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元の大きさに戻っていない俺はアスカを見上げた。
"どしたのハルちゃん?"
問われたハルはスマホの画面をアスカに見せた。
"あの…画面にお兄ちゃんじゃなくてわたしの顔が写ってるんですけど…"
確かに画面にはハルの顔がドアップで写っていた。
あ。
と、アスカが呟いた。
"ほら、さっき記念撮影したとき自画撮りモードに切り替えたじゃない? だから今"サイズチェンジャー2.0"使ったときもそのままだったのよ。それで画面の向いてる方のハルちゃんを撮っちゃったんだね"
アスカが笑いながら言った。
俺はピキッと固まった。
"え……それってつまり……"
俺が恐る恐る訊くと、
"うん。ハルちゃんにサイズチェンジャーの効果がかかっちゃった、ってことだね"
アスカがあっけらかんと言う。
"…"
俺はゆっくりとハルのほうを振り返った。
ハルも俺を見下ろしてきていた。
"…"
"…"
お互いに目が合い、微妙な沈黙が支配する。
そしてその直後、
ズッドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
我が家が爆発した。
同時に家の周囲の住宅地を凄まじい振動が襲う。
ガスボンベでも爆発したのかと慌てて家の外に出てきた人々は、自分達の住宅街の上に座り込む、とてつもなく巨大な女の子の姿を見た。
身長1600mと、正真正銘1000倍の大巨人となってしまったハルである。
住宅街を尻の下に押し潰し、右足には学校を、左足には何十件もの家を踏み潰していた。
しかもその格好はさきほどまでのパンツとミニスカートのみを身に付けたそれである。
町中の人間の前に半裸の姿を晒していた。
"きょ、巨人だ! めちゃくちゃデカイ人間だ!!"
"でっかい女の子だ!"
ハルの姿を見た人々が口々に叫ぶ。
町中の人々に見上げられながら、ハルは、ようやく紡いだ言葉を呟く。
"あ、あぅ……"
ハルの呟きが住宅街を揺るがした。
そんなハルの股間の目の前の地面。
屋根も壁も吹っ飛んだ家のむき出しになった部屋の中から、アスカと、未だに1000分の1サイズの俺はハルを見上げていた。
"うーん、はちみつさんの作品をリスペクトしたとは言え、まさかここまでガチパクリするとは…"
こんなときに何カミングアウトしてんだ。
"……ってそれどころじゃないだろ! どうすんだよコレ!"
俺が指差す先では巨大化したハルが今や本当に山のような大きさになった乳房を慌てて隠していた。
"まぁまずは元の大きさに戻してからね。ハルちゃんハルちゃん"
アスカがハルに声をかける。
"あ、アスカさん…! ど、どうしたらいいんですか…!?"
ハルは胸を隠しながら脚をすりよせ体をなんとか縮こまらせようとしていた。
町中の人間が驚愕の表情で自分を見上げているのだから。
"落ち着いてハルちゃん、サイズチェンジャーの倍率をいじって、今度は自分が小さくなるようにすればいいのよ"
"そ、そうですね…!"
ハルは手に持っていて一緒に巨大化したスマホを操作した。
とにかく早く早くもとの大きさに戻らないと…!
ピッピッと素早く画面に触れていく。
しかしとにかく早くもとの大きさに戻りたい一身から、ハルはもう画面を適当に操作していた。
"あ、自画撮りモードは解除しないと! 今それでこんなことになっちゃったんだし!"
そんなハルの巨大な呟きに俺は、
"え…?"
小さく呟いていた。
"こうしてこうしてこうして………えい!"
パシャリ
ハルはシャッターを切った。
しかし自画撮りモードを解除したのに画面を自分の方に向けていたので、フラッシュはハルのほうではなくその逆の、丁度自分の股間の前あたりを照らした。
"ん?"
"あら?"
俺とアスカが、その光に照らされた。
直後、
ズッドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
ハルの目の前に、今度はアスカが1000倍に巨大化して座っていた。
ハルが適当に操作したせいで、結局のところ自画撮りモードしか解除されていなかったのだ。
自身の尻や太ももの下で無数の家々を押し潰しながら座り込んでいるアスカ。
"あらら、あたしも巨大化しちゃった"
そう言うアスカの声はハルと違ってなんとものんきなものだった。
人々は、とてつもなく巨大な女の子が更にもう一人現れたことで更に大パニックになっていた。
このままではあの地区の住宅街のように押し潰されてしまうかもしれないと、皆が悲鳴を上げながら逃げ出していた。
そしてそんな巨大ハルと巨大アスカの股の間では、元の大きさに戻った俺が呆然と立ち尽くしていた。
"なんだコレ…"
瓦礫と化した住宅街の中、前後左右を二人の超巨大な太ももによって閉じられたこの場所からは、二人の巨人の姿を真下から見上げることが出来た。
"アスカさん! どうしましょう!"
"まぁまぁ慌てなさんな。まずはハルちゃんをもとに戻してあげるね。えーっと倍率・カメラ方向よし、と"
そしてアスカはハルに向かってシャッターを切った。
すると、
ズッッドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
ハルは、更に1000倍の大きさへと巨大化してしまった。
"あれ?"
"い…っ!?"
それを見上げてきょとんとするアスカと、その股の間で驚愕する俺。
ハルは、100万倍の巨人になってしまった。
"えぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!? ど、どういうことですかこれ!!!"
驚愕するハルの声が全世界に響き渡った。
今やハルは身長1600kmと、全長およそ3000kmの日本列島のほぼ半分の大きさに、本州とほぼ同じ大きさにまで巨大化していた。
とてつもない大きさとなったお尻で関東地方の大半を押し潰し、全長800kmもある右脚は日本海に、左脚は太平洋にまで伸びていた。
ハルは日本列島の上に跨っていたのだ。
そんなハルの股間の前の地面に座る1000倍サイズの巨人であるアスカはアプリを確認して、
"あーそういうことか。さっきハルちゃんが画面を操作したときに、以後の操作を繰り返す"リプレイ"のモードをオンにしちゃったんだね。だからあたしを大きくしたときの"対象の1000倍"が繰り返されちゃったわけだ"
"のんきに分析してる場合かよ…"
100万倍の大きさのハルの股の間に座る1000倍のアスカの股の間で、1倍の俺は呆れながら言った。
最早俺からはハルの姿をみることは出来なかった。
あまりにもでか過ぎて可視距離の外に出てしまったのだ。
先ほどから大地がゴゴゴゴ…と激しく鳴動している。
おそらく…100万倍に巨大化したハルのとてつない体重を支えきれず、島やプレートが沈み始めているんだ。
妹の体重によって日本が沈没しかけていた。
"とにかく、早く戻してやってくれ。日本が沈む前に…"