を脱ぎ、両方とも素足になり、その場であぐらの状態のまま座った。 当然、脱出できた小人は、その場から逃げ始めた。 彩香「あれっ、君、何で勝手に逃げてるのよー。」 ズシーン! 逃げ出した小人の目の前に彩香の巨大な素足が着地した。 全速力で逃げ出した小人をたった一歩で追い越すぐらい彩香は巨大な存在なのだと大祐はしみじみ感じていた。 そして、彩香は右の素足をひっくり返して足の裏を露出させた。 先程、運動靴を履いたこともあって、足の裏がオレンジ色に染まっていた。 状況や色等を考えても、間違いなく今の彩香の素足は臭い。 そんな彩香の巨大な足の裏に小人は追いやられていた。 そこに左の爪先が接近し、小人は押し付けられてしまった。 しかも、グリグリと大きな足の指で捻りこまれるように押し付けられていた。 やがて、この行為に耐えられなくなった小人は、足の指の隙間から逃げ出した。 彩香「あー。」 小人が逃げ出したのを確認すると、彩香はすかさず右の素足を持ち上げた。 彩香「残念ね・・・。」 逃げ出した小人はすっかり彩香の巨大な素足の下に隠れてしまっていた。 そあひて、勢いをつけながら彩香は巨大な素足を床に振り下ろそうとしていた。 ズシイイン!! 彩香は慈悲をかけることなく、逃げ出した小人を盛大に踏み潰してしまった。 結局、すべての小人を最初から殺すつもりであることを悟った大祐は、無性に彩香の残酷さに快感を感じていた。 しかし、それと同時にミニチュアに入れないというもどかしさも感じ、複雑な心境で大祐は彩香の素足を見つめていた。 彩香は、ミニチュアの電源を落とし、大祐の方向を振り返った。 彩香「あぁ、面白かった・・・。って、大祐、私の足を見すぎ!」 その瞬間、彩香は右の素足で大祐の顔を踏みつけた。 もわっとした足のにおいが大祐の鼻の中へと流れ込む。 大祐「ぐわっ、何するんだよ!」 彩香「サービスに決まってるじゃない。」 ケタケタと笑う彩香の無邪気さに大祐は気持ちがさらに高揚していくのを感じた。 それから2~3日後、大祐は徐々にミニチュアの街そのものに興味を抱くようになり、街の全景を眺めたくなっていた。 大祐「・・・・・・、そうだ。表示される部分を大きくできないかな・・・。」 大祐は、ミニチュアの操作パネルと街が表示されるシート部分とに分け、外出することにした。 ちょうど操作パネルの連結部分は最新のパソコンのプロジェクターと繋げられるのではと思い立ち、予備校に向かうことにした。 予備校のパソコンルームからプロジェクターを借りる際、ばったり絵美と出会った。 絵美「あら、プロジェクターを何に使うの?」 大祐「ん、いやぁ、ちょっとね・・・。」 我ながらなんと怪しい回答か。 絵美も不思議そうな表情で、退室する大祐に目をやった。 大祐は使用されていない多目的室に到着すると、早速プロジェクターと操作パネルを連結させ、街の表示を試みた。 しかし、パネルはエラーが出てしまい、上手く表示されない。 大祐はプロジェクターをパソコンルームに戻して、がっかりしたまま家に戻ることにした。 絵美「あっ、大祐くん!大きめの白いシート忘れてるよ!」 絵美の声は大祐に届かず、大祐は足早に家路に着いてしまった。 #9 危険な刺客 彩香「もう、どこいってたのよ!?」 帰宅した大祐を彩香が多少苛立ちながら待ち構えていた。 どうやら彩香の部屋から勝手にミニチュアを持ち出したのが原因のようだ。 とはいえ、もともと大祐の所有物なのだが。 大祐「あぁ・・・、ちょっとね・・・。」 そう言うが早いか、大祐は部屋まで駆け上がった。 彩香「あっ、ミニチュア置いてきなさいよ!」 彩香の叫びなど無視して大祐は部屋に鍵をかけてしまう。 部屋に戻った大祐はふと気がつく。 手の平サイズの機械が一つ床に置かれていたのだ。 そういえば、ミニチュアの操作パネルにはもう一つ接続機器があった。 昼間、プロジェクターに直接つないだが、その接続機器は使用していない。 そこで、彩香が部屋に戻ったのを見計らって、大祐は自分の部屋の前に操作盤を置いた。 そして、自分の部屋のカーペットに接続機器やらをつけ、パネルで設定をしてみた。 「認証」 大祐は思わず笑みがこぼれた。 間違いなく、パネルには認証の文字が浮かんだ。 早速、サイズを100分の1にして様子を窺ったのだが、部屋一面に広がるはずのミニチュアの街は出現せずに、大祐の部屋の光景が変わらずそこにあったのだ。 大祐「あれ、どうしたんだろう・・・。」 大祐は、狐につままれたような顔で部屋に一歩踏み出した。 そのときであった。 周囲の景色が一瞬グラッと揺れたかと思うと、再び大祐の目の前に部屋のテーブルなどが出現していた。 しかし、先ほどと少し様子が異なり、だだっ広い空間にテーブルやらクッションやらが無造作に置かれている状況なのだ。 大祐は、この状況が全く飲み込めないでいた。 床下は茶色いフローリングのようなものが敷き詰められており、上空も左右も広大な空間に支配されていたのだ。 大祐「こ、ここは、どこなんだろう・・・。」 困惑していた大祐に、大きな轟音が響く。 ガチャン、ギイイイ・・・。 その瞬間、目の前の大きな扉が開け放たれ、そこに巨大な女子高生が出現したのだ。 大祐「う、うわあああ!!」 大祐は、その余りに巨大な女子高生の出現に尻餅をついてしまった。 女子高生「ただいまあ。」 背がやや高く、スラリとした体型の女子高生は、何の躊躇もなく眼前の巨大なローファーから大きな黒いソックスに包まれた足を出す。 大祐の前方をその巨大な女子高生のソックスが作り出す影、臭いが一気に支配する。 大祐はたまらず走り出す。 そして、大祐が先程までいた場所は暗くなり、女子高生の大きな足が振り下ろされる。 ドシイイン!! 大祐「うわあああ!!」 巨大な女子高生は、大祐に遠慮することなく思い切り巨大な足を踏み下ろす。 そして、巨大な女子高生は大祐に構うことなく、ズシンズシンと足音を響かせながらその場を後にした。 大祐「こ、ここは、一体どこなんだろう?」 ミニチュアの街どころか、巨大な女子高生が出現することに大祐の思考回路はパンク寸前であった。 大祐は、訳が分からぬままその巨大な廊下を進んでいった。 大祐「あれっ? 誰かいる・・・。」 余りに広大な空間でわからないが、どうやら洗面台か脱衣場といったところのようだ。 先ほどの巨大な女子高生が制服から私服に着替えていた。 女子高生「あぁ、この天気だとすっかり蒸れちゃうわ。」 巨大な女子高生の発言とともに大祐の上空は黒い布状の物体に覆われた。 やがて、黒い布上の物体は大祐の周囲に被さったのだが、その瞬間強烈な異臭が辺りを襲った。 大祐「うおえっ、な、なんだこのにおいは・・・」 物凄い臭気とともに強烈な湿気が立ち込める。 大祐は新鮮な空気を求め、無我夢中で走り出す。 周囲をどう移動したかわからないが、大祐は何とか光が見える方向に出ることができた。 女子高生「ヤダ! 何、こいつ?」 やっとの思いで這い出た大祐に向かって上空から声がかけられる。 そして次の瞬間、巨大な女子高生は大祐を先ほどまで覆っていた黒い布上の物体を軽々と持ち上げてしまう。 大祐が上空を見上げると、巨大な女子高生とバッチリ目が合ってしまった。 大祐「あ、あわわわ・・・。」 女子高生「お姉ちゃーん、ティッシュペーパーあるー?」 程なくして、今いる場所とは別の方向から答が返ってくる。 女子高生の姉「あら、美紀子帰ってきてたの? リビングにあるんじゃないの?」 美紀子「取りに行くわー。」 美紀子という巨大な女子高生は、再びズシンズシンと足音を響かせてその場からいなくなった。 しかし、このままだと間違いなく美紀子に「虫」として処分されてしまう。 大祐は大急ぎで脱衣場から廊下へと出ようとした。 すると、大祐の進行を阻むように巨大な人間の素足が前方に出現していた。 ズシイイン!! 大祐の前方には、巨大な2人の人影が見えていた。 おそらく、美紀子とその姉の2人が脱衣場にいるであろう「虫」を処分しに来たのだ。 大祐は半ばパニックになりかけながら、もと来た道を逆走した。 美紀子の姉「で、どこにその虫がいるのよ。」 美紀子「私が脱いだソックスの下から這い出てきたのよ、もう!」 巨大な彼女らにとってそんなに大きい空間とは言えない脱衣場に2人が侵入しようとしている。 大祐は慌てて浴室の中に逃げ込んだ。 美紀子の姉「どこにもいないわよ?」 美紀子「どっかに逃げたのよ、きっと!」 美紀子の姉「もう、せっかく踏んづけてやろうと思ったのに!」 美紀子「ええーっ、よくそんな残酷なことできるわね。」 大祐は息を殺しながら、巨大な彼女らの会話に耳を傾けていた。 このまま浴室に隠れていれば、何とか見つけられずに済む。 大祐は祈りにも似た思いで、事の成り行きを見守っていた。 美紀子の姉「浴室の中にはいないかしら?」 そう聞こえた次の瞬間、大祐の周囲は突如として暗闇を増した。 大祐が上空を見上げると、なんと美紀子の姉と思われる人物の足の裏が急速に落下してきたのだ。 ズシイイン!! 大祐「ヒィ、ヒャアアア!!」 大祐は思わず悲鳴を上げた。 美紀子の姉「あー、こいつね!覚悟!!」 大祐が上空を仰ぎ見ると、巨大な素足が大祐を覆い尽くしていた。 大祐「う、うわあああっ!!」 大祐は、悲鳴を上げながらうずくまった。 彩香「・・・・・・、大祐、大祐? 大丈夫なの?」 大祐が目を開けると、そこには彩香がいた。 大祐「う、ううっ・・・。姉ちゃん? ここは?」 彩香「あぁ、良かったわ。部屋でうつぶせになって倒れていたのよ。」 大祐「へっ、そうだったの?」 彩香「とりあえず、ミニチュアの操作盤の電源を切ったんだけど・・・。何があったの?」 どうやら、彩香がミニチュアの操作盤の電源を切ってくれたようだ。間一髪、彩香が電源を落としてくれたおかげで大祐は踏み潰されずに済んだ。 大祐「さ、さすが姉貴・・・。」 彩香「はぁ? 何言ってんのよ、気持ち悪いわね。」 一方、脱衣場の2人は------ ズン! 美紀子の姉が足を振り下ろしたものの、踏んづけた感触は何も感じられない。 足の裏をひっくり返してみても、先程の虫は忽然と姿をくらましていたのだった・ 美紀子の姉「あれー?さっきの虫はどこに行ったのかしら・・・。」 美紀子の姉はくまなく浴室を探しまくっていた。 美紀子「でも、絵美お姉ちゃんって、サディズムな性格してるわよね。」 絵美「えっ、そうかしら・・・?」 美紀子と絵美は、絵美が自宅に持ち帰ったミニチュアのシートによって、小さな大祐に危険を与えていたことに気が付くはずもなかった。 #10 巨大な彩香と小さな大祐 大祐「そういえば、シートってどこにやったっけ?」 落ち着きを取り戻した大祐は、絵美にメールで質問する。 絵美からのメールには、白いシートを預かっている内容のメールが届く。 このとき、大祐は瞬時に自分が絵美の家に転送されたことに気が付いた。 操作パネルからの命令が本来のシート部分に届かずに、シート部分と空間をつなげてしまったのだろうか。 このことに気が付いた大祐は思わずニヤニヤとほくそ笑んだ。 翌日、絵美からシート部分を返してもらった大祐は、自身の考えを実証するべく早速操作パネルとカーペットを連結させる。 そして、シート部分を大祐の部屋の前の廊下に置いて、操作パネルを起動させた。 すると、廊下に置いてあったシート部分が消え、大祐の部屋にあったテーブルなどが小さく表示されたのである。 大祐「なるほど・・・、これで僕が足を踏み入れると転送されるわけか。」 大体の状況を飲み込めた大祐は、すぐさまカーペットに足を踏み入れた。 大祐が目を開けると、そこには大きな廊下が広がっていた。 興奮を抑えることができない大祐は、すぐさま彩香の部屋に向かった。 大祐「彩香姉ちゃーん、入るよー!」 大祐が部屋に入ると、彩香は床に仰向けになってうとうととしていた。 小走りで駆け寄った大祐は、圧倒的な彩香の大きさの違いに思わず息を呑みこんだ。 大祐は、彩香の短パンに手をかけ、彩香の大きな腹部に乗っかった。 大祐「姉ちゃんのおなかだ・・・。」 大祐は、彩香のおなかに盛大にダイブして、おなかをがっちりと抱きしめた。 彩香の温もりとともに彩香の鼓動が伝わってくる。 彩香のおなかの柔らかさは、さながらウォーターベッドの感触に似ていた。 大祐は妙な安心感に包まれていた。 2~3分してから、大祐は起き上がり、彩香のおなかの上を飛び跳ねてみたりした。 しかし、次の瞬間、静寂を破って不気味な音が鳴り響く。 ギュルルル~ 彩香の腹部から不気味な重低音が聞こえたため、怖くなった大祐はそのまま彩香の胸や顔の方向へと向かった。 彩香の豊満なおっぱいを横目に移動を続け、彩香の大きな顔に到達した。 潤い豊かな唇は、一定の厚みと輝きがあり、大祐を充分に興奮させた。 彩香「ウ、ウウ~ン。」 彩香の眉間にしわが寄ったかと思うと、彩香の大きな口がパカッと開いた。 大祐「おっ、姉ちゃんの口の中を拝見しよう。」 大祐が、彩香の下唇に手をかけ、覗き込もうとした次の瞬間、予想外の出来事が起こる。 彩香「ガッ、ゲゲーップッ」 大祐を猛烈に熱く臭い気体が包み込む。 大祐に盛大にゲップを浴びせた彩香の口は再び閉じられた。 大祐は、余りの臭気に彩香の唇の上ということも忘れて倒れこみ、咳き込んだ。 大祐「ガハッ、ゴホッ! ゲホッ・・・!!」 よく見れば、彩香の大きな唇は、油まみれで光っていたにすぎなかった。 おそらく、彩香は直前に餃子を食べたのであろう。 口内で醸成されたニンニクのにおいが周囲に充満している。 大祐「おえぇ・・・、気持ち悪・・・。」 大祐はふらつきながらも彩香の油まみれの唇に倒れこんでいた体勢を整えようとした。 すると、次の瞬間、生暖かい物体が下からせり出してきた。 彩香「うーん・・・。」 大祐「うわああっ!!」 彩香の艶めかしい声と同時に巨大な舌が大祐の顔をベロッと舐めまわしたのだ。 大祐「うわっ・・・、姉貴の唾液だ・・・。気持ち悪い・・・。」 大祐が大きな舌の襲来に神経を尖らせていたとき、大祐は彩香の口が再び開いたことに気が付いていなかった。 舌が大きな口の中に戻ろうとするとき、小さな大祐も一緒に飲み込まれそうになったのだ。 大祐「や、やばいっ!!」 バクン!! 咄嗟に大祐は彩香の上唇に手をかけ彩香に飲み込まれるのを阻止したが、そのまま唇は閉じられ大祐の下半身は彩香の口の中に閉じ込められてしまった。 大祐は、必死に上唇を叩いたり、下半身をジタバタさせたりしたが、全く彩香に反応は見られない。 しかも、彩香の唾液と唇の油によって、徐々に大祐の体が飲み込まれつつあったのだ。 大祐の足はやがて固いものにぶつかる。 彩香の前歯だ。 瞬間的に大祐は足を引っ込める。 大祐「姉貴に噛み殺される・・・。」 大祐は必死に脱出を試みるが、彩香の唇は大祐の抵抗をすべて受け流してしまう。 ゆっくりゆっくりと大祐を巨大な口内へと誘うのだ。 口内は、先程の激臭が支配している環境である。 絶対に脱出したい大祐は、自分の爪で彩香の上唇の上あたりの皮膚を引っ掻くことにした。 彩香が起きてしまう可能性はあるが、飲み込まれるよりはましだ。 大祐は、ガリガリと構うことなく引っ掻いていった。 すると、案の定、彩香の口の中から舌が出てきて、その部分を舐めようとした。 その機会を逃すことなく、小さな大祐は命からがら彩香の巨大な唇から逃げ出すことに成功した。 男性からすれば夢のようなシチュエーションではあったが、油まみれの唇に唾液と酷い口臭を浴びせられる最悪な環境を体験した大祐は、女性への清潔感を喪失してしまった。 こうして、ふらふらになりながらも、何とか大祐は彩香の部屋を後にした。よもや、彩香も大祐に無意識ながら攻撃をしたとは夢にも思っていないであろう。 彩香は、スヤスヤと可愛い寝息を立てながら、そのまま昼寝を続けていた。 大祐は、そのままミニチュアの操作盤の電源を落とし、シャワーを浴びてから自分の部屋のベッドに横になった。 ベタッベタッベタッ・・・ 大祐の部屋に誰かが近付いてくる。 彩香「大祐~、ご飯食べないの?」 大祐「・・・・・・、いらない・・・。」 彩香「珍しいわね、どうしたのよ。」 大祐「気分が悪くて・・・。」 よもや、彩香の口臭やら唾液やらを体全体に浴びたなどとはとても言えない。 大祐は彩香から放たれた悪臭のおかげですっかり体調を崩し、ベッドに横になっていた。 彩香「そう。私もついさっき食事してきたから食欲がなくて…。」 大祐「餃子・・・でも食べたんでしょ?。」 彩香「えっ、もしかして臭ってる? 友達と味噌ラーメンと餃子を食べたんだけど・・・。」 大祐「・・・・・・。いや、何となくそう思っただけだから。」 彩香の言葉に思わず、大祐は深く頷いていた。 あれほどの強烈な口臭は、餃子だけではなく味噌ラーメンも手伝っていたのだ。 さすがに今は歯を磨いたらしく、そのような痕跡はないようだが。 彩香の何気ない発言には、大祐を納得させる理由が十分にあった。 彩香「まあ、いいわ。ミニチュアを借りていくわよ。」 大祐「ああ、持っていきなよ。」 こうして、再びミニチュアは彩香の手に渡ったのであった。 彩香「あれっ、操作パネルがついてないわ。」 自室に戻った彩香は操作パネルがないことに気付き、再び大祐の部屋へ向かった。 大祐の部屋の前には、無造作に操作パネルが置かれていたが、どうやら何かと連結しているようであった。 彩香「もう、めんどくさいからこのまま入力しちゃおう。」 彩香は、ミニチュアの組みたてを億劫がり、部屋の前にある操作パネルをそのまま使用した。 そのとき、大祐の部屋の内部が彩香の部屋に転送されたことなど、彩香は知る由もなかった。 彩香は、慣れた手つきで操作を終えると再び自室に戻り、ミニチュアを満喫しようと企んでいた。 しかし、彩香の部屋で待っているのは気分を悪くしたうえ、縮められた弟であった。 ベタッ、ベタッ、ベタッ…。 カチャッ、カチャカチャッ…。 横になっている大祐は、部屋の外から聞こえる音に気がついた。 普段なら気にならない音なのだが、具合の悪さも手伝って不快な音に聞こえるのだ。 大祐「うぅ~ん…。」 大祐は、タオルケットを頭からかぶり外の音が聞こえないようにし、再び眠りにつこうとした。 カチャカチャッ…。 ………。 ズシィン! ズシィィン! 横になっていた大祐は、下から突き上げるような地響きにタオルケットをはぎ取った。 部屋の構成は変わっていなかったのだが、壁や天井がやたら遠い位置にある。 大祐は瞬時に自身が置かれている状況を察知した。 大祐「こ、これはまずい・・・。」 困惑している大祐に巨大な人物が接近することを告げる足音が響いていた。 ズシイイン!! ズシイイン!! バターン! そして、大祐の目の前にとうとう巨大な彩香が姿を現した。 #11 残酷な彩香の攻撃 バターン! 全長160mはある巨大な彩香の登場に大祐は思わず息を呑む。 もう何度となくこの光景は目にしているが、何度見ても恐怖感を覚えるのだ。 彩香「あれっ・・・、街がないわ。その代わりに、何だろう?」 ズシイイン!! ズシイイン!! 彩香の巨大な素足が大祐目掛けて猛然と迫ってくる。 慌ててはいるものの、体調が悪い大祐は身動きが取れない。 そうこうしているうちにたった2~3歩で、彩香は眼下の物体を確かめるべくしゃがみ込んだ。 大祐「うおっ、姉ちゃんの股間が…。すげえ迫力だ。」 大祐の部屋を取り囲むように、彩香の巨大な素足や股間といった部分が鎮座している。 彩香のムッチリとした肉厚の太股を見つめ、大祐は気分がすぐれないながらも高揚した。 さらに、目の前のジャージには割れ目がくっきりと見えており、姉である彩香の女性の一面が垣間見えていた。 そんな大祐の気持ちを知ってか知らずか、自らの姉に興奮する弟に向かって、彩香は強烈な一撃を与えてしまう。 しゃがみ込んだ彩香は、無意識に下腹部に力が入っていたのだ。 彩香の股間に釘付けになっていた大祐は、まさに不意打ちであった。 ブシュウ! 一瞬、大祐は何が起きたかわからなかった。 何かが放出された音とともに床にそって熱風が吹く。 大祐の部屋自体もその熱風の直撃を受ける格好となったのだ。 風が止まった後、猛烈なにおいが大祐の鼻を支配する。 大祐「うおっ、ゴホゴホッ、ガハッ!!」 新鮮な空気を求めるべく、あらゆる方向を探したものの、どこにも安息の地はない。 たまらず、大祐はベッドに横になりタオルケットで体全体を覆ってしまう。 彩香「ヤダ、ちょっと…。」 上空からかわいらしい姉のつぶやきが聞こえる。 おそらくは無意識のうちに放出してしまったおならに姉自身顔を赤らめているのだろう。 彩香「もう3日も出てないから、お腹が張ってるのね。」 彩香の言葉と様相から、おおよそ可愛らしさなど微塵のかけらも感じられなず大祐は激しく動揺した。 さらには、あまりのギャップの激しさに大祐は苦悶の表情を浮かべながらも自身の股間をまさぐった。 彩香「どうして街が出ないのかしら。」 大祐がタオルケットから頭だけを覗かせる。 すると、彩香の巨大な指先が部屋の中央にあったテーブル目掛けて降りてきた。 バキイッ、グシャッ! まさに一瞬であった。 彩香が摘みあげたテーブルは実に無機質な悲鳴をあげて、いとも簡単に破壊されてしまった。 大祐は、再び顔をタオルケットの中に潜り込ませる。 先ほどの姉への興奮など吹き飛び、徐々に恐怖が込み上げてくる。 大祐(だ、大丈夫だよな…?) そんな心配を抱く大祐のもとに再び轟音が響く。 ドゴオオン! 先ほどの破壊されたテーブルが落下してきたのだ。 テーブルは二つに折られ、もう使用できる状態にはない。 いまの彩香は、大祐にとってあまりに危険すぎる存在となってしまったのだ。 彩香「よし、踏んづけよっと!」 突然の彩香の声に大祐はベッドから飛び起きる。 大祐の目の前には今まさに立ち上がろうとしている彩香がいた。 左の膝に大きな手を掛け、右手で髪をかき上げながら立つ姿に、普段の姉以上の美しさを感じていた。 しかし、このまま彩香を眺めていては、先ほどの宣告どおりメチャメチャに踏み潰されてしまう。 大祐は、ふらふらしながらも巨大な彩香から逃げ出そうと必死だった。 彩香「あれっ、小人がいる。おーい・・・。」 彩香の声が聞こえた次の瞬間、大祐の間近に巨大な彩香の素足が落下してきた。 ズシイイン!! 大祐「うわあああっ!」 彩香「とりあえず、小人クン1人だけ確保ね。」 彩香は目の前の小人が大祐とは気がついていない。 大祐の間近には全長24mもの巨大な素足が鎮座している。 もし、ここで逃げ出そうもんなら一瞬で彩香に踏み潰されるであろう。 彩香「ふふっ、この小人クンと遊んであげよう~。」 にんまりと微笑みながら彩香は、床下にいる小人に話しかけた。 当然、大祐は間近にある大きな素足に行く手を阻まれ、身動きが取れない。 彩香「あ、そうだ♪ ちょっと待ってなさいね。」 そう言うと、彩香はその巨体を勉強机に移動させた。 そして、大祐の目の前にお菓子の空き箱を3つ置いた。 どれもこれも今の大祐のサイズでは一軒家並みのサイズがある。 大祐「・・・・・!?」 彩香「さてっと、小人クン。」 上空から彩香の声が聞こえるものの、大祐の目の前に置かれた空き箱が気になって反応ができない。 困惑する大祐の横方向が暗くなる。 ズシイイン!!! ふいに彩香の巨大な素足が振り下ろされる。 たまらず、大祐は転げてしまった。 彩香「ちょっと、聞いてるの? 聞いてないならすぐに踏んづけるわよ?」 ちょっとの気の緩みも許されないようだ。 大祐は急いで巨大な彩香の顔を見上げた。 大祐「ね、姉ちゃあん! しっかりと下を・・・」 大祐の発言にかぶせるように彩香が言葉を続ける。 彩香「小人クン、説明を聞かないとすぐ踏み潰すからね。いい?」 彩香の残酷な発言に大祐は凍りついた。 毎晩、ミニチュアの小人を惨殺する彩香の姿が目に浮かんだ。 大祐は泣きながら彩香に叫び続けた。 大祐「姉ちゃ~ん!! 大祐だよ、ミニチュ・・・」 またも彩香は発言を続ける。 彩香「小人クン、あなたはこれからこの空き箱に入ってもらうわ。」 彩香「その後、私が3つの箱のうち2つを踏んづけるの。運が良ければあなたは生き残るわ。運が悪ければ・・・。」 彩香のとんでもない提案に対して、大祐は腰が砕けてしまった。 ただでさえ、具合も悪いのにそんな究極の選択ができるものだろうか。 彩香「いいかしら? 私が10数えるうちに隠れてね。」 そう言うと、彩香は窓際に立った。 どうせ、彩香には大祐の声など届きはしない。 ならば、ここはいっそ・・・、部屋から逃げてしまおう。 彩香が10数えるならば、逃げ出せる時間は十分ある。 そう考えた大祐は一目散にドアを目指した。 走り出した瞬間、彩香が振り向く。 彩香「あ、そうそう。箱に入っていなかったら、速攻で踏んづける・・・」 彩香の言葉が途中で止まった。 彩香「小人クン、何をしているのかな?」 大祐は震えながら、後ろを振り返った。 すると、明らかに不機嫌な表情を浮かべた彩香がギロリと大祐を睨んでいた。 大祐「うわあああ!!」 大祐は悲鳴を上げながらドアの方向へ突進した。 彩香「私から逃げられるとでも思ってるの?」 ズシン、ズシイン、ズシイイン! 大祐が廊下に到達した瞬間、大祐の間近に彩香の巨大な素足が振り下ろされた。 ズシイイン!! 大祐「あ、あわわわ・・・」 彩香「アンタ、ふざけてんの?」 大祐の周辺を彩香の巨大な素足が取り囲んでいる。 もはや彩香から逃げ出すことなど不可能だ。 彩香「そうだ。こうしましょう。」 突然、彩香が大祐に向かって提案する。 彩香「私とかけっこして勝ったら見逃してあげるわ。」 あからさまな無茶な提案に大祐は、固まるしかなかった。 彩香「私は、弟の部屋から自分の部屋に向かって歩くから。」 彩香は言い終わると、大祐の部屋の前にある操作盤を動かした。 彩香「あとは、さらにあなたを縮めるから、私に踏み潰されなければ小人クンの勝ちよ。」 大祐は恐怖におののいた。 なんと、ただでさえ巨大な彩香がさらに巨大化を始めたのだ。 グングン大きくなる彩香に大祐はいてもたってもいられずその場で叫び始めた。 大祐「ね、姉ちゃーん!! 気づいてくれー! 助けてくれー!」 彩香の巨大化はなおも続く。 余りの彩香の大きさに徐々に彩香の巨体が霞んでくる。 彩香「さて、これで1000分の1サイズね。」 彩香は周囲を見渡す。 彩香「小人クン、もうどこにいるかわからないわよ。アッハッハッハ!」 大祐のはるか上空から笑い声が聞こえるものの、大祐は生きた心地がしなかった。 彩香の言ったことが本当なら、今の彩香は1600m近くの巨体を有することになる。 しかも、足のサイズだけで240mもあるのだ。 彩香「では・・・。」 その瞬間、彩香は部屋で横になっている大祐に気が付いた。 彩香「あれっ?」 彩香は、そのまま大祐の部屋の前で立ち止まっていた。 大祐「ん・・・!? 姉貴は何をしているんだろ・・・?」 物凄く不安げな表情を浮かべた彩香は急いでミニチュアの操作盤を動かす。 大祐のサイズがグングンと大きくなっていく。 大祐「おお、元に戻っていく!」 彩香「あぁ! やっぱりそうだったのね! 大祐ー、よかった、踏み殺さなくて!!」 大祐「うっ・・・。」 さらりと衝撃的な言葉を話す彩香に大祐はやれやれといった表情を浮かべていた。 #12 無限ループの始まり 彩香「あぁ、でもよかったわ。踏み潰す前に気が付いて。」 大祐「姉貴、今さらりとすごいこと言ってるけど・・・。」 彩香「まあまあ、いいじゃない。だけど、どうして小さくなれたのよ。」 大祐「それが僕にもよくわからなくて・・・。」 大祐は、小さくなれる方法を彩香に伝えることはしなかった。 下手に教えて悪用されてはたまったもんではないからだ。 彩香「ふーん、偶然なのかしら。」 大祐「とりあえず、元に戻ることにするよ。」 彩香「わかったわ。じゃあ、待っててね。」 そう言うと、彩香は電源を落とすことなく、ミニチュアの操作盤を無理やり外した。 その瞬間、大祐の姿が忽然と姿を消す。 彩香「あれー、大祐? もう、元に戻ったのかな?」 彩香が大祐の部屋を覗くも、相変わらず大祐は深い眠りについているようだ。 彩香は操作盤を持って、自分の部屋にあるシート部分に連結させミニチュアを起動させた。 大祐「うぅ~ん、元に戻ったのかな?」 大祐はベッド上で目覚めると、大きく背伸びをした。 相当の運動をしたこともあってか、先程の気持ち悪さは幾分か軽減されていた。 大祐は、さっそく彩香の部屋へ向かおうとした。 彩香「ミニチュアの街の皆さん、こんばんは!」 突然、街の中に大音量で彩香の声が響き渡った。 大祐「えっ、今、ミニチュアって言ったよな・・・。」 大祐は、彩香の放った「ミニチュア」という言葉に引っかかっていた。 先程、彩香が操作盤を外したことで元に戻ったと考えていた大祐は、軽く混乱していた。 そうこうしているうちに彩香の大音量の声が続く。 彩香「今から、私が街の中を無作為に歩きます。皆さんは私の綺麗な足から逃げてください。」 ズズゥゥン! ズズゥゥン! 大祐が急いで、窓を覗きこむと、その彼方には大きな2本の肌色の物体が上空へと伸びていた。 そして、そのうちの1本が持ち上がったかと思うと、急激に落下してきた。 ズシイイン! 大祐「うわ・・・、姉貴のヤツ、なんてことを・・・。僕が取り残されてるってわからないのか?」 大祐が慌てて外へと出ると、街の大半は巨大な彩香が作り出す影の中にスッポリと覆われていた。 彩香はまだ街の外れの方にいるため、避難には余裕があると思われた。 しかし、そんな大祐の願いは無下に潰されることとなる。 「無作為に歩く」 彩香はそう発していたのだ。 やがて、凄まじい轟音と共に、彩香の巨大な素足は至る所に振り下ろされていった。 ズシイイン! ドスウウン! ドシイイン! 大祐「うわあああっ!!」 以前、ミニチュア内で彩香に踏み潰される寸前までいったことがあったが、まだ彩香の配慮があった。 しかし、今回はそんな配慮は微塵も感じられず、大祐は、彩香の繰り出される巨大な素足に翻弄されっぱなしであった。 やがて、自宅を出たばかりの大祐の周囲がひときわ暗くなる。 彩香の巨大な素足が小さな大祐を踏み潰すために颯爽と登場したのだ。 大祐「うわあああ!姉貴ー!!」 彩香の巨大な素足は何の躊躇もなく一気に振り下ろされる。 彩香の爪先に無数の電線が絡みつくも構うことなく引きちぎる。 ズシイイン!! 強烈な一撃が大祐の間近に繰り出される。 彩香の巨大な5本の足の指は地面にめり込み、圧倒的な重量感を大祐に見せつけていた。 そして、間髪入れず、もう一つの巨大な素足がはるか遠方に着地する。 ズシイイン!! 大祐「うひゃあっ!!」 その着地に合わせて、今度は大祐の目の前にあった圧倒的な重量を要する巨大な素足が軽々と上空へと浮かび上がる。 小さな大祐は、その巨大な素足が作り出す影の中にスッポリと覆われてしまう。 やがて、宙に浮かんだ巨大な素足は、上空で一旦静止する。 その巨大な足の裏からは、大祐目がけて瓦礫やら砂埃やらがパラパラと落下してくる。 しばらくの静寂のあと、その巨大な素足は一気に地面へと降下を始めた。 物凄い勢いで赤黒い足の裏が接近してくる。 大祐「ね、姉ちゃあああん!!」 大祐が叫んだところで、100倍近くも大きい彩香に届くはずもない。 気が付けば大祐は彩香の足の裏から逃げ出すために走り出していた。 いくら大きいとはいえ、彩香の足のサイズは24cmなので、小さな大祐からすれば24mでしかない。 大祐は十分に逃げ出せるという確信があった。 しかし、大祐の走る方向を住宅街が阻む。 進行方向はちょうどブロック塀で囲まれていたのだ。 大祐「えっ、うそっ・・・!」 落胆する大祐は、大急ぎで宙を見上げる。 そこには、これでもかと言わんばかりに接近した彩香の巨大な足指の付け根があった。 あと少しだけ移動できれば爪先部分から脱出できるのだが、それをブロック塀が阻む。 大祐「やばい、殺される!」 小さな大祐の周囲は、ついに彩香の臭い足から放たれる湿気すら感じられる状態になっていた。 大祐「うわあああ!!!」 ズッシイイイン!! ピーピーピー 彩香が足を下ろした瞬間、ミニチュアの操作盤からエラー音が響き渡る。 彩香「あれ? どうしたのかな?」 彩香は、さして操作盤の表示を見ることなく電源を落とし、再起動させた。 再び、整えられた街並みが彩香の足元を埋め尽くす。 大祐「うっ、イタタタ・・・。全身が何故か痛い・・・。」 大祐は再び、自分のベッド上で目が覚めた。 つい先ほど彩香の巨大な素足によって踏み潰された感覚がまだ体に残る。 大祐「あれー・・・、どうなったんだろう。夢だったのか・・・?」 彩香「ミニチュアの街の皆さん、急いで南小学校に集まってください。」 またも、外から彩香の声が響き渡る。 大祐は彩香の声に敏感に反応し、急いで南小学校に向かった。 総勢200~300人ほどはいるだろうか。 時間通りに集合できて、安堵している人たちが大半だった。 彩香「皆さん、集まりましたか?」 その瞬間、上空一帯を彩香の巨大な顔が覆った。 大祐の周辺からは、悲鳴も聞こえていた。 すると、あろうことか彩香の巨大な唇がすぼまったかと思うと、猛烈な突風が小学校を襲った。 ブフウウウウ!!! 台風でも竜巻でも勝てない、体験したことのない暴風に多くの小学校だけではなく多くの建物が倒壊する。 何とか、倒壊した建物から抜け出た大祐を再び上空の巨大な彩香の吐息が襲う。 ビュウウウウウ!!! 大祐「えっ? わあああああ!!!」 周囲にいた人たちをも巻き込んで大祐は、若い女性特有の甘い吐息に吹き飛ばされてしまう。 そして、そのまま地面に激突。 大祐は再び意識を失った。 ピーピーピー またまた、ミニチュアがエラーを示す。 彩香もうんざりといった表情で、また再起動させる。 大祐はまたベッド上で目覚めた。 大祐に言いようのない痛みが襲う。 大祐「ちょ、ちょっと待て・・・。これだと拷問じゃないか。どういう事態になっているんだ・・・。」 大祐は明らかに体力が削られているのがわかった。 ミニチュアに閉じ込められる寸前の記憶を大祐は懸命に思い出そうとする。 彩香が力任せにミニチュアの操作盤を引き抜いたはずだ。 そこからの記憶が曖昧になっている。 おそらくは、電源を落とすことなく引き抜いたことにより大祐がミニチュア内に閉じ込められてしまったのだ。 大祐「ど、どうすれば元に戻るんだ!?」 困惑する大祐をよそに再び彩香の声が響く。 彩香「もう、さっきからエラーばっかり!どうしたのかしら?」 大祐は小走りで外へと駆け出す。 大祐「とにかく、姉ちゃんに助けてもらわないと!」 彩香「あ、大祐じゃない。」 彩香の声に大祐はギョッとして上を振り向く。 大祐の頭上には、彩香の巨大な顔が浮かぶ。 ここぞとばかりに大祐は手を振り、叫び声をあげた。 大祐「ねえちゃあああん!!!」 彩香「ふふっ。踏んづけてあげるわね。」 大祐「はあぁっ!?」 とんでもない提案に大祐は急いで家の中に戻ろうとする。 彩香「あ、待ちなさい!」 間一髪、大祐は家の中に戻ることに成功し、すぐさま部屋に戻った。 バキャ!ビキッ!ベリベリッ!! 次の瞬間、大祐の部屋の天井はいとも簡単にはぎとられ、上空を彩香の顔が支配した。 大祐「うわあああ!!」 彩香「逃げても無駄ってわからないの?」 大祐は恐怖で机にもたれかかった。 そのとき、机の上にユーザーベルトが置かれていることに大祐は気が付いた。 大祐「えっ!?ユーザーベルトがある・・・。この前、使えなくなったはずなのに・・・。」 大祐がそのユーザーベルトに手を伸ばそうとしたそのとき、大祐の周囲を肌色の物体が覆った。 大祐「うわああああ!!!」 彩香の巨大な指が大祐を摘み上げたのだ。 グングンと大祐は上昇する。 やがて、大祐は彩香の巨大な顔の前へと連行される。 彩香「大祐、私からどうして私から逃げたのかしら?」 大祐「・・・・・・。」 無言のまま大祐は彩香を見つめる。 彩香「お仕置きをします。」 その瞬間、彩香の巨大な口が開く。 大祐「ね、姉ちゃん?」 彩香「ふふっ。私のきれいな歯で噛み潰してあげるわね。」 大祐「や、やめてくれ!!いくらなんでもひどすぎる!!」 彩香「あーん。」 大祐「うわあああ!!!」 大祐の発言に構わず、彩香は小さな大祐を口内へと押し込む。 ジトッとした彩香の巨大な舌は、大祐の存在を確認すると器用に奥歯へと大祐を誘う。 そして、小さな大祐目がけて白い奥歯が振り下ろされる。 たまらず、大祐は奥歯から飛び降りる。 ガチーン!! ほんの少しタイミングがずれていれば、危うく大祐はプレスされるところであった。 しかし、安心したのもつかの間、再び巨大な舌が小さな大祐を持ち上げる。 大祐「うわあああ!!」 そのまま大祐は上の前歯の裏に押しつけられる。 巨大な舌から解放されると、大祐は重力に従うまま、彩香の唾液の海へと落下する。 ビチャッ! 大祐「う、ううっ。汚いなぁ・・・。」 そこへ、再び巨大な舌が大祐に襲いかかる。 大祐はそのまま巨大な舌に誘われるがままに奥歯に置かれる。 しかし、大祐は再び奥歯から逃げることに成功。 そこへ、苛立ちを隠さない彩香の声が響く。 彩香「大祐!! いい加減に私の歯を受け入れなさい! さもなければ・・・。」 次の瞬間、大祐の体が縮み始め、彩香の歯が、舌がどんどん大きくなっていった。どうやら、彩香はミニチュアを操作して、大祐をさらに縮めたようだ。そのまま、大祐は彩香の巨大な舌に運ばれ奥歯へと置かれる。しかし、今回は奥歯の凹凸に阻まれ、思うように逃げ出せない。 大祐「や、やばい!」 焦る大祐を気にすることなく、上空からもう一つの大きな奥歯が落ちてくる。 大祐「うわあああ!!!」 グシャッ!! ピーピーピー ミニチュアは三度、エラーを示す。 彩香「あらっ・・・、もしかして大祐を殺しちゃダメなのかしら・・・。」 さすがの彩香もミニチュアの電源を落として、様子をうかがうことにした。 彩香の隣の部屋では、変わらず大祐が横になって目を閉じていた。 #13 残酷な彩香の一撃 大祐「う、ううっ・・・。」 何度目覚めたかわからない大祐は、全身の激痛に苛まれていた。 大祐「はぁ、はぁ。そうだ。机の上にユーザーベルトがあったんだ。」 壁に手をかけてようやく立ち上がった大祐は、よろよろと机に近づく。 そのとき、またも外から彩香の声が響いた。 彩香「大祐。出てきなさい。」 今回は、彩香にピンポイントで名前を呼ばれたようだ。 大祐は、彩香の言葉を無視して、机の上にあるユーザーベルトに手を伸ばす。 大祐「あれ・・・、エラー表示になっていないぞ・・・。」 微かな希望を抱き、ユーザーベルトを操作しようとする大祐に魔の手が迫っていた。 ベリベリベリッ! 部屋の上空が突如として開け、間髪入れず巨大な指先が降りてきたのだ。 その巨大な指先は器用に大祐の身体を持ち上げ、上空へ連れていってしまう。 大祐「うわあああ!」 そして、小さな大祐は彩香の巨大な掌に投げ出された。 彩香「ふふふっ。こんにちは、ミニチュアの大祐。」 大祐「な、何を言って・・・。僕は本物の大祐なんだよ!!」 彩香「本物の大祐は、部屋で寝てるわよ。」 大祐「ち、違うんだ!ちょっとしたトラブルがあって・・・。」 彩香「あら、右手に何を持ってるの?」 大祐の言葉にはさして関心を寄せない彩香は、大祐が右手に持っているユーザーベルトに興味を持つ。 彩香「それ、ユーザーベルトじゃないの?」 大祐「え、いや、それは・・・。」 彩香「へー。ミニチュアの大祐もそれを持ってるのね。ねえ、もっと小さくなってよ。」 大祐「は?」 その瞬間、彩香の人差し指が大祐を弾く。 ビュン! ドスッ! 彩香の大きな指が大祐の腹部を直撃する。 苦しさで悶えている大祐に彩香は言葉を続ける。 彩香「三度は言わないわよ・・・。もっと縮みなさい。」 巨大な彩香の実力行使は小さな大祐を説得するのに十分すぎる効果を発していた。 大祐は急いで操作を行い、自らを2㎜程度に縮めた。 彩香「あー。この黒い点みたいのが大祐なのね。虫みたいなもんじゃない。」 大祐「あ、姉貴ー!!もういいだろ。」 彩香「どれ、蚊みたいなもんだし、叩き潰してあげるわ。」 大祐「へっ? や、やめてくれええっ!!」 その瞬間、広大な肌色の平面が大祐の上空を襲う。 猛烈な勢いで大祐の周囲の闇は濃くなっていった。 大祐「うわあああっ!!」 バチイインッ!! 彩香の両の手は、見事なまでにぴったりと合わさり、掌の蠢く黒い点を始末した。 しかし、その瞬間、またしてもミニチュアの操作盤からエラー音が響き渡る。 彩香「あー。やっぱり、ミニチュアの大祐を殺すとダメなのね。」 彩香はこのことを確かめると、ミニチュアを再起動させた。 大祐「うう、こんな拷問が続くなんて思わなかった・・・。」 大祐は再び机にあるであろうユーザーベルトに手を伸ばそうとした。 この時点で大祐には確信があったのだ。 ミニチュア内のユーザーベルトを操作しても自身が縮んだということは、そのユーザーベルトは本物と同等の効果が得られるということに。 つまり、そのユーザーベルトを使用することで現実世界に戻れると考えたのだ。 大祐は、机上にあるユーザーベルトを操作し、ミニチュアの解除を試みた。 その瞬間、大祐の記憶は遠ざかる。 大祐が目を覚ますと、またもベッドの上であった。 しかし、ここが現実世界なのかミニチュア世界なのか半信半疑であったため、大祐は彩香の部屋へと向かった。 大祐が足を踏み入れると、彩香がミニチュアの街を起動させ、破壊している瞬間であった。 彩香「あ、起きたのね。大祐。」 ズシーン! そう言いながらも足元の建造物を破壊する彩香。 間違いなく現実世界に戻れたと確信した大祐は、何も言わず立ち去ることにした。 彩香「あ、待ちなさいよ。どうやらミニチュアのユーザーベルトも直ったみたいなのよ?」 大祐「へー、そうなん・・・」 そう彩香が言い放った次の瞬間、大祐の意識が飛んだ。 大祐「うーん・・・。」 彩香「おはよう、大祐。」 大祐が身を起こすと、両脇に巨大な素足が2つ鎮座しており、上空にはしゃがみこんで様子を窺う彩香の姿があったのだ。 上空にある両方の膝の隙間から巨大な彩香の顔を覗くことができる。 彩香「どう? 久しぶりでしょう、このシチュエーションは。」 大祐「あ、うあぁ・・・。」 小さな大祐はすっかり言葉を失っていた。 何しろ、つい先ほどまで巨大な彩香に散々痛めつけられ、何度も命を失っていたのだから。 当然ながら大祐の表情も強張っていた。 彩香「あれっ、あまり嬉しがらないのね。どうしたのよ。」 大祐「こ、殺さないで!」 彩香「へっ?」 大祐は、両方の手で自分の体を覆いながらうずくまった。 うずくまったその小さな体は恐怖心からか小刻みに震えていたようだった。 しかし、そんな怖がっている大祐の体をいとも容易く彩香は摘み上げる。 彩香「なんでそんなに怖がるのよ?」 大祐「う、うわ・・・。」 宙に浮かんだ大祐の目の前いっぱいに巨大な彩香の顔が支配する。 彩香の鋭い眼光に大祐は言葉も発せないでいた。 彩香「大祐、このままあんたを食べちゃおうか。」 そういった彩香の口が大きく開かれ、小さな大祐に接近してきた。 大祐の目の前に白い前歯、蠢く舌が接近する。 大祐「た、助けて!! また、噛み殺される!!」 その瞬間、彩香の口が閉じられる。 彩香「また・・・?」 大祐「ひっ、ひいい!」 彩香「大祐、食べられたくないなら、知っていることを話しなさい。」 大祐「えぇっ!?」 彩香「そうしたら命だけは助けてあげるから。」 大祐「う、うん。わかったよ・・・。」 こうして、大祐は先程まで繰り広げられた死闘を彩香に話し始めた。 もちろん、命を失った後は壮絶な痛みが続くことも彩香には伝えた。 彩香「なるほど、とりあえず命だけは助かるように設定されているのね。」 大祐「そ、そうみたいだね・・・。」 彩香「でも、知らなかったとはいえ、何度も殺してごめんなさいね。」 大祐「あ、いや、わかってくれればいいんだけどさ・・・。」 大祐はひとまず事情を理解した彩香にほっと胸を撫で下ろしていた。 先程までの無慈悲に攻撃を仕掛けた姉とは違うことをしっかり胸でかみしめていた。 彩香「ところでお願いしてもいい?」 大祐「何?」 彩香「私の足の裏に刺さったトゲを抜いてほしいんだけど。」 思いもよらない彩香の言葉に大祐はその依頼を承諾した。 彩香は右膝をつき、左膝を立てた状態で、左の爪先を少しだけ浮かせた。 彩香「左の足の裏なんだけど、いいかしら。」 大祐「いいけど、こんな狭い空間を潜り込んでいけと・・・?」 彩香「よろしくね。」 このとき、大祐も気が付けばよかったのだ。 そもそも、トゲを取るだけなら足の裏をひっくり返した状態で取った方が効率が良いからだ。 わざわざ、巨大な足の裏の下を潜り込ませるなど不自然なことなのだ。 そうとも感じない大祐は喜び勇んで、自ら彩香の足の裏の下へ潜り込んでいく。 2cm足らずの小さな大祐は、すでに巨大な素足の中央付近まで進んでいた。 彩香「大祐ー。そろそろ仰向けになってくれる?」 匍匐前進で進む大祐に彩香から声がかけられた。 その声で、おそらくトゲの刺さった位置の近くまできたものと大祐は推察する。 大祐が体勢を変え、彩香の足の裏を探してみるも全くトゲなど見当たらない。 大祐「姉貴ー。トゲは・・・」 ズンッ!! 大祐が話し始めてしばらくすると、彩香の巨大な素足が大祐を踏みつけた。 大祐「ちょっ、姉貴!く、苦しい・・・!」 大祐は必死に彩香の足の裏をバンバンと叩きつける。 しかし、彩香からは何のリアクションもない。 むしろ、徐々に締め付けがきつくなってきた。 大祐「姉貴ー!!」 壮絶な圧迫が小さな大祐を襲う。 彩香の巨大で硬い足の裏の皮膚が直に小さな大祐を押さえ込む。 大祐は必死に彩香の巨大な足を持ち上げようと試みるもピクリとも動かない。 やがて、大祐の下半身からミシミシと骨がきしむ音が聞こえてくる。 大祐はここで初めて彩香が実際に自身を踏み潰そうとしていることに気が付く。 先程話した設定が確かなものかを実践しようとしているのだ。 大祐「姉貴!ちょっと待ってくれ!!」 ベキッィ!ボキボキッ!バキィッ!! 大祐「ぐわあああ!!」 大祐の両方の大腿骨やら骨盤やらが砕けてしまった。 なおも、彩香からの圧迫は止まらない。 小さな大祐は、その身体で彩香の片方の足の想像を絶する重さに耐えている。 しかも、彩香の巨大な足の裏か発せられている湿気も浴びて、大祐は不快感を最大限に感じていた。 大祐「あ、姉貴・・・。」 そして、全身の骨折が続く中、とうとう大祐は意識を失ってしまった。 それでも、彩香は自身の素足で小さな弟を踏み続けた。 グチャッ!! やがて、彩香の足の下から何かが潰れる音が響く。 その音と同時にミニチュアの操作盤からエラー音が響く。 すかさず、彩香がミニチュアを再起動させ、ミニチュア内の自宅の屋根を剥がすと、そこには踏み潰したはずの小さな大祐の姿があった。 彩香「なるほど、これはいいことを聞いたわ。」 新たなミニチュアに関する情報を手に入れ、彩香はニヤニヤとほくそ笑んでいた。 そんな最中、小さな大祐が彩香を見て悲鳴を上げている。 彩香は、小さな大祐にニコリとほほ笑むと、勢いよく自身の素足を振り下ろした。 ピーピーピー 再度、ミニチュアんp操作盤からエラー音が響いたことは言うまでもない。 #14 天国と地獄 大祐「姉貴・・・、今回ばかりは許さないんだから!」 彩香「もう、ごめんってば!!」 元に戻った大祐の怒りは全くおさまらない。 大祐「小さくなった僕がどれほど怖かったと思ってるんだよ!!」 バタン! 大祐はそのまま自分の部屋に入ってしまった。 彩香「さすがに、大祐を怒らせちゃったか・・・。」 彩香はそのままリビングに行き、ミニチュアをセットする。 操作盤を起動させ、ミニチュア上に大祐の部屋を出現させる。 大祐「うぅ~ん・・・」 彩香「ねえ、大祐・・・。機嫌を直してよー。」 寝そべる大祐の真上に彩香の巨大な顔が支配する。 大祐「うわっ! 姉貴、ミニチュアを使ったのか。」 彩香「大祐の好きなシチュエーションで、何か奉仕してあげるから。」 唐突な彩香の提案に大祐は思わず顔がニンマリとしていた。 その大祐の一瞬の表情を彩香は見逃さなかった。 彩香「今だけだと思うよー、こんなチャンスは。」 大祐「うっ・・・」 相変わらず狡猾な一面を持つ彩香に大祐はおそるおそる口を開いてみた。 大祐「あ、あのさ・・・。」 彩香「なぁ~に?」 大祐の恥ずかしそうな申し出に、彩香は母性心がくすぐられていた。 やがて、彩香は17cm程の大祐を片手で持ち上げると、自分の胸に抱いた。 そして、その大きな手で小さな大祐の体を撫で始めた。 大祐「へっ? 姉貴、何をす・・・」 彩香「どうしたいの?」 トクン、トクン・・・。 彩香の鼓動が小さな大祐に伝わる。 大祐は、その鼓動を聞くことで徐々に自分がやすらいでくるのを感じた。 小さいころの自分を思い出しながら、大祐は自分の姉に甘えたくなっていた。 そして、少しずつ、自分の体を彩香に委ねたい気持ちが強くなってきていた。 大祐「お姉ちゃん・・・。」 彩香「なーに? どうしたの?」 大祐「い、いや、なんでもない・・・。」 彩香に甘えることなど、小さい時以来なのだ。 大祐はいつまでもこの優しい空間に包まれていたかった。 気が付けば、大祐の顔は真っ赤になっていた。 それを知ってか知らずか、彩香は小さな大祐をさらにギュッと抱きしめた。 彩香「ふふふっ、カワイイ・・・。」 彩香の甘い吐息が小さな大祐の顔に吹きかかる。 大祐も彩香の大きな胸にしっかりと抱きついた。 大祐「もっと大きいのがいいな・・・。」 彩香の胸に抱かれていた大祐は、思わず自分の願望を口に出してしまった。 彩香「あら、いいわよ。」 大祐「えっ!? あ、姉貴?」 大祐が言い終わる前に、大祐は心地よい空間から無機質な床へと置かれてしまう。 大祐「姉貴、待って!」 大祐は、彩香のおっぱいがもう少し大きければという考えだったのだ。 その思いがたまたま口にでてしまっただけなのだ。 しかし、大祐の考えを誤解した彩香は、大祐をさらに小さくしてしまった。 大きさにして、200倍程度の差があるだろうか。 彩香「どう?」 大祐「う、うわわっ。」 小さな大祐がいる空間の前方が一気に暗くなる。 大祐が上空を見上げると、彩香の大きな足の裏が迫っていた。 先程の遠慮がちな彩香の行動など露にも感じられないまま、猛烈な勢いで彩香の足の裏が落下してくる。 相変わらず、足の裏はホコリなどが付着し、踵や指先が黒ずむなど、野蛮さを感じ取ることができた。 ズッシイイイン!! 大祐「うわあああ!!」 無機質な床と彩香の巨大な素足の邂逅に、大祐は言葉を失っていた。 パワーあふれる巨大な素足の着地は微弱な大祐を吹き飛ばしかけていた。 その衝撃に何とか耐え抜いた大祐は、慌てて彩香の動向を注視する。 彩香「あれっ? ヤバ、見失っちゃった。」 大祐「ね、姉ちゃん!!」 彩香「大祐、どこにいるの?」 その瞬間、暗かった大祐の前方はさらに暗くなる。 大祐の上空を占拠していたのは、彩香の巨大な臀部。 どうやら、彩香は屈んで小さな大祐を探そうとしているようだった。 大祐「ひぃ、ひゃあああ!!」 物凄いスピードで彩香の臀部が落下してきたが、辛くも彩香の臀部は途中で静止してくれた。 何とか、彩香の臀部による圧死は回避することができたようだった。 しかし、小さな大祐には別の脅威が襲いかかろうとしていた。 ギュルルル~ 突然、大祐の真上にある彩香の体から異様な音が響いてきたのだ。 彩香「うっ、お腹が・・・。」 ブホッ!! 彩香が言葉を発した瞬間、大祐目がけて熱い気体が吹きかけられる。 大祐「うぎゃ、くせー!!」 先程の彩香の甘い吐息とは比べられないほどの酷く臭う気体だった。 この気体が彩香のおならであることを、大祐はヒドいにおいから強制的に気づかされた。 大祐「ね、姉ちゃん、ヒドイだろ・・・」 ブフゥー!! 大祐の叫びを無視して、再び上空から彩香のおならが吹き付けられる。 彩香「うーん、お腹が張ってるのね。」 大祐「姉ちゃあん、お尻の下にいるんだ、助けてー!!」 大祐が懸命に自分の所在を彩香にアピールする中、彩香は一つの決断を下す。 彩香「よしっ、出し切るか・・・。」 大祐は、彩香の発言に言葉を失った。 よもや、自分の弟が肛門直下にいるとも思わない彩香は、腸内の腐敗ガスを解放するというのだ。 こんな小さな体の状態で、姉の放屁を受け止めるなど、死刑宣告に等しい。 大祐「ま、待って!! 僕は下にいるんだって!!!」 シュウウウゥゥ・・・ 大祐の主張など聞き入れられることがないまま、彩香の肛門からは腐敗ガスの開放が徐々に始まる。 大祐「ぐはっ、ゴホッ、ガハッ!!」 においにむせる大祐は自分の周囲から酸素が徐々に失われていくのがわかった。 そんな壮絶な環境にいる大祐に向かって、彩香の無慈悲な攻撃は遂に開始された。 ブブブッブブ、ブウ~、ブッ! ブホッ、ブハッ!! ブババッ、ブッ! しばらくのち、ミニチュアの操作盤からはエラー音が響き渡ったのは言うまでもない。 しかし、彩香は大祐の生命を奪った方法にとんと見当がついていなかった。 よりにもよって自分の放屁が殺戮兵器並の威力を誇っていたなどそのときは微塵にも感じてはいなかったのだ。 かくして、大祐は天国と地獄の両方を一瞬のうちに味わうことになったのだった。 #15 阿鼻叫喚 今まで散々な目にあった大祐は、ここで原点に返ることにした。 以前、大祐は、彩香の巨大な素足から逃げ出したり(第7話)、通常サイズで彩香の残酷な遊びを見たり(第8話)したことがある。 そこで、今回は自身の安全をきちんと確保したうえで、ミニチュアの中から彩香の残酷な遊びを見ることを考えた。 この考えに彩香も乗り気になり、早速、この案を試すことになった。 大祐「いい? 僕は市民体育館に避難しているからね。」 彩香「サイズはどうするの?」 大祐「200分の1でどう?」 彩香「わかったわ。でも、私が気づかずに踏み潰しちゃったらあんたのせいだからね。」 大祐「うっ・・・、もちろん、わかってるよ。」 そして、大祐はユーザーベルトを操作してミニチュアの中へと入っていった。 大祐が市民体育館に移動する時間を確保しつつ、彩香はどういう方法を取ればいいか、思案を巡らせていた。 大祐「ううっ・・・。」 ミニチュアに潜入した大祐は、起き上がると急いで自転車に跨った。 大祐が向かう市民体育館は、大祐の自宅から500m程離れている。 屋内には体育館が2つ、プールやスケートリンク、広大な野球場やグラウンド等が備えられている。 大祐が市民体育館に到達すると、駐車場はほぼ満車になっていた。 どうやら、中学校のサッカーやら野球やらの大会が同時に開催されているらしい。 市民体育館の玄関付近には、アイス売りやら弁当売りやらがおり、賑わいを見せていた。 そんな微笑ましい光景には目もくれず、大祐は市民体育館の屋上を目指した。 すると、程なくして、外から大きな悲鳴や怒号が聞こえてきた。 おそらく、巨大な彩香が出現したのだろう。 屋上まで到達した大祐が急いで街の全景を見回したとき、大祐は言葉を失った。 なんと、市民体育館のグラウンドをヒトの巨大な素足が覆っていたのだ。 大祐の眼前には、巨大な爪先がかなりの近距離にまで迫っていた。 大祐「ええっ・・・? 市民体育館に避難するって言ったじゃん・・・。」 不安に包まれた大祐に構うことなく、その巨大な素足はゆっくりと下降していった。 グラウンドには、多くの中学生、応援の家族、審判や運営のスタッフがいる。 蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出す人々。 そんな人々を嘲笑うように巨大な素足が降臨していく。 ズッズウウウン!! 大祐「うわああっ!!」 猛烈な地響きとともに、砂煙が周囲を覆い、辺りは闇に包まれた。 屋上で倒れこむ大祐は、視界が不良であることも手伝って悲鳴を上げていた。 ズウウッ、ズウウッ、ズウウッ!! 外からは変わらず轟音が鳴り響く。 やがて、砂煙も収まり、辺りに光が差し込んだため、大祐は改めて街の全景を見ようと試みる。 大祐「うおっ・・・。」 大祐は、目の前の光景を食い入るように凝視した。目の前にあったグラウンドには、巨大な足型が残されていたのだ。 5つの指の跡、綺麗な土踏まずのカーブ、力強さも感じる踵付近。まさに壮大なスケールの芸術作品といえるかもしれない。猛烈な興奮に包まれた大祐は、我を忘れて、目の前の足型を鑑賞していた。 大祐「さすが、姉貴・・・。これはすごい・・・。」 無我夢中で携帯やデジカメを使って巨大な足型を撮影していると、上空から彩香の声が響き渡る。 彩香「皆さん、こんにちは!」 大祐「おっ、姉ちゃん・・・。何をするんだろう・・・?」 彩香「この街は、これから全て私に踏み潰されます。」 大祐「はぁっ!?」 彩香「ということで、市民体育館に私の足型を作りましたから、急いで避難してください。」 ズッドオオオン!! その彩香の言葉の後、街の中央部に巨大な素足が一気に振り下ろされた。 大祐「姉貴! 約束が違う!!」 冷静さを失っていた大祐は、急いで市民体育館の屋上から逃げ出した。 ズシイイン!! ドスウウン!! ドシイイン!! 次々に繰り出される彩香の攻撃は、大祐から冷静な思考を奪うのにさして問題はなかった。 街から逃げ出してきた他の人々同様に、大祐も巨大な足型の中へと避難することにした。 しかし、思いのほか事態は深刻だった。 大祐が彩香の作り出した巨大な足型に近づいても、市民たちは避難しようとしていない。 むしろ、巨大な足型を取り囲むように右往左往していた。 市民A「とにかく、ロープか梯子を!!」 市民B「衝撃を和らげるクッションみたいなものは?」 大祐「ど、どうしたんですか? 逃げないんですか?」 市民C「見てごらんよ。こんなの避難できないじゃないか!」 巨大な足型は、地面から10m程もめり込んでいたのだ。そのまま、飛び降りれば大けがをすることは間違いない。そこで、数人の若者がその断崖絶壁を降り、避難の経路を作ろうとしていたのだ。しかし、巨大な彩香が素足を振り下ろす度に猛烈な振動が襲い、遅々として進行しないのである。 大祐(くっ・・・! 姉貴はこの状況が分かっていないのか?!) それでも、苦難を乗り越え、どうにかロープや梯子などをセッティングし、市民の避難が始まった。 そんな大祐たちを含む市民のもとへ暗闇が接近してくる。 そう、彩香の巨大な素足が市民体育館の方向にやってきたのだ。 大祐が周囲を見渡すと、もう大半が更地になっていた。 いよいよ、市民体育館近辺を踏み潰すべく、その巨大な素足が登場したのだ。 ズッシイイイン!! 彩香の巨大な素足が市民体育館の間近に振り下ろされる。 その瞬間、避難をしていた市民の多くが転落する。 ズザザザザッ!!! 着地した巨大な素足はそのまま摺り足をして、駐車場にあった乗用車や近辺の住宅をなぎ倒す。 余りの凄惨な破壊力に大祐は、恐怖で泣き出していた。 そして、泣きながらロープを握りしめ、彩香の巨大な足型の中へと避難をしたのだった。 市民D「さあ、こっちへ!!」 大祐「あ、ありがとうございます!!」 市民D「何とかみんなで頑張ろうや!」 大祐「はいっ!」 市民の一致団結した行動に大祐は感謝の気持ちしかなかった。 そして、この残酷な状況を作り出す彩香に強烈に嫌悪感を抱き始めた。 彩香「さて、これで市民体育館以外は踏み潰したわね。」 上空から一仕事を終えた彩香の言葉が発せられた。 彩香「ん? まだ、足型の近辺に人だかりがあるわねー?」 市民E「おおーい!! 逃げろ!!」 市民F「早くー!!」 大祐「踏み潰されちゃう!! 急いで!!」 大祐たち含め、市民は一斉に叫び始めた。 壁面を降りて避難する市民たちのスピードも加速する。 避難していた市民たちも続々と足型の中央付近に集合する。 しかし、その市民たちの行動を大きく裏切るように彩香が発言する。 彩香「よかったわねー。」 市民たち「えぇっ!?」 大祐「何、どういうこと?」 避難していた市民たちに一斉に不安感が宿る。 彩香「それでは・・・」 彩香が言葉を発した瞬間、足型に避難していた市民たちの上空に巨大な足の裏が出現する。 その巨大な足の裏からは、土埃や木材の破片、圧縮された車の断片などが落下し、市民たちに降り注ぐ。 避難していた市民たちは一斉に壁面のロープや梯子を目指した。 彩香「避難していたあんたたちがはずれでしたー!!」 彩香「この足の型に、私がもう一度この麗しい素足をはめ込みます!」 ゴゴゴゴゴ さながら効果音が付くとすれば、こんな感じだろうか。 足型にいる大祐たち目がけて、200倍もの大きさを有する足の裏が接近してくる。 汗ばんだ足の裏はそのほとんどが黒ずんでいるのに、土踏まずの部分は異様に白い。 巨大なつま先部分では指の裏が黒ずんでいるが、その他の部分はオレンジ色に染まっており、体温が高いこともうかがえる。 大祐はつとめて冷静に彩香の足の裏を観察していた。 やがて、巨大な足の裏が足型をぴったり覆い尽くそうとするために、光が失われ始める。 それに伴い、市民たちの叫び声も強まる。 そんな最中、大祐はユーザーベルトで逃げ出すべきか葛藤していた。 今までは、自分の命を守ることが最優先ではあったが、今回のようにみんなで協力して得た命なだけに勝手に逃げ出すのは失礼にあたると感じていたのだ。 大祐(どうすればいいんだ・・・) そうこうしているうちに、巨大な足の裏は、壁面を崩しながら大祐に接近してくる。 皮膚と地面がこすれあうごとにズウウッと不気味な音を立てている。 悩んだ大祐は、ユーザーベルトを使うことをやめて、市民たちと一緒に逃げ出すことにした。 大祐「皆と一緒に逃げなきゃ!!」 ズウッ、ズウウウン!! その大祐の決意の直後、大祐の眼前は巨大な爪先に塞がれてしまった。 そこで、大祐は、逆方向を目指して走り出すことにした。 後方を振り返った瞬間、大祐は間髪入れず巨大な足の裏に押さえつけられる。 大祐「ぐわあああ!!」 小さな大祐にすれば固い足の裏の皮膚がメリメリと大祐を押さえつける。 ピーピーピー 彩香「あらっ? 不器用な奴ねー、また私に踏み潰されたのね。」 自身の足の下で大祐の成長を促すドラマがあったことなど微塵にも感じていない彩香は、無造作にミニチュアの再起動のボタンを押す。 彩香「あれ程、市民体育館に避難するって言ってたのに・・・。」 彩香「やっぱり、私の素足に踏み潰されたかったのね。ド変態なんだから。」 彩香「でも、もっと踏みにじってやればよかったわ。フフッ。」 状況を理解していない彩香は、大祐の繊細な気持ちなど理解してはなく、自身の起こした行動には満足していた。 #16 自業自得 あくる朝、大祐の目覚めはあまり良くなかった。 今日ぐらいはゆっくりと過ごしたい気分でいっぱいであった。 そんな大祐はミニチュアの街を回収しようと彩香の部屋を訪れた。 大祐「姉ちゃん、おはようー。」 彩香は、ベッドの上でぐっすりと寝ていた。 昨日、大祐の生命を幾度となく奪った荒々しい表情はすっかりと消え失せ、優しい寝顔を覗かせていた。 そそくさとミニチュアの操作盤とシートを回収し、大祐は自分の部屋へと戻ろうとした。 大祐「そういえば・・・。僕以外の人も小さくなるのかな?」 ふとわいた疑問である。 ミニチュアの操作盤をカーペットに連結させることで、シートにその部分が再現されているのだから、そこにもし人がいれば同様に小さくなるのではなかろうか。そう思った大祐は、ミニチュアの操作盤を寝ている姉の部屋のカーペットに連結する。そして、操作盤を起動させて、シートを置いてある自室に戻る。すると、案の定そこには、小さくなったテーブルやベッドと共に小さくなった彩香がいたのだ。 大祐「うおー、すげーじゃん。」 ピンポーン♪ 興奮している大祐のもとに呼び鈴が鳴り響く。 大祐「はーい、どちら様ですか?」 ガチャッ! 典子「あっ、大祐ー。おはよー。」 大祐の家を訪問したのは、幼馴染の典子であった。 休日の早朝から訪問した典子は手に勉強道具を携えている。 大祐「ん、もしかして・・・。」 典子「あったりー。勉強教えてほしくて!お邪魔しまーす!」 そのまま勢いよく典子は運動靴を脱ぎ、その大きな素足で家の中へと入った。 大祐は、典子の大きな素足に目を奪われていた。 健康そうなオレンジ色をしていて、湿気が高そうな印象を大祐は感じ取っていた。 大祐「で・・・、ええっ!? 今から勉強するの・・・?」 典子「うん、そうだよ。今日は暇って大祐が言ってたじゃん。」 典子の唐突な提案に、大祐はしどろもどろになっていた。 大祐「あぁ、うん・・・。そうだったね・・・。じゃあ、リビングでやろうか。」 典子「よろしくお願いしまーす。」 典子をリビングに誘い、大祐は部屋に戻って筆記用具や勉強道具などを取りに戻った。 大祐「いやぁ、びっくりしたな。とりあえず、荷物を取ってからミニチュアの電源を落とすか・・・。」 典子「ねえー、大祐ー。」 部屋にいる大祐に向かって、典子は話しかける。 大祐「は、はい?」 典子「トイレ借りてもいいー?」 大祐「あ、あぁ、トイレなら気にしないで使ってー。」 こうして、リビングを出た典子は、彩香の部屋の前にある操作盤に目が行く。 典子「ん? 何かしら、これ・・・。」 典子は目の前にある操作盤に気が付いたものの、さして興味を示さなかった。 典子「何なんだろう。まぁいいや。」 そのまま典子は立ち去り、大祐の部屋の向かいにあるトイレへと入っていった。 時同じくして、大祐も道具を持ってリビングへと足を向ける。 大祐(姉ちゃんは、大丈夫だよな・・・) ふと彩香のことが気になった大祐はそのまま彩香の部屋へと入る。 大祐が戸を閉め、1~2歩進んだところで、大祐の記憶は途切れた。 ズゥン、ズゥン・・・ 下から響きわたる重低音に大祐は気が付いた。 大祐「あ、あれ・・・? ここは?」 大祐の目覚めを待って、彩香が血相を変えて近づいてくる。 彩香「あ、大祐!! 大変よ、私たち小さくなってるみたい。」 大祐「ええっ!? ウソでしょ?」 彩香「だって、周りを見てごらんなさいよ!」 確かに、彩香の部屋を超えた範囲には、さらに巨大な壁やら天井やらが確認できる。 彩香「なんで、私が小さくなってるの?!」 半ギレ状態で大祐に迫るも、大祐もこの状況を受け入れるのに時間がかかっていた。 ズゥゥン、ズゥゥン・・・ 小さくなっている2人が状況を整理しようと必死になっている中、先程の重低音が大きくなってきた。 大祐「これは、もしかして典子・・・?」 彩香「典子ちゃんが来てるの?」 大祐「あ、あぁ、さっき勉強したいって言ってて・・・。」 彩香「じゃあ、典子ちゃんに助けてもらおう!」 そう言うと、彩香は猛ダッシュで半開きになっている巨大な扉に向かった。 大祐「あ、姉ちゃん! 待ってよ!!」 冷静な判断ができていない彩香を、大祐も追う。 ズシィィン、ズシィィン・・・ 明らかに先程よりも重低音が大きくなってきている。 おそらく典子は大祐がどこに行ったか周辺を探しているのだろう。 そして、リビングやキッチンにいないことを確認して・・・ ズシイイン!!! 彩香「キャアアア!!」 大祐「うわああっ!」 半開きになっている扉の向こう側に巨大なヒトの素足が出現、そのまま勢いよく着地した。 ギイイイイ! その轟音と共に、巨大な典子の全貌が明らかになる。 2人のはるか前方にある赤々とした巨大な素足を基点に、上空へと肌色の柱が走り、圧迫感さえ漂う巨大な肉体が露わになっていた。 その絶望的な体格差を間近に見ても、彩香は諦めることなく懸命に典子に向かって助けを求めた。 彩香「下を見て!! 典子ちゃ・・・」 ズシイイン!! その彩香の言葉を遮るようにもう一つの巨大な素足が大祐の部屋へと侵入し、着地する。 彩香「キャアアア!!」 典子「ここにもいない・・・。大祐、どこに行ったんだろう・・・」 典子の声が部屋に響き渡る。 典子「きゃっ! 足下に何かいる!!」 その言葉に彩香も大祐もはっとして上空を見上げる。 眉を顰め、いぶかしそうに床を見つめる典子の顔がそこにはあった。 彩香「の、典子ちゃーん!!」 大祐「典子ー!! 僕たちは下にいるんだ!!」 典子「アリ・・・? アリが2匹いるのかしら・・・。」 彩香「な、何を言ってるのよ! 私たちよ、気づいて!!」 典子「人間の足下でチョロチョロと動きまわって・・・。」 明らかに典子の顔が不機嫌そうな表情に変わっていた。 しかし、典子の発した「人間の足下」という言葉に彩香も大祐もショックを隠せずにいた。 彩香「ウ、ウソでしょ・・・」 大祐「の、典子! よく見るんだ!」 典子「窓から放り投げてあげましょう。」 そう典子が言った次の瞬間、上空から巨大な手が降臨してくる。 その巨大な指で小さな彩香と大祐を摘まもうとしているのだ。 彩香・大祐「!!!!!」 その行動に彩香も大祐も一目散に逃げまわった。 小さな彩香と大祐の周囲では、バチンバチンと指どうしがぶつかりあっている。 しかし、いくら巨大とはいえ、典子が正確に指で摘まもうとするのは難しいものがあった。 典子「んもうー。」 典子は、悔しそうな声を上げながら再び立ち上がる。 大祐「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」 彩香「何とか、逃げ切れた・・・。」 彩香ははるか前方で様子を窺っている大祐に大きく手を振った。 それに答えるように大祐も両腕を使って、○印を作った。 2人がそんな些細な喜びに浸っているなど微塵にも感じていない典子は再び口を開く。 典子「別にいいや、こんな虫けら。」 ズシンズシンと足音を響かせながら、典子はその巨体を後にしたのだった。 彩香「た、助かった・・・」 大祐「い、今のうちにミニチュアの電源を落としてくるよ!」 命からがら逃げることに成功した2人であったが、とにかくミニチュアの電源を落とすことで一致した。 大祐が無我夢中で走り続け廊下に出ると、ちょうど、典子はリビングに入る直前であった。 大祐「よし、そのままリビングにいてくれよ・・・」 典子「もう! 帰ろうっと。」 ようやく彩香の部屋が目前まで迫ったとき、なんと典子が帰り支度を済ませ接近してきたのだ。 ズシーン、ズシーン! 大祐「うわわっ!!」 迫りくる典子に対して、大祐は一瞬前進すべきか、後退すべきか思案に暮れてしまった。 その大祐の考えの間隙をついて、典子は一気にその巨大な素足を大祐へと差し出す。 ズッシイイン!! 大祐「うわあああっ!!」 大祐の真横に猛烈な勢いで典子の素足が着地する。 着地の衝撃で、小さな大祐はゴロゴロと盛大に転げまわる。 典子「あれー、またアリがいる。」 回転の収まった大祐が周囲を見渡すと、大祐はちょうど典子の素足が浮かび上がろうとしている光景を目の当たりにした。 典子「まあ、汚れるけどいっか。ペチャンコにしちゃえ。」 大祐「ま、待って!!」 その言葉に大祐は、必死に逃げようと試みる。 しかし、ぐるぐると回転した大祐は、まともに逃げることなどできず、その場を右往左往するしかできなかった。 そんな大祐に何の容赦もなく典子の26cmもの素足が降臨してくる。 大祐「うわあああ!!」 ズッシイイイン!!! 典子「あー、1匹始末できた。」 ピーピーピー! その瞬間、ミニチュアの操作盤から警告音が発せられる。 典子「えっ、ええっ、どういうこと?」 その警告音に驚きを隠せないでいる典子は、急いでその操作盤を見渡す。 そして、とりあえず電源と思しきボタンを押して、その警告音を止める。 典子「ヤバ、急いで帰ろう!」 突然の警告音に何かまずいことをしでかしたと勘違いした典子は大急ぎで大祐の自宅を後にする。 しかし、その大祐の犠牲のおかげで2人は元に戻ることができた。 大祐は典子に踏み潰された感触にしばらく悶えてはいたのだが。 #17 よからぬ企み 大祐「おお、郁也。待ってたよ。」 郁也「ミニチュアの街を買ってたのか、すげーなー。」 大祐は親友の鏑木郁也を自室に招き入れていた。 以前からミニチュアの街に興味を抱いていた郁也と共にミニチュアを満喫しようと考えていたのだ。 大祐はこれまでの体験を郁也に話す。 郁也も興味津々とばかりに大祐の話に耳を貸す。 大祐「というわけで、これからうちらは小さくなろう。」 郁也「うーん、わくわくするなぁ。」 大祐「それでは、ミニチュア起動!」 大祐はミニチュアの操作盤を自分の部屋のカーペットにつけて、リビングにミニチュアの枠を置く。 操作盤の起動と共に2人の意識が無くなるのもあっという間であった。 郁也「う、うぅ~ん・・・。」 大祐「おお、郁也。目が覚めたか。」 郁也「うおおっ。本当に小さくなってる。」 大祐「この腕に巻いている簡易操作ベルトでサイズを変えれるんだぜ。」 郁也「早速、家の中を探検しようや。」 大祐「ああ。だけど、姉貴が部屋にいるんだよな・・・。」 郁也「えっ、本当? じゃあ、お前の姉ちゃんの部屋に行こうよ。」 興奮している郁也の提案に大祐は今一つ乗り切れずにいた。 というのも、今まで姉の彩香がらみでロクな目にあったことはない。 できれば、彩香と会うことは避けたいところである。 大祐「うーん。危なくないかな・・・。」 郁也「ちょっとだけでも見に行こう!」 そう言うと、郁也は彩香の部屋に向かって走り出した。 若干の不安は残るものの、大祐も渋々彩香の部屋を目指すことにした。 2人が彩香の部屋を目指していると、部屋からいびきが聞こえてくる。 彩香「グゥー・・・、グゥー・・・」 部屋に入った2人を出迎えたものは彩香の巨大な右の足の裏であった。 部屋の中では、仰向けになった彩香が大の字になってぐっすりと寝ていた。 右の手足は無造作に投げ出され、左手は目を覆い、左足は立ち膝の状態になっている。 しかも、部屋が暑いせいか、彩香が着ているキャミソールは腹の部分がめくれ、へそが丸出しの状態になっている。 あまりにも無防備な彩香の姿に大祐も郁也もすっかり興奮していた。 郁也「だ、大祐の姉ちゃん・・・、迫力もそうだけど、色っぽい・・・。」 大祐「うえっ、よくそんなことを・・・。」 彩香「う、うぅ~ん・・・。」 郁也の言葉に反応したのか、彩香は伸ばしていた右手を胸元へと移動させる。 そして、汗ばんだ乳房のあたりをボリボリと掻きはじめた。 郁也「よし、彩香さんの腹の上に乗っかろうっと。」 郁也は小走りで近寄り、彩香の短パンに手をかけよじ登り始める。 大祐も細心の注意を測りながら、郁也の後を追った。 こうして、彩香のお腹の上に到達した2人は、サイズを4~5mmに設定しピョンピョンと跳ね上がった。 2人とも彩香のおなかのシワに飲み込まれないように注意しながら彩香の腹の上を飛び跳ねる。 今の2人のサイズでは、彩香の肉のたるみでさえ軽々と飲み込まれて圧死してしまう危険性があるからだ。 やがて、2人は彩香のお腹に座りながら談笑を始める。 大祐「うーん。姉ちゃんの呼吸のせいで地面が動くなあ…。」 郁也「しかも体温のせいで熱いし、汗のせいでじめじめしてるね・・・。」 大祐「これからどうする?」 郁也「うーんと、僕は彩香さんの足先を目指してみるよ。」 大祐「じゃあ、僕はお腹の上を探索してみるよ。」 こうして、郁也は彩香の太もも付近を歩きながら、彩香の足先の方へと歩き始めたのだった。 大祐も彩香の腹の上からその光景を見守っていた。 しかし、その平和を崩すように大祐の背後からゆっくりと彩香の巨大な右手が出現する。 大祐「うおっ・・・、何だ、何だ?」 さらに大祐のいるお腹付近が激しく揺れ動き、大祐は体勢を整える間もなく彩香のおなかの上を転がってしまった。 大祐「うわあああっ!」 ごろごろと彩香のおなかの上を転がっていく大祐。 なす術もなく転回する小さな大祐は、やがて彩香が作り出すさながらブラックホールのごとき暗闇の中へと吸い込まれていった。 郁也「あれっ、大祐・・・。ってうわあああっ!!」 大祐が転がるさまを見ていた郁也はその場で腰を抜かしてしまった。 なんと、巨大な彩香が上体を起こしていたのだ。 彩香「んー、虫かぁ。」 その瞬間、郁也のいる付近に彩香の巨大な手が接近する。 実に正確にそれでいて俊敏に巨大な掌がい小さな郁也を潰さんと接近する。 バチイイン!! そのまま郁也は彩香によって叩き潰されてしまった。 一方、大祐は狭い落とし穴のような空間に投げ出されていた。 大祐「あいててて…。ここは?」 大祐は落とし穴の真下に位置しており、上から光が差し込んでいた。 周囲が肌色の物体で覆われていることから、彩香の体のどこかに位置していることは間違ない。 周囲の壁をよく見てみると、ところどころ黒っぽくて軟らかい物体が付着しているのがわかった。 大祐がそこに近付くと、激しく腐敗した臭いを放っており、大祐は思わずせき込んでしまった。 大祐「そうか…。姉ちゃんのへその中だ。」 彩香の巨大なへその中に落ち込んだ大祐はようやく事態を飲み込めた。 大祐は急いでへその表面を叩き、彩香に自分の所在を知らせようとした。 大祐「おーい!姉ちゃん、助けて!!」 しかし、彩香からは全く何の返答もない。 仕方なくへその表面に手をかけ脱出を試みようとするものの、表面がネチャネチャしていて掴みづらい。 しかも激臭を放っているため、脱出は容易ではない。 大祐「姉ちゃんはへその中も汚いのか…。」 彩香に幻滅した大祐は深い溜め息を付くと、ひたすら彩香のへその内部を叩きまくった。 そのときであった。 バチイイン!! 大祐が閉じ込められている空間の外から何かの爆撃音が響いたのだ。 一体、外で何が行われているのかは大祐にはわからない。 とにかく大祐は、彩香のへその内部を刺激しまくった。 しかし、次の瞬間、へその内部の空間が急激に圧縮される。 大祐「ぐわあああっ!!」 中にいた大祐はなすすべなく周囲の肉壁によって簡単に潰されてしまった。 彩香は太ももの虫を潰し、その正体を確認するべく上体を起こしたにすぎない。 しかし、この動作は小さな大祐にとって致命的であった。 へその内部は上体を起こすことによって、その重量がまんべんなく襲いかかったのだ。 当然、大祐は自分の身に何が起こったか分からないまま一瞬にして命を絶たれてしまった。 彩香「あ、血だ・・・。結構吸われてたのね。もう!」 彩香は小さな郁也を叩き潰した掌を見ながら悔しさをにじませていた。 と同時にへそ付近に感じていた微妙なこそばゆさにも違和感を感じていた。 そして、そのまま彩香は左手でおなかをさすったのだった。 しかし、この2人の行動は、部屋の外に設置されたミニチュアの操作盤から発せられた警告音によって彩香に気付かれてしまう。 しかも、勝手に部屋に入ったうえで自らの体を弄ばれたというかつてない恥辱感を彩香に与えていたため、かなりの怒りを買ってしまったのだ。 彩香のお仕置きがついに始まってしまう・・・。 #18 凄惨なお仕置き 郁也「う、ううっ・・・。こ、ここはどこだ・・・?」 大祐「ほんとだ。ここは一体…?」 大祐と郁也は周囲を黒い布で覆われた空間に投げ出されていた。 しかも、ジメジメとしていて、言い様のない臭いが周囲を漂っている。 2人とも何が起こっているかを理解できないでいた。 大祐が一歩踏み出すと、下はジトッとした湿り気を感じることができた。 大祐「郁也、あまり遠くにいくなよ。」 ズウォォン! 大祐がさらに言葉を続けようとしたとき、唐突に地響きが聞こえる。 ズウォォン! 郁也「な、何事だ?」 ズウォォン! 大祐は、この地響きの正体が何であるかはおおよそ見当が付いていた。 しかし、それを口にしたところで状況が変わるわけでもない。 大祐は、想像も付かないといった表情で、郁也の方を振り向いて顔を横に振った。 ズシィィン! いつしか、地響きも重低音を増していた。 明らかに、何かが近付いてきている。 気付けば、郁也は地面の黒い布を裂こうと懸命に力を出していた。 郁也「大祐、何とか脱出しないと!!」 大祐「あ、ああ・・・。」 目の前で懸命に脱出を図る郁也に対して、大祐は何の行動も起こせなかった。 というよりも行動を起こさなかったという方が正しいだろう。 ズシイイン! 地響きは力強さを増して近付いてくる。 大祐も郁也もなす術なく、事の成り行きを見守っていた。 ズシイイン!! ズシイイン!! やがて、地響きは収まり、辺りを静寂が包みこんだ。 ベタ! ベタッ! ベタッ!! 1歩ずつ確かめるように彩香がリビング内で歩を進める。 まるで小さな2人に自分の存在を知らせるように。 やがて、彩香は2人が閉じ込められているものの付近に仁王立ちする。 彩香「ふふふっ…。2人ともどこに閉じ込められているかわからないでしょうね…。」 しばらくの間、彩香はそれを眺めていたが、やがて思い立ったかのように小さな2人がいるものに巨大な手をのばす。 彩香が手を掛けた瞬間、小さな2人は黒い布に包まれた空間の奥深くへといざなわれてしまった。 大祐・郁也「うわあああっ!」 しかし、そんな小さな悲鳴など巨大な彩香の耳に届きもしない。 大祐「ううっ…。もしかしてここは…。」 ここにきて大祐はようやく自分達のいる場所に気がついた。 午前中、彩香がジョギングをしたときのことだ。 * 彩香「はぁ~、疲れた…!」 大祐「お疲れー。ってまだそのシューズ使ってるの?」 彩香「いいじゃない。普段から使ってる靴の方が走りやすいし。」 大祐「だけど、その汚さ…。」 彩香「そうかなあ…?」 彩香は首を傾げつつもシューズを脱ぎ、家の中に入ろうとする。 大祐「靴下の裏に指の形がついてるじゃないか・・・。」 彩香「あら、本当だわ。もう、そんなに力入れて走ってたかな?」 そう言いつつ彩香は靴下を脱ぎ、大祐の顔にぶつける。 大祐「ぐわっ、臭い!何するんだよ!」 彩香「失礼しちゃうわ。女の子に向かって何言うのよ!」 大祐「だって、そのシューズで運動した後ならなおのこと…。」 彩香「ふーん…。この脱ぎたての足で押しつけてあげよっか、小さくして。」 大祐「いやいやっ。冗談に決まってるじゃないか~。真に受けないでよ、姉ちゃん。」 彩香「ま、いいけどね。」 * 大祐の脳裏に、彩香とのやり取りが浮かぶ。 十中八九、ここは彩香の靴下の中だ。 そうなると、彩香はこの靴下に自身の巨大な足を入れようというのか。 そんなことになれば、彩香の巨大な臭い足の裏に押しつけられて身動きがとれなくなる。 大祐「た、助けてー!! ここから出して!!」 大祐は精一杯の声で靴下の中から叫ぶも巨大な彩香に小さな叫びは届かない。 2人の周囲は変わらず彩香の足の臭いと湿気が支配している。 彩香「さあて、では、振り回してみようかしら。」 次の瞬間、大祐と郁也はあらゆる場所に叩き付けられた。 時には、靴下の湿り気に顔を突っ込むこともあった。 時間にして数十秒ほど、振り回されただろうか。 もうすっかり大祐と郁也には抵抗する力は残されていなかった。 大祐「ううぅ・・・。」 郁也「大祐・・・、大丈夫か・・・?」 小さな2人はただただ、靴下の中でうなだれていた。 しばらくの静寂が支配した後、2人の周囲が大きく揺れ始め、上空から光が差し込む。 黒い靴下ということもあったため、上空の光に思わず2人とも目を細める。 2人の上空に巨大な爪先が出現したのは、そのすぐ後だった。 彩香の巨大な爪先が上空に君臨する。 大祐も郁也も思わず息を飲み込む。 やがて、光の道筋を埋めながら、巨大な爪先が接近してくる。 逃げようにも逃げ出せず、閉ざされた空間の中で大祐と郁也は必死に布地を裂こうとしていた。 ズザザザッ!! 一気に彩香の巨大な素足が靴下の中に侵入する。 彩香の素足は靴下の中腹まで侵入し、その衝撃で大祐は先端部分から彩香の爪先へ移動させられた。 彩香の5本の足の指は軽く上がっており、大祐は中指の付け根部分にぶつかっていた。 大祐はすかさず体勢を整え走り始めた。 というのもそのままでいれば、美紀子の素足に擦り潰されてしまうからだ。 しかし、そんな大祐を知ってか知らずか彩香は大祐に足の指を下ろした。 突如として途方もない力で大祐は押さえ付けられる。 大祐「うわあっ!助けてくれ!!」 彩香「んふふ・・・。何か聞こえるわ。」 次の瞬間、彩香の足の指は軽く上昇する。 大祐はここぞとばかりに脱出しようとするが、間髪入れず足の指が押さえ付ける。 彩香の足の指はベチベチと小さな大祐を叩き付ける。 大祐「グワアッ!ギャアッ!」 彩香の足の指が押さえ付ける度に大祐は悲鳴をあげる。 彩香「あはっ、足の指に何かがいるわね~。」 郁也「大祐・・・!!」 大祐「おお、郁也・・・。助けてくれ・・・。」 郁也「ダメだ・・・。俺も中指と薬指に挟まってる・・・。」 絶体絶命の危機を迎えていた2人は、次の瞬間、一気に床に投げ出される。 大祐・郁也「うわあああっ!!」 彩香「2人とも立ち上がりなさい。」 大祐「うう・・・。」 郁也「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」 彩香「聞こえないの?」 ズッシイイイン!!! 大祐・郁也「うわあああっ!!」 体力の奪われた2人に配慮することなく、彩香は巨大な素足を床に叩きつける。 慌てて、2人はその場に立ち上がる。 彩香「じゃあ、脱出ゲームをクリアしたら2人とも見逃してあげるわ。」 郁也「……。どうすればいいんですか?」 彩香は小さな2人を部屋の入口にあるスリッパにのせた。 彩香「合図とともに私がこのスリッパを履くからここから脱出できれば2人の勝ち。たったそれだけ。」 郁也「えっ、それってどういうこと・・・?」 大祐「姉貴はどこからスタートするの?」 彩香「私は部屋の中から移動するわ。」 そんなに難しいルールでもなかったので大祐と郁也はこのゲームを承諾した。 さすがに時間ギリギリの勝負にはなるだろうが、これならまだ勝てる可能性がある。 体力も先程よりは多少は回復してきている。 ある程度の勝算を感じながら大祐と郁也は思案を巡らせていた。 しかし、彩香は大祐のそんな一縷の希望ですら抱くことを許してはいなかったのだ。 小さな2人はスリッパの先端部分で待機するように彩香に指示される。 あとは彩香の合図で全力で猛ダッシュすればいい。 スリッパの後方、いわば2人の目線のはるか先には巨大な彩香が手を腰に当て、悠然と立っている。 スリッパまでは彩香の距離にして7、8歩であろうか。 大祐と郁也はいつでも脱出できるよう入念にストレッチを繰り返していた。 彩香「そろそろいいかしら?」 スリッパの中で大祐は腕でわっかを作りOKの合図を出した。 しかし、このとき彩香の企みに小さな2人は気付くべきであった。 彩香「じゃあスタート!」 2人が合図と共に全力疾走するも、なぜか遠方の彩香は歩き出そうとしない。 彩香はひたすらリモコンを操作しているだけなのだ。 次の瞬間、大祐と郁也の意識が一瞬遠のく。 ふらつきながらもどうにか体勢を整える大祐と郁也。 大祐「……!? いったい何があったんだ?」 郁也「だ、大祐・・・。見ろ・・・。」 瞬時に何が起きたか理解できないでいる大祐を現実に引き戻す重低音が響く。 ズッシイイイン!!! 大祐のはるかはるか遠方ではとてつもなく巨大な素足が大地を踏み締めていた。かすんだ景色の上空では、ニヤリとほくそ笑む彩香が口を開く。 彩香「あら…、もう、大祐たちがどこにいるか全然分からないわね。」 ズッシイイイン!!! 彩香「さすがに1mmは小さすぎたかしら?」 ズッシイイイン!!! 彩香「いま、踏んづけてあげるから待ってなさい。」 ズッシイイイン!!! 巨大な彩香がスリッパに接近するにつれて、さらに巨大になっていく。 しかも、床から突き上げられるような猛烈な地響きに大祐と郁也はただただオロオロするばかりだった。 ズッシイイイン!!! 大祐・郁也「うわあああっ!!」 ついにスリッパの間近に巨大な彩香の素足が振り降ろされる。 その衝撃で大祐と郁也はスリッパから吹き飛ばされてしまった。 彩香「んん…。ダメね、私の目ではどこにいるかわからないわね。」 スリッパを凝視する彩香の右足の爪先付近に郁也は落下し、大祐は左の足の甲に乗っかっていた。 大祐「郁也ー!! 急いで逃げるんだー!!」 大祐が急いで彩香の足の甲から叫ぶも、郁也にはその声が届いていない。 小さな郁也は、彩香の親指付近を彷徨っていた。 しかし、そのとき彩香は無意識に巨大な爪先を郁也の方向にスライドさせてしまう。 一瞬であった。 小さな郁也は巨大な爪先に弾き飛ばされ、そのまま巨大な親指に潰されてしまった。 彩香の意思とは関係なく、郁也はものの見事に瞬殺されてしまった。 大祐はすくざま上空の彩香に抗議する。 大祐「な、なんでこんな残酷なことをする・・・。」 彩香「あら、足の甲に何かいる・・・。なんだろう・・・。」 大祐の言葉を遮って、巨大な彩香が口を開く。 彩香「あぁ、大祐ね。」 次の瞬間、左の素足に乗っかっている大祐を右の素足がが襲う。 大祐「ギャアアアッ!!!」 こうして、彩香によって、小さな2人は圧死させられたのであった。 #19 新たなる発見 大祐はいつも通り予備校から帰り、自宅付近のコンビニに立ち寄った。 大祐「コーラでも買うか。」 陳列棚から無造作に取り出したペットボトルを手に取り、大祐はレジへと進む。 店員「いらっしゃいませー。」 大祐(うおっ。めっちゃかわいい娘だ!) 大祐に対応した店員は、ショートカットに小顔で目が大きく八重歯が印象的な若い女性であった。 ネームプレートには「小嶋」とだけ書かれていた。 店員「130円になります。」 店員の声にハッと我に返り、慌てて大祐は代金を支払い、家路へと向かったのであった。 彩香「あぁ、舞佳ちゃんでしょう?」 意外にも彩香は、あのコンビニの店員のことをよく知っていた。 どうやら彩香と同じ大学に通っているため、ある程度のことを知っているようだ。 彩香によれば、店員は「小嶋舞佳」という名で年齢は彩香と同じ20歳、身長が155cm程、ボランティアサークルに入っているとのことであった。 彩香「大祐のこと舞佳ちゃんに教えてあげようか、変な性癖を持ってるって。」 大祐「んなっ! 何言ってるんだよ!」 彩香「あはは。冗談、冗談。」 彩香の何気ない一言が冗談に聞こえない大祐は、大きくため息をついていた。 やがて、部屋に戻った大祐は、ミニチュアの街を起動させる。 大祐「えーっと、確かあのコンビニは・・・。あ、あった、あった。」 あのコンビニを見つけた大祐は、ミニチュアのサイズを1倍サイズにしてレジのコーナーを出現させるように調整した。 大祐の目の前に唐突にミニチュアの舞佳の姿が出現する。 レジ前にいる舞佳は、中華まんの整理を終えると、くるりと振り返り大祐の方向へと歩み寄ってくる。 大祐「えっ、こっちに来る! どうしよう。」 しかし、大祐の戸惑いとは裏腹にミニチュア外へ舞佳が出ることはなく、そのまま姿は消えてしまった。 しばらくの間コンビニの様子を窺っていた大祐は、舞佳の姿を見かけなくなったことに気が付いた。 大祐「あれっ? どこに行ったんだろう・・・?」 大祐は、ミニチュアの操作盤に手を伸ばし、ミニチュアのサイズを20分の1程度にした。 すると、ちょうど店の裏側から私服姿で出てくる舞佳の姿を発見することができた。 そのまま、舞佳は駐輪していた自転車に乗り、足早に家路へと向かったようだ。 大祐「おおっ、このまま見てれば舞佳ちゃんの家がわかるんじゃないかな・・・。」 大祐はミニチュアのサイズを適度に調整し、舞佳の行く方向を注視した。7~8分程度経過した頃、舞佳はとあるアパートの前で自転車を降りた。ここで大祐はそのアパートの表札を一つ一つ丹念に調べていき、2階の角部屋に「小嶋」というプレートを見つけた。 大祐「あぁ、この部屋だな・・・。」 大祐は、ミニチュアの位置を2階の角部屋の中の玄関に移動させ、サイズを1倍に戻そうとした。 しかし、慌てた大祐は、ミニチュアのサイズを10倍に設定してしまった。 大祐「あ、間違っちゃった。」 そのときであった。 ドン、ドン、ドーン・・・ ミニチュアから重低音が響いてきたのだ。 大祐「え、どうしたんだろう・・・。」 ミニチュアの中に一歩入りこもうと立ち上がった大祐がミニチュアのシート部分に近づく。 その瞬間、大祐の部屋の天井付近がモヤモヤっと揺らいだかと思うと、突如人間の素足の裏が出現したのだ。 大祐「えええっ!?」 慌ててミニチュアから離れようとする大祐など、気にする素振りもなく一気にその大きな素足は振り下ろされる。 ズシーン! その大きな素足は軽々と大祐を飲み込めるほどのサイズで、大きさにして約2メートル強はあった。 大祐「こ、これは舞佳ちゃんの足・・・?」 大祐がその素足に触れようと近づいた瞬間、その素足は一気に前方へと繰り出される。 ブウーン!! 大祐「ぬおっ?!」 思わず防御する大祐ではあったが、その大きな素足はミニチュアから忽然と姿を消してしまった。 おそらくは、ミニチュア内の舞佳が歩き、足を移動させたために消えてしまったのであろう。 大祐は興奮冷めやらぬ状態で、床に座り込んだ。 大祐「こ、これはスゴイ・・・。姉ちゃんに頼まなくても縮小を体験できるじゃないか・・・。」 ニヤニヤとほくそ笑む大祐は再び操作盤を起動させ、サイズを1倍サイズに戻す。 程なくして、通常サイズの舞佳がミニチュアに出現する。 大祐は、舞佳の足下に視線を移す。 靴を脱いで部屋に戻った舞佳の素足は赤々として体温が高そうだ。 大祐は、先程の大きな素足の持ち主は舞佳であることに間違いなく確信をもった。 程なくして、舞佳はそのほっそりとした脚を伸ばしながら床に座り込む。 右の脚はそのまま投げ出され、左の脚は少し膝を折り曲げた形で足裏を床につけていた。 舞佳は、大祐に右の足の裏が見えるような形で、足を投げ出していた。 大祐はこのシチュエーションにいたく喜びを感じていた。 何しろ姉の彩香以外の女性が無防備に足の裏を投げ出すなど、そうそう考えられることではない。 大祐は、満面の笑みを浮かべながら、ミニチュアのサイズを徐々に拡大させていった。 大祐の操作に合わせて、舞佳の足の裏が徐々に大きくなっていく。 やがて、大祐の部屋の床から天井までを舞佳の素足が占拠する。 ミニチュアの端からは舞佳の足首が顔を覗かせ、そこからなだらかなカーブを描きながら舞佳の素足が出現している。 このサイズでおそらくは10倍近くはあるだろう。 この光景に大祐はだんだんと興奮を抑えられなくなっていた。 そして、舞佳の素足の魅力に負けた大祐はとうとうミニチュアの中へと足を踏み入れる。 大祐の目の前には、舞佳の大きな素足が無造作に鎮座している。 時折、リズミカルに大きな素足が揺れており、大祐は興奮の坩堝に呑まれていた。 大祐「これはすごいな・・・。」 感心している大祐は意を決して、舞香の足の裏に抱きついてみた。 舞佳「?!!」 足の裏に抱きついた大祐は、そのままミニチュアの中に引きずり込まれ、舞香の足に思いっきり踏んづけられてしまった。 ムギュッ!! 大祐「ぐああああっ!!」 舞佳「な、何なの、こいつはっ!?」 怒りの表情を見せるミニチュアの舞佳に、大祐は焦りの色を隠せずにいた。 #20 まさかの秘密兵器!? 舞佳「小人・・・? 何で、勝手に上がり込んでるのかしら?」 ムギュッ、ムギュッ!! 舞佳の言葉に合わせて、大きな素足が大祐を踏みつける。 大祐「ぐわっ! ギャッ!!」 舞佳「最近、流行っているサイズ変換器を使って忍び込んだのね?」 ズシーン!! 勢いをつけて、舞佳の素足が一気に大祐へと振り下ろされる。 思いのほか舞佳の足の裏は固く、床との間に挟まれていた大祐は鼻血を出してしまった。 舞佳「何とか言ったらどうなの?!」 ズシーン!! 大祐「グフォッ!!」 舞佳の大きくてやや角質のある踵が、大祐の腹部を直撃する。 大祐の腹部には、舞佳の大きな素足が乗っかっている。 今の10分の1サイズしかない大祐のサイズでは当然のことながらびくともしない。 それでも大祐は両手を使って懸命に持ち上げようと努力していた。 舞佳「馬鹿な奴ね、私の足を持ち上げられるはずがないでしょう?」 そう言いながら、舞佳は大きな素足をグリグリと動かす。 大祐「ゴホッ、ガハッ!!」 あまりの大きな素足の重量にとうとう大祐は咳き込んでしまう。 そして、大祐はこの状態から抜け出すために、ユーザーベルトに手を伸ばす。 舞佳「キ、キャアアアッ!!」 大祐が元のサイズに戻った瞬間、素足を乗せていた舞佳はその場にひっくり返ってしまった。 そして、体勢を戻した大祐は急いで、ミニチュアのシートから脱出しようと試みる。 しかし、その瞬間、信じられない出来事が起こる。 大祐が脱出しようと走り出したにも関わらず、一向にミニチュアのシートの端の部分へと到達しないのだ。 しかも、ミニチュアのシートの外側に広がる大祐の部屋の家具がどんどんと大きくなっているのだ。 この現象に首をひねりながらも大祐は懸命に走り続けた。 ズシイイン!! 大祐の背後にひときわ大きな重低音が響く。 舞佳「ふう、間に合ったわ。」 大祐が慌てて振り向くと、そこには100倍はあろうかという舞佳の直立した姿があったのだ。 舞佳の手には世間を賑わせているサイズ変換器が握り締められていた。 舞佳「侵入者用に買っておいて良かったわ。」 大祐「う、うそ・・・。でかっ・・・。」 舞佳の大きさに見とれていた大祐は、すっかり言葉を失っていた。 ミニチュアの舞佳がサイズ変換器を持っているなど夢にも思わなかったのだ。 ズシイイン!! 瞬間的に我を失っていた大祐は、舞佳の踏みしめられる素足に正気を取り戻し再び走り出した。 舞佳「あっ、まだ逃げるの? これ以上逃げたら一気に踏み殺すけどいいの?」 舞佳の言葉に大祐は背筋が凍りついたものの、構わず走り続けた。 ズッシイイイン!!! 大祐「うわあああっ!!」 走りゆく小さな大祐の真横に、舞佳は巨大な右の素足を着地させた。 着地の衝撃で、大祐は横方向に転がされる。 転んだ大祐は、一瞬だけ仁王立ちしている舞佳と目が合った。 すると、足元で地べたに這いつくばっている大祐に対して、舞佳は微笑みながら口を開く。 舞佳「死ね。」 着地した巨大な右の素足が再び上昇する。 慌てて、体勢を立て直した大祐は前へと全力疾走する。 ズッシイイイン!!! 大祐の背後に物凄い衝撃が走る。 大祐の真後ろには、肌色の壁が迫っていた。 おそらくは、舞佳の巨大なつま先のはず。 振り返ることもなく懸命に走り続ける大祐の上空を、徐々に肌色の平面が侵食していく。 確認するまでもなくそれは舞佳の足の裏であろうことは、想像に難くなかった 猛烈な勢いで、舞佳の巨大な足の裏は小さな大祐に闇を与える。 大祐「や、やばいっ・・・!!」 死を感じ始める大祐に対して、巨大な舞佳は全く容赦することをしない。 再度、舞佳の巨大な素足は、小さな大祐を圧死させるべく降臨を始める。 大祐「う、うわあああっ!!!」 ズッシイイイン!!! 舞佳「あれ? どこにいったんだろう・・・。」 舞佳は射程距離に入った小さな侵入者を踏み潰した感覚を得ることはなかった。 間一髪ながら、大祐はミニチュアのシートから脱出することに成功していた。 ミニチュアの外に脱出できた大祐は、肩で息をしながら呼吸を整えていた。 しかし、ミニチュアの舞佳が操作したサイズ変換器は有効なようで、ミニチュアに脱出した大祐のサイズは変わらず100分の1サイズのままであった。 大祐「くそっ! 早く解除してくれないかな・・・。」 大祐の願いもむなしくミニチュアの舞佳は、懸命に小さな侵入者を探していた。 しかも、舞佳がサイズ変換器を握り締めているため、今の大祐では手も足も出ない。 そひて、イラつきを覚える大祐のことなど知る由もないミニチュアの舞佳はとうとう別の部屋に移動したらしくミニチュアから姿を消してしまった。 大祐「あー、もうっ!! どうすればいいんだ?」 落胆し寝転んでいる大祐に新たな危機がゆっくりと近づいてきていた。 ズシイイン!! 寝転ぶ大祐を諌めるかのごとく、強烈な一撃が繰り出される。 彩香「大祐ー、いるー?」 サイズ変換器で縮んでいる大祐のもとに、姉の彩香が現れたのだ。 #21 2400メートルの平面 彩香「大祐ー、いるー?」 サイズ変換器で縮んでいる大祐が足元にいるなど知る由もない彩香は、大祐の部屋を見回す。 大祐「あ、姉貴・・・。」 大祐は思わずゴクリと息を呑み込む。 このまま姉に助けを求めることが正解なのかどうか、それとも身を隠したほうが正解なのか。 100分の1サイズに縮んでいる大祐は、ゆっくりと後ずさりしながら思案に暮れていた。 彩香「ん?」 大祐「ひゃぁっ!」 彩香の双眸が小さな大祐を捉えたような感覚に陥る。 大祐は、大きく深呼吸をしてから巨大な彩香の動向に注目した。 彩香「まあ、またミニチュアを出しっ放しにしてるのね・・・。」 そう口を開いた彩香は、大祐の部屋のドアを勢いよく開ける。 その瞬間、巨大な彩香の全景が明らかにされ、小さな大祐は恐怖で震え上がった。 そして、大祐から見て100倍ものサイズがある縦幅24mの右の素足を持ち上がった。 汗をたくさんかいていることが容易に想像できる湿り気のある巨大な足の裏は廊下にある埃をたくさん吸い付けている。 やがて、そのオレンジ色に染まった巨大な平面は、何の躊躇もなく大祐の前方に振り下ろされる。 ズッシイイン!! 大祐「う、うわわっ!?」 大祐はものの見事に彩香の一歩でひっくり返った。 体勢を崩した大祐は急いで起き上がる。 ズシイイン!! 彩香の二歩目が繰り出される。 しゃがみこんで体勢を整えている大祐は、その巨大な素足の行く末に注視していた。 ズシイイン!! ミニチュアの方向へと歩く彩香は、右の素足を再び踏みしめ、小さな大祐を踏み潰さんばかりに接近してくる。 しかし、大祐は何とか巨大な彩香から逃げおおせる位置へと避難することができたのであった。 彩香「えっ!? 何、何?」 ふいに上空の彩香が驚きの声をあげる。 大祐が彩香の視線の先を見つめると、なんとミニチュアのシート上に1倍サイズの舞佳が出現したのだ。 舞佳「逃げ足が速いやつね~。」 彩香「え・・・、どういうこと? なんで舞佳ちゃんが・・・。」 突然の舞佳の出現に戸惑う彩香は、この状況が良く飲み込めないでいた。 彩香「と、とりあえず、サイズを元に戻さないと。」 ズシイイン!! ズシイイン!! そう言うと、彩香は大祐の付近にあるミニチュアの操作盤へとその身を移動させ、慣れた手つきで操作盤を動かす。 次の瞬間、大祐の意識が飛びかける。 彩香「よしっ、これで100分の1サイズね。」 轟音にも似た彩香の大きな声で、大祐は目を覚ます。 大祐「え、あ・・・。」 大祐は言葉を失ってしまった。 彩香がミニチュアを100分の1サイズに設定し直すと同時に大祐のサイズもさらに縮んでしまったのだ。 大祐のはるか前方には、床にどっかりと腰を下ろした超巨大な彩香が君臨していた。 大きさにして実に1万倍、あまりの巨大さに彩香の全景が霞んで見える。しかも、大祐のはるか前方には、2400mもの広大な彩香の右の足の裏が露わになっていたのだ。 大祐「ね、姉ちゃん・・・。」 小さな大祐の声などもはや届く由もない。 大祐があたふたしていると、超巨大な彩香に動きが見られた。 彩香は、左脚を立ち膝のように置き、右の脚は胡座をかいている。 そして、その折り曲げた右脚は左膝の下の空間を通っており、小さな大祐めがけて右の足の裏を見せている状態になっている。 突如として、彩香の超巨大な左の素足から不気味な音が響き始める。 ビリッ、バリッ、ベリリッ!! 大祐が彩香の左足に目をやると、何と彩香の足の裏が床から剥がれようとしていたのだ。 その柔らかそうな肌色の皮膚は、床にベッタリとくっついているため、剥がれようとするときに不気味な音を立てていたのだ。 彩香の超巨大な素足がゆっくりと持ち上がっていき、その下の空間に深い闇が顔をのぞかせていた。 このとき、大祐はすっかり油断しきっていた。 彩香の持ち上がった左の素足は、猛烈な勢いで小さな大祐に向かってきたのだ。あっという間に大輔の上空は肌色の平面に覆われる。彩香が無意識に自身の足を動かしただけかもしれない。しかし、大祐の周囲は全てが彩香の超巨大な素足が作り出す影に覆われてしまったのだ。 大祐「まさか、たったの一歩で・・・。」 後悔しても遅かった。 その広大な平面は、大祐めがけて一気に落下してきたのだ。 大祐「う、うわあああっ!!!」 #22 コンタクトの取り方 上空を埋め尽くす彩香の超巨大な足の裏に大祐は言葉を失っていた。 どこをどう逃げても彩香の足の裏が作り出す世界からは逃げ果せることはできまい。 大祐の周囲からは徐々に光が奪われつつあった。 大祐「ど、ど、どうしよう?!」 今の大祐は生身の姿で小さくなっているため、このまま彩香に足を振り下ろされれば即死である。それなのに彩香にとっては踏み潰した感覚すら与えられないであろう。極小サイズに縮んだ大祐は自分の運命を呪った。 大祐「くそっ!!」 大祐はそのまま座り込み、地面を右手で叩いた。 その拍子にポケットから大祐のスマホが落下する。 大祐「あ・・・、もしかしたら・・・。」 大祐は淡い期待を抱きながら、素早くスマホを操作する。 彩香「あ、電話だー。誰だろう・・・?」 彩香が口を開いたその瞬間、大祐の上空は一気に視界が開けた。 どうやら彩香の巨大な素足が場所を移したようである。 ズッシイイイン!! 大祐のはるか前方に彩香の素足が振り下ろされる。 彩香の足の着地が巻き起こす風圧に大祐は何とか耐え抜く。 彩香「大祐からだ。何だろう・・・? もしもし?」 大祐「あ、姉ちゃん!! 助けてくれ!!」 彩香「あれ? もしもーし?」 大祐「ね、姉ちゃあああん!!」 彩香「電波が悪いのかな、聞こえないや。おーい。」 どうやら縮んだ携帯電話の電波は不安定のようで、大祐の声も彩香には届いていないようだ。 大祐は懸命に携帯電話に声を浴びせ続ける。 彩香「もう、切っちゃおう。」 ツーツーツー・・・ 通話の切れた携帯電話を思わず凝視する大祐。 どうにかコンタクトを取る方法はないか、懸命に思案を巡らせる。 そのとき、大祐は通話ができたのだからメールも大丈夫ではないかと考える。 大祐は震える右手を胴体に叩きつけ、急ぎながらも落ち着いてメールを作成していく。 しかし、そのとき、大祐の体に異変が起きる。 何と、大祐の体が大きくなり始めたのだ。 相対的にじわじわと彩香の巨体が縮み始める。 大祐「こ、これは一体?」 おそらくはミニチュア内の舞佳がサイズ変換器をリセットしたのであろうか。 この幸運な出来事に大祐はすっかり安心しきってしまった。 ところが、大祐のサイズは現在の彩香のサイズの100分の1程度で止まってしまったのだ。 本来であれば、大祐のサイズは元に戻るはずなのだが、ミニチュアが100分の1設定になっているからなのか、何故か大祐の体はこれ以上大きくはならなかった。 大祐「え、ええーっ!! どうして戻らないんだ・・・。」 せっかく元に戻るものと期待していた大祐は愕然と肩を落とす。 しかも、今の大祐は彩香の巨大な2つの素足の間に位置しており、下手をすれば命を落としかねない状況である。 大祐「どうしよう・・・。姉ちゃんに助けを求めればいいのかな・・・。」 いずれにせよ、生身の体である以上、この状態で何か危険な事態が起こることは避けたい。 大祐は大急ぎで彩香の右の素足の方向へと走り寄った。 彩香「ん?」 ここで、彩香は床を蠢く小さな物体の存在に気が付く。 その物体を上からじっくりと見つめていると、どうやら小人が素足に接近していることがわかった。 彩香「まあ、私の美しい足に寄ってくるなんて・・・。」 ズーン! 彩香は、小人付近に素足を振り下ろす。 当然のごとく、彩香の足の着地に耐えられず、その小人はひっくり返る。 彩香「あはははは。情けない奴ねー。」 やがて、その小人は彩香の素足から離れるため、走り去ろうとしていた。 そこで、彩香はその小人の進行方向にもう一つの素足を振り下ろした。 ズーン! 再び、その小人はひっくり返る。 彩香の2つの素足にすっかり虜になってしまった小人は、とうとう身動きが取れずにその場を右往左往しはじめた。 彩香「あらら、ちょっと可哀想だったかなー。」 彩香はしばらく小人の動向を眺めていたが、徐々に関心を失い始める。 彩香「もういっか。踏み潰してあげるね。」 その言葉に反応して、小人は今までにないほどのスピードで彩香の後方へと移動を始める。 すかさず、彩香は右の素足を持ち上げ、小人の進行方向に素足を着地させる。 今度は、その小人は素足が置かれていない開けた場所を目指して移動する。 彩香「おおー、すごっ。よく動いてるけど、もういいわよー。」 彩香は、再び右の素足を持ち上げ、小人の真上に設置しようとする。 しかし、小人はそれを察知して、再び進行方向を変え、複雑な動きを見せる。 彩香「んー、狙いを定めにくいなー。なかなかやるわね。」 彩香は右の素足を宙に掲げたまま、その小人の行く末を読みきろうと考えを巡らせていた。 やがて、その小人は、彩香の左の素足方向に向かったかと思うと、なんと素足に乗っかってしまったのだ。 彩香「あっ、私の足に触れたわね。」 その瞬間、彩香は左の素足を床に叩きつける。 当然、その衝撃に耐えられず、小人は彩香の足の甲を転げ落ち、彩香の親指と人差し指の間に挟まってしまった。 彩香「しめたっ!」 待ってましたとばかりに彩香はその小人を自身の指先で捕縛する。 彩香にとっては微々たる感触でしかないだろうが、小人はピクリとも動かない。 彩香「このまま脱出できたら見逃してあげる。」 小人にとって決して逃げだせない絶望的な状況であること充分に熟知している彩香は、ニヤニヤとほくそ笑みながら小人の動向を見守った。 案の定、指に挟まった小人は全く動きを見せない。 いや、動いているのかもしれないが、彩香の頑強な指先がその動きを封じ込めているのかもしれない。 どちらにせよ、小人に絶望を与えていることは想像に難くなかった。 彩香「ふふっ、そろそろ潰してあげる。大丈夫よ、一瞬のことだから痛くないわよ。」 無邪気な笑顔を見せる彩香は、気分が高揚しているのがわかるくらい、顔が紅潮していた。 そんなとき、彩香の携帯がメールの着信を告げる。 メールの相手は大祐であった。 彩香「あれっ、大祐からだ。」 指先に挟めた小人を潰してしまわないように彩香は器用に携帯を操作する。 「姉ちゃん、助けて!! メチャメチャすごい力で足に捕まってる!! 実は、今、諸事情でミニチュアじゃない。 このまま潰されると本当に大変なことになる! しかも、足のにおいがヒドいんだ!! 早く助けてくれ!!」 彩香「ふーん・・・。この小人は大祐だったのね・・・。大変なことってなんだろう?」 大祐からのメールをひとしきり読み終わった彩香は眉間にしわを寄せて自身の爪先に語りかける。 彩香「私の足がクサいってこと? 失礼な奴ね! じわじわと潰してやるんだからっ!!」 今の大祐が生身の体であることなど知る由もない彩香は、明快な処刑宣言を大祐に通告する。 そして、彩香はゆっくりゆっくり指先に力を込めていく。 ゆっくり目を凝らすと小さな大祐がじたばたと動いているようだ。 再び、彩香の携帯にメールが届く。 彩香「何、そんなに助けてほしいの?」 仕方なく彩香はメールを開き、内容に目を通す。 「助けて、助けて!! 何でもするから!! 本当に助けて! お願いします! 苦しい!!」 大祐の2通目のメールは明らかに焦っているようだった。 ほとんど単語の表現しかなく、大祐が冷静な判断を下せていないことが目に見えてわかるのだ。 だが、彩香にとってそれは自身に快楽を与える材料でしかなく、ニヤニヤと笑いながら再び視線を落とす。 彩香「ふふっ、すごく必死ね。全然力を入れてないのよ、指先には・・・。」 彩香が爪先に視線を移すと、指先で捕縛していたはずの大祐の姿が忽然となくなっていた。 彩香「あれっ?!」 驚愕する彩香は急いで左の素足を持ち上げる。 床には、黒色のシャツらしき小さな布が一枚落ちているだけだった。 彩香「大祐!!!」 大祐に騙された彩香は、怒りでその場に立ち上がった。 #23 拷問 巨大な足の甲を転げ落ちていた大祐は、実は床に落下していた。 幸運だったのは、大祐が着ていた黒いシャツが彩香の足指の間に挟まったことだった。 彩香「このまま脱出できたら見逃してあげる。」 彩香「ふふっ、そろそろ潰してあげる。大丈夫よ、一瞬のことだから痛くないわよ。」 彩香から恐ろしい言葉が浴びせかけられるものの、大祐は彩香の爪先下を器用に小指方向へ移動し、必死にメールを打っていた。 1通目のメールが彩香に届いた瞬間、大祐は、彩香の視線に細心の注意を払いながら全速力で巨大な素足の側面を走り去る。 彩香「ふーん・・・。この小人は大祐だったのね・・・。大変なことってなんだろう?」 彩香「私の足がクサいってこと? 失礼な奴ね! じわじわと潰してやるんだからっ!!」 案の定、彩香は大祐からの偽のメールに翻弄されている。 彩香の踵付近まで走ることができた大祐は、間髪入れず2通目のメールを送信する。 彩香「ふふっ、すごく必死ね。全然力を入れてないのよ、指先には・・・。」 何とか巨大な彩香から距離を取ることができた大祐は、次に自分の身を隠す場所を探す。 しかし、残念なことに大祐と彩香がいる場所は部屋の中央部分であり、何も隠れる場所がない。 彩香「大祐!!!」 彩香の怒りの声が背後から響き渡る。 どうやら、大祐の小細工が彩香にばれてしまったらしい。 大祐がおそるおそる後ろを振り返ると、全長160mの巨大な彩香が腰に手を当て仁王立ちしているではないか。 大祐「あわわわわ・・・。」 恐怖に慄く大祐ではあったが、彩香は一向に振りかえろうとはしない。 どうやら彩香は、自身の足下にいるであろう大祐を熱心に探しているようだ。 この機を逃さまいと大祐は大急ぎで部屋の入口方向を目指す。 一方、足下をくまなく探す彩香は、小さな大祐が忽然と姿を消したことに苛立ちを隠せずにいた。 常に自分が優位に立ってきたはずなのに、今回ばかりはいかなるカラクリを使ったのか、全く姿を見つけ出すことができない。 様々な感情が入り乱れ、彩香も地団駄を踏んでいた。 彩香「もう!!一体どういうことなの?!」 彩香はズカズカとミニチュアの操作盤の方向へと向かい、慣れた手つきでミニチュアを操作する。 その瞬間、部屋の入り口付近まできた大祐の意識が遠のく。 大祐「え・・・、まさか・・・」 大祐「う、うーん・・・、ここは?」 大祐が目を覚ますと、そこには物干しざおを片手に警戒している舞佳の姿があった。 大祐「えっ!!」 舞佳「あっ!!見つけた!!」 瞬間的に、大祐は先程の現象を理解することができた。 彩香がミニチュアの街のサイズを100分の1に設定し、さらに舞佳がサイズ変換器で100分の1サイズにしたがために、先程途方もなく巨大な彩香の姿があったわけだ。 しかし、今の舞佳のサイズからすれば、突然姿を消した大祐を見つけようとせんがためにサイズ変換器を設定を解除したのだろう。 大祐「ちょ、ちょっと待って!!」 舞佳「えいっ!!」 その瞬間、大祐の体は一気に縮小した。 ズシイイン!! 大祐の目の前に、赤々とした舞佳の巨大な素足が振り下ろされる。 舞佳「全く、逃げ足の速かった奴よねー。」 大祐「うわっ、は、話を聞いてくれ!!」 舞佳「うるさい、死ね。」 再び、舞香の巨大な素足が小さな大祐に接近する。 ズシイイン!! この状況下では、何を言っても舞佳に話が通じない。 とにかく大祐は無我夢中で舞佳の巨大な素足から逃げ回った。 ズシイイン! ズシイイン! 侵入者に対して容赦なく自身の素足を振り下ろす舞佳の動きが止まった。 舞佳「はぁ、面倒くさいからサイズをもう一段階縮めましょうか。」 大祐「な、何?!」 再び、大祐の体が縮み始め、相対的に舞佳の姿が巨大化していく。 舞佳「えーっと、ああ、いたいた。」 ズッシイイン!! 舞佳の巨大な素足が床に着地する。 1000分の1サイズにまで縮んだ大祐は、当然ながら着地の衝撃でひっくり返る。 舞佳「今度こそ、死ねっ!」 床に吹き飛ばされている大祐目がけて赤黒い巨大な足の裏が迫る。 小さな大祐が体勢を立て直し逃げ出すも、巨大な足が作り出す影から逃げ果せることはできそうにない。 大祐「うわあああ!!」 ズッシイイン!! 舞佳「よし!!」 ピーピーピー ミニチュアの操作盤から警告音が鳴り響く。 彩香「えっ? なんで、まだ踏み潰してもないのに・・・。」 彩香は面倒くさそうにミニチュアを再起動させる。 大祐「う、うーん・・・。イタタ・・・。」 舞佳「あら、足下に虫がいるわ。」 復元された大祐は、再び舞佳の部屋に1000分の1サイズで出現する。 しかも、体育座りをしていた舞佳の右足付近に出現してしまった。 舞佳は何の躊躇もなく、小さな大祐目がけて素足を振り下ろす。 大祐「う、うわあああ!!」 ズシイイン!!ピーピーピー 再度、ミニチュアの操作盤は警告音を発する。 彩香「な、どういうことなの?」 目を丸くしている彩香は、今一度ミニチュアを再起動させる。 大祐「う、ううっ・・・。こ、これは、まずい・・・。」 舞佳「さーて、テレビでも見ようっと。」 今度は、小さな大祐目がけて舞佳の巨大な臀部が落下してくる。 足の裏など比にならない程の広い平面が落下してきたのだ。 大祐「う、うそっ!?」 ズドオオン!!ピーピーピー 彩香「え・・・、何で再起動のたびに鳴るの・・・?」 さすがに彩香もこの現象に首を傾げた。 今までとは異なる現象がミニチュアで発生しているのだ。 そこで、彩香は設定を一番最初の1倍サイズに変更して再起動してみた。 当然、目の前には縮小も巨大化もされていない舞佳の姿が出現する。 しかし、その足元には微小な小人が蠢いているようだった。 彩香「あれっ、舞佳ちゃんの足下にいるのって・・・。」 舞佳「あ、虫けら。」 ズーン。 舞佳の一歩によってあっけなくその蠢くものは素足に踏み潰される。 そして、その瞬間、ミニチュアから警告音が発せられる。 彩香「これって・・・。」 疑念を抱いた彩香が冷静に舞佳の部屋を眺めていると、部屋の片隅になにやら怪しい機械があることを発見する。 彩香「あ、サイズ変換器だ・・・。」 彩香の脳裏にあった様々な疑問点が一気に線でつながれ、彩香は大きく頷いた。 彩香「舞佳ちゃん、あの機械持ってたんだ・・・。そっか・・・。」 全てを把握することができた彩香がミニチュアの電源を落とした瞬間、床下で倒れていた大祐の姿がむくむくと大きくなっていく。 彩香「なるほど、さっき私が足の指で摘まんでたのは本物の大祐だったのか・・・。」 ニヤニヤと笑みを浮かべた彩香は、倒れる大祐の顔を踏みつけてそのまま外出したのであった。 #24 自らに襲いかかる厄災 残暑が厳しい日々が過ぎていく中、大祐は休み明けテストの勉強に勤しんでいた。 夏は天王山という言葉通り、ここで力を蓄えなければあとあと痛い思いをすることを大祐は理解しているからだ。 久方ぶりに真面目モード全開で取り組んでいる大祐のもとに彩香がひょっこり現れる。 彩香「あら・・・、勉強してるのね?」 大祐「そう。悪い、姉貴。」 大祐の愛想ない返事に彩香が多少いらついたのを大祐は肌で感じ取る。 とはいえ、勉強を必死でやらねば後々まずいことになりかねないため、大祐は彩香を無視し続ける。 彩香「ふーん。じゃあ、勝手にするわ。」 その彩香の発言の後、大祐が勉強していたデスクライトの明かりが消えてしまう。 大祐は彩香の方を振り返りながら強い口調で抗議しようとする。 大祐「姉貴! 何するん・・・」 振り返った大祐の先には、彩香の巨大な素足が2つ鎮座していた。 ミニチュアの操作盤を使ったわけでもないのに一体どういうことなのか。 困惑している大祐の上空に彩香の巨大な素足が運ばれる。 大祐「え、ちょ、姉貴、何するんだよ!」 彩香「私に向かって随分、乱暴な言葉遣いよね・・・」 大祐「ごめん、ごめん。謝るから許してよ!!」 彩香「そうだ、こうしましょう。」 その瞬間、彩香は大祐の前にしゃがみ込み、大木のような指で大祐を摘み上げる。 大祐「うわああっ、な、何するんだよ!」 小さな大祐は、彩香の顔面近くまで運ばれていく。 彩香「あんたは、このサイズ変換機で小さくされたの。わかる?」 彩香が「あんた」というときは決まって不機嫌な時だ。 大祐が勉強する機会はほぼ絶望的であることを悟りながら、彩香の左手を眺める。 彩香の左手には、妖しげな機械が握りしめられていた。 いまいち状況が飲み込めていない大祐へ彩香の説明は続く。 彩香「あんたの態度が良くないため、これから罰を執行します。」 大祐「んな、無茶苦茶な・・・。」 大祐の発言が彩香に聞こえたのか、彩香の大きな親指が大祐の腹部を押しつける。 大祐「グフォッ!!」 彩香は苦しさに悶える大祐を摘まんだまま自分の部屋へと移動し、大祐を床へと降ろした。 大祐「え・・・、ここは?」 大祐が降ろされた場所は、市立図書館だった。 どうやらここはミニチュアの中の市立図書館のようだ。 ここで、大祐は恐ろしい仮説が頭をよぎる。 よもやこのまま踏み潰されることはないとは思うが、彩香は生身のまま小さくした大祐をそのままにしてミニチュアを破壊する気ではなかろうか。 大祐は血の気が引いていくのを実感する。 彩香「大祐、わかってるわね?」 大祐「な、何が?」 彩香「精一杯考えるのよ? 踏み潰されたらそこで本当に終了だからね?」 大祐「ま、待ってよ! 本当に踏み殺されたらどうする気なんだよ!」 大祐は、怒り気味に彩香へと怒鳴りつけた。 彩香「んー、たぶん大丈夫でしょっ!」 彩香が言う「たぶん」はあてにはならない。 大学にも合格しているはずの姉ではあるが、このアバウトな性格には毎度恐れ入る。 彩香「じゃあ、行くわよー!」 そう言うや否や、大祐の周囲は一気に闇に包まれる。 彩香は、大祐が生身であろうがなかろうが、一切の容赦をしないようだ。 大祐「信じられん・・・。とにかく逃げなきゃ!」 大祐が猛ダッシュで逃げ出すと、程なくして大祐が先程までいた場所は彩香の巨大な素足によって踏みしめられる寸前であった。 ズシイイン!! 大祐「うわわっ!!」 彩香「あら、おしかったわね。じゃあ、もう一発。」 彩香の目から逃れなければ、このままずっと追いかけられることになる。 大祐は、図書館近くにあった地下道へと急いで入りこんだ。 彩香「あっ、ウソ!? そこだと見失っちゃう!!」 彩香の二歩目がピタリと宙で止まる。 大祐が街中を逃げ回ることを想定していた彩香は、大祐が地下道へ入り込むことを予想していなかった。 このままでは、本当に大祐を圧死しかねない。 彩香は深呼吸して心を落ち着かせて、地下道の出口を思い浮かべてみた。 彩香「うー、無理だ・・・。この地下道だと出口が3か所あるはず。」 その地下道からは、巨大な彩香が出現したことによってひっきりなしに人が逃げ惑っている。 この状態から生身の状態の大祐一人を探し出すことは困難だ。 彩香「仕方ないなー。サイズ変換器の倍率を変えようかなー。」 ニヤニヤとほくそ笑む彩香はサイズ変換機へと手を伸ばす。 彩香「うーんと、10分の1サイズとかにすれば、地下道を突き破るんじゃないかな?」 どんなときでも冷静に考えることができるのは、彩香の長所なのかもしれない。 彩香はサイズ変換器を操作して、大祐をさらに焦らせようとしていた。 しかし、次の瞬間サイズ変換器は彩香の全身をを一閃する。 彩香「えっ!? ど、どういうこと?」 彩香は、サイズ変換器を操作ミスし、自らをも100分の1サイズへと縮小させてしまったのだ。 彩香「し、しまった・・・。どうしよう・・・。」 とにもかくにも、彩香はミニチュア内へと歩を進めてみた。 彩香「う、うわ・・・。」 彩香の目の前には、先程自身が踏みしめた巨大な足型が広がっている。 極限までに圧縮された建造物や植物、道路など、凄惨な状況に彩香は思わず息を呑みこむ。 周囲に人影もいなくなり、急激に心細くなった彩香は、大祐を呼び続ける。 彩香「ね、ねえー、大祐ー。もう出てきてもいいのよー。どこー?」 彩香の叫びに答えてくれる人物はなく、周囲に空しく彩香の声だけが響き渡る。 おそらく、先程の巨大な彩香の出現により、図書館一帯からは、人っ子一人いなくなったのであろう。 巨大な足型の前で彩香はただ一人呆然と立ち尽くしていた。 ???「彩香ー、入るわよー。」 ふいに彩香を呼ぶ女性の声が玄関から聞こえる。 ギュギュッ! ズシイイン!! 明らかに何者かが履き物を脱いで家の中に入ってきた。 彩香「え、ええっ! どうしよう、隠れなきゃ!!」 小さくなった彩香は全速力で近くにあった中学校目指して走り出す。 ズシイイン!! ズシイイン!! 巨大な人物が歩く重低音はダイレクトに小さな彩香に伝わり、彩香はすっかり怯えまくっていた。 ???「彩香ー?」 そして、ミニチュアの街を通り越したはるか後方に巨大な女性の姿が出現する。 サイズ変換器を貸してくれた舞佳だったのだ。 #25 舞佳の蹂躙 彩香の前方に大きな足の裏が出現する。 そのむっちりとした赤みがかった足の裏は何の躊躇もなく床に振り下ろされる。 ズシイイン!! 彩香「ひ、ひゃあああっ!」 舞佳「もう、私のサイズ変換器借りっぱなしにして・・・。」 舞佳の発言の後、部屋に置きっぱなしにしていたサイズ変換器は、舞佳の手に握りしめられてしまった。 その光景を見つめていた小さな彩香は、急いで建物の陰から飛び出す。 彩香「ま、待ってー!それを持っていかれると困るのよー!」 彩香は大急ぎで巨大な舞佳に手を振り、自らの存在をアピールする。 しかし、舞佳にとってたかだか2cm程度でしかない彩香の行動はすぐには気づかれない。 舞佳「彩香もいないし、帰ろうかしら・・・。」 彩香「ダ、ダメよ!!帰らないで!!」 彩香は、自らが踏みしめた足型の近くで懸命に手を振っていた。 しかし、その瞬間、脆い足場が手伝って、彩香は足型に沿って転がってしまった。 彩香「きゃあああっ!」 ガラガラと音を立てながら、コンクリート片が彩香に降り注ぎ、足型の真ん中付近で彩香は静止した。その光景を上空から舞佳が覗き込んでいた。 舞佳「何か音がすると思ったら・・・。これは何かしら?」 彩香「う、ううっ・・・。ま、舞香ちゃーん!!!」 倒れこむ彩香は、必死の形相で舞佳に大声を上げるも、舞香には特に何の変化も見られない。 舞佳「ああ、ミニチュアじゃないの。小人が彩香の足跡に落っこちたのか・・・。」 つとめて冷静に舞佳は、眼下の状況を分析していた。 そして、自らの素足を持ち上げ、彩香の足型の上へと運ぶ。 当然、足型の中央付近で倒れている彩香はその舞佳の巨大な素足に覆われる。 彩香「う、うそっ!!何で、その足を運んでくるの!?」 彩香の上空いっぱいに舞佳の巨大な足の裏が君臨する。 彩香は懸命に逃げようとするのだが、くずれた足場のせいで思うように逃げられない。 徐々に舞佳の素足が接近してくる。 それと同時に光が閉ざされ、舞佳の足のにおいも充満してくる。 彩香「ごほっ!酸っぱいにおいが・・・。舞佳ちゃんの足のにおいね・・・!」 ひびが入りボロボロになった道路を何とか這い上がろうとする彩香は、ここであることに気が付く。 上空の大きな足の裏がピタリとその動きを止めているのだ。 舞佳「彩香の足のサイズよりは少し小さいかな・・・?」 どうやら舞佳は、彩香の足の大きさと比較しているようで、自身の足を近づけたり遠ざけたりしているようなのだ。 このチャンスを逃すまいと彩香は、這いつくばりながら何とか道路へと脱出することができた。 舞佳「あっ!!小人が這い上がってきた!!」 巨大な足型の土踏まずの方向から這い上がってきた彩香は、上空の声に驚きながらも急いで近くの中学校目指して走り出した。 しかし、その彩香の行動を読み切っていたかのように、舞香の左足が持ち上がる。 そして、中学校の屋上付近に素足を移動させたかと思うと、一気に踏み下ろした。 ドゴオオオン!!! 凄まじい轟音とともに、中学校の校舎は破壊され、彩香の周辺にコンクリート片が降り注ぐ。 と同時に、もうもうと砂埃が舞い上がってきた。 このおかげで小さい彩香は砂埃の中に隠れ、舞佳は小さな彩香を見失ってしまった。 舞佳「しまった!!小人を見失っちゃった。」 一瞬の静寂の後、舞香は再び素足を持ち上げる。 舞佳「まっ、いっか。この辺り一体を私が踏み潰していけば、小人も巻き込まれ・・・」 ズッシイイン!! その言葉を言い終える前に、舞香は巨大な素足を踏み下ろす。 一方、彩香は、大祐と同じく地下道へと逃げ込むことに成功していた。 しかし、悠長なことをしていると、地下道ごと舞佳の巨大な足が踏み抜くかもしれない。 巨大な舞佳から逃走を続ける彩香は、生きた心地がしなかったが、とにかく懸命に走り続けた。 ズズゥゥン!! ズズゥゥン!! 彩香の上方向からは、とめどなく轟音が鳴り響いている。 おそらくは舞佳が無造作に建物を破壊しているのだろう。 地下道の出口に向かって邁進する彩香は、出口が多くの人たちでごった返していることに気が付いた。 彩香「ちょ・・・、これはどういうことなの?!」 彩香の前にいる20代くらいの青年が重々しく口を開く。 市民A「巨大な人間が出現したからみんな隠れてるんですよ。」 彩香「ばっ、そんなことしたって無駄じゃ・・・」 ドッゴオオオン!!! 彩香「キャアアア!!!」 その轟音とともに、彩香の前方に巨大な爪先が出現する。 巨大な足の指の下には、多くの市民が下敷きになっており、血まみれになっていた。 先程、答えてくれた青年も踏み抜かれた際に崩れてきた瓦礫の下敷きになってしまった。 彩香「ど、どうすれば・・・!!」 市民B「引き返すんだ!!」 その声に5~6人の市民が賛同し引き返していったが、彩香はその場を動かなかった。 何しろ、目の前に出現したのはヒトの右の爪先であり、親指の側面が見えている状況なのだ。 つまり、それの意味するところは。 ドッゴオオオン!!! 市民たち「ぎゃあああ!!!」 案の定、引き返した市民たちは、もう一つの爪先に踏み潰されてしまったようだ。 しかし、これで彩香は両方の巨大な爪先の間にいることが判明してしまった。 明らかに逃げ場がない状態なのだ。 彩香「よしっ!出口を目指すわ!!」 意を決して、彩香は出口付近にある巨大な親指の側面にしがみついた。 程なくして、その爪先は上へと運ばれ、ミニチュアの地面を踏みしめる。 ズシイイン!! 彩香「キャアアア!!」 舞佳の一歩は絶大なもので、小さな彩香を吹き飛ばすのに充分なものであった。 彩香はそのまま近くの建物の陰に転がっていった。 幸いなことに巨大な舞佳の視線から外れることができたのだ。 やがて、もう一つの巨大な素足が彩香のはるか前方へと振り下ろされる。 ズシイイン!! ミニチュア自体が揺れ動くほどの衝撃に、彩香はただただ震えていた。 しかし、このまま手をこまねいていても仕方がない。 下手をすれば、何処かで逃げ果せている大祐も殺されかねない状況なのだ。 彩香には、冷静な思考が求められていた。 #26 人間の真価は追い込まれたときにこそ 大祐「こ、これは一体? どうして巨大な舞佳ちゃんが・・・!?」 一方、巨大な彩香から逃げ果せていた大祐は混乱していた。 先程まで自分を攻撃していたのは、姉の彩香であったのだが、いつの間にか巨大な舞佳に変わっている。 詳しい状況は飲み込めないが、ひとまず言えることは大祐が舞佳に踏み潰されかねないということだ。 しかも、サイズ変換器で縮んでいる以上、舞香に踏んづけられただけで一発アウトだ。 大祐は、巨大な舞佳の動向を読み切るため、自転車に乗りながら細かな道を進んでいた。 舞佳「あー、楽しい!!」 ズシイイン!! 突然、舞佳から言葉が発せられたかと思うと、再び舞佳の歩行が始まった。 舞佳の素足は、無秩序に建造物を破壊していく。 しかも、舞佳は建造物を蹴り上げるように進むため、彩香のとき以上にコンクリート片が降り注ぐ。 言うまでもなくこのコンクリート片にあたっても、大祐は激しく流血してジ・エンドだ。 まさに八方塞がりのこの状況に、大祐は半ば笑みがこぼれていた。 ズシイイン!! 舞佳の巨大な素足が大地を踏みしめることで、地面が揺らいでいる。 大祐は、より確実に安全に逃げるため、後方を確認しながら逃走を図っていた。 やがて、舞佳の進行とは逆の向きと思われる方向に自転車を走らせていた大祐は、思わぬ人物と遭遇する。 電信柱の陰に隠れて若い女性が様子を窺っていたのだが、その人物はなんと彩香だったのだ。 大祐「あ、あれっ?! 姉ちゃん?」 大祐は自転車を停車させ、身を潜めていた彩香の元へと駆け寄る。 彩香「だ、大祐!! 無事でよかった・・・。」 彩香は目に涙をいっぱい溜めながら、大祐に語りかける。 大祐「一体どういう状況なんだ?!」 彩香「それは後で話す!とにかく、下手をすれば私たちはあの巨大な舞佳に踏み殺されるわ。」 そう話す彩香の目には、鋭さが戻っていた。 いつもの悪巧みを企む彩香の表情だ。 半ば安心感をもった大祐は、自転車の後ろに彩香を乗せ語りかける。 大祐「姉貴、サイズ変換器はどこ?」 彩香「舞佳に取り上げられてる。現状、元に戻る術がないってわけ。」 大祐「舞佳ちゃんが飽きて帰るのを待つとか?」 彩香「舞佳は、私を待ってるはずだから、それはないと思う。」 二人は冷静に状況を判断しながら、生き残る術を話し合う。 しかし、サイズ変換器を舞佳が手に持っている以上、元に戻れるはずもなく状況は絶望的であることだけが確認できた。 舞佳「さーて、全部踏んづけてあげるからね。あっはっはっはっ!!」 上空から舞佳の高笑いが響き渡ったかと思うと、舞香は大祐と彩香がいる方向へと向かってきた。 ゆっくりゆっくり一歩ずつ接近してくる舞佳は、念入りに足を地面に擦り付けている。 持ち上がる舞佳の巨大な足の裏は土がベッタリとくっついており、所々に赤いシミがこびりついていた。 大祐「ど、どうする・・・?」 彩香「あの手に握っているサイズ変換器さえあれば・・・。」 自転車を運転する大祐は、飲みかけのペットボトルを地面に投げつけ苛立ちを隠せないように話す。 大祐「ああっ、もうっ!サイズ変換器がもう一つあればいいのに!」 彩香「ダメよ。舞佳が持っているサイズ変換器を解除しないと戻れな・・・」 彩香の言葉がピタリと止まる。 大祐「どうした、姉貴?」 彩香「そうか・・・、その手があったか・・・。大祐、ストップ!!」 彩香の唐突な言葉に、大祐は慌てて自転車を止める。 その瞬間、勢い余って後ろに乗っていた彩香が大祐に乗りかかる。 大祐の背中に埋もれた彩香の温もりが大祐に伝わり、一種の安堵感を大祐に与えていた。 彩香「大祐、おとりを頼める・・・?」 大祐「えっ・・・。」 突然の彩香の提案に大祐は思わず息を呑みこむ。 しかし、考えなしに話をするような姉でないことは、大祐は百も承知だ。 おそらくは、この状況を打開できる何かの秘策を思いついたことには間違いないのであろう。 しばらくの沈黙の後、大祐は口を開く。 大祐「・・・で、何をすればいい?」 彩香「えーと・・・。」 彩香は、自らの考えを大祐に丁寧に伝えた。 一方、舞佳は眼下のミニチュアの街を破壊し続けていた。 足下の建造物もどれも脆く、砂で作った城のような感覚を覚えていた。 そんな建造物の間を小人たちが四方八方にと逃げている。 そんな小人たちの必死な様は、舞佳に一種の快感を与えていた。 舞佳「さーて、次はどこを踏んづけてやろうかしら?」 舞佳がミニチュアを隈なく観察していると、やや離れた場所で異様な光景を目の当たりにした。 舞佳から少し距離のあるところに大型ショッピングセンターがあるのだが、その駐車場で自転車の後方に旗をくくりつけて大きく回転している小人がいるのだ。 明らかに舞佳に対して、何らかのコンタクトを取ろうとしているのが確認できた。 しばらくその光景を見入っていた舞佳は、徐々に興味を引かれその方向へと歩いていく。 舞佳が接近してみると、その小人は実に規則正しく自転車でぐるぐると回っていた。 舞佳「おーい、小人クーン?」 ズシイイン!! 舞佳は、一生懸命に動いている小人のすぐ近くに素足を振り下ろした。 当然ながらその小人は、自転車ごとひっくり返っていた。 舞佳「ああ、ごめんごめん。ところで、何をしていたのかな?」 倒れた小人は、急いで体勢を立て直すと、何と一目散に舞佳から逃げ出した。 舞佳「ちょ、何で逃げるのよ!!」 ズシイイン!! 巨大な舞佳の素足は、小人の進行方向に着地する。 周囲の住宅もろとも振り下ろされた素足によって、小人の逃げ道は封鎖されてしまう。 自転車に乗っている小人は、舞佳の両方の巨大な素足に囲まれ風前の灯となっていた。 #27 才色兼備な彩香のひらめき (26話までのあらすじ) 舞佳が所有するサイズ変換器を借りた彩香は、大祐を縮小してミニチュアの街へと置く。 彩香は、小さな大祐をさらに縮めようとしたしたが、操作ミスにより自信を縮小させてしまう。 そこへ何も知らない舞佳が訪れ、サイズ変換器を回収、眼下のミニチュアの街を破壊し始める。 どうにか、彩香・大祐の姉弟は合流し、元に戻るべく思案を巡らせる。 そんな最中、舞佳の足下で自転車に乗った小人が不自然な動きを舞佳に見せたのであった。 ※詳細は、第24話から第26話をご覧くださいね。 舞佳「おーい、小人クーン?」 ズシイイン!! 大祐の十数メートルその巨大な素足は着地する。 大祐「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・。」 舞佳「ああ、ごめんごめん。ところで、何をしていたのかな?」 大祐は起き上がると、肩で大きく息をしながら眼前の巨大な素足の動向を注視していた。 ひとまず大祐は体勢を立て直し、勢いよく自転車に跨って走り出した。 しかし、それを見越していたかのように舞佳の素足が垂直に持ち上がり、一気に地面へと振り下ろされる。 舞佳「ちょ、何で逃げるのよ!!」 ズッシイイイン!! 大祐「うわわっ?!」 再度、大祐は自転車ごと地面に倒れこむも、慌てて起き上がる。 しかし、大祐の前方は舞佳の巨大な素足で塞がれてしまう。 舞佳「何、コイツ・・・、超ウザいんですけど・・・。そんなに私に踏み潰されたいの?」 そう言うや否や、舞佳の素足が猛然と大祐に迫りくる。 大祐は自転車を乗り捨てて、ショッピングセンターの方向へ走り出した。 舞佳「止まれ。」 大祐は舞佳の忠告に耳を貸すことなく、ただただ走り続けた。 だが、次の瞬間、舞佳の巨大な素足はショッピングセンターの真上へと移動し、そのまま店舗を踏み抜いてしまった。 ズドオオオン!!! ガラガラガラッ!! 大小さまざまなコンクリート片が小さな大祐へと降り注ぐ。 大祐の周囲は、崩落した建造物による埃ですっぽりと覆われてしまった。 舞佳「ふふっ。小人クンは右も左もわからないでしょ?」 舞佳の言葉が耳に入った大祐は、舞佳の方向を仰ぐ。 もうもうとした埃が立ち込める中、確かに舞佳の視線は大祐を捉えていたのだ。 大祐「くっ!! どっちに向かえばいいんだ・・・。」 大祐は上着で口元を隠し、崩落した建物から離れようと必死に舞佳の足下を彷徨っていた。 方向感覚が失われていた大祐は、ただただ建物から逃れようとしていたわけだが、これが舞佳の思うつぼであった。 すっかり油断しきっていた大祐の前方から埃を押しのけて、舞佳の巨大な素足が接近してきていたのだ。 大祐「うわあああっ!!!」 舞佳「よしっ。捕獲できたわね!!」 大祐は、舞佳の巨大な親指と人差し指の間に囚われてしまったのだ。 舞佳の強力な爪先の力に大祐は、力なくただうなだれていた。 大祐「ぐっ・・・。体が締め付けられる・・・。助けて・・・。」 舞佳の爪先は固く握りしめられ、大祐が逃げ果せるために行う様々な努力も全く無駄でしかなかった。 やがて、周囲の埃が晴れると、大祐の置かれていた状況が飲み込めてきた。 どうやら大祐は、舞佳の右の巨大な爪先に挟み込まれているようだ。 舞佳「さて、このまま握りつぶしてもいいかしら?」 その瞬間、途方もない圧力が大祐を襲う。 大祐「ぐああああっ!!!」 舞佳「それとも、地面に叩き潰せばいいかしら?」 続いて、大祐を爪先に残したまま、舞佳の素足が上空へと持ち上がる。 大祐「や、やめろー!!!」 舞佳「やっぱり、蹴飛ばしてあげようかしら?」 持ち上がった舞佳の素足は、そのまま前後へと大きく振られる。 大祐は、高速でミニチュアの街上空を短時間で移動させられた。 大祐「やめてくれ!!」 そのまま舞佳は踵を地面へとめり込ませる。 スドオオオン!!! 舞佳「さて、どうしてあげようかしらねえ?」 捕縛された大祐は、懸命に姉の名前を叫び続けていた。 彩香「くっ・・・。大祐、もう少し待ってて!今、到着できたから・・・。」 巨大な舞佳の発言は当然のことながら彩香にも届いていた。 そんな彩香が目指していた場所は、舞佳のアパートであった。 おもむろに舞佳の部屋の戸に手をかざすも当然のように鍵がかけられていた。 彩香「くっ!!こんな非常時に・・・!!」 若干の焦りを感じている彩香は、脇目も振らず大急ぎで舞佳の部屋のベランダへと向かった。 舞佳の部屋は2階のため、近隣の住宅から梯子を借りてきて、そのまま駆け上がった。 舞佳「私の爪先で握りつぶしてあげるわね。バイバイ、小人クン。」 どうやら大祐の生命は一刻の猶予もないらしい。 瞬時に悟った彩香は、ベランダにある植木鉢で窓ガラスをたたき割る。 そして、舞佳の部屋に侵入すると、目的の「モノ」を探し回った。 彩香「あっ!!あった!!!」 それは、舞佳のサイズ変換器であった。 以前、大祐はミニチュアの自宅の中にあったユーザーベルトを用いて現実世界へ戻ってこれたと、彩香は大祐本人から聞いていた。(この話は、第12話から第13話までを参照してください) 案の定、この部屋にあるサイズ変換器は「使用中」になっている。 彩香は、サイズ変換器のリセットボタンに手を掛ける。 舞佳「さ、潰しちゃおうっと。」 急激に舞佳の爪先の締め付けがきつくなる。 その舞佳の巨大な爪先の圧力で、大祐は激しく嘔吐する。 大祐「ゴホッ、ガハッ!!!ま、待って・・・。」 余りの苦しさに大祐は気を失ってしまう。 しかし、次の瞬間、舞佳の爪先に挟み込まれていた小人は一気に巨大化を始めていく。 舞佳「えっ!? ど、どういうこと!?」 舞佳の目の前には、気を失った大祐の姿があり、事態が飲み込めない。 彩香「ま、間に合った・・・。」 舞佳の後ろには、ほっと胸を撫でおろしている彩香がいた。 舞佳「あぁ・・・、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・。」 大祐「いや、とにかく命は無事でしたから・・・。」 ミニチュアとサイズ変換器を使って元の姿へと復元した彩香と大祐は、くたくたになりながらも舞佳に状況を説明していた。 一方、舞佳は、大祐の命を奪う寸前であった事実を知り、激しく動揺していた。 彩香「ま、まあ、私たちも不注意だったんだし・・・。」 大祐「元はといえば、姉貴が勝手に僕を小さくしたから悪いんじゃん!!!」 彩香「あ、スミマセン・・・。」 さすがに彩香はこの日ばかりは平身低頭であった。