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飛び散る瓦礫をその身に受けて。または崩れ落ちたビルに巻き込まれて。または激しく揺れ動く地面の上を跳ね飛ばされているうちに打ち所が悪く…。などと要因は様々だ。 |
しかし原因は分かりきっている。あの二人だ。あの二人の仕業なんだ。 |
俺は、俺や生き残っている人々のいる瓦礫を挟んで立つ、二人の大巨人っである妹と幼馴染を見上げた。 |
東京の街に聳え立つ東京タワーですら及ばないほどとてつもない大巨人の二人が、俺たちのいる瓦礫を挟むようにして立っている。 |
この位置からだと二人のスカートの中が丸見えだが、最早そんなことを気にする人は一人もいなかった。 |
今や東京の街のいたるところから黒煙が巻き上がり中には火の手が上がっていたりする。この瓦礫も例外ではない。ハルやアスカに踏みにじられ瓦礫と足跡が入り混じる地獄絵図だ。そこかしこから悲鳴と泣き声が聞こえてくる。友を探す男性の声。子を探す母親の声。親を探す子の声など悲痛なものまである。 |
それらの原因は、すべて、俺の妹と幼馴染によるものだ。 |
二人は、そんな阿鼻叫喚の地獄の中に超巨大な2本の脚で聳え立ちながら呑気に笑いながらおしゃべりをしている。 |
足元の地獄のような光景とはまるで違う。自分達が作り出した地獄に、まるで興味がなさそうだった。 |
二人の楽しそうな笑い声が、地表には轟音となって轟く。 |
二人が声を発するたびに、人々はその爆音に悲鳴を上げながら耳をふさぐ。 |
その声の振動だけで瓦礫の山がガラガラと崩れた。地表にヒビが入った。二人のほんの些細な行動が、二人の足元の、俺たちのいる小さな東京の町にダメージを与えてきた。 |
ただ笑うだけで。一歩歩くだけで。足の位置をずらすだけで。それだけで確実に死者が出た。 |
二人はその事実に気づいていない。気にしていない。 |
自分達がもう何十万と言う人々を虐殺したことに全くの無関心だった。 |
二人の足元の瓦礫の街で、瓦礫にもたれかかりながら二人を見上げる俺。とてつもなく巨大になってしまった二人にはもう俺の言葉など届かない。動かなくなった俺の体では二人から逃げることも出来ない。ただただ恐れながら、二人を見上げることしか出来なかった。 |
いったいアスカは何を作ったんだ。こんなことをして世間が、政府が、国が、世界が許すはずが無い。それともこの東京の街を世界から切り取ったとでも言うのか。……あり得る。あいつのつくるものの突拍子の無さは限界が無い。あいつが気分でつくるものに不可能は無い。あり得ないはあり得ない。あいつに常識は通用しないのだ。 |
とにかく電話でも拡声器でも発炎筒でもなんでもいい。あいつらに俺の存在を教えられるものを見つけなければ。 |
電話は…ダメだ。いくら壊滅したと言え東京の真ん中にいるのに圏外だ。電波のひとつも拾ってない。あり得ない。まだ残っているアンテナだってあるはずなのに。 |
それでも何か無いかとスマホの中を探す。電波に関係なく飛ばせるメールとか、凄まじい音が出るアプリとか、ロケットのように発射される機能とか、今までアスカから渡された奇妙な発明品をあさる。なにか、何か役に立ちそうなものはないかと。 |
そして見つける。 |
シュウ 「………。…ッ…!? こ、これは…!!」 |
俺は画面に映る大量のアプリのアイコンの中にひとつ、目を引くアイコンを見つける。 |
【SC2.1】 |
それは『さいずちぇんじゃー2.1』だった。 |
先日散々な目にあったアプリだ。写メに撮った対象の大きさを自在に変えることのできるアプリ。 |
…しかし、何故これが俺のスマホに…。 |
と思うと、どうやらそのアプリはあのあとメールに添付されてアスカから送られていたらしい。 |
しかし機密保持だとかなんやらでメール自体は勝手に削除され添付していたデータは勝手にダウンロードされていたとか。どんだけ勝手にひとのケータイをいじくりまわしているのか。 |
…ともかく! 今はこれに頼るしかなかった。 |
俺自身をデカくするか、あいつらを小さくするかして事態の収拾を図ろう。 |
アプリを起動した。するとすぐ画面に倍率を指定できる項目とシャッターを切るウィンドウが現れる。 |
倍率を指定してウィンドウに触れれば効果が出ると言うことか。あのとき混乱したハルが滅茶苦茶に項目をいじってしまったことを踏まえてシンプルにしたのだろう。 |
まずは倍率だ。俺自身を巨大化させるかあの二人を縮小化させるかで倍率が変わる。 |
……しかし俺自身を巨大化させる方法は簡単だが巨大化の際に周辺の人々を巻き込みそうだ。これは無しだ。 |
ならあの二人を縮小化させるしかない。倍率を……『1/1000』に指定。そして二人を画面に収めてシャッターを切る……。 |
というところで、 |
ハル 「じゃあちょっと休憩しましょう。お茶淹れなおしてきますね」 |
ズズウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!! |
地面が激しく揺れた。ハルが歩いたのだ。 |
その揺れの中で激しく揺さぶられた俺は思わずスマホを手放してしまう。 |
シュウ 「しまった…!!」 |
慌てて追いかけようとするが地面は激しく揺れ俺は痛めつけられた体では這いずることも出来ない。 |
しかもスマホは揺れ動く地面の上を転がってどんどん遠くへ行ってしまう。 |
そして恐ろしいことに、ハルがこちらに向かって歩き出した。 |
ズズウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!! |
再び地面が激しく波打ち、俺の体はトランポリンに乗せられたように跳ね回った。 |
スマホが更に遠くになる。 |
早く…早くあれを取らないと…! |
俺は揺れ動く地面の上をゴミのように何度も跳ね飛ばされながらスマホを目指した。 |
痛烈に打ち付けた体はすでに何箇所も切り傷や骨折に苛まれ激痛を訴えてくる。 |
顔面を強打したときは鼻の骨と歯を折り、鼻の穴と口から血を吹き出した。 |
それでも俺は、死に物狂いでスマホを目指して転がるように這いよった。 |
しかし突如周囲が暗くなる。 |
ハルの巨大な足の裏が、俺の上空に掲げられたのだ。 |
とてつもなく強大な足の裏に遮られ、空が見えなくなった。 |
スマホは最早見えないくらい遠くに転がっていってしまった。 |
周辺のまだ息のある人々も、同じようにハルの足の裏を見上げ悲鳴を上げていた。 |
永遠の刹那。また時が遅くなるのを感じていた。しかし今度は、先ほどよりもはるかに鮮明に。 |
視界を埋め尽くす巨大なハルの足の裏。 |
薄汚れたその足の裏に汚れひとつひとつがビルなどの建築物や車、そして人だったものの痕跡だ。 |
それが、自分に向かって凄い速度で迫ってくる。 |
すでに足の裏の指紋が見えるほどにまで迫ってきている。ハルの足の裏の、ほんの一部であるという証拠だ。 |
これはハルの足の裏なのだ。 |
妹の、ハルのだ。 |
兄である俺は、妹に踏み潰されようとしている。 |
シュウ 「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」 |
俺は、ついに叫んでいた。 |
ズズウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!! |
* |
* |
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アスカ 「ふぅ…しかしちょっと疲れたかね」 |
ハル 「あれ、珍しいですね? いつもお兄ちゃんやわたしがへばっても元気なアスカさんが」 |
アスカ 「いやー実は昨日これを完成させるために徹夜してさー。寝不足なのよー」 |
ハル 「くすっ、じゃあちょっと休憩しましょう。お茶淹れなおしてきますね」 |
そう言ってハルは歩き始めた。 |
今は『ダイナミックモード』の効果で壁も天井も無いリアルな世界が広がっているが、アプリを操作すれば、それらリアルなミニチュア世界に部屋のドアを出現させることも簡単だ。 |
ハルがポチッとアプリを操作すると東京の街に巨大なドアが現れた。まるでどこでもドアだ。 |
そんなドアに向かってテクテクと数歩歩いたハルはそのうちの一歩が瓦礫の山を踏み潰したことには気づいていなかった。 |
悲鳴を上げる兄を、周囲の人々もろとも踏み潰したことには気づいていなかった。 |
町に巨大な足跡を残して持ち上がった足の裏に付いていたいくつかの赤いシミのうちのひとつが、兄のものであるとは気づいていなかった。 |
そんな兄の痕跡も、ハルがまた次の一歩を町の上に踏み下ろしたときには擦り取られてなくなっていた。 |
兄を踏み潰したハルはドアを開け、そのままの足で廊下をズシンズシンと踏み鳴らしながら去っていった。 |
東京の街に残されたアスカ。 |
アスカ 「そんじゃアプリはいったん停止しますかね」 |
ポチ。 |
アプリ『ミニチュア製造機』を終了させた。 |
『ダイナミックモード』で見渡す限りに広がっていた東京の町が、パッともとのハルの部屋に戻る。 |
薄汚れていたアスカの白いソックスも元のきれいな白色に戻っていた。 |
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* |
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シュウ 「……ハッ!」 |
俺はふと我に返った。 |
東京駅のロータリーで立ちつくしていた。 |
シュウ 「…………え…? あれ?」 |
キョロキョロと辺りを見渡す。 |
何も変わったところは無い。いや、たった今東京に着いたばかりで変わったところもなにも無いのだが。 |
?? なんか大変なことになっていたような気が…。なんだろう…凄い焦燥感だけが胸に残ってる。 |