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いったい何が、などという疑問はわいてこない。 |
元凶はアスカしかありえないからだ。 |
問題はこんな大事を引き起こしていったいどうするつも…… |
などと思っていたときだった。 |
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ……!!! |
地面が再び揺れ始め俺は再び地面に転がされた。 |
先ほどのように凄まじい衝撃による大揺れではなく、先と比べれば小さな揺れがいつまでも続いている。 |
小さいと言ってもあくまで比較の上であって、俺にとっては立っていられないほどの大揺れであることには違いない。 |
何かと思えばあの黒く巨大な塔にも見える、ニーソックスを履いた右脚が動いていた。 |
その動きに伴うようにしてこの揺れと轟音は発せられているように思える。 |
あの動きからして、ハルは足を踏みにじらせている。 |
巨大な足で地面をグリグリ踏みにじっているのだ。 |
たったそれだけのことでこんな立っていられないほどの大揺れが周囲に発生するのか。 |
あいつがちょっと足を動かすだけで、俺を含む周辺の人々は地面の上に転がされ這い蹲らされた。 |
シュウ 「うわああああ! あのバカども! こんなことしてどうするつもりだよ!」 |
ほとんど悲鳴に近い叫び声だった。 |
とそのとき、近くにあった建物が揺れに耐え切れなくなって崩れ落ちた。 |
その建物の周囲で地面に倒れていた人たちが、崩れ落ちたビルの瓦礫に呑まれて下敷きになった。 |
俺は頭が真っ白になった。 |
妹の引き起こした災害で、人が死んだのだ。 |
シュウ 「う…」 |
だがそれに動揺している暇も無い。 |
引き起こされている揺れに、俺の周囲の建物も崩れかけ始めていたからだ。 |
俺は何度も転がりながら、その場から逃げ出した。 |
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右足を小さなビルの密集する部分に下ろしてグリグリと動かすハル。 |
すると足の下敷きになったビルだけではなく、足の触れていない周辺のビルもガラガラと崩れ落ちていった。 |
自分がちょっと足を動かしただけで触れてもいないのに崩れ落ちるビルの脆さと自分の力の強さに快感を覚える。 |
そしてここにはそんな快感を与えてくれるものがそれこそ足の踏み場もないほどにある。 |
そしてそれらの根元にはその何百倍何千倍もの人がいる。 |
もっともっと楽しめそうだ。 |
ハルは東京の街を歩き始めた。 |
足を下ろすたびに小さなビルたちが足の下でくしゃっと潰れるのを感じる。 |
霜柱を踏むよりも儚い感触。まるで枯葉を踏んでいるかのようなあっさりとした感触だ。 |
きっとたくさんの人も踏んじゃってるはず。 |
でも全然わからなかった。 |
ハル 「あはは、脆すぎますよみなさんの町。ほらほら、踏まれたくなかったら早く逃げてくださいね」 |
などと言いながら町の上をテクテクと歩くハル。 |
ハルが足を下ろしたところには全長240mにもなる巨大な足跡が残されていた。 |
そこにあった建物や人々の痕跡など一切残らないほどに圧縮された地面だ。 |
町の中に、ぽっかりと足型の穴があいていた。 |
それはハルが歩くたびに新たにひとつ形成される。 |
すでにいくつもの足跡がこの東京の街に残され、その部分は完全な更地に、そしてその周囲のビルなどは衝撃によって瓦礫となって崩れ落ちていた。 |
ハルの足跡の周囲はグラウンドゼロだった。しかもそれは今も1秒に1個以上のペースで作られている。 |
東京都心が次々と破壊されていった。 |
ハルが足を下ろした場所を起点に始まる破壊。そしてハルが歩くほどに移動してゆく破壊。 |
未曾有の大災害が、ハルがただ歩くだけで引き起こされている。 |
もちろんハルとしても自分が引き起こしている破壊の規模は認識している。 |
巻き込まれているであろう人々の数も、テキトーではあるが予想している。 |
だが、罪の意識は全く感じていなかった。 |
所詮は、アプリで作った架空の町。 |
ゲームみたいなものなのだから。 |
ミニチュアの町をぶらついていたハルは、ふと足を止め、なんとなくしゃがみこんで自分の足元を見下ろしてみた。 |
足元には高さ数cmの小さな箱がそこかしこに散りばめられていて、その隙間を縫うようにたくさんの道路が交差している。 |
そして、その狭い道路の上を無数の点が動いているのが分かった。 |
うごうごと無数の点が蠢くのは気持ち悪くもあったが、それら点のひとつひとつが人間だと思えばその考えは逆転する。 |
数え切れないほどの数の人間が自分の足元で動いている。走っているのか、歩いているのか、はたまた留まっているのかすらも、小さすぎてわからない。 |
存在価値を疑ってしまうほどに小さいのだ。 |
ハルはしゃがみこんだ状態から膝を着いた。 |
幾つものビルと車と人々が、ハルのニーソックスに包まれた膝の下敷きになって視界から消えた。 |
町全体がズズン! と縦に揺れた。 |
更に両手を着き四つんばいの格好になる。広大な範囲がハルの巨大な手の下敷きになって押し潰された。手の下で柔らかなビスケットたちが砕けるような感触だった。 |
その状態から更に上半身を伏せさせるハル。そこにあった小さなビル群の隙間の道路を逃げる人々を、もっとよく見るためだった。 |
ビル群に顔を寄せ、真上から覗き込む。 |
周囲は、降下してきたハルの巨大な顔の作り出す影につつまれ暗くなった。車などはライトを点けねば走れまい。 |
人々は、はるか上空にあった巨人の顔が、あっという間に自分達の頭上に現れたことで悲鳴を更に大きくした。 |
左右に聳え立つビルのその谷間からは、その巨大な顔の全景を望むことは出来ない。ビルの隙間に、顔の一部が見えるだけだった。 |
ハルが顔を地面のビル群に近づけたとき、当然その長いツインテールは地表面に触れていた。 |
まるで巨大な大蛇のように町の上に無造作に投げ出される二本の髪の束はその重みだけでビル群を押し潰し、またハルが顔を動かすたびに僅かに引っ張られるそれはビル群をゾリっと削っていた。 |
ハルは鼻先が真下のビルに触れてしまいそうになるほどにまで顔を寄せていた。 |
ぷるんと柔らかそうな唇がビルの屋上にキスをしてしまいそうだった。 |
そうまで顔を近づけても、直下のビルの谷間を逃げる人々は、相変わらず点のように小さかった。 |
多少 手足が見えるようになったような気もするが、それでも彼らが点であることにかわりはない。 |
どんなに顔を近づけてよく見ても、彼らは点以上にはなれなかった。 |
ハル 「うわぁ、小さすぎてひとりひとりの顔なんか全然わからないですね」 |
顔下のビル群の谷間を逃げる無数の人々を見下ろしてハルは笑った。 |
そしてハルが言葉を発すると、そのとてつもない爆音に周囲数百m圏内のガラスが1枚残らず吹っ飛んだ。 |
一瞬だった。ガラスたちはコンマ1秒も耐えることが出来ず、一瞬で塵に変えられてしまった。 |
まだその圏内にいた人々全員が聴覚を失った。爆弾の音ですら軽がるとかき消してしまうほどの凄まじい声のボリュームはおよそ1万人の鼓膜を破り血を吹き出させるのに十分すぎる威力を持っていた。 |
口の直下にあったビルなどは、ハルが喋るとその衝撃に耐えられずガラガラと倒壊してしまった。小さな家屋などは何十mと離れていたのに耐え切れずに崩れ落ちていた。 |
更にハルの声の凄まじい衝撃は道路に亀裂を走らせアスファルトをめくり上げ、その声によって地面に投げ出され悲鳴を上げながら蹲っていた人々もろとも吹き飛ばしていた。 |
顔を寄せたハルがちょっと喋っただけで周囲にいた人々はみなが聴力を失い、より口の近くにいた人々はハルが喋っただけで絶命していた。 |
ハルがちょっと喋っただけで、ハルの口の周囲の町は破壊されてしまった。 |
声だけではない。ハルの吐息は地表を逃げていた人々や車をまとめて吹き飛ばし道路を無人に変え、ハルの鼻息は崩れ落ちたビルの瓦礫などを人々ともどもどこかへ吹っ飛ばしてしまった。 |
ハルが何をしても人々にとっては大災害だった。 |
ハル 「あらら、声だけで飛んでっちゃった…」 |
自分が少し喋っただけで直下の道路にいた人々がみんな吹っ飛んでしまった。 |
そのあまりの貧弱さに流石のハルも苦笑してしまう。 |
アスカ 「にゅふふ、ハルちゃん楽しそうね」 |
離れたところから見ていたアスカが微笑ましく笑う。 |
ハル 「はい、まるで町全体がおもちゃになったみたいです」 |
伏せていた状態から上半身を起こしたハルが答える。 |
アスカ 「そうでしょそうでしょ。ま、実際におもちゃみたいなものだけど。でもハルちゃんてホントに楽しそうに壊すわよねー。怪獣だってビックリするよ」 |
ハル 「えぇ!? 流石に怪獣には負けるんじゃないかと…」 |
座った状態から立ち上がったハルがアスカの方に歩いてくる。 |
その過程で、足元の町で悲鳴上げながら逃げていた人々が次々と踏み潰されていった。 |
アスカ 「いやいや、本物の怪獣はここまで大規模な破壊はできませんから。見せたげよっか」 |
アスカはスマホをポチッと操作した。 |