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するとハルの目の前に巨大怪獣がボンと出現する。
『ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
出現した怪獣は大きく咆哮を上げた。
ハル 「…え?」
その咆哮に初めて怪獣が出現したことに気づいたハルは、その咆哮の聞こえた場所、自分の足元を見下ろしてきょとんとした。黒いソックスを履いていくつものビルを踏み潰している自分の両足の前に、身長5cmほどの小さな動物がいた。周辺の低層ビルよりは大きかった。
ハル 「こ、これが怪獣ですか…?」
アスカ 「そだよー。これが有名なウルトラシリーズに登場する怪獣の一般的な大きさです。身長およそ50m。尻尾までいれるともうちょっと大きいかな」
アスカがニヒヒと笑う。
その足元では怪獣が咆哮を上げながら周囲のビルを破壊していた。
人々にとっては大巨人たちの襲来に加えて怪獣まで出現して最早理解不能な状況であった。
しかし、
ハル 「わぁかわいいですね♪」
もともと小さい物好きのハルは、自分の足元でちまちまと暴れるそんな怪獣をかわいくも思っていた。
周辺のビルを破壊し、逃げ惑う人々に火炎の息を吹きつける怪獣の愛くるしさに目を輝かせる。
アスカ 「ふふ、ハルちゃんハルちゃん、みんなが困ってるからちゃんと退治してあげないと」
ハル 「え? 退治…ですか?」
アスカ 「そうそう、みんなを困らせる悪い怪獣は退治されるのが常識だよ。ここにはヒーローはいないから、ハルちゃんがやってあげないと」
ハル 「は、はい…」
とは言ったものの怪獣の退治なんてしたことのないハル。
とりあえずしゃがんで、怪獣のしっぽを摘んで持ち上げてみる。
すると怪獣はあっさりと捕まった。
立ち上がったハルの右手の指にしっぽの先を摘まれ、逆さ釣りにされる怪獣はピーピー叫びながら暴れていた。
人々にとっては軍隊を出動させなければならないような巨大怪獣も、ハルにとっては小動物みたいなものである。
そしてつまみあげてみたはいいものの次にどうしたらいいのか考えていないハル。
眉を寄せうーん…とハルが考えていると、
ゴオオオオオ!!
怪獣がハルに向かって火を噴き、
ハル 「わっ!」
それに驚いたハルは指を放してしまった。
開放された怪獣はおよそ1000mほどを落下して町に激突した。
一瞬で虫の息である。
ハル 「あ、落としちゃった…」
ビル群を押し潰し落下の衝撃で周辺を壊滅させクレーターの中で横たわる怪獣を見下ろしてハルが呟く。
アスカ 「まーまーどうせ架空の生き物なんだから気にしなさんな。それに悪い怪獣だしね」
ハル 「………それもそうですね」
言うとハルは片足を振り上げ、地面に横たわる怪獣の上に翳した。
身長50mの怪獣の上に、全長240mにもなる巨大な足が被さった。
およそ、怪獣の五倍もの大きさのある足である。
ハルは足を振り下ろし、そんな怪獣をズシンと踏み潰した。
ぶちゅっ。怪獣の潰れる感触がソックス越しに感じられた。
人々が兵器をもってしても抗えない怪獣が、ハルが足を下ろしただけで退治された。
ハル 「うわっ…やな感触ー…」
ハルはそーっと足を持ち上げた。
町の中に残された巨大な足跡の中央には怪獣だったものらしきミンチがあった。
ソックスの裏が、怪獣の体液を吸って濡れていた。
アスカ 「ほい、お疲れ様。ハルちゃんがいれば怪獣が来ても大丈夫だね♪」
ハル 「うぅ…でもこの感触は好きになれないかも……。靴下も汚れちゃったし…」
言いながらハルは怪獣の体液を吸ってべとべとになってしまった靴下を指先に摘んでそーっと脱いで投げ捨てた。
全長600mにもなる超巨大なニーソックスが町の上にズシャっとのしかかる。
両足の靴下を脱ぎ捨てたハルは素足になった。
ハル 「あ。このほうが足の下で潰れる建物の感触とかが分かっていいかも」
素足となったハルの足に踏み潰されていくつもの建物が瓦礫に変わる。
その感触を楽しむように足をグリグリと動かしたり足の指をもじもじと動かすハル。
足の裏の下で砕け散るビル群の瓦礫や指の間でひねり潰される小さなビルの感触を楽しんだ。
アスカ 「じゃあついでにヒーローも出してみよっか」
アスカがスマホを操作するとまたハルの足元に小さな生き物が現れた。
銀色を基調としたボディに赤色のラインが走っている。
ハル 「あ…これって昔お兄ちゃんが好きだった…」
アスカ 「そう、あの有名な巨大ヒーローです」
と言う二人の足元に立つ巨大ヒーロー。
しかし身長40mとビルのように巨大なヒーローも、身長1600mの二人からすればかわいいものだ。
二人から見ればヒーローは身長4cmしかない。
手の小指ほどの大きさも無かった。
ヒーローは驚愕していた。
これまで無数の怪獣宇宙人と戦ってきた彼だが、こんなにも巨大な宇宙人と相対するのは初めてだったからだ。
宇宙的には巨人に属するはずの自分が、あまりにも小さく惨めに感じられた。
ヒーローは目の前の巨人たちのあまりの巨大さに臆し、思わず後ずさっていた。
その時、守るべきはずの人々を踏み潰したことにも気づかないほどに動揺していた。
ハル 「そうだ。これ写真に撮ってお兄ちゃんに送ってもいいですか? 自分が好きだった巨大ヒーローが手のひらに乗せられてる写真を送られたら、きっと悔しいと思うんですよ」
アスカ 「おおーさすがハルちゃん、シュウをいじめることには天才的ね」
ハル 「そ、そんなんじゃないですよ! ただ、普段生意気なお兄ちゃんにちょっとした仕返しをですね…!」
アスカの言葉に顔を赤くしながら反論するハル。
同時にしゃがみこんで足元のヒーローに手を伸ばすだが…。
このときヒーローは大巨人の片方がしゃがみこみ、自分に向かってとてつもなく巨大な手を伸ばしてくるのに恐怖した。
ぐわっと開かれた指のその一本一本が自分の身長よりも長いのだ。
小型人類を手に乗せたことのある彼も、巨大な手が迫ってくると言う行為がここまで恐ろしいものだとは考えたことが無かった。
しかもその手の動きは繊細と言うよりはあまりにも無造作で、その動きは、これから触れようとしている自分の存在を明らかに軽く扱っていると言う証だった。
もしあの巨大な手に囚われたら何をされるかわかったものではない。
ヒーローは、そんな明確な思考からではなく、恐ろしく巨大な手が自分目掛けて迫ってくると言う恐怖から、その手に攻撃をしていた。
ハル 「熱…っ!」
手に灼熱感を感じて思わず手を引っ込め立ち上がるハル。
灼熱感の原因は明白である。
足元のヒーローが光線を放つポーズをとっていた。昔お兄ちゃんがよくやっていたポーズだ。
このヒーローが自分に向かって光線を放ったのだ。
ハル 「な、何するんですか! ちょっと手を伸ばしただけなのに…!」
ハルは憤慨して足元のヒーローをにらみつけた。
ヒーローはハルの世界を震わせるような怒声にビクリと体を震わせるが、気丈にもハルに向かって抵抗する構えを見せる。
そのヒーローの反抗的な姿勢に、
ハル 「…ふん、あなたみたいなおチビさんに何ができるんですか?」
右足を持ち上げたハルはヒーローの目の前に踏み下ろして見せた。
ズシン! 巨大な足が思い切り踏み下ろされたせいで周辺の建物は軒並み倒壊した。
ハルとヒーローの足元で辛くも生き残っていた人々はその際に発生した衝撃によってみな消し飛んでしまった。
眼前にとてつもなく巨大な足を踏み下ろされた衝撃にヒーローは思わず吹っ飛ばされ町の上に倒されていた。
しかし体を起こそうとする前に、彼の頭上は巨大な足の裏で埋め尽くされていた。
ハルはヒーローの上に右足を掲げていた。小さな巨大ヒーローなど、自分の足の影にすっぽりと隠れてしまっている。
ヒーローはハルの足の影となり薄暗くなったその空間からハルの足の裏を見上げていた。とてつもなく広大な足の裏だ。長さ240mは自身の身長の6倍であり、幅80mは自身の身長の2倍である。
土で薄く汚れているその足の裏からは、ビルの瓦礫がパラパラと降り注いでいた。そして足の裏を良く見てみれば、いくつかの場所には、アルミ箔のようにぺちゃんこに潰れ足の裏に張り付いている車があった。同時に、土に混じって判別しづらいが、無数の赤いシミも。
そしてハルは、町の上に横たわるヒーローの上に足を踏み下ろした。
ズム! 足の裏にヒーローの小さな体を感じる。
体重はかけていなかった。