女神とオモチャとゴミムシと  一人の愉しみは、誰にも知られちゃだめだ。勘づかれるなんてもってのほか。いつも通り、今まで通り、そう思わせなくちゃ。  だから、密かに、密かに、密かに。表情一つ崩すことなく、こっそり愉しまなきゃいけない。それが一番、楽しいのだから。 「……それゆえに、これらが示すところのもの、つまり……ということは、……」  立ち上がり、訳文を読み上げる。よどみなく、普段となんら変わることなく。 「そうですね、概ねあってます。一か所……」  教授はほぼ望み通りの回答に満足し、学生の異変に少しも気付いていない。  いや、それは私の隣の学生もそうだろう。十分に目敏ければ、僅かに肩が震えていることに気づいたかもしれない。けれど、それが何故かなんて誰も気づくはずがなかった。ましてや、友人の謂いによればだが、「凛として」「たおやかな」「深窓の令嬢」という最大限の賛美を向けられるこの純潔な娘が、どんな淫行を働いているかなど、とてもとても。  そう、このスカートの中のことなんて、誰も、一ミリだって、考えはしない。  どんなに赤黒い肉欲でまみれていようと。  言ってしまえば、オモチャに夢中なのが今の私だった。  元はといえば交際相手との付き合いで始めたシュミだけれど、今では独立独歩、私の意志で愉しんでいる。もちろん、最初からこんなことをしていたわけではない。家で嗜むくらいが始まりだった。が、交際相手と別れてからしばらくして、音の出ない、蜜を漏らさないオモチャが手に入ってからはもう止まらない。音も蜜も漏れないとあれば、あとはひたすら私がどれだけ耐えられるか、どれだけ演技ができるかにかかっているために、そのスリルと興奮は弥増した。出先のトイレで愉しむには飽き足らず、通学中、講義の静けさの中、果てはサークルの茶道の最中でさえ、私は欠かさずそれをショーツの中に潜ませたのだ。  優秀なそのおもちゃは、しかし誰にも気づかれることがない。うちつけに強い刺激が来た時など、胸を抱いてよがりたいほどだったが、しかしそれを涼しい顔の奥にかみ殺す。  バレるわけにはいかない。  これは私だけの玩具だ。まして、取り上げられるなどあっていいはずがない!  だから私は大胆で、かつ慎重に愉しんだ。 (ああ、そろそろ“充電”の時間かしら)  講義のさなか、ふと気付く。講義が終わるまで待とうかとも思った。が、途中で動かなくなるのも興ざめだ。 (気付かれないよね……)  するするとショーツを下ろし、“オモチャ”を取り出す。 (ご苦労様、バイブ君。キモチよかったよ)  囁くように、オモチャにねぎらいの言葉をかける。その五センチほどのオモチャは、微動だにしない。動けるはずがない。だって、ずうっと私のショーツの中に閉じ込められていたのだから。 「ふふ、ご飯の時間よ」  そういって私は餌付けに取り掛かる。  元交際相手の、この哀れな男のために。  私が彼をバイブにしたのは、もとをただせば彼自身の責なのだろう。彼が私の元カレだったのは確かだし、浮気があっさりバレたのも彼だったのだから。  けれど、その懲罰のために彼をオモチャにしている訳じゃあなかった。結局どっちもどっちで、私も彼とは片手間にしか付き合っていなかったのだ。それは、男を知れば嗜虐趣味も治まるかなといった、淡い期待からだった。正直男なんて話の出来る猿程度にしか思っていないし、(事実彼も私の胸目当てに近寄ってきたのだからあながち間違いでもないのだが)、性別にもこだわりというものがない。  ただ私には、こうした嗜虐趣味と露出趣味のないまぜのような性質があって、それを満たせるところのものを探していただけなのだった。  だから正直誰でもいいし、たまたま手ごろな制裁相手がいたからそれに依っただけで、深い意味などあるはずもないのである。  現に、この男の名前さえおぼろげだ。まあ、もう彼は人間ではないのだから呼んでやる義理もないのだが。  けれど単純なこのオモチャは何を深読みしたのか私に赦しを乞い、私を満足させれば解放されるものと思っているらしかった。  働けば自由になれる、そう騙してやるのも一興だ。  従順で勤勉に働くため、私もそう言って励ましてやり、手を抜いたり諦めたりすることのないよう導いてやっている。もちろん、もとより逃がしてやるつもりなど毛頭ない。諦めたならいたぶってやるし、反抗するなら躾ければいい。彼がどうなろうと、オモチャであることには選ぶところがない。……小さな小さな人間をいたぶるというのは、無上の喜びだった。いま、私がどんなに巨大で、偉大で、尊大に見えているかを考えるだけでも疼いてやまない。ましてそれが、曲がりなりにも交際相手であったなら! 誰にも気づかれず奉仕し続ける哀れな男! 声を上げることすらままならず、ひたすら女の秘部に押し付けられて過ごすのだ。そう考えると、捗って捗って仕方がなかった。 「これでいっか」  鞄にドロドロに溶けたチョコがあったので、これを女陰に挟んでやる。太ももの間で呆然と横たわっていた彼は、甘い匂いにつられ目を覚ました。餌の時間よ、と言ってやると、察したようだ。ふらふらと股間に近寄ってきた。  こんなゴミ虫になっても、人間というのは傲りを捨てきれないのだろうか。私の、暗いリップを塗った唇のような大陰唇をまえに、しばらく逡巡している。  私がいつまでも待ってくれるなどと思っているのか?  貧乏ゆすりをするように、私は太ももを座面に打ち付けた。かすかにぺちっと生脚の音がする。その衝撃、そしてむにっと広がる内股の肉に弾かれて、彼は反対の腿へとしたたかに体を打ち付けていた。 (早くなさい)  囁き、氷のような視線を送る。  眩むほど巨大な娘に、目の下半分で睨まれるのはどんな恐怖だろう?  その肩が震えているのがわかる。私の顔と、ヒクつくワレメの間を怯えた瞳が行き来する。そして、這うようにタテスジまでやってきて、両手で襞の最下部につかまった。  チロチロと私のあそこを舐め始める。二、三センチでは局部の丸みにさえ背が負けてしまうので、割れ目したがって垂れてきたチョコを舐めとっているらしい。  私は微笑した。  あれだけの自信にまみれていた男が今ではこんな様子だ。哀れに丸まる虫の背中を、満足と陶酔の顔で見下ろす。  ふと、或る欲求にかられた。 (……おしっこ、かけたいな)  そこは尿道の真下だった。そんなことをすれば何も考えずタテスジに顔を突っ込んでいる彼は、間違いなく溺れるだろう。黒と黄色の混ざった湖の中で、彼は埃のように浮かぶのだ。水圧に跳ね飛ばされるかもしれない。バラバラになるかも。そして小水の海から見えるのは、何十倍ものの体格差を持った私の巨体だ。十メートルの肌色の壁となって反り立つ太ももの間で、ビルのように大きな私を見上げるのはどんな気分だろう? 恐怖? 畏敬? 安らぎかもしれない。ひくっ、と膣が疼く。素知らぬ顔をしているが、またぐらに男を跪かせて舐めさせるのは、本当に、本当に気分がいい。  ああ、学校なのが惜しい!  あらかた下の方は舐めとったようだ。満腹なのか、ペタンと座り込んで目前の洞窟を見上げている。  が、まだだ。まだ上の方に溶け残りがある。掃除させないと。  私は彼をショーツの中に寝かせ、するっと履いて圧しつける。今日の役目は、奉仕、そしてチョコと愛液の掃除だ。飽きない最良の玩具を前に私の秘所はだらしなく涎をたらし続ける。そこにコレを宛がおうものなら、その快感は倍増だ。そんな洪水のような粘液は彼が飲み込むことで、そして大部分は彼が防波堤となることで、腿に垂れることを免れている。難しい塩梅だが、十分躾けてやればできないことはなかった。 (一滴でも漏らしたら、そこで絞め殺すから)  彼に囁く。襞にささやかな振動が伝わる。なにごとかを叫んだのだろう。もちろん、すべて小さな私のアソコが吸収してしまったけれど。  こそばゆさに、また少し蕩けてしまう。きっと、すでに彼はびしょびしょになって私の陰部と格闘していることだろう。  家に帰ると、私はワレメに住んでいる虫を洗ってやることにしている。それでも私の匂いは落ちないけれど、まあそれはいいだろう。どうせすぐまた履かれるのだから。  風呂場に、服を着たまま滑り込む。淡いピンクのショーツを太ももの辺りまでずり降ろし、クシャっと丸まったそこに彼の姿を探す。 (……?)  見当たらない。ハマり込んではいないから、ナカにはいないはずなのだけれど。  と、僅かな感触を感じ、そっとスカートをたくし上げた。 「……アハッ!」  思わず笑みがこぼれる。  私の陰毛に、彼は両腕をからみとられて貼り付けられていた。言っておくがそれほど毛深くはない。自慢じゃないが、色も濃さも綺麗に整っている、が、彼には十分な縄となっているようだった。まるで牢獄にとらわれているかのように、両手を縛られて陰毛の中に張り付いている。 「御覧なさいな」  私は鏡の前に立って、彼にその様を見せつけてやった。  私が立っているだけのようにも見える。長い黒髪に、やや大人びた顔。女性的な丸みを帯びた裸の臀部が見えている。今日は薄いカーディガンを羽織っているので、脱ぎかけのショーツがちょっと可笑しい。  その、三角形の茂みの中に、僅かに肌色の何かがある。  頬を紅潮させて私は煽り立てた。 「自分がどこにいるかわかってるわよね? い・ん・も・う。陰毛の中よ。男ならそこから出てきなさいな。ほら、はやく。はやく!」  さわさわと毛が揺れ、かすかに彼があがいているのがわかる。  森の中に迷い込んだ虫は、しばしもがいたようだ。一寸の虫にも五分の沽券、といったところだろうか。けれど、べしゃべしゃと愛液は毛と彼を巻き込んで乾きつつあり、そのうえ両腕を戒められた彼には動くことすら叶わない。もがくうちに口に入ったのだろう、ぺっぺっと私の陰毛を吐き出そうとしている。けれど、その長い毛は彼の口を犯して容易には赦してくれなさそうだ。 「速くしないと、おしっこ、しちゃうよ?」  慈悲深い私は、そう前もって教えてやる。じたばたと彼の脚が動く、けれど、私の敏感なところに当たって少し感じさせただけだった。 「アンタ、本ッ当にクズ虫なのね」  わざと蔑んだ調子で言ってやる。最後の力を振り絞って陰毛からの脱出を試みる彼を、するすると再びショーツで包んだ。少しくたびれたゴムの力で、けれど簡単に彼は無力になった。  しゃがみ込む。  履いたまましてしまうのだ。私はこれが好きだった。  手で彼を押さえつけてみる。蠢く小虫を指先に感じる。じたばたともがいているようだったが、手足が自由に動かせない分、もぞもぞとした蠢きしか感じられない。 「じゃあ、いくよ」  今、彼はどんな気持ちで秘部の上にくっついているのだろう? 足元の襞がワニワニ動いて、そしてキュッとすぼまるのを見ているはずだ。 「……んっ」  股間が生暖かくなる。ショーツは一瞬色を濃くすると、じわっと一滴、二滴金色の雫がしたたり落ちて、やがて小さな滝となって浴室の床を濡らした。  しょろろろと可愛らしい音が響く。けれど彼にとってはどうだろう? ワレメだけで自分よりも大きいのだ。そこから猛烈にあふれ出す小水は、どんなふうに見えるのだろうか。大雨? 小川? もしかしたら洪水のように感じているかもしれない。水をはけきれず、ショーツは小水を溢れさせるだろう。あっという間に水位は上がって彼を飲み込み、陰毛が湿ると戒めは解かれる。するとどうだろう? 彼はまさに尿道のところまで落ち込み、身も砕けんばかりの圧倒的水圧に晒されるのだ! ありとあらゆる穴は私で満たされるだろう。これ以上ないほど汚れにまみれて。  勢いが弱まると、手を汚さないようにショーツを脱いでみる。  濡れそぼった陰毛の先に、彼が垂れていた。落ちまいと掴まっているのだろう。が、やがてべシャッと脱ぎ捨てられたショーツの中に落ちる。  頭を打ったのかクラクラしている彼に、ぽたっ、ぽたたっと雫が滴った。  気づいたのか、僅かに上体を起こす彼に、 「あ、ごめん、まだ残ってた」  私は残りをひっかけてやる。無論、わざと途中で止めたのだ。そもそも、本気で出してしまえば彼はぐちゃぐちゃになって死んでしまう。モノは大事にする方だ。壊れないギリギリのところで。  私の鉄砲水は彼の顔を直撃した。虫が転げまわる。が、放物線を描くおしっこは彼に着地して、びちゃびちゃと四方に跳ねた。 「んっ」  本当の残りをぴっぴっとかけてやる。  水たまりにおぼれるアリみたいに、小人は私が作った尿の湖の中でぱちゃぱちゃともがく。少し湯気が立っているので、さぞかし濃い私の空気を吸えていることだろう。そのうえ直接原液に浸る光栄に預かっているのだから、これ以上のことはあるまい。  私は声を上げて嗤ってやった。これが不遜にも私と交際していた男の末路だ。笑いが止まらなかった。こんな惨めなもの、他所ではみたことがない。 「何のために生きてるのって、アンタのためにあるような言葉ね」  乱暴に水をかけてやる。  彼にはもったいないが、洗ってやらなければならない。だってオモチャはまだこれしかない。が、洗うにしてもやはりこんなゴミ虫触りたくはなかった。 「仕方ないわねえ」  ドンッと私はその場にしりもちをつく。超重量の臀部の落下に、彼の体は笑ってしまうほど跳ね上がった。 「お尻の大きい女の子、好きなんだったっけ? あと、太ももの太い子」  あとで尻に敷いてやるのもいいかもしれない。太ももで窒息させるのも良い。  まあ、いい。後にしてやろう。時間はたっぷりある。  石鹸を奴に垂らす。 「ほら、一日汗だらけになった足。あんたよりはずっと綺麗だからこれで洗ったげる」  親指だけで彼のおおかたを隠せてしまう巨大な足が、彼にのしかかる。  踏みつけてやる事のいいことは、虫の動きがよくわかるところだ。ここまで体格差、いや、存在そのものの大きさが違ってしまうと、もはやろくなコミュニケーションなどとれるはずもない。没交渉というのはやはり物足りないものだ。が、踏んでやれば僅かなりとその感触がわかる。叫び声が私の足の皮をわずかにくすぐるのも、抵抗する手足が私の裸足をわずかに叩くのもわかる。私の鋭敏な神経の賜物だろう。私がこれほど偉大でなければ、ゴミムシに情けをかけることもできなかった。  足裏で擦ってやる。適当に縮めたので倍率がわからないが、彼にとって凡そ二十メートルものおみ足にその長いストロークでこすりつけられるのだ。髪も、唇も、乳首、股間、いや、体全体がそのたび猛烈にゆすぶられるにちがいない。  二、三度擦って足をあげてみる。靴下の糸くずやほこりがべったりと彼にくっついて、床に落ちた米粒を連想させる。が、一応生き物なのでもぞもぞと動いていた。顔をぬぐっているようだ。どうせろくに見るものなどないくせに、私についたゴミより視界をとるらしい。不遜な奴。  まあ、埃付きの蛆虫なんてオモチャに値しないので、洗ってやる。  私は両足にせっけんをつけ、よく塗りたくった。  そして足指で器用に摘み上げると、そのまま飲み込むように足裏と足裏の間に滑り落とす。左の足裏に挟まったらしい。指先と土踏まずの間の、谷間になっているところにハマり込んだようだ。洗いやすいのでそのままゴロゴロと嬲ってやる。 「♪~~」  どうも両手で右足を押しのけようとしているようだ。できるはずもないのに。埃は彼が吸ったが汗はまだ存分に残っているので、せっけんの中につんとした匂いを感じていることだろう。愉快だった。  足に挟んだまま桶に足を掴んで汚れを落とす。 「あら?」反応がなくなった。  ちょっと開いてみてみると、どうも溺れて死にかけたらしい。親指で腹を圧してやる。水を吐き出し、せき込む。 「感謝なさい。救ってやったんだから。アンタが私に返せるものなんて何もないんだから、そうね、せいぜい崇めるといいわ」  ぎゅっと足で挟みながらそう言う。足裏から直接聞こえる託宣を、かれはどう受け取ったろう。私を女神だと洗脳してやるのもいいかもしれない。  その後もう一度同じことをして、最後に手ずから洗ってやる。  ちょっと遊びすぎて、汗をかいてしまった。 (私もお風呂にしよう)  無論、彼のような「足湯」なんかじゃなくてちゃんとした入浴だ。  無造作に虫を口に含んだ。服を片付けて、湯船に水を張る。  しばらくぼうっとしていた。講義と悦楽を同時に行うとなると、頭を使うのだ。特に教授の下訳だとかだと、余計に。  手慰みに、もにゅもにゅと口の中を動かす。こうするとなんとなく落ち着くのだ。  ガムのようなものかもしれない。極太の触手のような私の舌に彼が抗っているのも、刺戟があってよい。  けど、所詮はガムだ。  「……っぷっ」  飽きて風呂桶の中に吐き出す。水面にたたきつけられた彼は、水切りのように一度跳ねてから着水し、何とか水面に上がろうとしているようだった。  まあ、もともと体格はあったから泳力はあるのだろう。  けれど、鼻歌交じりに私が揺れると 巨体の作る大波は彼を無情に飲み込んでしまう。わざわざ掬いだすのも面倒なので、そのままにしておいた。 (……猿でもまあ、こうしておけば欲情することもないしね)  今日の私は気分が良い。存在するという大罪を恩赦するくらいには。いや、私の偉大さを掲示してやりたいという温情さえ湧いてきた。  上を向いたまま指を振る。  彼が、一ミリの半分ほどまで縮んで行くのが見えた。 「♪」  結局、私はたっぷり一時間を入浴に費やした。  そして。  私はしどけなくベッドに身を投げ出していた。湯浴みの余韻を楽しんでいたのだ。  彼は女陰の上に置いていた。ぷっくりとしたふくらみの上、ワレメに落ちそうになったり、茂みに足を取られて動けなくなったりしている。  ……やけに動き回っている。多分何かしようとしているらしく、意志を持って動いているようだった。 「?」  見れば、どうも顔の方に近づこうとしているらしい。手を振っているが、反応するのも馬鹿馬鹿しいのでうっちゃっておく。 (ああ、それにしても……)  虫に取って人間の体の上とはどのようなものなのだろう? 恥丘は文字通り丘だろう。なんといったって、丘だけで数百メートルの大きさがあるのだ。ワレメは幅百メートル、高さも数十メートルは下るまい。一センチほど陰毛の厚さがあるとすれば、それは文字通りニ、三十メートルの大木と蔦の生い茂る原生林となる。そのくしゃくしゃとした毛が縦横無尽にそんな高さまで伸びているのだから、動けなくなるのも当然だった。もっともくだらないところで遭難しかけている虫をみるのは格別だった。正直、そのさまを見るためにちょっと伸ばしているくらいだ。 (きっと頭のところまで歩いてくるつもりね)  そう思う。  けれど。彼に比べて数千倍の大きさがある私は、胴体だけだけで一キロほどはあるに違いない。  男の体ならそれでも踏破できるかもしれない。が、私は女だ。この肉体は、この女体は、曲線美に彩られている。心拍や血流でさえ一メートルほどの隆起と沈降に感じられるだろう彼に、そんな場所を歩きとおせるだろうか。  できるはずがない。  今彼は慎重に体の真ん中を通っているようだった。が、もし少しでも脚を踏み外せば、あっという間に脇へと滑り落ちて、シーツの中に消えてしまうだろう。  いや、まさに今落ちようとしているようだ。  ちょっと興味がわいて、見てみる。  そして微笑した。  今、私の体には風呂上がりの汗が、白い素肌のそこら中に玉のように転がっている。蒸気が絶えず湧き出ていて、そのうえ呼吸に合わせて腹部が上下しているのだ。そんな天変地異の中を彼は歩いている。そして、恥丘を下ろうとしているとき、背後から迫ってくるガスタンクのような汗に巻き込まれて滑落。あわや南無三といったところで臍に落ち込んだらしい。  ケラケラと笑う私に合わせて、彼は臍の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられているに違いない。もちろん臍の手入れはしている。が、彼の眼には垢が見えているかもしれない。  彼に登れるのだろうか。私の小さな、かわいらしいおへそを。ちょっとした円形劇場のようなそれを。  しばらく眺めている。が、どうしようもないらしい。今日はこのまま、ぴったりとしたインナーを着て寝てしまおうか。  そう思った時。 「……ふふ、僥倖ね」  またも汗がころころと私の肌を転がり、その穴を満たした。埃のような彼も一緒に浮かんでくる。汗の粘性になかなかおもうように泳げないようだが、少しずつ、岸につこうとしていた。  運に勇気づけられたのか、また長い道のりを歩きだす。 (でも、難しいでしょうね)  だって汗は胸元から流れてきたのだ。  胸元は代謝が激しい。そして、生憎私の乳房は大きいし、豊かな谷間はそれ自体、その底に川を宿している。  案の定、泉のように湧いては丸まる汗に彼は苦戦しているようだ。  それでも、谷間の真ん中まで来た。これはかれにとっては、かなりの偉業だろう。たかが娘の、胴体半分の距離を歩いたに過ぎないが。 (褒めてやらなくちゃ)  そう言って、乳房に手を添える。少し触れるだけで柔軟にムニムニと形を変える、この乳房。しかしその張りは、彼にはどんなに凶暴に襲い掛かるだろう? ちょうど両乳房の中間に位置する彼を、一気に挟み込む。谷間に隠れてしまうことのないよう、むちむちとまんべんなくこすりつけてやった。 (乳圧で死ねるなんて、なんて過ぎたご褒美)  潰れた蚊のように、胸元に赤いシミを遺して死んでいるに違いない。  私は谷間を開いて中を見る。  そして、かすかに驚いた。 「アンタ、悪運だけは強いのね」  彼は生きていたのだ。まんべんなくすり合わせたせいだろう、ころころと転がって、汗にまみれたままその乳房の陰に隠れて事なきを得たらしい。一ミリもない彼が、私の血色のいい乳首の側面に張り付いている。それはなんとも哀れを誘う光景だった。 (そこまでして伝えたいことって、何かしらね)  もう、彼は私の目と鼻の先にいる。きっと私の顔は、大陸のように彼の前に広がっていることだろう。何とか目をこらして彼を見る。  毛の先ほどの彼が、しかし一定の動きを繰り返している。 (なに……?)  しばらく、その様を仔細に観察する。  小さすぎてよく見えない。  自分の心臓の拍動で、揺れてしまうのだ。  そしてようやく何をしているかに気づき、私は哄笑した。  ひれ伏すように土下座をしているのだ。乳輪をまるで礼拝の絨毯のようにし、私に懇願している。立ち上がって、土下座し、立ち上がり、土下座する。もしかしたら、乳輪にキスをしているかもしれない。全身を使って、私に願っているのだ。  ……私の吐息に飛ばされないのも、私から立ち上る熱気で飛ばされないのも、全ては私の汗と瑞々しい肌のおかげだ。そして今、彼は私にすべてをなげうって絶対的に帰依し、祈るように懇願している。 (完全に私に従属した……!!)  そんな信仰のもと私に願うのは、それ自体過ぎた願いだろう。  つまり、体を大きくしろとか、そういった願い。  私は、その信仰心を試すことにした。  指を舐めて湿らせ、彼を掬いとる。  目前に持ってきて言った。 「また戻ってきたら、良いわ、話を聞いてあげる」  そう言って私は、彼のへばりつく指を下腹部に持ってくると、クリトリスになすりつけてやった。  ブランケットをかぶり、本を開く。もとより矮小な巡礼の成就などありえない。  彼のことなど忘れて、私は電気を消し、横を向いて目を閉じた。  翌日。  目を覚ましたあとぼんやりと私は天井を見つめていた。 (ああ、これは踏みつぶしたかもしれないなあ)  そうと思った。  ダニに食べられていないとも限らない。  そして何気なく、流れた乳房を見た時。 (!)  彼は乳頭にへばりついて倒れていたのだった。  信仰心が勝ったのだ。  驚きとともに、私は彼を掌大にまでおおきくしてやった。 「ああ、ああ!」  彼は感激に失禁しかねないほどだった。実際は、前日よりも多少大きくしたにすぎないが、それでも彼には身に余る幸せなのだ。 「ありがとうございます。ありがとうございます!」  心からの快哉を叫ぶ彼を手に座らせ、私は言う。 「やるじゃない。褒めてあげる」  本心だった。  彼は平伏する。もう自分が人間だったことも覚えていないに違いない。 「ご褒美として、今日あなたが寝るまで、このままでいさせてあげるわ」  彼は礼を言おうとした。が、口の中が乾いてうまく言えない。当然だ。あれだけ熱いところに閉じ込められていたのだから。 「口を開けなさい」  おずおずと彼はそれに従う。目を閉じ、開いた口をこちらに見せた。  むぐむぐと私は舌を動かす。そして口をすぼめると、銀色に光る粘ついた水を、彼にめがけて垂らした。  つとっと、それは彼の口に到達する。そしてすぐさま口内を満たし、はちみつのようにとぐろを巻いて彼の顔全体をぐしゃぐしゃに濡らした。  彼はそれを手で掬い取ると、少しずつ飲んでいく。  生き返ったように見えた。 「もっと欲しいの?」 「くださるんですか?!」  私は微笑んで、ねっとりと彼の顔を舐め上げる。そして上半身を咥え、食んだ。そのままじゅぼじゅぼと彼を唾液で滅茶苦茶にしてやる。  口から糸を垂らしつつ彼を引き抜くと、激しくむせる彼の顔にぺっと唾を飛ばした。とうに服従しているかれは、それをも飲み込む。 「いい子ね」  私は彼に、一番のご褒美を与えることにした。  ベッドに小人を下ろす。そしてクッションに持たれると、見せつけるように脚を開いてやった。 「今日は特別。挿れてあげる」  感じさせられたらね、と私は付け加えた。 「ほら、舐めるんだよ」  急かす。一瞬惚けていた小人は、呆けたように股間に近寄った。まず、太ももにすり寄り、重量感のあるその柔肌に、舌を這わした。  コレにはすでに調教を施してある。順当にいけば、退屈はしないはずだ。  人形ほどの大きさではあるが、感触も感じられるし何よりきちんと見える。動物に奉仕させているという、生々しい実感が昂揚させた。  それゆえ、ただ黙ってみているだけでは物足りない。寝ているだけで生き地獄を味合わせるのも好きだが、やはり直接いたぶるのが一番だ。  こころみに脚を閉じてみる。  ぴっちりと閉じた内股に、しっかりモノを挟んでいるという感触があった。 (これよこれ。こうfrなくっちゃ)  たっぷりとした私の太ももは容易に彼を隠しきる。ぎゅうっと挟み込み、そのまま脚を組んでみる。  ムニムニとした太ももを掻き分け、もがく彼の手が見えた。苦しいだろう。苦しいに違いない。僅かに汗ばみぴちっと吸い付く太ももは、空気さえ通らず、その重量でもって彼を圧し包むのだ。柔肉の塊に潰され、パニックになった彼は肉壁を押しのけようとする。すると自分を挟む少女の肌は、更にみちっと食いつくのだ。頬に、腹に、背に、足に、全身を包む感触はさぞかし柔らかく、気持ちよく、恐ろしいだろう。彼は本能的に噛みついてくる。しかし、張りのある肌には歯が立たない。絶望を感じ、彼は身がすくんでしまったようだ。  頃合いを見て私は脚を高く上げてやる。一瞬裏腿に張り付いた彼は、もう片足にむけて剥がれ落ちた。したたかに腹を打ったのか、息もできずヒューヒューともがき苦しむ。ようやく深く息を吸い込むと、肌に浮かんだ汗を吸い込んでしまった。 「速くしないとそのままひねりつぶしちゃうよ?」たぷたぷと太ももを揺らす。つるりと滑り落ちた彼は、よろよろと狭まる脚の間を掻き分けていった。そしてぷっくりとした恥丘に抱き着くと、全身を使って体を摺り寄せる。手でなでられているようだけれど、もっと繊細で、優しい感触。それが徐々に、徐々に激しくなる。そして一滴トロッと蜜が滴り、彼の頭を濡らした。  と、滑りの良くなったクチビルに、彼の頭が滑り込む。 「なッ!?」  私は思わずクチビルを締めてしまう。もちろん彼も頭を抜こうとするのだけれど、口は咥え込んだものを咥え込んで離さない。内側からさすり撫でられ、キュンキュンと切なくなってたまらない。私は股を摺り寄せて、もっと、もっとと欲しがった。首を咥え込んだまま、彼の体が持ち上がる。全身があそこにめり込むように沈んでいく。 「んっ、こ、これ、ちょっと良いかも……♪」  悲鳴なのだろう、膣内にかすかな痺れが広がり、襞を震わす。  バカ。そんなことしたら逆効果。私は股間を手で抑え込み、身をくねらす。コリコリと頭がマメにあたる。髪がこすれてたまらない。思わず切ない声があがる。 (ダメ、これ、癖になっちゃう……!)  そう思った矢先だった。雷に撃たれたように私は跳ね上がった。  ぎゅうぎゅうと彼に押し付けられたマメが、彼の口をこじ開けたのだ。思わず彼は歯を立て、そして強く吸った。その刺激は私の脳天まで貫き、巨大な女体を一気によがらせる。 「っひゥ!!!」  声ならぬ声が頭一杯に広がる。思わず彼を掴み、そして深く差し込んだ。奥までなぞられて、思わずナカをジュクジュクかき混ぜる。なすすべなく彼はうねる柔肉に揉まれ、がむしゃらに襞を叩く、けどそれが切なくて切なくて。膣が絞り上げるように彼に絡みつく。とまらない。止められるはずがない! 私は身を抱えるようにうつぶせになると、胸をかき乱し、揉み上げながら彼を出し入れする。その度声が漏れる。だって切ないんだ。心臓が早鐘を打って、快感が尽きぬけ爆発して、こんなゴミムシに乱れてる。 (やだやだやだ! こんな小人がっ! キモチいいなんて!!)  そう思うけどもうダメだった。汗と汁でぐしゃぐしゃになりながら私は転げまわって、淫靡な水音を部屋いっぱいに響かせた。力が入りすぎて、彼を握りつぶしそうだ。苦しむ彼は足掻いて足掻いて、そしてあらん限りの力でもって私のマメを蹴り上げた。  頭が、真っ白になる。 「  ~~~~~ッッ!!」  それは紛れもなく絶頂の瞬間だった。  イく瞬間、突き抜ける快感にワレメが彼をキュウッと飲み込む。膣は彼をひねりつぶすようにくねり窄まり、潮をまき散らしてシーツを汚した。 「ッ、ぁああぁ……」  浮いた腰がぴくぴくッと痙攣し、一呼吸あけて私は弛緩する。  クッションに、唾液と涙でシミができている。髪が濡れそぼっていて、肌からはぽたぽた汗が滴った。全身が熱い。  ぴちゃっと音を立てて、ベッドに沈んだ。 「最高……」  そうつぶやく。  なおもひくつくワレメから、動かなくなった小人が垂れ落ちていた。