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Izumi Lab. 15

午後から雨が心配だったので遠出はせず、『ふれあいロード』を走って来ました！

うぅ〜〜、私が途中でトイレに行きたくなってしまい、通り道にあったケンタに変更しちゃいました。

実は、１年程前にエルモサの右目の黒目の端によ〜く見ないと分からない程の小さな斑を見つけてたんです。

その時点で先生からはおそらく『角膜ジストロフィー』であろうとの診断をもらっていました。

エルモサの場合は1年程経過して徐々にではあるんですけど、少し大きくなってきちゃいました

ただ、これまでお散歩仲間からは指摘とかされたことはないので、こちらから言わなければそんなに目立つ程ではないんですけどね。

昔はヒアルロン酸の目薬なども処方されてたようですが、これが効く事はないそうです。

なので、エルディとのお散歩でも訪れたことがありません。 カタクリの花が５分咲きとの情報から今回コースの１つに取り入れてみました。

彼らには絶対お目にかかりたくないので、この春はこれで打ち止めになっちゃうかもね。

全然苦にならず、やっぱりこんな風に自然の中を走るのってダイスキなんだなぁ、私・・・と再確認できちゃった

これは加齢に伴い増えていき、背骨の可動域が狭まって腰痛等の原因になることもあるらしい。

銀時にとってその十年は、長いようで短かったように思う。過ぎてみれば、の話なのだが。

道を分かつまでの二十年弱は多くの時間を共有してきたが、こと最近までの十年は互いに全く知らぬ道を歩んできた。

こいつは昔からそうだ。出会った当初もいつの間にか道場に上がり込んでいて、当然のように周りに馴染んでいた。人の懐に入り込むことが上手いというか、なんというか。

丁寧とは程遠い雑さで腰を落ち着けたので、やや桂よりに座ってしまったのは仕方のないことだった。

確かに少し動けば腕が当たるかもしれない微妙な距離だった。かもしれない、あくまでその程度だ。

いや、会話は普通にするし、むしろこうやってこいつから会いに来ている。少し前の十年ぶりの再会だって桂が仕組んだことだ。避けている、という言い方は違うか。

どうして、と思わないわけではないが、正直なところ心当たりはある。銀時が何かしたのかと問われれば、何もしていない。何もしなかった。それは、仕方のないことだったのだ。今思い返しても、あれ以上に最良の選択肢が分からない。

「わ、いいですね。じゃぁ僕も今日はこっちでいただいていこうかな」

成人男性が一人増えたら食卓というものは大きく変わる。そんな簡単に決められてたまるか。

口から生まれたと自ら豪語するほどの銀時でさえ、桂の勢いには口より先に手が出てしまう。口で言い負かそうとしたところで通じないのは分かりきっているので、こうするのが手っ取り早いのだ。

当の桂は「痛いではないか」と頬を膨らませているが、さりげなく銀時とは距離を作っている。

どうしようもないこととは言え、銀時としては釈然としない。接触を避けられているからといって、別段困るようなことはないのだけれど。

桂が過剰なほど銀時との接触を避ける原因は、恐らく十年も前のことだ。

そんな男が、こんな時間に桂を呼び出すとは何事だろうか。酒宴を開くような性格には思えなかったが。

ろくな言葉を発することができなくて、我ながら頭の悪さに泣きたくなった。

正直、敗戦続きで戦況はきつかった。それでも、坂本という後方支援を得てからは金銭的に苦労することは少なくなった。行く先々で拠点を構える際にも、攘夷浪士にあまりいい顔をしないその土地の有力者を金で丸めこむこともできるようになった。戦に於いて地元の人間の協力は必要不可欠なのだ。

それほどまでに戦況は厳しくて、それほどまでに誰もが追い詰められていた。

何を言っているんだ、と思う一方で、あの桂がそんな冗談を言うわけがないことないぐらい分かっている。何よりも、真っ直ぐに銀時を射抜く視線は言葉もいらぬほど雄弁だった。

生娘でもあるまいし、初めては好きな人に、なんていう殊勝な考えをこいつでもするのだろうか。分からないが、これから目的の為にとはいえ男としての屈辱を自ら味わいに行かなければならないのなら、少しでも心が軽くなる方法を選びたくなるというものではないか。

と、そこまで考えてはたと気付く。こいつだって立派な男なのだ。好いた相手が男なわけがあるまい。屈辱的なことをされに行くやつに、屈辱的なことを聞いてしまった。

皆まで言うことなく、桂は肯定した。その声は、ほんのりと震えている。

そんなこと、考えたこともなかった。だってこいつは、大事な大事な、幼馴染だ。それを言葉にして伝えたことはなかったが。

見たことのない幼馴染の顔に、どんどんと頭が混乱していく。幼い表情しか知らなかったのに、こんな大人びた顔をするようになったのか。

冗談でこんなことを言う奴ではない。どれだけの想いを抱えて、どれだけの勇気を振り絞って、どれだけの恥を捨てて、どれだけの覚悟を決めて、こんなことを言ったのかは計り知れない。

これから好きでもない男に抱かれなければならない奴に、酷な返しだとは分かっている。一度くらい抱いてやれよと、頭の片隅で思わないわけでもない。

幼少期はよく高い位置で結んでいたが、最近はほとんど見ることはなかった。毛先を緩くまとめて横に流すということを覚えてからは、それが楽だと悟ったのかそればかりよく目にしたものだ。

艶やかで、真っ直ぐで、汚れを知らなくて、まるで持ち主のようなこの髪を。

鏡の中の桂から視線を外し、ゆっくり、ゆっくり、髪を梳いた。まるで何か、祈りを捧げるように。

あれは白昼夢だったのかもしれない。最近ちょっと敗戦続きで精神的に参っていたし。今夜こそゆっくり休もう、そうしよう。

そんな呑気に構えてしまうほど、桂は何一つ変わった様子がなかったのだ。

誰にも触れない、ということであれば、オッサンとの行為のせいで人間不信気味になっていると推測できるのだが、それはなく銀時に対してのみの拒否だった。

それはつまり、桂の想いを銀時が受け入れなかったことに起因しているということだ。

倉沢からの呼び出しはそれからも頻繁にあった。表立って本人が何か言うことはなかったが、隊士達の間でもまことしやかに疑惑が流れるようなっていった。

クソ真面目なリーダーが夜な夜な抜け出しているということもあったが、何より独特の艶のようなものを纏い始めたのが大きかった。

清廉潔白で傑物だった男に、どことなく隙が生まれたとでもいうのか。とにかく、男に抱かれているのだと俄かに匂わせる何かを纏っていたのだ。

今日の天気予報は雨じゃなかったはず。結野アナ言っていたもん。……でもゲリラ豪雨にはご注意とも言っていた。気がする。はい、そうですね、傘持ってこなかった俺が悪いですね。

いつも人んちで遠慮もなしに茶を啜ってるくせして随分と偉そうだなオイ、と思ったが、それよりも先に引っかかったことがある。

桂が持っていたのは一人用の傘だ。成人男性二人が無理に入れば嫌が応にも肩や腕が触れてしまう。

桂の中であの想いが、どう変化したのかも、もしくは消えていったのかも。銀時が知る由もない。

まだ何か言いたげにしていたが、有無を言わさぬ口調で押し進めて真っ直ぐ前を見る。

なんて馬鹿なことを考えていると、不意に桂が傘から出てしまった。

こっちの方がいい。豪華な屋敷よりも似合う、と言えば失礼に聞こえるかもしれないが、こちらの方が「らしい」し、銀時としても落ち着く。

ふと、縁淵に無造作に置かれた鍵が目についた。先程桂が懐から取り出したものだった。

どうせあいつのことだから、気色の悪いストラップでもつけているのだろう。エリザベスなのかステファンなのか何なのか分からない得体の知れない何かのストラップを。

そんなつもりで目を凝らして見るが、いくら目を細めようとそんなものは見当たらず、代わりにシンプルな紐が括りつけられていただけだった。

何故こんなものを……と首を傾げて、ふと見覚えがあることに気付いた。どんなものだったのかは曖昧だが、それをどうしたかだけはよく覚えている。

いや、もしかしたら思い違いかもしれない。似たような色の似たような装飾の紐を、勝手にあの時の紐だと思ってしまっただけだ。

いやいやまさかね、と思い至った考えのせいで急激に上がった熱を冷ますように頭を振った。

当てられたのがタオルだと分かっていたけれど、そんな乱暴な渡し方をされて黙っているわけにはいかないと振り向いて抗議を口にしかけて、止まった。

そこには、可哀相なくらい小刻みに震え、顔を真っ赤に染め上げた、桂がいた。

何も言えず、何も出来ず、ただ立ち尽くしていた銀時を桂が押しやるように玄関から追い出してしまった。雨はまだ止んでいない。頭を覆うタオルも、あっという間に意味を成さなくなってしまった。

蘇るのは、今までに見たことのない表情を晒した幼馴染の姿。いつの間に、あんな表情をするようになったのか。この十年で。

戦時中、敵が「桂を討ち取った！」と声高々に喚くのを何度も聞いたことがある。桂に限らず、四天王のメンツは大体白羽の矢が立っていたが。

実際、その証拠を突きつけられた時のブチ切れっぷりといったら、みっともないことこの上なかった。

本当に失ってしまったのかもしれないと過った時、そんな覚悟こそがハッタリだったのだと痛いほど自覚した。

何を考えているかは分からない。けれど、ことさら強く抱き締めた。

掴んだ腰は、想像していたよりもずっと細かった。ちょっとでも力加減を間違えてしまえば、本当にもげてしまうのではないかと冗談抜きで不安になる。

銀時を押しやろうと腕を伸ばしてくるが、傷が痛むようでまともに力が入っていない。この状態で手足をばたつかせれば反射で離してしまうかもしれないが、それはそれで銀時の怪我を悪化させてしまうのではと懸念しているようで、中途半端に身を捩るだけに留まっていた。

きっと、いつも通りの髪型だったのならば、指先に毛先が触れただろう。ざっくばらんに切られた髪が、奴の頬を撫でている。

触れたらきっと最後だと、ずっと耐えてきたのだろう。まるでそれが、最後の砦だとでも言わんばかりに。

俺の気持ちが分かっているのなら、と消え入りそうな声で懇願する桂を離すわけがないだろう。

これから何十年もかけて伝えていくから。今更遅いかもしれないけれど、こっちだって今更気付いたんだから仕方ない。

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私たちが喪ったのは、どんな「世界」だったのか？〔前篇〕　東京電力・福島第１原発事故（第183信）

何年か前、私が食事をする場所に困り抜いていたとき、インターネット検索を重ねに重ねて、ようやく見つけることができた——。

この《Ｍ》は、素材・調理・接客・施設のいずれに関しても、現在、国内最高であるばかりでなく……世界的に見ても、ロンドン・ピカデリーサーカスの外れの《Ｔ》、同じくチョーク・ファーム地区の閑静な高級住宅街に位置する《Ｍ》をも凌駕する——すなわち、私見では“世界最高の自然食レストラン”ということになる。

これこそが、いま——単に自然食レストランばかりではない、本来、飲食店のあるべき姿ではないか。

今回、12月に赴いた際は、食事中、スタッフが入れ替わり挨拶に来てくれたばかりか、帰り際には、店長を含む４名が外に出て、寒風のなか、いつまでも私の運転する車を見送ってくれた。

21世紀初め、東京電力・福島第１原発事故下のこの国に生き合わせた彼らを——。　

「世界」が、これまでの自分の祖先たちと同様には委譲されるものではないのだという——事と次第によっては、ほどなく滅びるものかもしれないという――。

これが、私の生まれ育った町——87歳の父親と80歳の母親とが、生涯を過ごしてきた町なのだ。

だが同時に、その世界は、いまこの地上に存在する私たちの誰もが、もはやその修復され蘇生した姿を見ることのない世界かもしれないのだ。

世界とは、つねに極限的な細部の集積から成り立っているのだから。

……いま、私がこれを書き綴っているのは東京ではない。事情があって、時折り来訪する中央高地――長野県北部の田舎町である。

（だが、本稿をアップロードするのは、帰京してからのこととなることだろう）

私の幼少期は、自分自身が周囲から受けた直截の経験から「世界は根本的に間違っており、人生は苦痛と悲しみに満ち、神などむろん存在するはずもなく、人間は悪に支配されている」という見解を大原則として生き抜いてきたものだったのだが——その少なからぬ部分は、この田舎町に生き合わせた、それも同年代を中心とする他者との関係のなかで形成されてきたように思う。

十代の終わりにこの町を離れてから現在にいたるまで、とりあえず東京に生活の拠点は持ってきたものの、年に何度かは「帰郷」していたし、私の健康状態がとりわけ芳しくなかった二十代後半には、断続的に数箇月をこの「郷里」で過ごしたような年もある。