* 手始めに 今、僕の家のベッドに女の子が座っている。 こんなろくに外に出ない男の家に。 正直、自分でもびっくりだ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 時は3時間前 家から帰ってきて、僕はパソコンがある部屋へと直行した。 実は新しいキャラクターを作っていた。外出中に良い案が思いつき、急ぎ戻ったのだ。 すると、パソコンのデスクトップは真っ青に染まっていた。 いわゆるブルースクリーンというものだ。 なぜだろう…何も触っていないのに、パソコンが壊れるはずがない。 すると、後ろで物音がした。瓶が割れた音のように聞こえる。 もちろん、何も触っていないのに瓶が割れるはずもない。 もしや、泥棒…? 急に冷や汗が湧き出た。僕はそこにあったほうきを持ち、音がした台所へと向かった。 台所への曲がり角を静かに曲がろうとしたが、 目の前に、少女。 「うわっ!」 その子は驚いた様子で後退り。僕も同時に硬直してしまった。 これが普通の泥棒なら、今頃ほうきで頭を何度も叩いていることだろう。 しかし、僕の手は動かない。恐怖に満ちたのでも、惚れたのでもない。 そいつは、僕の作り途中のキャラクターの完成図そっくりな見た目、色、身長。 そんな偶然があるわけがない。 とすると、あのパソコンから出てきた? 信じられないが、それしかない。 あのブルースクリーンもその時に発生したものなのだろう。 一方、そいつは両手で口を押さえながら、驚いた顔だ。 服装は青緑色の猫耳付きフードに、黒いスカートとタイツ、何とも変わった格好だ。袖はとても長く、手が隠れてしまっている。いわゆる萌え袖だ。そして袖の中からは、マスカットのふさの先が見えていた。 そこに視線をずらすと、そいつはおろおろし始めた。 「違うんです…!こ、これは…」 話すと長くなりそうなので、仕方なく食べてもらった。 * こういう事だ。 そいつがベッドの上で、足を崩してキョトンと赤い右目と青い左目で見つめている。 ちなみに名前は設定していたはず。 手帳を開き、名前を聞きながらそれを見せる。 「月影 霊夜」 自分の文字で書いた名前を。 「そうです…というかパソコンからでも、そっち側を覗けるので、大抵のことは知ってますよ?」 「ん…」 話終わって数秒後、彼女の口がにやける。 「例えばぁ…あなたが徹夜で私のデザインを顔を赤らめながら考えていたこととか…」 正直嫌いだ。 僕が動揺するのを見ると、片手で口を押さえながら「ふふ…」と笑う。 時計は11時を過ぎている。 流石に霊夜に出て行けと言うのも可哀想だから、今晩はだけ泊めることにした。 しかしベッドは一つしかない。 お互いに顔を見合わせる。そして顔を赤らめながらそっぽを向く。10分もの討論の末、結局添い寝することになってしまった。 添い寝なんて人生で初めてかもしれない。 特にこんな女性とは。 部屋が狭いのでベッドの横幅も狭い。 その分だけ距離が近づく。 霊夜が可愛らしい瞳で僕をじっと見つめ、時折、生温かい彼女の吐息が額にかかる。 服は変わらず、フードを被ったまま。暑くないのかと心配になる。 急に、後ろの首元に感触がした。 次に、足に何かが絡んだような感触がした。 吐息はさらに近くなる。 僕は、彼女に抱きつかれていた。 顔が赤らみ、吐息の熱さが増す。 「嬉しいな…添い寝なんて出来て…」 ボソッと目の前で笑顔を作りながら呟いた。 僕は急に睡魔に襲われた。 霊夜は抱き締める力を強くする。 霊夜の可愛らしい腕、 霊夜の可愛らしい足、 霊夜の可愛らしい顔、 霊夜の可愛らしい小さな胸が、僕の体に張り付く。 身長は140cmなので、ちょうど僕に乗っかる感じだ。 すると、霊夜が僕の方を向き、口を開いた。 「11ってね…」 次に耳元に顔を寄せ、 「不吉な数字なんだって:)」 囁いた後、右肩に激痛が走る。何かが刺さったような、貫いたような痛みだ。 思わず一瞬、声を出す。 霊夜に向き合うと、抱きついたまま笑顔を作っている。 その犬歯には、血がついている。 僕の肩には、血が滲んでいる。 「痛かった?」 冗談じゃない。 僕は、霊夜を振り撒こうと、必死に絡んでくる腕や足をどかそうとする。 …しかし、どけない。 力では男性の方が強いはず。 その後も何度もどかそうとするが、むしろどんどん力が弱くなる。 そんな時、気づいてしまった。僕の視点がどんどん下に下がっていることに。 霊夜は抱き締めるのをやめ、遥か上から、「ふふふ…」と笑いながら見下ろしている。 僕の視点移動はそこで止まった。 周りを見ると、枕は僕と同じ高さほどに、ベッドは広大な草原のように広がっている。 そこに影が差した。 見上げると霊夜の邪悪な笑みが見える。 「小さくなっちゃったね。…ふふ。今は100分の1サイズ。大体1.5cmだよ。」 つまり僕から見ると、霊夜は140m。四十階以上のビルに相当する。 そんな巨大な霊夜が、とあるゲームを思いついた、と。 「鬼ごっこしよう?」 多分、霊夜は遊び感覚で言っているのだろう。 だが、僕にとっては命懸けだ。 あの手も、足も、たとえ小さなあの胸だって、凶器になりうる。 「捕まったら…ふふ…ふふふっ♡」 指を指す先には、霊夜の口。 「今度は肩じゃなくて、丸呑み…早く食べたいなぁ…」 僕は恐怖心に支配された。 140mの巨人が僕を食べようとしている。 さっきまでは可愛らしく見えた目も、今では、人を喰らう化け物の目に見える。 僕は逃げた。ベッドと壁の間にある隙間へと繋がる一本道に。 ドン! 突如、前に巨大な青緑色の壁。 「逃げれると思ってるの?」 一本道を戻ろうとしたが、霊夜はずりずり這いながら前進し、霊夜の胴体が塞いでしまった。 「はい、捕まえタ♡」 前に立ち塞がる右手の袖が、どんどん霊夜の胴体へと引き寄せられていく。 そして左手で僕の服をつまみ、胸の高さまで吊り上げた。 「案外、あっさり捕まっちゃうんだぁ…」 少しも哀れに思わないその巨大な目で僕を見つめる。 「それじゃあ、約束通り…」 僕を摘んだ左手は、霊夜の口の上へと運ばれた。 「いただきます♪」 その左手を離し、僕は彼女の口へと入っていった。 中で鮮やかなピンク色の舌が、僕を舐め回す。 食道へと放り投げられ、落ちていく。 先には胃酸で満たされた胃。 死にたくない。 僕は必死に胃壁を叩いた。 すると返信が一件。 「ん…もがいてるね。でも残念。大人しく私の一部になってね…ふふふっ…アハハハハッ!」 霊夜はその家を出て、外へと歩き出した。 「もっと…もっと楽しい遊びを…」 * 全部 私のもの さて、夜中の12時を過ぎても、都心部の街は、煌々としている。 特に居酒屋やスロット店などは大賑わいだ。 終電もとっくに過ぎ、ほとんどの店舗がシャッターを閉め始めた頃、例の女の子が1人、夜道を歩いている。 …1人の男を腹に入れたまま。 時折、お腹をさすりながら小さく笑顔を作る。 わかる人にしか分からない笑顔だ。 そんな霊夜が、とある路地を回ると、泥酔した高校生くらいの青年が、3人ほど戯れていた。 缶ビールを片手に、顔を赤らめ、叫んだりしている。 「ん…おい、そこの猫むすぅ!」 うちの1人が気づいた。周りは誰もいないシャッター街、視線をずらす者などいない。 霊夜は、真顔でじっと3秒ほど見つめた後、路地を出て行こうとした。 「おいってばっ!」 フードの裾を掴み引っ張る。 霊夜は体制を崩し、倒れる。 「ヘヘッ…お前、なんだよその格好。可愛いじゃねえか、猫耳なんかつけて。」 3人で霊夜を囲み、猫耳を触る。 ふさふさという音を立てるその耳は、とても魅力的で可愛い。 「猫耳が本当についてたりしてな!」 そのうちの1人が猫耳を掴んで、フードを取ろうとする。 「あっ…!」 霊夜は思わず声を出した。 そして左手で、フードを掴んでいる手を叩く。 「っ!…お前」 男はすぐさま顔を顰める。 今にも飛びつきそうな顔だ。 しかし霊夜はそんな顔にも怖がらない。 俯き、笑顔を浮かべる。 今までにない笑顔だ。 「…全く。私は別に猫耳を触られたり、貴方達みたいな人に絡まれるのも、別に気にしないんだけれど…ね?」 顔を上げて、立ち上がる。 影はどんなものよりも黒い。 ; ; ; 「フードを取るのだけは…私は嫌だよ?」 不気味な笑顔を浮かべながら、そう言い放つ。 ; 「…ヘヘッ…面白いこと言うじゃ_」 次の瞬間、周りのネオン街の景色や、バイク、スロットの音が突如として消えた。 周りは真っ白な空間に、黒い線がマス目状に広がっている。 3人は、戸惑う。 (どう、面白い?) 急に後ろから霊夜の声がする。 慌てて振り向くが、誰もいない。 「ふふ、可愛い…」 前には、あの少女。 後ろで手を組んで、こちらを愛おしい目で見ている。 「…実はね。私は、この世界を… 支配しているんだよ。」 「…どういうことだよ…」 自らをこの世界の支配者と名乗る、小さなその少女は、無邪気に笑う。 「管理者権限って知ってるでしょ?私はこの世界の管理者権限を持ってる。だから、ここでは私の自由自在。 あの街も、 あの路地も、 あの星も、 あの銀河も、 ぜーんぶ私の思い通り。 「全部、私のもの」」 もちろん、この小説を読んでる、君も。 私のもの… 「くそ…何を言ってんだ、こいつ。」 「それになんだよここ!」 霊夜は、戸惑う彼らを見て、小さく舌なめずりをした。 「じゃあ、見せてあげる。こういう事だって…」 霊夜は目を瞑る。 そして次には、彼女の体は、巨大化を始めた。 「おい。あいつデカくなってねえか?」 30秒ほど経って、その変化は止まった。 あたりは瞬く間に、彼女のシルエットに包まれた。 「ほらね。こんな風に大きくなれるんだ♡」 自分達の100倍分の遥か上から見下ろすその笑顔。 男達は逃げ出す。 「やっぱりみんな逃げるんだ…でもね。」 そう言いながら、右足を上げる。 「逃げても逃げても逃げても…」 私からは逃げられないよ… 次の瞬間、激しい轟音と共に男達の前に、横幅20メートルの巨大な壁が立ち塞がる。 衝撃波で、10メートルほど吹き飛ばされる。 「あははっ!やっぱり楽しい!」 彼女の無邪気な笑い声が、空間中にこだまする。 「普通なら、「削除」っていうので君達を消せるんだけど…」 しゃがみこんで、震える小さな男達をじっと見つめる。 「こうやってじわじわ、自分の手で消すのが…私は好きだヨ♪」 何分経ったことか。 命懸けの鬼ごっこは続いていた。 毎回下される轟音と巨大な足。 毎回聞こえる彼女の笑い声。 「ふう…なかなか耐えるねぇ…」 やっとのことで、そのゲームは中断された。 男達は息切れしながら、何かコソコソと話している。 「でもね、私は諦めないよ。」 この一言に男達は硬直する。 続けてこう言う。 「第二ラウンドと行こうか?」 ただでさえ大きな霊夜は、さらに巨大化を始める。 もはや、彼女の顔が霞んで見えるほどだ。 巨大化をするだけで、空間内に大地震が起きる。 男達は迫る靴に巻き込まれないように、必死に走る。 生き地獄だ。 1分ほどして巨大化は止まった。 彼女は、現存する人工建造物の高さを遥かに超える、1400m。 徒歩で15〜20分かかるほどの高さ。 彼女から見ると、男達は、2mmの小人。 「今度は、足じゃなくて手で…」 すると、遥か上空から、150mの肌色の手のひらが、迫ってくる。 男達は走る。 かつてないほど速く。 「まあ…逃げられるはずないよね♡」 3人の男を乗せた手のひらは、霊夜の小さな胸あたりまで上昇した。 「神様のフードを脱がそうとした罰だよ…」 ゆっくり手のひらを傾け、神様という霊夜の口に落とそうとする。 手のひらに必死に掴んでいた3人は、呆気なく暗闇の中へと消えていった。 この飲み込む感触が堪らないんだよね…♡ そして、胃の中へ。 力を抜いたら最後、底無しに等しい胃液の湖で溺れる事になる。 底にはおびただしい量の白骨が見える。 その中に一つ、まだ完全に溶かされていない男の死体… こうして、またこの世から3人が彼女の犠牲となった。 一方、霊夜は何事も無かったかのように、静まり返った路地を出ていった。 日差しが眩しくさす。 そして歩く先には、ビル群が見える。 「今度は…もっと…もっと…クフフ…」 * 一片 夜明け。日光が未明に降った夕立で出来た水溜りに、キラキラと反射する。 先には街。 けたたましい車の音と、排気ガスの匂い。 彼女はそれらが嫌いだ。 街へと続く道で彼女は、それらを 観る。 聴く。 匂う。 「どうも嫌だなぁ…」 どうやら神の目、耳、鼻には、それらが気に入らなかったらしい。 突如、街に激しい轟音と、地震が発生する。 人々はそれが自然では無いことには、すぐに気づいた。 それらがどんどん大きくなり、 人型の影がさし、 遥か遠くに巨大な、人の姿が見えたから。 「久しぶりだなぁ…こーんな人目に見られる場所で、100倍巨大化だなんて…」 その少女は、恥ずかしさからか興奮からか、顔を赤らめながら、 その大きな足を大袈裟に上げながら、 「ズシーン♪」 と進んでいく。 人々はようやく恐怖から解放され、逃げ出した。 ある者は、かばんを投げ出す。 ある者は、自分の子供さえも投げ出す。 そんな人々の心を見向きもせず、 「ドーン♡」 足を振り下ろす。 踏まれた者は骨すら残らず、 踏まれなかった周辺の者は、衝撃波で飛ばされる。 直径30mほどのクレーターが出来た。 「やっぱここも脆いなぁ。」 手に腰を当て、逃げる群衆に目を向ける。 「実はね、私は君達の心も読めるんだ。 けれどね。こんな小さな君達の心なんて、 私にとっては、どーでも良いんダ…」 言い終わった時には、逃げる群衆の上に影。 「おりゃー♡」 こうして群衆の半分は踏まれ、 もう半分は衝撃波で飛ばされた。 運良い者は生きていたが、大半は死んでいた。 「そろそろ、足も飽きてきたし…」 そう言うと、霊夜は体制を崩し、 国道でうつ伏せになる。 これだけで140mの範囲にいた車や建物は、 全て彼女の下敷きとなった。 「っ…ヒンヤリしてて気持ちいい…♪」 頭を起こすと、目の前の直線道路を死に物狂いで走る、群衆の姿。 「じゃあ、10秒だけ、待ってあげる。」 死へのカウントダウンが、町中にこだまする。 「ごぉ…よん…さん…にぃ…いち…」 ぜーろっ♡ 「じゃあ、潰してあげるね。」 霊夜はそのまま匍匐前進を始めた。 彼女の肩幅にある建物は、一階から壊され、倒壊する。 彼女の胸元に車やバイク、瓦礫が溜まり、 どんどんスクラップにされていく。 そして群衆に10秒足らずで追いついてしまった。 群衆はあっという間に血溜まりと化した。 「よいしょっ」 再び体を起こすと、今度目に止まったのは、バスだ。 赤信号を無視し、少しでも彼女から離れようとするバス。 しかし、突然急停止。 バスのところどころから、メキメキと音がする。 車窓から見えるのは、肌色一色。 「ふふ♪バスゲット〜」 バスは天高く持ち上げられ、左の手のひらに乗っかった。 11cmのミニカー。 その中に1cmの小人が入っていると思うと、興奮が止まらない。 霊夜は、左手の力を強め、バスを潰そうとする。 軋む音はますます強まり、壁が天井が凹んでいく。 最後に爆発し、バスは鉄屑となった。 もちろん、彼女に対する爆発のダメージは無い。 改めて街を見回すと、破壊した箇所は、10分の1にも満たない。 「これは…壊し甲斐があるね…」 そして彼女の体は巨大化を始めた。 影はより一層濃く、体はより大きくなる。 1000倍。もはや1400mの彼女には、スカイツリーなどスカートの下に隠れてしまう。 「そこのスカイツリーの展望台にいる人〜」 彼女が喋っただけで、周りにある物は吹き飛ばされ、更地になる。 「展望台からだと、私のパンツしか見えないよね…?」 事実、展望台から見えるのは、彼女の黒いパンツ。顔はもっと上にある。 すると、太ももをスカイツリーに挟み始めた。 「あっ…//ひんやりしてる…」 太ももを離すと、スカイツリーは倒壊した。 彼女の欲は絶頂に達した。 「これが国…」 10万倍。140kmの巨体が為す声によって国土の10分の1の建造物が吹き飛ばされる。 その暴風は隣国にも及んだ。 その風により波が発生。 国土の10分の1が沈んだ。 これが彼女が喋っただけで起きた災害である。 「じゃあこれで最後♡」 急に今まで経験したことがない地震が発生する。 空を見上げると、どんどん宇宙に近くなっていく。 巨大な手で国土のほとんどを持ち上げ、胸元辺りに持ち上げた。 「最後は、私の脇で…」 彼女はフードのチャックを開け、毛一つ垢一つ無い、彼女の脇へと大陸を持っていく。 天が肌色で覆われ、空気は彼女の匂いで満たされる。 その肌色の壁がどんどん迫ってくる。 じゃあね、ゴミども♡ こうして一つの国が消えた。 世界的に報道され、その原因が巨大な少女だということも分かった。 こうして世界が動き出した。 邪悪な魔王を止めるべく。